キンジとベンチで会話をした翌日。
一般の授業を終え、専門科目を受けるため強襲科の専用施設へ足を運ぶ。
今日はキンジも来るみたいだし、また去年のように一緒に訓練ができるといいな。
ちょっとした期待を胸に抱き、施設の扉へ手をかけたその時
「やっほー、とーやん」
明るいとも間の抜けたともとれる少女の声に呼ばれ振り返る。
そこには腰まである金髪をツーサイドアップにした女子生徒が、人懐っこい笑顔を浮かべて立っていた。
彼女の名前は
「こんにちは、峰さん。強襲科に何か用事?」
「キーくんに用事があってきたの! 確か今日は自由履修でここに来るんだよね?」
キンジが話でもしたのかな?
来ることは決まっているが、如何せん当の本人の姿はまだここにはない。
「キンジは来るけど、たぶん自由履修の申請で教務科にでも行ってると思うから時間がかかるかもね」
「そうなんだー。じゃあとーやん、理子暇つぶしの相手してくれる?」
手を後ろに組み、上目づかいでお願いをしてくる。
これから強襲科の訓練があるんだけど……。まぁ、瀬奈も少し遅くなるみたいだし、それまではいいかな。
「暇つぶしって、なにをすればいいの?」
「さっすがとーやん! じゃあ理子のお話し相手になって!」
手入れのいき届いた金髪を揺らしながらぴょんぴょんとジャンプする峰さん。
こうした喜怒哀楽を純粋に表現するからクラスでも人気者なんだろう。
特別深いかかわりはないが、去年今年と同じクラスだ。少しはお話で親睦を深めるのも大事だよね。
「お話しするのはいいけど、特に面白い話とかはできないよ?」
「なーに言ってるの! この間アリアと模擬戦して、善戦したんでしょ!? もう噂の中心なんだよ!」
キンジからも言われたが、まさかそこまで話題になっているとは。
とはいえ、2対1のうえ、銃を使わないというハンデ付きでの善戦だからなぁ。皆にはどう伝わっているのか知らないけれど、そこまで大々的になるようなことじゃないと思うけどな。
「Aランクのセナセナと2対1だけど、CランクのとーやんがSランクのアリアを追い込んだって! もー大大ニュースだよ!」
「追い込んだって言っても、神崎さんは銃を使わないハンデがあったしね。それがなければあそこまで戦えなかったよ」
「相変わらずとーやんは謙遜さんですなー。もっと胸張っていいのに」
やれやれと首を横に振られるが、生まれついてからこんな性格だから仕方ないよね。
「でっ! でっ!? とーやんはどうやってアリアを追い込んだの!?」
「あれは瀬奈が頑張ってくれたからだよ。僕がしたのはただの時間稼ぎくらいかな」
「えー!? 強襲科の子も言ってたよ。とーやんの動きがいきなりよくなったって! それって秘められた力か何かとか!? 主人公の覚醒ってやつ!?」
興奮しているのかふんふん、と鼻息を荒くし目を輝かせる峰さん。
ほぼゼロ距離まで体を寄せてくる彼女の肩をそっと押し返し、両手を小さく振り『落ち着いて』のジェスチャーをする。
「別にそんな大層なものじゃないよ。山勘を張ったらたまたま当たっただけ」
「えー、あやしー。なになに? 訳ありなのかにゃー?」
なかなか質問をやめてくれないなぁ。さて、どうしたものか……。
「……ん? おーい、キンジ―!」
「おや、キーくんのご到着かー」
どうしようかと悩んでる僕の視界の先に
これ幸いと名前を呼ぶと案の定、峰さんはすぐに振り返りキンジの元へと駆けよっていく。
さて、峰さんの注意があっちに向いている隙にお暇させてもらおうかな。
「おい、吉備! 置いてくんじゃねぇ!」
「またね峰さん。キンジ、訓練所で待ってるよー」
「ばいばーい、とーやん!」
背中越しに聞こえてくる二人の会話を聞き流しつつ、今度こそ強襲科の扉を開き中へと入る。
(しかし、峰さんには困らせられたなぁ)
探偵科でもAランクの彼女は、情報収集能力がとてつもなく高い。あの模擬戦の話を聞いて収集家の血が騒いだのだろう。いやはや危なかった。
はぐらかしはしたが、峰さんの言う通りあの模擬戦で僕はある力を使った。
それは先祖代々他言することを禁じられている力――桃太郎の力だ。
世に知られている童話では、桃太郎はお婆さんの作ったきび団子を食べ強く逞しく育ち鬼ヶ島にて鬼を打ち倒したとある。
しかし僕の家に伝わる話では、ご先祖様はきび団子によるものではなく、とある力を使って鬼を討伐したと言われている。
その力とはステルス――僕たちで言うところの超能力を使うことによって偉業を成し遂げたのだ。
先祖代々受け継いできたその超能力は『身体能力、脳の処理能力を強化する』といったものだ。
しかし昔の世ではこの力は異質で、知られれば迫害される可能性もあった。ゆえに、ご先祖様はきび団子を隠れ蓑にし、この力のことを秘密にした。
鬼とさえ渡り合える力。危険視され討伐される側になってしまうと考えるのは当然だろう。
『いいか桃哉。私たちの力は人を簡単に殺めることができる危険なものだ。決してみだりに、私利私欲に使うようなことはするなよ』
叔父さんに昔からよく言われた言葉だ。
まだ幼かった僕は、その言葉の意味をよく理解はしていなかった。
『しりしよくって何ですか?』
『己の欲、利益の優先のみを考えることだ。我が吉備家は代々善を為す一族。先祖に恥じることのないよう、正しく人のために使うことができる男になれ』
まだまだ子供のお前には難しいだろうがと、そう言葉をつづけ
『いずれ分かる時がくる。何のためにその剣を握っているのか、なぜその場所に立っているのか。お前の中にも受け継がれている義勇の血が、正義の心が、
『ぼくのありかた……』
『お前だけの正義を掲げろ。そうすれば、自ずと力も応えてくれるだろう』
正義――即ち
(……とはいえ、僕はご先祖様ほどの力は使えないんだよな)
模擬戦でも感じたが、僕の受け継いだ力は微弱なものだ。鬼を倒したご先祖様からしてみれば、脆弱な力と言わざるを得ない。
とてもじゃないが日ノ本一の戦士になれるようなものではないだろう。
それでも僕は武偵になる道を選んだ。ご先祖様のように多くの人を助けられるような英雄にはなれなくても、目の前の誰かを助けられるような人間になるためにと。
「おい、吉備。何で置いていくんだよ」
どうやら峰さんから解放されたらしい。キンジが若干疲れたような表情で僕を追いかけてきた。
「何かキンジに用事があったみたいだからね。部外者が聞くのも申し訳ないでしょ?」
「別に大したことじゃなかったよ。それより、お前こそなに話してたんだ?」
「僕の方こそ大した用じゃなかったよ。キンジが来るまでの時間潰しの相手ってところかな」
装備のある部屋へとつながる廊下を二人で世間話をしながら歩く。
あの頃が戻ってきたようで、ちょっとだけ胸が躍っている。
「久しぶりにキンジと訓練かー。腕は鈍ってないよね?」
「馬鹿言うな。
「だったらリハビリに最低3回はしないとね。がんばろ、キンジ」
「だから今日は拳銃の練習に……ったく、仕方ねぇな。ちょっとだけだぞ」
髪を掻き、観念したように小さく溜息を吐く。
その後一緒に訓練をした僕とキンジだが、3回目の訓練を終えた直後、突如現れた神崎さんにキンジを連れていかれ解散となってしまった。