蒼き氷刃の事件目録 ―探偵達と歩む非日常的な執筆生活― 作:凜々
「ところで、名探偵、今まで手掛けてこられた事件の中で、一番の難事件といいますと?」
「実はですなぁ・・・解決した後睡魔が襲ってきて、なーんも覚えてないんですわ」
観覧席で見守っていたコナンと蘭は、小五郎の発言に苦笑いを浮かべた。
「(そりゃ、睡魔が襲ってくるというか、実際に眠っているんだから何にも覚えてない伊野も無理ないわね・・・)」
朱里は苦笑いとも困惑とも取れる、絶妙に表現の難しい顔をした。
(なぜこんな場所で番組を観覧しているかというと・・・・・)
「朱里さん! 日売テレビの番組にお父さんが呼ばれたんですけど、朱里さんも一緒にどうですか? あの番組、結構本格的なセットを組むみたいだから、朱里さんの新作のロケハンにもなるかなって。お父さん、カメラが回るとすぐデレデレしちゃうし、朱里さんみたいな落ち着いた大人の人が一緒にいてくれると、私、安心なんです」
「日売テレビの『日本まる見え探偵局』か、面白そうだね。テレビ局か……確かに関係者でもなければ中々入れない場所ではあるから興味深いね。蘭ちゃん、ぜひ同行させてくれないかな」
毛利小五郎が、日売テレビの人気番組「日本まる見え探偵局」に出演することになったから一緒に観覧に行かないかと蘭から誘われたからであった。
ーーーーーーー
生放送は順調に進み、番組自体は無事終了した。
放送終了後、司会の松尾貴史とあいさつが行われ、その途中にスタッフからプロデューサーの諏訪がいなくなったと松尾に報告しに来た。
「松尾さん、諏訪プロデューサーがいなくなったんです! ミーティングルームにいたはずなんですが……」
報告を受けた松尾は、動じることなく事もなげに返した。
「またか。すまないが、もう一度ミーティングルームを見に行ってきてくれ。案外、中で居眠りでもしているかもしれないよ」
スタッフが再び走り去る後ろ姿を見送りながら、コナンは疑念を抱く。
(……変だな。一度探していなかったから報告に来たんだろ? なんであのおじさんは、もう一度同じ場所を見に行かせたんだ……?)
その傍らで、朱里も不思議そうな目をを松尾に向けていた。
(プロデューサーの失踪というイレギュラーに対して、随分と落ち着いているね)
スタッフがミーティングルームに向かってしばらくしてから、別のスタッフへ電話が鳴り、そこで衝撃の話を聞いたのだ。
「何!?諏訪さんがミーティングルームで血まみれ!?」
「「「「!!?」」」」
分かったすぐ行く!!
その言葉と同時に一同はミーティングルームへ走って向かった。
入り組んだテレビ局を迷路のように進みようやくミーティングルームにたどり着くと、
入り口は既に野次馬でごった返している。
ようやくコナンがたどり着くと目にしたのはこめかみを拳銃を撃ち抜かれ、息絶えている諏訪の姿だった。
言葉にならない、衝撃を受けたコナン。ふと後ろを見ると同じように松尾が諏訪の姿を見ていたが不意に口角が上がったのを見逃さなかった。
「(あの人・・・・)」
「・・・・みた?」
「・・・・・え?」
コナン以外に朱里もその場面を目撃していた。
「あの人、仮に知り合いがなくなったのに浮かべる表情じゃないよ」
「あぁ・・・・・まるで、この凄惨な光景が最高の結果だと言わんばかりの笑みだったな」
「断定しちゃいけないだろうけど・・・・少なくともいなくなってほしいとは思っていたみたいだね」
ーーーーーーーーーー
警察が到着し、現場検証が始まった。
被害者は日売テレビプロデューサー、諏訪道彦。至近距離から拳銃でこめかみを撃ち抜かれており、頭部を貫通した弾丸はそのまま窓ガラスを突き破って屋外へ消失していた。室内には計4発の銃弾が放たれた痕跡があり、内訳はポスターの裏に2発、時計の脇に1発。部屋の隅からは薬莢が4つ発見されており、発射された弾数と一致している。凄惨な現場には、執拗なまでの銃撃の跡が残されていた。
更には出入口は1つしかない。
小五郎は何者かが出入り口から侵入し諏訪を窓際に追い詰め銃を乱射し射殺、銃を捨てて逃走したと予想した。
目暮は犯人らしき人物を目撃した人がいないか聞くも、不幸にも諏訪自ら人払いしていたらしい。
松尾は、番組終了後に諏訪から「重要な話がある」と呼び出されていたと証言した。しかし、遺体を目にした瞬間に彼が浮かべた不敵な笑みを目撃した朱里とコナンにとって、その言葉は到底信じられるものではなかった。
「呼び出された被害者を、彼がただ待っていたとは思えないな」と朱里が鋭い視線を向ければ、コナンもまた、その表情の裏にある冷酷な意図を感じ取っていた。
ふと、被害者の手元を見ると電話が落ちていた。
「でも聞いた人はいるかもしれないよ!」
「んん?」
「手の近くに開かれたままの携帯電話があるじゃないですか。もしかしたら電話の途中で何者かが侵入してきた可能性があるかもしれないね。」
「うん。朱里姉ちゃんの言う通り、通話の相手なら何か聞いているんじゃない?」
遺体が運び出された後、司会者の松尾に複数のメディアが突撃していた。
どうやら、この番組で松尾は番組降板を噂されていたとのことだった。しかし松尾自らそれでも最終的には続投してくれと諏訪から言われていた。と涙ながらに語っていた。
それをテレビ画面をにらみながらコナンは黙って聞いている。
「・・・・・・」
「(てことは松尾さんには動機があるってわけだね・・・)」
同じく朱里も心の中でそう思いながら聞いていた。
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警察の捜査はその後も続く
「諏訪さんにあなたが電話を?」
「はい、8時15分の時は出たんですが、8時55分の時には出ませんでした」
「しかし、なぜ電話を?」
目暮がそう聞くと松尾がスタッフに電話をしてくれと頼んでいたと証言した。
「そういえば、あなたは拳銃の取り扱いに慣れているそうですなぁ?」
「僕は8時から9時まで生番組の司会をやっているんですよ?」
番組は4分だけVTRが流れていた時間があった。しかしその間は松尾はトイレに行っただけだと証言する。
なおも小五郎はトイレではなくこの部屋に来たのでは?と疑いのむけるも、スタジオからここまで6分以上かかると言葉強めに松尾は断言した。
試してみようということになり、目暮の指示により小五郎が9階のスタジオから4階のミーティングルームまで全速力で走ってみることになった。
結果6分47秒かかり、松尾の言う通り6分かかることが分かった。
目暮からは、「もっと速く走れんのか!」
と言われ「無理ですよ!心臓が破裂しそうなんだから!!ちょっと朱里ちゃんも走ってみてくれよ!!」
「えっ!?私もですか!?」
なぜか朱里も走ることになっていた。
合図があり9階スタジオから4階の現場までを全速力で駆け出した。通常、成人男性が階段を使えば6分は要する過酷な道のり。だが彼女は、重力を無視するかのようにフロアを繋ぐ踊り場から次へと跳躍し、数段飛ばしどころか階層を丸ごと飛び降りる超人的な動きで最短距離を突き進む。
激しい風を切り、4階に到着した彼女がミーティングルームの扉を蹴るようにして現れた時、ストップウォッチの刻んだ数字は2分を切っていた。
ゴールで待機していた目暮警部と小五郎、そして松尾は、息一つ切らさず涼しい顔で立つ朱里を前に言葉を失う。
「……1分50秒。これで、アリバイの前提は崩れたね」
人間離れした身体能力を目の当たりにした三人は、ただ唖然として彼女を凝視するしかなかった。
「わ、わかったぞっ・・・・」
顔を引きつらせながら小五郎が言う。
「・・・・なんとなく想像がつくが一応聞いておく。なんだね?」
同じく、顔を引きつらせながら目暮が尋ねる。
「犯人はこのコースを4分VTRが終了するまで4分で往復できる人物。それは・・・・・」
「あなただァ・・・・・・!!!!」
朱里に向けて指をさして叫んだのだった。
「「「「ンなわけあるか!!!!」」」」
みていたスタッフ、刑事、目暮、コナン、第1容疑者であるはずの松尾までもが一斉に突っ込んだ。
「・・・・まぁそういわれるだろうなとは思ったよ・・・・」
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唖然とさせるようなことにはあったものの、
気をとりなおして、警部たちが4階の防犯カメラの映像を確認している間、朱里は近くの倉庫に入っていた。疲れこそ感じなかったが、そもそも朱里は運動できる服装ではない。
そんな状態で、階段をアクロバティックに飛び降りていたものだから、負担にはなっていたのだ。
朱里が窓側で休憩していると、ふと窓の外が気になった。
「ん・・・・?(あれここって、さっきの部屋の真上じゃない?)」
とその時、コナンがこの倉庫に入ってきた。
「朱里姉ちゃん、こんなところにいたんだ・・・」
「やぁ、コナン君。さすがに運動靴じゃないのに階段飛び降りたりしてたから休憩中。
っとそれより、一般人が4分以内で往復できそうなコース分かったかな?」
「(ハハハ・・・・朱里さん。自分が超人なことはわかってんだ。)いや?9階か7階までは監視カメラに映らずに2分かからずに移動することは可能なんだけど・・・・」
「なるほど、じゃあこの窓から下を覗いてみなよ。」
「んん?・・・・!!これは!?真下がミーティングルーム!?ロープを使って諏訪さんを追い詰め、いや、違うな・・・・」
何やらぶつぶつとあーでもない、こーでもないと、自分の世界に入ってしまったコナンを眺める朱里。
「じゃぁ、ミーティングルームに戻りましょ。朱里さんはどうします?」
「いや、もう少ししてから戻るよ。」
蘭に聞かれたが、まだ休みたい気分だったのでもう少し残るといった。
ーーーーーーー
ちょっと空気を吸いに倉庫から少し寄り道をしていた朱里は蘭に呼びかけられた。
「あ、いたいた!朱里さん!?」
「ん?どうしたんだ?急いで。何か私に用事でもあったのかな?」
「なんか、お父さんが全員関係者を読んで来いって!だからそろそろ戻って来てもらえません?」
「あ、そうなの?わかったすぐ戻るよ(・・・・てことは分かったんだね?コナン君)」
朱里が戻ると既に、関係者が多く集まっており。2分足らずで往復でき倉庫の窓を使えば4分間で犯行可能となるトリックの解明中であった。
「(・・・・・て、何で落ちそうになっているのかな?)」
ちょうど、コナンが倉庫の窓から落ちそうになっていた。
同じように、慌てた目暮が窓を開けようとしたら上からペイントがペチャリと目暮の顔にあたった。
「しかし、どうやって窓から上を見上げさせたのだね?」
「・・・・諏訪さんに電話をかけた相手こそ、犯人だったのです。これから飛び自殺するとでも話したのでしょう」
「では、部屋にあった薬莢は?」
「それは松尾さんがあらかじめ残してあった弾痕です。実際に諏訪さんの致命傷になったであろうものは外にありましたよ?」
小五郎の推理を聞き目暮は外の地面の捜査の指示を出す。
「でも、あるんですか?私が殺めたという明確な証拠が?」
松尾はまだ、冷や汗を垂らしながらも余裕そうな表情をしている。
「(でも、既にあの、小さな名探偵にターゲットにされたのだから、証拠も確信しているはずだよね。)」
朱里も松尾がただの強がり、ほぼチェックメイト状態であると判断する。
「あなたは、ただ1つだけミスを犯した・・・おそらく慌ててきり忘れていたんでしょうなァ。証拠はあなたの携帯電話だ」
電源を切らなければリダイアル機能は生きている。試しに目暮が松尾の携帯電話のリダイアルボタンを押してみた。
すると諏訪の携帯から呼び出し音が鳴り響く。
「・・・・・?確か、諏訪さんの番号知らないといっていたような・・・?」
「えぇ、朱里さんの言うとおり私もそう聞きましたが、どういうことでしょうなァ。」
そのあと、松尾は言い訳するも、小五郎にシャットアウトされ、諏訪を殺害したことを認めた。
やはり、殺害動機は番組の司会を下ろされそうになったことだった。噂通りだったのだ。
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倉庫で、ようやく目を覚ました小五郎は目暮他多くの人に称賛されていた。
コナンはしれっとその場を離れようとする。
「ちょっと待て小僧!ヨーコちゃんいねぇじゃねぇか!だいたいおめぇに関わるとなぜか眠くなる!」
摘まみ上げて、倉庫を出たその時。
「毛利さん!見ましたよ、毛利さんの名推理!」
なんと、沖野ヨーコ同じスタジオにいたらしい。
「ヨーコちゃん!」
すぐさま鼻の下を伸ばして、デレデレとなる小五郎。
コナンは(助かった・・・)と言わんばかりにほっとしていた。
一足先に倉庫に来ていた朱里は小五郎の呼び出し方に納得していた。
「・・・・あぁ。沖野ヨーコをだしに呼び出したのか。」
それで、偶然近くに沖野ヨーコがいるというのは悪運強いのか何なのか・・・
「(まぁ・・・小五郎さんを眠らせるあの麻酔銃の効能は気になるけど・・・・ま、いっか」
とりあえず、今回も事件解決したことにはほっとした朱里だった。