ネイティブ少女のスラムの世界へようこそ   作:Geminiちゃん痛くしないで

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水泳の授業

Side:綾小路

 

4月の風が、わずかに湿り気を帯びた初夏の匂いを運んできた。

高度育成高等学校の午前。この日は、多くの男子生徒にとってカレンダーに赤丸をつけたいほど待ち遠しかった、今年最初の「水泳授業」がある日だった。

 

1年Dクラスの教室は、1時間目のチャイムが鳴る前から、異様な熱気に包まれていた。

「おい、聞いたか! 今日はいよいよ水泳だぜ。あの紺色の指定水着……神に感謝するしかないな!」

「Dクラス女子の『おっぱいランキング』、今のうちに確定させとこうぜ。やっぱトップは櫛田ちゃんか? それとも、意外と伏兵がいるかもな……」

 

池寛治と山内春樹が、教室の中心でデリカシーをドブに捨てたような話題で盛り上がっている。その声は隠すつもりもなく、女子生徒たちの冷ややかな視線を浴びていたが、当の本人たちは欲望という名の暴走特急に乗っており、周囲の軽蔑など一顧だにしない。

 

そんな狂騒のすぐ近くで、白雪ひなが自分の胸元を隠すように腕を組み、小刻みに震えているのが見えた。

彼女はアメリカ育ちで、モデルと見紛うばかりのしなやかな肢体を持っている。だが、本人の意識は一点に集中していた。彼女の胸は、クラスの平均からすれば確かに控えめであり、そして彼女自身、それを致命的なコンプレックスとして抱えていたのだ。

 

「……うぅ、我慢、我慢だよ、ひな……。パパも言ってた、『真のレディは、無能な家畜の鳴き声に耳を貸さないものだ』って……」

 

必死に自分を宥め、祈るように目を閉じるひな。しかし、池の放った無情な一言が、彼女の「我慢」という名の防波堤を完膚なきまでに決壊させた。

 

「あ、でも白雪ちゃんは、まあ……『可愛い枠』だよな! サイズ的にはぶっちゃけ期待薄っていうか、まな板一歩手前? みたいな!」

 

一瞬、教室から音が消えた。

ひなの周囲の空気が、まるで超高温のプラズマのように白く爆ぜた。

 

「Listen to me, you brainless, sex-obsessed pile of monkey shit!」

 

教室を切り裂いたのは、普段の彼女からは想像もつかない、ドスの利いた、しかし完璧に澄み切ったネイティブの発音だった。

 

「お、おお? ひなちゃん、急に英語? やっぱり本場は気合が……」

 

呆気に取られる池たち。しかし、ひなは止まらない。彼女の瞳からは慈愛が消え、戦場の兵士のような鋭い光が宿っていた。

 

「I'm gonna fucking rip your microscopic nuts off and feed 'em to the sharks! You want big ones? Go fuck a cow, you goddamn pieces of shit! Suck my metaphorical dick and rot in hell!」

(訳:よく聞け、この脳みそが性欲に負けた猿のクソ共! テメェらのミクロな金玉を引っこ抜いてサメの餌にしてやろうか! デカいのがいい? なら牛とでもヤってろ、このクソ野郎共! 私の(比喩的な)イチモツをしゃぶって地獄で朽ち果てな!)

 

「お、おい……なんか分かんねえけど、ひなちゃんマジギレしてねえか?」

 

意味は分からずとも、その「言葉の暴力性」は、生物としての本能に直接恐怖を刻み込む。池たちは、まるで巨大な肉食獣を前にした小動物のように、ガタガタと膝を震わせて後退りした。ひなの口からは、さらに三つ、四つと、放送コードを10回は突き抜けるような「パパ直伝の呪言」が畳み掛けられていく。

 

見かねて、俺は彼女の肩にそっと手を置いた。

 

「白雪、そのくらいにしておけ。池、お前たちも女子が嫌がる話題を教室で堂々と話すな。不快に思う奴もいる」

 

俺の言葉に、ひなは一瞬だけ獲物を狙う鷹のような目を俺に向けたが、すぐに「はっ」として、いつものお淑やかな「聖女」の顔に戻った。

「あ、ああ……悪い。ひなちゃん、なんか凄かったから……ごめんごめん!」

俺の仲裁と、ひなの「物理的な圧」に屈した池たちは、すごすごと自分の席に退散していった。

 

場が収まったのを見て、女子生徒たちから安堵の溜息が漏れる。

 

「あー、助かったぁ。ひなちゃん、ありがとー! あの話題、ホント最低だったからさ」

 

長谷部波瑠加が、背後からひなをぎゅっと抱きしめた。

彼女は何を言ったかまでは理解していないだろうが、ひなが自分たちの名誉のために戦ってくれたことに、素直な感謝を示しているらしい。

 

「ふぇっ!? は、波瑠加ちゃん!?」

 

抱きしめられたひなの顔が、一瞬で茹で上がったように赤くなる。

長谷部の豊かな胸が、ひなの細い背中に押し付けられる。ひなは、その「柔らかすぎる感触」に、脳内がショートしそうになっていた。

 

(う、羨ましい……憎らしいくらい大きい……。でも、大きいおっぱい、柔らかくて、すっごく気持ちいい……安心する……。え、私、何を……!?)

 

ひなの顔には、コンプレックスと、生理的な快感と、自己嫌悪が混ざり合った、なんとも形容しがたい複雑で、かつ少しだけ危うい表情が浮かんでいた。彼女の純真な心が、少しずつ「Dクラスという魔境」に浸食されているのが見て取れる。

 

その後、行われた水泳の授業。

男子たちの視線は、もはや隠すこともなく一点に集中していた。

眩い太陽の下、指定水着に身を包んだひながプールサイドに現れる。

 

「コンプレックス」だと本人は卑下していたが、その肢体は、鍛えられたアスリートのようなしなやかさと、十代特有の瑞々しさを兼ね備えていた。透き通るような白い肌が日光を弾き、水飛沫に濡れる姿は、間違いなくこの世のものとは思えないほど美しい。

 

「Hey! What are you fucking looking at? Let's swim, you lazy bastards! Don't just stand there like a bunch of brain-dead zombies!」

(訳:おい! 何をクソじろじろ見てんだ? さっさと泳ぐぞ、この怠け者の野郎共! 脳死したゾンビみたいに突っ立ってんじゃねえぞ!)

 

水面を叩き、眩しい笑顔で毒を吐く「天使」。

クラスの男子たちは、もはや彼女の罵声を「ご褒美」か何かだと勘違いし始めている。罵倒されればされるほど、彼らの目は輝き、歓喜の声があがる。

 

地獄絵図だ。

俺はゴーグルを直し、騒がしい地上から逃れるように水の中に潜った。

白雪ひな——。

彼女の毒舌という名の「祝福」が、このクラスの男子たちの理性を、性欲とはまた別の意味で破壊し始めている。

彼女が無自覚に撒き散らすその毒が、この学園生活をどれほどカオスなものに変えていくのか。

水底の静寂の中で、俺は少しだけ、この学園の将来を憂うことになった。

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