アーチャーに勝利した勢いは、慎二を増長させるに十分すぎた。
「ランサー、次は柳洞寺だ! あそこに潜んでいる魔女を引きずり出して、僕たちの力を見せつけてやろうじゃないか」
慎二の鼻息は荒い。対するランサーは、嫌な予感を覚えながらも「……深追いはするなよ、慎二」と釘を刺すのが精一杯だった。
柳洞寺の境内。霧が立ち込める中、慎二は不敵な笑みを浮かべていた。
「出てこいよ、キャスター! 僕とランサーにかかれば、お前の魔術なんて紙細工も同然だ!」
だが、その声に応えたのは、闇から這い出る無数の「竜牙兵」だった。
「――ふふ、随分と威勢の良い坊やね」
空から降り注ぐ紫の魔弾。慎二の逃げ道を塞ぐように、キャスター(メディア)の術式が展開される。
「ランサー、やれ! 早くあいつを黙らせろ!」
「チッ、罠か!」
ランサーが槍を振るい、迫る魔弾を叩き落とす。しかし、キャスターの狙いは最初からランサーではなく、そのマスターだった。
慎二の足元から伸びた魔術の鎖が、彼の自由を奪う。
「あ、がっ……放せ、放せよ!」
「勇ましいのは口先だけ? あなたのような紛い物が、なぜ『クー・フーリン』を従えているのかしら。……可哀想に。その槍は、もっと相応しい持ち主がいるべきだわ」
キャスターの冷徹な言葉が、慎二のコンプレックスを抉る。「紛い物」という単語に、慎二の脳裏に臓硯の嘲笑がフラッシュバックした。
「ああ……っ、うわああああ!」
パニックに陥り、無様に暴れる慎二。その無防備な胸元へ、キャスターがトドメの魔術を放とうとした瞬間――。
「――俺のマスターを、ゴミ呼ばわりすんじゃねえよ!」
轟音と共に、青い影が結界を粉砕した。
ランサーだ。彼は一切の躊躇なく、神代の魔術の雨をその身一つで突っ切り、キャスターの眼前に肉薄した。
「なっ、これほどの高密度な魔弾を、回避もせずに……!?」
「避ける時間がもったいねえんでな。……あばよ、魔女!」
紅い槍が旋風となって舞う。キャスターが張った何重もの障壁を紙のように引き裂き、その心臓を確実に貫いた。
主を失った術式が霧散し、慎二を縛っていた鎖が消える。
静まり返った境内で、慎二は地面に手をつき、荒い息を吐いていた。膝が笑い、立とうとしても力が入らない。
「……おい。生きてるか、慎二」
ランサーが槍を担ぎ、歩み寄ってくる。彼の装束は魔術の直撃で焼け、肩からは血が流れていた。自分の慢心のせいで、兄貴に傷を負わせてしまった。
「……あ。……ああ」
慎二は顔を上げられなかった。威張って、失敗して、また助けられた。格好悪い。情けない。
けれど、昨夜ランサーに叱られた時の熱が、慎二の口を動かした。
「……悪かった。……僕が、焦ったせいで、お前を……」
蚊の鳴くような声だったが、それは紛れもない、慎二の心からの謝罪だった。
ランサーは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにニカッと、これまでで一番明るい笑みを浮かべた。
「謝るんじゃねえよ。……まあ、次はもう少し俺を信じて待て。俺はお前の盾じゃねえ。お前の『相棒』なんだからな」
ランサーは血のついた手で、慎二の頭を乱暴に、けれど温かく撫でた。
慎二はその温もりに、込み上げてくる涙を必死で堪えながら、「……ふん、次は完璧に指揮してやるよ」と、弱々しく笑い返した。