間桐邸の庭先。夕闇が迫る中、ライダーは静かに門へと向かおうとしていた。衛宮邸で家事を手伝っている桜を迎えに行く、彼女の毎日の日課だ。
「おい、ライダー。待ちな」
声をかけたのは、縁側に腰掛けていたランサーだった。彼の傍らには小さな焚き火があり、串に刺さった川魚が香ばしい煙を上げている。
「……何でしょうか、ランサー」
「桜の嬢ちゃんを迎えに行くんだろ。腹が減ってちゃ仕事にならねえ。ほら、一本持っていけ」
ランサーは無造作に、焼き上がったばかりの魚を差し出した。ライダーは一瞬、その無遠慮な親切に戸惑うように足を止めたが、拒絶する理由も見当たらず、それを黙って受け取った。
「……いただきます。意外と、器用なのですね」
「戦場じゃ自炊が基本だからな。……冷めないうちに食えよ」
ライダーは小さく頷くと、そのまま魚を口に運びながら、闇の中へと消えていった。その背中を見送り、ランサーは「さてと」と腰を上げる。
主である慎二の様子を伺いに、屋敷の奥へと向かうためだ。
だが、慎二の自室に繋がる廊下まで来たとき、ランサーは足を止めた。
角の向こうから、心臓を直接撫でられるような、悍ましい魔力の気配が漂ってきたからだ。
「――ほほう。まだ生きておったか、慎二」
低く、枯れ木が擦れ合うような声。間桐の当主、臓硯だった。
ランサーが影から覗き込むと、そこには廊下の壁に背を預け、震える拳を握りしめている慎二の姿があった。
「サーヴァントを仕留めたと聞いて見に来てみれば……相変わらずの、紛い物のツラよな」
「……黙れ。僕は、僕はもう、あの頃の僕じゃないんだ」
「カカッ、威勢だけは良い。せいぜい足掻くがよい、孫よ。……まあ、お主のような『出来損ない』には土台無理な話ではあるがな。精々、老い先短いワシを愉しませて死ぬがよい」
臓硯は嘲笑を遺し、虫が這うような音と共に闇へと消えていった。
後に残されたのは、怒りと屈辱で顔を歪ませ、今にも泣き出しそうな慎二だけだった。
ランサーは、壁を拳で叩きつける慎二の背中を、静かに見つめていた。
昨日のカラオケで見せたあの無邪気な笑顔が、まるで嘘のように消えている。
「……ケッ。あのクソジジイ、よくもぬけぬけと……」
ランサーはわざと足音を立てて近づいた。慎二がびくりと肩を跳ねさせ、慌てて涙を拭う。
「……なんだよ、ランサー。見てたのか?」
「ああ。ジジイの戯言なんて気にするな。……それより慎二、飯にしようぜ。今日は旨い魚があるんだ。お前が食わねえなら、俺が全部平らげちまうぞ」
ランサーはあえて臓硯のことに触れず、乱暴に慎二の頭を撫でた。
慎二は「痛いよ、乱暴だな!」と文句を言ったが、その声はどこか、暗闇の中に救いを求めているように震えていた。