拙者ポストアポカリプス大好き侍。
好きすぎてChatGPTと話し合って作ってもらいました。


好評なら続きつくってもらいます。

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1話、あるいはプロローグ

 

 この星は、捨てられた。

 

 人類は滅びていない。

 ただ、去っただけだ。

 

 資源は掘り尽くされ、空は汚れ、水は腐り、土は死んだ。

 それでも文明は止まらなかった。

 

 より遠くへ。

 より速く。

 より豊かに。

 

 その果てに、彼らはこの星を捨てた。

 

 選ばれた者だけが、空の彼方へ旅立った。

 それ以外は、置いていかれた。

 

 環境汚染は制御を失い、自己増殖する機械群は停止命令を受け付けなくなり、戦争のために作られた兵器は敵を失ったまま稼働を続けている。

 

 この星は今も、壊れ続けている。

 

 その中で、人間が人間として暮らせる場所はひとつしかない。

 

 アーコロジー。

 

 外界から完全に隔離された、閉鎖都市。

 空気も水も、食料も、すべてが管理された人工の楽園。

 

 そこでは、空は青く、雨は透明で、病は抑えられ、死は遠い。

 

 少なくとも、内側にいる限りは。

 

 外では、生きること自体が労働だった。

 

 14番は、その外側にいた。

 

 名前はない。

 番号で呼ばれる。

 

 額には管理用のバーコード。

 黄色い防護服と、背負い式の大気浄化装置。

 

 それが、自分という存在のすべてだった。

 

 外周労働者。

 

 アーコロジーの外壁に張りつき、腐食した装甲を修復し、排気を処理し、使える資源を回収する。

 

 対価は、食料と水とフィルター。

 

 それだけで十分だった。

 

 それ以上を望む理由がなかった。

 

 働けば、生きられる。

 

 そう教えられてきたし、実際そうだった。

 

 だから、疑わなかった。

 

 その日までは。

 

 放逐は、唐突だった。

 

 いつもと同じ作業の最中、上層からの通達が下りた。

 

 担当部署の解体。

 人員の再配置。

 

 だが、それは嘘だった。

 

 再配置など存在しない。

 

 ただ、門の外に出されるだけだ。

 

 理由は単純だった。

 

 人数が、多すぎた。

 

 誰かのミス。

 あるいは、単なる調整。

 

 どちらでも同じことだ。

 

 14番たちは、余剰だった。

 

 門の前で、声が上がった。

 

 最初は抗議だった。

 

 説明を求める声。

 命令の撤回を叫ぶ声。

 ここにいれば死ぬと訴える声。

 

 だが、それはすぐに変わった。

 

 誰かが言った。

 

「こいつのせいだ」

 

 視線が、一点に集まる。

 

 上司だった。

 

 作業計画のミス。

 報告の遅れ。

 人員の過剰申請。

 

 理由はいくらでもあった。

 あるいは、何もなかったのかもしれない。

 

 ただ、叩ける相手がそこにいた。

 

 誰かが殴った。

 

 鈍い音がした。

 

 それを合図にしたように、次々と手が伸びる。

 

 叫び声。

 罵声。

 骨の折れる音。

 

 誰が何を言っていたのか、分からない。

 

 14番も、そこにいた。

 

 声を上げていたのかもしれない。

 ただ見ていただけかもしれない。

 手を伸ばしたのかもしれない。

 

 思い出せない。

 

 気づいた時には、終わっていた。

 

 上司は、地面に転がっていた。

 

 顔は潰れ、形を失い、呼吸はなかった。

 

 誰も、近づかなかった。

 

 もう、価値がなかった。

 

 それで、終わりだった。

 

 門の外。

 

 呼吸音だけが、うるさかった。

 

 ゴォ、ゴォ、と背中の浄化装置が唸る。

 

 振り返っても、門は開かない。

 

 叩く者。

 縋りつく者。

 その場に崩れ落ちる者。

 当てもなく荒野へ歩き出す者。

 

 14番は、壁にもたれて、それを見ていた。

 

 夕方が近い。

 

 風が変わり始めていた。

 

 それは、知っている感覚だった。

 

 外壁補修の作業中、何度も叩き込まれた。

 夕刻、気温が落ちると風向きが変わる。

 

 危険地帯から、汚染された大気が流れてくる。

 

 吸えば終わりだ。

 

 だから、その時間までに作業を終えて戻る。

 

 それが規則だった。

 

 戻る。

 

 ゴォ、と装置が一段強く唸った。

 

 フィルターの負荷が上がっている。

 

 空気が、重い。

 

 喉が焼ける。

 

 戻れない。

 

 門は、閉じたままだ。

 

 夜までに安全な場所に入らなければ死ぬ。

 

 それは知っている。

 

 何度も聞かされた。

 

 14番は、動かなかった。

 

 動けなかった。

 

 何をすればいいのかは、分かっている。

 

 だが、それをする場所が、もうない。

 

 だから、立っているしかなかった。

 

 やがて、一人が暴れ出した。

 

 装置を叩き、門に体当たりする。

 

 その瞬間。

 

 光。

 

 音は、遅れてきた。

 

 男の上半身が、消えた。

 

 赤い霧が降る。

 

 ばらばらになったものが、地面に散った。

 

 ひとつが、足元に転がってきた。

 

 頭だった。

 

 切断面は焼け焦げて黒く、顔の半分が消えている。

 残った片方の目が、こちらを見ていた。

 

 14番は、それを見下ろしていた。

 

 まばたきもせずに。

 

 どれくらいそうしていたのかは分からない。

 

 ただ、視線だけが動かない。

 

「それ、欲しいのかい」

 

 声がした。

 

 14番は、ゆっくりと顔を上げた。

 

 そこに、老婆がいた。

 

 見窄らしい防護服。

 濁った目。

 

 いつからいたのか分からない。

 

 その手が、何かを引き抜く。

 

 金属の擦れる音。

 

 視線を落とすと、老婆は別の死体に手を突っ込んでいた。

 

 剥ぐ。

 切る。

 外す。

 

 装備を、回収している。

 

「……何してる」

 

 声が遅れて出た。

 

「見りゃ分かるだろう」

 

 老婆は顔も上げない。

 

「使えるもんを、回収してるだけさ」

 

 布の裂ける音。

 骨に引っかかる音。

 

 14番の視線が、もう一度足元の頭に戻る。

 

 さっきまで同じ部署にいた男だった。

 

 名前は――

 

 思い出せない。

 

 いや。

 

 思い出す必要がない。

 

 どうせ、もう使わない。

 

「そいつら……さっきまで」

 

 言いかけて、止まる。

 

「だから何だい」

 

 即答だった。

 

 老婆が初めて顔を上げる。

 

 濁った目だけが、不自然に澄んでいる。

 

「死んだら終わりだよ」

「持ってるもんは、全部次に生きるやつのもんだ」

 

 ゴォ、と呼吸音。

 

 14番は立ったまま、それを聞いていた。

 

 喉が焼ける。

 

 息が、少し重い。

 

 足元の頭が、まだこちらを見ている。

 

 それでも、動けない。

 

「手伝いな」

 

 老婆が工具を差し出す。

 

「やり方を教えてやる」

「生き残るやり方をね」

 

 14番は、動かない。

 

 ただ、見ている。

 

 死体と、老婆と、その手の動きを。

 

 ゴォ、ゴォ、と呼吸音が続く。

 

 腹が鳴る。

 

 乾いた音が、やけに大きく響いた。

 

「……それで、生きられるのか」

 

 やっと出た言葉だった。

 

「生きられるさ」

 

 老婆は肩をすくめる。

 

「もっとも、“人間”としてじゃないけどね」

 

 意味が分からない。

 

「ミュータントってのがいる」

「外で一番まともに生きてる連中だ」

 

 ベルトを巻き取りながら、淡々と。

 

「奴らにくっつけば、食いっぱぐれはしない」

「働けばな」

 

「……奴隷か」

 

「そうだよ」

 

 ためらいもなく肯定する。

 

「飼われる。使われる。捨てられる」

「でも、生きる」

 

 14番は黙る。

 

 それは、生きていると言えるのか。

 

「嫌かい」

 

「……嫌だ」

 

 即答だった。

 

 初めて、迷いなく出た言葉。

 

 老婆の手が止まる。

 

 じっと、14番を見る。

 

「名前は」

 

「……」

 

「名前だよ」

 

 逃げ場はない。

 

「……14番」

 

 しばらくの沈黙。

 

 それから、老婆は笑った。

 

「知らないみたいだねぇ」

 

 ゆっくりと立ち上がる。

 

「番号で呼ばれるのはね——」

 

 一歩、近づく。

 

「奴隷か、物だよ」

 

 言葉が落ちる。

 

 意味は分かる。

 

 だが、何も変わらない。

 

「……それで、困ることがあるのか」

 

 老婆の目が細くなる。

 

「あるさ」

 

 はっきりと言った。

 

「誰にも選ばれないってことだ」

 

 風が吹く。

 

 汚染された砂が、頬を叩く。

 

 門の前で、また誰かが倒れた。

 

 もう誰も見ない。

 

「まあいい」

 

 老婆は背を向ける。

 

 拾った装備をまとめながら。

 

「そこまで嫌なら、犬とでも呼んでやる」

 

 振り返りもせずに言う。

 

「しっかり役に立つんだね」

 

 14番は、何も返さない。

 

 ただ。

 

 腹が鳴る。

 

 喉が焼ける。

 

 呼吸が、重い。

 

 ゴォ、ゴォ、と音が続く。

 

 気づけば、手が動いていた。

 

 足元の死体に触れる。

 

 冷たい。

 軽い。

 

 ポーチを外す。

 ベルトを切る。

 フィルターを引き抜く。

 

 血が、指に絡む。

 

 それでも、止まらない。

 

 呼吸が、少しだけ楽になる。

 

 ほんの、少しだけ。

 

「遅いね」

 

 老婆が言った。

 

 すでに三体分ほどを回収し、まとめている。

 

 動きに無駄がない。

 

「迷ってる時間はないよ」

「夜が来る前に、隠れる場所を見つけなきゃ死ぬ」

 

 14番は答えなかった。

 

 ただ、作業を続ける。

 

「いいかい、犬」

 

 初めて、その呼び名が使われた。

 

 14番は、顔を上げなかった。

 

「呼吸は信用するな」

 

 老婆が近づく。

 

 14番の背中に手を伸ばし、装置の接続部を叩いた。

 

 ゴォ、という音が一瞬乱れる。

 

「それは“生かしてる”だけだ」

「守ってるわけじゃない」

 

 老婆は、14番のマスクの横を指で弾いた。

 

「外の空気は全部毒だと思え」

「吸っていい空気なんて、もうどこにもない」

 

 14番は、無言で頷いた。

 

 知っている。

 

 だが、それを“守られる前提”でしか考えたことがなかった。

 

「あと、立つな」

 

「……?」

 

 老婆は足元を蹴った。

 

 死体の腕が転がる。

 

「高いところにいると風を食う」

「下にいろ。影に入れ」

 

 そのまま、崩れた瓦礫の陰へ移動する。

 

「ほら」

 

 14番は一瞬だけ迷い、従った。

 

 しゃがむ。

 

 風の当たりが、少し弱くなる。

 

「気づいたかい」

 

 14番は答えなかった。

 

 だが、分かる。

 

 ほんのわずかだが、違う。

 

「それが“生きる場所”だ」

 

 老婆は言った。

 

「どこでも同じじゃない」

「死ぬ場所と、生き延びる場所は、ほんの少しズレてる」

 

 14番は、その言葉を反芻する。

 

 ズレ。

 

 今まで考えたこともなかった。

 

 決められた場所で働き、決められた場所に戻る。

 

 それだけだった。

 

「……どこに行く」

 

 初めて、自分から聞いた。

 

「ミュータントの巣だよ」

 

 老婆はあっさりと言った。

 

「さっき言ったろ」

 

 14番の手が、一瞬止まる。

 

「奴隷になる気はない」

 

「だろうね」

 

 老婆は笑った。

 

「でも、それ以外に生きる方法、知ってるのかい」

 

 答えはない。

 

 沈黙。

 

 風が強くなる。

 

 遠くで、誰かが倒れた。

 

 もう声は上がらない。

 

「いいかい、犬」

 

 老婆が立ち上がる。

 

「選ぶのは、いつだって後でいい」

「まずは生き延びる」

 

 拾った装備を背負い直す。

 

「死んだら、選ぶこともできないからね」

 

 14番は、手に持ったフィルターを見る。

 

 血で濡れている。

 

 それでも、使える。

 

 使うしかない。

 

 ゴォ、と呼吸音。

 

 14番は立ち上がった。

 

 少しだけ、低く。

 

 風を避けるように。

 

 老婆の後ろに回る。

 

「……どこへ行く」

 

 同じ言葉を、もう一度。

 

 今度は意味が違う。

 

 老婆は振り返らない。

 

「ついてきな」

 

 一歩、踏み出す。

 

 14番は、それに続いた。

 

 門は、もう見なかった。


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