友人へ相談した結果、それは恋であると断じられる。
そして目覚める恋心。理屈先行ロジカル刈谷が動き出す!
「そりゃ恋だろ」
刈谷友利はその言葉に目をきっちり1秒に一回、合わせて5回瞬いてみせた。
「彼女をつい目で追ってしまうことが?」
友人である博多が頷く。昼を過ぎた学食はがらんとしていて、ぼそぼそとした刈谷の声もよく通る。
刈谷の問いに博多は再び頷く。
「声を聞きたいと思ったり?」
こくり。
「目を合わせていられないことも?」
こくこくと。
「隣の席に座れればいいと思うのも?」
「なんだよ、座ればいいだろ」
刈谷は大学生である。四角四面なクソ真面目と自認している。
そんな自分が恋だのと。それはありうるのか。
「待ってくれ。考えたい」
「考えるまでもねぇって。ほら、すぐに状況は始まるぞ」
「何が――?」
博多が突然立ち上がって手を振る。おおいと、こっちこっちと。誰を呼んでいるのか。
友利が立ち上がろうとしたその時、両肩に手が置かれて体重がかけられる。
「だーれだ?」
「……その声には聞き覚えがある。学籍番号260054の川口陽子さんに違いない」
「あたり~!」
刈谷の左の椅子ががりがりと音を立てて引かれ、陽子が長いスカートを丁寧に抑えて腰を下ろした。
「で、願いはかなったぞ? さあどうする?」
「何の話? 分かった、次に学食に入ってくるのが誰か、賭けでもしてたんでしょう? レートはいくらから?」
陽子は肩にかけた小さな鞄から財布をとりだす。賭け事に躊躇のないアバンギャルドな性格である。
「そうではないんだ。どうも僕は恋をしたらしいんだ。それについて、博多に意見を聞いていた」
「……恋? 刈谷君が? あはは、おもしろっ」
ぐいと陽子は椅子が傾くほど刈谷へと身を乗り出す。
「だれだれ? 私の知ってる人? 相談乗るよっ、ほら、ゲロっちゃいな?」
「君だよ。川口陽子さんだ。僕は君に恋をしているらしい」
「…………ありゃあ。それは、光栄だね……?」
「お前、言っちゃうのか……」
「僕が川口陽子さんを好きなのは僕の問題だろうが、行動に移すとすれば川口陽子さんとの合意形成が必要だろう。なら、情報は共有したほうがいい。相談してくれと言われたのだから、タイミングとしては間違ってないはずだ」
「ば、バイトとかならそうなんだろうけどよ……。え、川口的には……って、ああ……」
博多が陽子を見て言葉を止める。完全にゆであがった陽子がまっすぐに背筋を伸ばして明後日の方向を向いている。
「こいつはまあ、変な奴だけどよ。多少の責任は川口にもあると思うぜ?」
刈谷の理屈っぽさと抜けているところを気に入ったのは川口が先である。軽いボディタッチくらいならば気軽にしてきたのが川口で、それが刈谷の感情を育てたともいえる。
「……ちょ、ちょっとだけ待ってもらってもいいやつ?」
「構わない。これは告白ではなくて相談だからね。突然の内容であるからまずはかみ砕いた方がいい。そのうえで、どうするべきかアドバイスを貰えると嬉しい」
「え、ええー? は、博多君? これは友達である君にも責任があるのではないの?!」
「元からの性格だろ。で、どうアドバイスすんの? 川口を落とすために、川口がアドバイスしなくちゃならんわけだけど?」
「それは循環的だ。もしかしたらエラーが起きそうな状況だったりするのか? ならやり直すべきか?」
「~~っ! いいっ! やり直さなくて!」
「フランケンシュタインみたいだな」
「博多は黙っててっ!」
小説のタイトルとして言うならば『フランケンシュタインの怪物』である。ここで博多が差すのは、そんな怪物を作り上げてしまった研究者である。
「話を続ける。これは博多にも聞いたのだけれど、まずはこれが恋なのかを客観的な意見としてもらいたいんだ。僕が川口陽子さんをつい目で追ってしまうことや、声を聞きたいと思うこと。出来れば隣の席で講義を受けたいと思っているのだけれど、それは一般に恋をしている状態特有の思考と言えるだろうか?」
「ぱ……ぱぅ……」
「……パ?」
博多は顔を伏せながら机をバンバンと叩き続けている。川口はまるで刈谷とは違う方向を見続けている。これはもしかしたら、相談する相手を間違えたのかもしれない。刈谷はそう思いつつ、川口への恋愛感情とゆくゆくはしてみたいデートと言うものについての所見を述べるのであった。
終わり
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