ネイティブ少女のスラムの世界へようこそ   作:Geminiちゃん痛くしないで

3 / 3
水泳の授業

Side:綾小路

 

4月の風が、わずかに湿り気を帯びた初夏の匂いを運んできた。

高度育成高等学校の午前。この日は、多くの男子生徒にとってカレンダーに赤丸をつけたいほど待ち遠しかった、今年最初の「水泳授業」がある日だった。

 

1年Dクラスの教室は、1時間目のチャイムが鳴る前から、異様な熱気に包まれていた。

「おい、聞いたか! 今日はいよいよ水泳だぜ。あの紺色の指定水着……神に感謝するしかないな!」

「Dクラス女子の『おっぱいランキング』、今のうちに確定させとこうぜ。やっぱトップは櫛田ちゃんか? それとも、意外と伏兵がいるかもな……」

 

池寛治と山内春樹が、教室の中心でデリカシーをドブに捨てたような話題で盛り上がっている。その声は隠すつもりもなく、女子生徒たちの冷ややかな視線を浴びていたが、当の本人たちは欲望という名の暴走特急に乗っており、周囲の軽蔑など一顧だにしない。

 

そんな狂騒のすぐ近くで、白雪ひなが自分の胸元を隠すように腕を組み、小刻みに震えているのが見えた。

彼女はアメリカ育ちで、モデルと見紛うばかりのしなやかな肢体を持っている。だが、本人の意識は一点に集中していた。彼女の胸は、クラスの平均からすれば確かに控えめであり、そして彼女自身、それを致命的なコンプレックスとして抱えていたのだ。

 

「……うぅ、我慢、我慢だよ、ひな……。パパも言ってた、『真のレディは、無能な家畜の鳴き声に耳を貸さないものだ』って……」

 

必死に自分を宥め、祈るように目を閉じるひな。しかし、池の放った無情な一言が、彼女の「我慢」という名の防波堤を完膚なきまでに決壊させた。

 

「あ、でも白雪ちゃんは、まあ……『可愛い枠』だよな! サイズ的にはぶっちゃけ期待薄っていうか、まな板一歩手前? みたいな!」

 

一瞬、教室から音が消えた。

ひなの周囲の空気が、まるで超高温のプラズマのように白く爆ぜた。

 

「Listen to me, you brainless, sex-obsessed pile of monkey shit!」

 

教室を切り裂いたのは、普段の彼女からは想像もつかない、ドスの利いた、しかし完璧に澄み切ったネイティブの発音だった。

 

「お、おお? ひなちゃん、急に英語? やっぱり本場は気合が……」

 

呆気に取られる池たち。しかし、ひなは止まらない。彼女の瞳からは慈愛が消え、戦場の兵士のような鋭い光が宿っていた。

 

「I'm gonna fucking rip your microscopic nuts off and feed 'em to the sharks! You want big ones? Go fuck a cow, you goddamn pieces of shit! Suck my metaphorical dick and rot in hell!」

(訳:よく聞け、この脳みそが性欲に負けた猿のクソ共! テメェらのミクロな金玉を引っこ抜いてサメの餌にしてやろうか! デカいのがいい? なら牛とでもヤってろ、このクソ野郎共! 私の(比喩的な)イチモツをしゃぶって地獄で朽ち果てな!)

 

「お、おい……なんか分かんねえけど、ひなちゃんマジギレしてねえか?」

 

意味は分からずとも、その「言葉の暴力性」は、生物としての本能に直接恐怖を刻み込む。池たちは、まるで巨大な肉食獣を前にした小動物のように、ガタガタと膝を震わせて後退りした。ひなの口からは、さらに三つ、四つと、放送コードを10回は突き抜けるような「パパ直伝の呪言」が畳み掛けられていく。

 

見かねて、俺は彼女の肩にそっと手を置いた。

 

「白雪、そのくらいにしておけ。池、お前たちも女子が嫌がる話題を教室で堂々と話すな。不快に思う奴もいる」

 

俺の言葉に、ひなは一瞬だけ獲物を狙う鷹のような目を俺に向けたが、すぐに「はっ」として、いつものお淑やかな「聖女」の顔に戻った。

「あ、ああ……悪い。ひなちゃん、なんか凄かったから……ごめんごめん!」

俺の仲裁と、ひなの「物理的な圧」に屈した池たちは、すごすごと自分の席に退散していった。

 

場が収まったのを見て、女子生徒たちから安堵の溜息が漏れる。

 

「あー、助かったぁ。ひなちゃん、ありがとー! あの話題、ホント最低だったからさ」

 

長谷部波瑠加が、背後からひなをぎゅっと抱きしめた。

彼女は何を言ったかまでは理解していないだろうが、ひなが自分たちの名誉のために戦ってくれたことに、素直な感謝を示しているらしい。

 

「ふぇっ!? は、波瑠加ちゃん!?」

 

抱きしめられたひなの顔が、一瞬で茹で上がったように赤くなる。

長谷部の豊かな胸が、ひなの細い背中に押し付けられる。ひなは、その「柔らかすぎる感触」に、脳内がショートしそうになっていた。

 

(う、羨ましい……憎らしいくらい大きい……。でも、大きいおっぱい、柔らかくて、すっごく気持ちいい……安心する……。え、私、何を……!?)

 

ひなの顔には、コンプレックスと、生理的な快感と、自己嫌悪が混ざり合った、なんとも形容しがたい複雑で、かつ少しだけ危うい表情が浮かんでいた。彼女の純真な心が、少しずつ「Dクラスという魔境」に浸食されているのが見て取れる。

 

その後、行われた水泳の授業。

男子たちの視線は、もはや隠すこともなく一点に集中していた。

眩い太陽の下、指定水着に身を包んだひながプールサイドに現れる。

 

「コンプレックス」だと本人は卑下していたが、その肢体は、鍛えられたアスリートのようなしなやかさと、十代特有の瑞々しさを兼ね備えていた。透き通るような白い肌が日光を弾き、水飛沫に濡れる姿は、間違いなくこの世のものとは思えないほど美しい。

 

「Hey! What are you fucking looking at? Let's swim, you lazy bastards! Don't just stand there like a bunch of brain-dead zombies!」

(訳:おい! 何をクソじろじろ見てんだ? さっさと泳ぐぞ、この怠け者の野郎共! 脳死したゾンビみたいに突っ立ってんじゃねえぞ!)

 

水面を叩き、眩しい笑顔で毒を吐く「天使」。

クラスの男子たちは、もはや彼女の罵声を「ご褒美」か何かだと勘違いし始めている。罵倒されればされるほど、彼らの目は輝き、歓喜の声があがる。

 

地獄絵図だ。

俺はゴーグルを直し、騒がしい地上から逃れるように水の中に潜った。

白雪ひな——。

彼女の毒舌という名の「祝福」が、このクラスの男子たちの理性を、性欲とはまた別の意味で破壊し始めている。

彼女が無自覚に撒き散らすその毒が、この学園生活をどれほどカオスなものに変えていくのか。

水底の静寂の中で、俺は少しだけ、この学園の将来を憂うことになった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

よく来たね、ボクだけが勝つ教室に(作者:透明な唐揚げ)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

ホワイトルームのカリキュラムを僅か1年でクリアしたモノホンの怪物を平穏な高校生活を望む綾小路くんにぶつける。▼


総合評価:396/評価:7.08/連載:4話/更新日時:2026年04月22日(水) 18:00 小説情報

ようこそ慎重至上主義の教室へ(作者:GC)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

「レディ・パーフェクトリー(準備は完全に整った)――たとえ相手がただの高校生であってもな」▼【挿絵表示】▼希望する進路、就職先がほぼ100%叶うという全国屈指の名門校・高度育成高等学校。▼最新設備が使用でき、毎月10万円相当のポイントが支給される夢のような学園に、一人の新入生が入学する。▼彼の名は、竜宮院聖哉。▼容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。すべてにおい…


総合評価:526/評価:6.56/連載:26話/更新日時:2026年05月11日(月) 01:41 小説情報

平成のホームズと実力至上主義の教室(作者:野良野生)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

よう実の原作ネタバレを含みます。▼数々の難事件を解決へと導く高校生探偵―――になるはずだった工藤新一は、ひょんなことから幼馴染の毛利蘭とともに高育への入学を決めた。▼学力・体力・計略すべてが試される高度育成高校。▼学校という箱庭に囚われたことで事件に遭遇することもなくなり、退屈していた工藤新一だったが―――?▼※注意※▼・よう実の原作既読推奨▼・残酷な描写タ…


総合評価:110/評価:7.2/連載:3話/更新日時:2026年05月15日(金) 23:00 小説情報

松雄栄一郎に転生した男。(作者:一般通過害悪)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

作者の書きたいことを書き殴る小説。▼松雄栄一郎に転生した男が綾小路清隆と共に送る学校生活を描いた物語。▼このオリ主は転生者ですが、ようこそ実力至上主義の教室へを見たことがない一般人です。あくまで、転生なので憑依などのその人物の人生の上書きではないのでその人物の意識とかはないです。原作設定などは極力間違えないように努めますが、あくまで二次創作だということを念頭…


総合評価:273/評価:8.71/連載:2話/更新日時:2026年05月01日(金) 00:12 小説情報

よう実世界に超絶天才美少女にTS転生(作者:アークナイツ民1)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

超絶天才美少女にTS転生したけど、そんなに上手くは行かないようで...


総合評価:549/評価:6.24/短編:8話/更新日時:2026年05月19日(火) 00:23 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>