五条悟になってワンピース世界に転生したけど、エースだけは絶対に死なせない   作:熊々

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第28話です。第27話の章末で湾の北の方角の海面に薄く立ち上がっていた影が今夜、湾に正式に入ってきます。入ってきた影の中にずっと名前を伏せていた男が今夜だけ名前を出します。

名前を出したあとに、もう一人。
湾の真ん中で、立ったまま、ある言葉を残す人がいます。
残された言葉は彼一人にではなく湾の真ん中にいた三人に手向けられます。三人のうちの一人は今夜まで自分が手向けられる側にいるとは思っていませんでした。

長く書きました。
長く書いたぶん雑には締めません。続きが気になる夜をお届けします。


第二十八話 面白い時代を生きろ

鎖の縁がほんの少しだけ温かくなった。

 

温かさが指の腹に乗ったまま、片目だけを北の方角に流していた。

流した先の海面の影が一段近づいてもう一段近づいた。

近づいた縁で湾の塩気の温度がまた下に落ちた。

落ちた温度の奥に笑い声が薄く漂っていた。

 

「ゼ……ハハハハ」

 

低くて粘っこくて底のない笑い方だった。

底がないから笑いが終わる場所も見えなかった。

(——こいつ、いつから入ってきていた)

 

見聞色の針を奥に降ろしてみたが針の先に当たる輪郭が不揃いで何人いるのかが半秒だけ取れなかった。

取れなかった半秒の縁で、海軍兵の方角がざわついた。

演説台の上で、センゴクの輪郭が一段強く立ち上がった。

 

『——マーシャル・D・ティーチ……!』

 

センゴクの声が湾の塩気の上を縦に裂いた。

 

裂いた声の真ん中で、エースの鎖の継ぎ目を支えていた俺の指の腹が一拍だけ硬くなった。

硬くなった指の縁で、エースの喉の奥がひゅ、と一度短く鳴った。

 

 

「ティーチ……!」

 

エースの声がこちらの肩の上で、低く落ちた。

 

落ちた声の温度に湾の塩気とは別の重さが乗っていた。

重さの中身は怒りでも憎しみでもなく、ただ「来やがったか」という覚悟の手前の温度だった。

覚悟の手前の温度を俺は片目で拾った。エースの目が一度だけこちらの右目の奥を撫でた。

 

「アズール」

声は短かった。短いのに第27話の領域の縁で、半分まで出かかっていたある一文字の続きが今夜の声には乗っていた。

 

「お前、あの男を……知ってるか」

「名前だけ、新聞で見た」

 

俺は鎖の継ぎ目から指を離さず半身だけ北の方角に向け直した。

 

「——マーシャル・D・ティーチ。白ひげ海賊団の四番隊隊長。少し前に脱退した、と海軍の報告書には書いてあった」

 

「……そうだ」

 

エースの喉が一度低く鳴った。

 

「俺の弟分だった男だ」

「弟分」

 

俺は片方の眉を一段だけ上げた。

 

「お前の弟、あれで二人目か」

「茶化すな」

 

エースの目が一拍だけ笑った。

 

笑ったのは半秒だった。

半秒の真ん中で、エースは自分の足首の鎖の継ぎ目を見下ろした。

見下ろした目の奥で、何かを諦めかけてそれから諦めるのをやめた縁が一拍だけ揺れた。

 

「あいつのせいで俺は処刑台に上った」

声は静かだった。

 

「だがそれは俺の責任だ。お前が引き受ける話じゃない」

 

俺は鎖の継ぎ目に薄い熱をもう一段流した。

 

流した熱の縁で、海楼石の鎖の継ぎ目がほどけ始めた。

ほどけ始めた縁からエースの足首の皮膚の色がもう一段戻った。

戻った縁の上で、エースの息が深く一度落ちた。

 

「悪いな、待たせた」

 

俺は鎖を完全に解いた。

 

 

鎖が落ちた。

 

落ちた鎖の音が処刑台の木の床を一拍叩いてそれから石畳の上に転がった。

転がった鎖の継ぎ目の縁から海楼石の鈍い色が湾の塩気の上に薄く流れた。エースの足が自分の重さで処刑台の床を踏み直した。

 

踏み直した足の指が一度だけ強く木の節を噛んだ。

噛んだ縁からエースは自分の意思で処刑台の縁に向かって歩いた。

歩いた一歩目が二年と少しぶりに自分の足で出した一歩目だった。

 

エースの口の左の端が一段だけ上がりかけた。

上がりかけた縁を本人が止めた。

止めた縁の上で、エースの目だけがこちらをもう一度撫でた。

 

「お前」

「なんだ」

 

「——兄、貴か」

声は震えていた。

 

震えながら、半分まで出かかって半分のところで止まった一文字をエースは今夜、最後まで言った。

言ったあとでエースの喉の奥がもう一度ひゅ、と鳴った。俺は片手を肩の上で、軽く振った。

 

「悪いな、待たせた」

声を二段下げた。

 

下げた声の奥で、二年前にCP9の地下訓練場で初めて開けたカードの縁が薄く熱を持った。

熱を持った縁の上で、俺の右目の余熱が一拍だけ深く沈んだ。

沈んだ余熱の奥で、俺は飄々の皮を半分だけ被り直した。

被り直した皮の上で、声をもう一段だけ整えた。

 

「兄貴は、お前の方が一年早い」

「……年齢の話か」

 

「それ以外、何の話があるんだ」

 

エースの口の左の端が今度こそ一段上がった。

 

上がった縁の上で、エースは初めて笑った。

笑った口の角度が二年前に酒場で見た角度と同じだった。

同じ角度の上で、エースの目の奥が一度だけ濡れた。

濡れた縁を本人が瞬き一回で殺した。

 

 

処刑台の階段を麦わら帽が駆け上がってきた。

 

『——エース!』

 

ルフィの声が処刑台の木の床を縦に裂いた。

 

裂いた声の真ん中で、エースの足がこちらに半歩近づいた。

近づいた足の上で、ルフィの両手がエースの首に巻きついた。

 

「——ルフィ……!」

「死ぬな……!」

 

ルフィの声は短かった。短いのに湾の塩気の半分を呑んだ。

呑んだ声の縁で、エースの両手がルフィの背中の麦わらを一度だけ強く掴んだ。

掴んだ指の関節の縁が白くなっていた。兄弟の輪郭が一拍だけ重なった。

 

重なった輪郭の縁を俺は片目で見送った。

見送った縁の奥で、二年前にエースが酒場で「弟がいるんだ」と笑った顔が一拍だけ重なった。

重なった顔の上で、俺の右目の余熱がもう一段だけ深く沈んだ。

(——お前の弟、面白い顔してるな)

 

俺は声に出さなかった。

出さなくてもエースの目の奥にそれは届いていた。

届いた縁でエースの口が半分だけ動いた。

 

「……だろ?」

声は誰にも聞こえないくらいの小ささで俺の方にだけ落ちた。

 

落ちた声を俺は片目で拾った。

拾った縁で唇の左の端を一段だけ上げた。

上げた縁がエースの口の角度と同じになっていた。

 

 

ジンベエの足が処刑台の縁に止まった。

 

止まった足の上で、ジンベエの右の眉が一段寄せられた。

寄せられた眉の下でジンベエの目がこちらの右目の奥を一拍だけ撫でた。

 

「あんた」

声が太かった。

 

「あんた、何者じゃ……?」

「——ただの幽鬼だ」

 

俺は処刑台の縁に立ったまま、片肩を軽く回した。

 

「シャボンディで二、三人死んだことになってる男だよ」

「……そうか」

 

ジンベエはそれ以上聞かなかった。

 

聞かないのはジンベエの方の見聞色がたぶんこちらの右目の奥の温度をもう一拍前に拾っていたからだった。

拾った温度の縁で、ジンベエは自分の右拳を一度だけ握って開いた。

握って開いた拳の関節の音が湾の塩気の上で、低く鳴った。

 

「アズールと言うんじゃろ」

「誰に聞いた」

 

「——蛇姫殿が艦の縁で、一度だけ呼んだ」

 

俺は片方の眉を一段だけ上げた。

(——あの女、どこまで人前で喋るんだ)

 

声に出さなかった。

出さなかったのはジンベエの目の奥にこちらをからかう温度がほんの少しだけ乗っていたからだった。

乗っていた温度の縁で、ジンベエは初めて低く笑った。

 

「……世話になったの」

「気にすんな」

 

俺は鎖の継ぎ目をもう一度だけ撫でた。

撫でた縁でエースの足首の皮膚の色が完全に元に戻った。

戻った縁の上で、エースはルフィの両手を一度だけ強く握り返した。

握り返した縁の温度が湾の塩気よりも一段温かかった。

 

 

その温度の上に別の温度が乗ってきた。

 

「ゼハハハハ」

 

笑い声が湾の真ん中まで進んできていた。

 

進んできた声の主の輪郭が海軍の包囲網を不揃いに割って歩いてきた。

割って歩いてきた輪郭は七つあった。

七つの真ん中に一段大きい影がゆっくり立っていた。

 

黒い帽子。

歯のない笑い。

肩から背中まで煤けた毛皮を引きずったまま。マーシャル・D・ティーチ。

 

ティーチの後ろに不揃いな影が並んでいた。

青と黒に塗り分けられた長身。

鎌を担いだ枯木のような医者。

銃床を肩に乗せた狙撃手。

巨大な体躯の格闘家。

剣を一本背負った無口な男。

首の長い帽子の男。

 

「黒ひげ海賊団……だと……?!」

 

センゴクの声が演説台の上で、もう一度跳ねた。

 

 

ティーチが湾の中央広場の縁で、一度だけ立ち止まった。

 

立ち止まった足の上で、ティーチの目がゆっくり処刑台の方角に向いた。

向いた目の奥にエースの輪郭が一拍だけ映った。

映った輪郭の縁で、ティーチの口が半分だけ歪んだ。

 

「……エース」

声は低かった。

 

低いままティーチの目がエースの隣の俺の輪郭に流れた。

流れた目の縁で、ティーチの口がもう一段だけ歪んだ。

 

「ようよう」

 

声の温度が変わった。

 

「——消えた七番目さんよ」

 

 

湾の真ん中で、俺の片膝の関節が一度だけ硬くなった。

 

硬くなった縁で見聞色の針が深く沈んだ。

沈んだ針の奥で、ティーチの輪郭の底がぐにゃりと歪んだ。

歪んだ底の中身が見聞色では取れなかった。

取れないのは本人の輪郭がまだ一枚に絞られていないからだった。

(——こいつ、輪郭が二枚ある)

 

(——一枚目の奥にもう一枚、別の何かが収まってる)

俺は片肩をゆっくり北に向けた。

 

「お前」

声を一段下げた。

 

「俺の裏筋呼称、どこで聞いた」

「ゼハハ」

 

ティーチが低く笑った。

 

「噂ってもんは海の上を勝手に走るのよ」

「……新世界の連中は口が軽いな」

 

「軽い口の連中の方が面白い話を知ってんのよ」

 

俺は片手を肩の上で、軽く振った。

 

振った手の縁の奥で、刀「闇」の柄が一拍だけ熱を持った。

持った熱を俺は息で押し戻した。

押し戻した縁で視線をティーチの目の奥に深く落とした。

 

「マーシャル・D・ティーチ」

 

俺は初めてティーチを名前で呼んだ。

 

「お前の名前、新聞で見たよ」

「……ゼハハ」

 

ティーチの目の奥が薄く光った。

 

「覚えてくれてんのか」

「忘れる男じゃないんだ、俺は」

 

「嬉しいねぇ」

 

声の縁が粘った。

 

粘った縁の奥で、ティーチの右手がゆっくり背中の鎌の柄に流れた。

流れた指の縁で、湾の塩気の温度がもう一段下に落ちた。

 

 

俺はティーチの隣を通り過ぎようとした。

 

通り過ぎようとした瞬間にティーチの右手がこちらの胸元の手前で止まった。

止まった手の縁から武装色の黒い熱が薄く立ち上がった。

立ち上がった熱の縁で、俺の左手の指がほとんど反射で無下限の境界を一段内側に絞った。

絞った境界の縁がティーチの右手の縁とぶつかった。

 

——黒閃。音が湾の塩気の上で、低く一度だけ鳴った。

 

鳴った音の縁で、ティーチの右肩が半歩だけ後ろに引かれた。

引かれた肩の上で、ティーチの口の左の端が一段歪んだ。

 

「……重ぇ手だ」

声が楽しそうだった。

 

「お前、ほんとに消えた七番目か」

「——どうかな」

 

俺は片足を一歩横に流した。

 

流した足の縁で、ティーチの右手の方角を半歩だけ外した。

外した縁で見聞色の針がもう一段深く沈んだ。

沈んだ針の奥で、ティーチの右手はもう次の動きを組まなかった。

 

「今夜はやめとくぜ」

 

ティーチがゆっくり右手を引いた。

 

引いた手の縁で、湾の塩気の温度が半拍だけ戻った。

戻った縁の上で、ティーチの目がこちらから白ひげの方角に流れた。

流れた目の奥に湾の塩気よりも一段重い色が薄く落ちていた。

 

「——今夜の主役はあんたじゃねぇ」

声は低かった。

 

低いままティーチの足が湾の中央広場の方角へゆっくり歩き出した。

歩き出した背中の毛皮の縁が湾の風で一度だけ薄く揺れた。

 

 

(——こいつ、本気の本気を、まだ出してない)

俺は片目だけでその背中を見送った。

 

見送った縁の奥で、見聞色の針がまだ深いところで揺れていた。

揺れている針の輪郭が不揃いだった。

不揃いなのに笑っていた。

笑っている縁の底に誰の名前も乗っていない低い笑い声がまだ薄く残っていた。その底の温度を俺はいまは置いた。

 

置いたのはいま動かす相手じゃなかったからだった。

動かす相手はもう一段先に決めにきていた。

 

 

湾の中央広場の真ん中で、白ひげが薙刀を持ち直していた。

 

持ち直した薙刀の縁が湾の塩気の上で、一段低く落ちた。

落ちた縁の延長線の先にティーチの背中があった。

 

『——ティーチィィィ……!!』

 

白ひげの嗄れた声が湾の塩気の上を縦に裂いた。

 

裂いた声の真ん中に湾の半分の温度が落ちた。

落ちた温度の縁で、白ひげの右足が湾の石畳を一度深く踏んだ。

踏んだ縁からグラグラの実の震動が湾の真ん中を縦に走った。

 

走った震動の縁で、湾の海面が半分だけ持ち上がった。

持ち上がった海面の縁がティーチの足元の石畳を一拍揺らした。

揺らされた石畳の縁で、ティーチの右足が半歩だけ深く沈んだ。

 

「ゼハハハ」

 

ティーチが低く笑った。

 

「——おやじ」

声は粘っこかった。

 

「やっとこっち向いてくれたな」

 

 

湾の中央で爺と元息子が向き合った。

 

向き合った縁の真ん中で、湾の塩気の温度がもう一段下に落ちた。

落ちた温度の縁の上で、白ひげの薙刀がゆっくり持ち上がった。

持ち上がった薙刀の縁の延長線の先にティーチの胸元があった。俺は処刑台の縁から片足を一歩前に出した。出した足の上で、エースの右手がこちらの肘の縁を一度だけ掴んだ。

 

「——アズール」

声は低かった。

 

「親父の喧嘩だ」

 

エースの目の奥に湾の塩気よりも一段重い色が薄く落ちていた。

 

「俺たちは出ない」

 

俺は片手の指を一度だけ握って開いた。

 

握って開いた指の縁で、刀「闇」の柄の熱が一拍だけ落ちた。

落ちた熱の縁で、俺は息を一段深く吐いた。

吐いた息の縁の上で、片肩を軽く回した。

 

「……分かった」

 

俺はエースの肘から自分の肘を抜かなかった。

 

抜かないまま片目だけを湾の中央の方角に流した。

流した目の縁で、見聞色の針がティーチの背後の七人の輪郭を一拍だけ拾った。

拾った縁の中で、一人だけこちらを見ていた。

首の長い帽子の男だった。

シリュウ。

インペルダウンの元獄卒長。

湾の塩気の上で、その男だけが白ひげではなくエースの方を見ていた。

(——あいつだけは止める)

俺は片手の指をゆっくり刀「闇」の柄に乗せた。

 

 

白ひげの薙刀が振り抜かれた。

 

振り抜かれた縁の風圧が湾の塩気を縦に裂いた。

裂いた縁の真ん中で、ティーチの右肩が一度大きくのけぞった。

のけぞった肩の上にもう一発、白ひげの右拳が武装色の黒い熱を乗せて落ちてきた。

落ちてきた拳の縁で、ティーチの胸の真ん中が湾の石畳の上に半メートル沈んだ。

 

「ゼ……ハハ……!」

 

ティーチが笑った。笑った縁から口の端に血が薄く流れた。

 

「重ぇな、おやじ……!」

声は楽しそうだった。楽しそうな縁の奥で、ティーチの背後の七人が一斉に動き出した。

 

七人のうちの五人は白ひげの艦隊の方角に流れた。

残りの二人のうちの一人——シリュウが湾の中央広場の縁を半歩こちらの方角に流した。

 

流れた半歩の縁で、シリュウの右手の刀の柄が薄く透けた。

透けた縁の輪郭が湾の塩気の中で、消えかけた。

(——透明、か)

 

シリュウの輪郭が見聞色の針の上で、薄くなった。

薄くなったのに見聞色の針はその輪郭の底をまだ拾っていた。

拾った縁の延長線の先にエースの背中があった。

 

 

俺は片足を半歩前に出した。

 

出した足の上で、刀「闇」を鞘から半分だけ抜いた。

抜いた刃の縁に第3部から畳んでいた呪力の薄い熱が一段だけ立ち上がった。

立ち上がった熱の縁で、見聞色の針をシリュウの輪郭の底に深く差し込んだ。

差し込んだ縁からシリュウの足の運びの軌道がこちらの右目の奥に一拍前に映った。

 

『——黒閃』

 

俺は片足を深く踏み込んだ。踏み込んだ縁から刀「闇」の刃が湾の塩気を縦に裂いた。

裂いた刃の縁で、シリュウの輪郭が湾の中央広場の縁から二メートル横に流れた。

流れた縁でシリュウの右手の刀が空を切った。

切った縁の温度が湾の塩気よりも一段低かった。

 

『——……ほう』

 

シリュウの声が湾の塩気の上に薄く落ちた。

 

「——獄卒長殿」

 

俺は刀「闇」の刃をゆっくり鞘に戻した。

 

「あんた、エースを狙ったな」

「……気づいたか」

 

「気づくのが俺の仕事でな」

 

俺は片手を肩の上で、軽く振った。

 

「もう一回やったら次は首を落とす」

声を二段下げた。

 

下げた声の奥で、シリュウの目の縁が一拍だけ揺れた。

揺れた縁を本人が瞬き一回で殺した。

殺した縁の上で、シリュウの輪郭はもう一度湾の塩気の中で、薄くなった。薄くなった縁が湾の中央広場の方角へゆっくり戻っていった。

 

 

戻っていった縁の延長線の先で白ひげの薙刀がもう一度振り抜かれた。

 

振り抜かれた縁の風圧の真ん中で、ティーチの胸の輪郭が一度大きく裂けた。

裂けた縁から血が湾の塩気の上に太く流れた。

流れた血の縁で、ティーチの口の端がもう一段歪んだ。

 

「ゼハハ……!」

 

ティーチが笑ったまま、片膝を石畳に深く刺した。刺した縁の上で、ティーチの背後から五人の影が白ひげの背中に向かって一斉に飛びかかった。

 

——五人。

 

ドクQの鎌が白ひげの右肩の縁を裂いた。

バージェスの右拳が白ひげの背中の真ん中を深く打った。

ラフィットの脚が白ひげの右足の関節を横に踏みつけた。

オーガーの銃口が白ひげの後頭部の縁に向けられた。

ピザロの腕が白ひげの左の脇腹に深く沈んだ。白ひげの肩が一段だけ深く沈んだ。

 

沈んだ肩の上で、白ひげの薙刀がもう一度持ち直された。

持ち直された薙刀の縁が湾の塩気の上で、低く震えた。

震えた縁から白ひげの口の端に血が薄く流れた。それでも白ひげは立っていた。

 

 

オーガーの銃の引き金が引かれかけた。引かれかけた縁の延長線の先に白ひげの後頭部があった。俺は片手をゆっくり前に出した。

 

出した手の指の縁で、無下限の境界を半円のまま、湾の中央の方角へ薄く伸ばした。

伸ばした縁がオーガーの銃の銃口の縁を軽く逸らした。

逸らした縁で銃口の角度が二度だけ右に流れた。流れた角度の延長線の先で銃声が空を打った。

 

打った銃声の縁の音が湾の塩気の上を縦に走った。

走った縁の真ん中で、白ひげの後頭部の縁の温度が半拍だけ戻った。

(——間に合った)

 

俺は片手をゆっくり下ろした。

 

下ろした手の縁で、エースの右手がこちらの肘を一度だけ強く握った。

握った縁の温度が湾の塩気よりも一段温かかった。

 

「アズール」

声は短かった。

 

「親父の喧嘩だ」

「分かってる」

 

俺は片目だけを白ひげの方角に流した。

 

「殺させはしないっていう介入だけだ」

「——……すまん」

 

エースの声が低かった。低いままエースの目が白ひげの輪郭を深く追った。

 

 

白ひげが片足をもう一度湾の石畳に深く踏んだ。

 

踏んだ縁の上で、白ひげの薙刀が最後の一段振り上げられた。

振り上げられた縁の延長線の先でティーチの胸の真ん中の輪郭がもう一度裂けた。

裂けた縁からティーチの口の中の歯が湾の塩気の上に一段だけ深く欠けた。

 

「ゼハハ……!」

 

ティーチが笑ったまま、立ち上がった。

 

立ち上がった縁からティーチの右手が自分の胸の真ん中の輪郭にゆっくり乗った。

乗った縁の上で、ティーチの目の奥が薄く光った。

 

「——おやじ」

声は低かった。

 

「あんた、もう立てねぇだろ」

 

 

白ひげが薙刀をゆっくり下ろした。

 

下ろした薙刀の縁の延長線の先で白ひげの右手が自分の胸の真ん中の縁に乗った。

乗った縁の上で、白ひげの口の端が一度だけ笑った。

笑った縁の上で、白ひげの目がゆっくり処刑台の方角に向き直った。向き直った先にエースがいた。

 

エースの足がルフィの肩を支えた格好のまま、湾の石畳の縁に立っていた。

立っていた縁の上で、エースの目が白ひげの輪郭を深く受け止めた。

受け止めた縁の真ん中で、エースの口が半分だけ動いた。

 

「親父……!」

声は震えていた。

 

震えた縁の上で、白ひげの目がゆっくりエースの輪郭を撫でた。

撫でた縁の真ん中で、白ひげの口の端がもう一度だけ笑った。

 

 

白ひげの目がエースからルフィに流れた。

 

流れた目の縁で、ルフィの背中の麦わらが湾の風で一度大きく揺れた。

揺れた縁の上で、白ひげの目の奥に湾の塩気よりも一段温かい色が薄く落ちた。落ちた縁の上で、白ひげの目が最後にこちらに流れた。

 

流れた目の真ん中で、俺の右目の余熱が一拍だけ深く沈んだ。

沈んだ余熱の縁の上で、白ひげの目の奥にこちらの右目の縁の「Dの目」を本人が一拍だけ確かに拾った縁があった。

拾った縁の上で、白ひげの口の端がゆっくり笑った。

 

「——お前ら」

 

嗄れた声が湾の塩気の上に低く落ちた。

 

「面白い時代を生きろ」

 

 

声は短かった。短いのに湾の半分の温度をゆっくり持ち上げた。

持ち上がった温度の縁で、エースの目の奥が一段深く濡れた。

濡れた縁を本人が瞬き一回で殺した。

殺した縁の上で、ルフィの口が半分だけ開きかけた。

開きかけた縁をエースの右手がルフィの肩の上で、軽く止めた。止められた縁の上で、白ひげの目がもう一度こちらに戻った。戻った目の真ん中で、白ひげの口の端がゆっくりもう一段笑った。

 

「——名前は」

声がもう一段低かった。

 

「わしも預かっておくぜ」

 

 

俺の心臓が一度深く沈んだ。

 

沈んだ縁の上で、二年前に女ヶ島の海岸の夜にハンコックが「Dの目をしている」と言った縁の温度が一拍だけ戻った。

戻った温度の縁の上で、第3部の始まりにロジャーの伝言を読んだ夜の縁の輪郭が薄く重なった。

重なった輪郭の真ん中で、白ひげの目の奥がそれを全部一拍前に読み切った縁で笑った。俺は片手を肩の上で、軽く振った。振った手の縁の奥で、声を一段下げた。

 

「——預かるなら、丁寧に頼む」

「ゼ」

 

白ひげが笑った。

笑った縁の上で、白ひげの薙刀がゆっくり湾の石畳の上に倒れた。

倒れた薙刀の縁が湾の塩気の上で、低く一度だけ鳴った。

鳴った縁の上で、白ひげの足が湾の石畳の縁に深く根を張った。

張った縁の上で、白ひげの目がゆっくり閉じた。閉じた縁の上で、白ひげの背中が立ったまま、止まった。

 

 

立ったまま、エドワード・ニューゲートは死んだ。

 

 

湾の塩気が一拍止まった。

 

止まった縁の真ん中で、ティーチの口の端がゆっくり歪んだ。

歪んだ縁の上で、ティーチの右手が自分の毛皮の縁をゆっくり広げた。

広げた縁の奥に湾の塩気とは違う底のない黒い闇が薄く立ち上がっていた。

 

「ゼハハハ」

 

ティーチが笑った。

 

「——あんたの能力、もらうぜ、おやじ」

声は低かった。

 

低い声の縁が湾の塩気の上に太く流れた。

流れた縁の真ん中で、白ひげの背中の輪郭が薄く揺れた。

揺れた縁の奥から湾の塩気の中に別の何かがゆっくり吸い上げられていった。吸い上げられていった縁の上で、湾の海面がもう一度太く揺れた。

 

 

俺は片手の指を強く握った。

 

握った縁の上で、見聞色の針が深く沈んだ。

沈んだ針の奥で、ティーチの輪郭の底の二枚目がいま薄く立ち上がるところだった。

立ち上がる縁の真ん中で、エースの右手がこちらの肘を一度だけ強く握った。

 

「——アズール」

声は低かった。

 

「行くぞ」

「……ああ」

 

俺は片足をゆっくり湾の北の方角に流した。

 

流した縁の上で、エースの肩を半身だけ支えた。

支えた縁の上で、ルフィの足が湾の石畳の縁をもう一度浅く蹴った。

蹴った縁の上で、ジンベエの右腕が湾の海面を一本上に持ち上げた。

 

 

そのとき湾の南の方角の包囲網の縁から低い声が落ちた。

 

『——逃がさんぞ、若造』

 

 

赤犬の右拳が湾の石畳の上に深く沈んでいた。

 

沈んだ拳の縁から湾の石畳が一斉に赤くなった。

赤くなった石畳の継ぎ目からマグマの粒子が縦に立ち上がった。

立ち上がった粒子の量が第27話の領域の縁で、一度だけ抑え込んだあの量と同じだった。

(——あの男、立ち上がるのが早いな)

 

俺は片足をゆっくりルフィとエースの軌道の真横に滑り込ませた。

 

滑り込ませた縁の上で、両手を胸の前でもう一度交差させた。

交差させた両手の縁で、無下限の境界を半円のまま、湾の中央の方角へ薄く伸ばした。

伸ばした縁の真ん中で、足の指を湾の石畳に強く噛んだ。

噛んだ縁の上で、片肩を軽く回した。

 

「——悪いな、赤犬」

声を一段下げた。

 

「今夜はもうお前の番じゃない」

 

 

『——大噴火!!』

 

赤犬の右拳が湾の石畳の縁から一気に振り上げられた。

 

振り上げられた縁の延長線の先でマグマの粒子の柱が湾の塩気の上に縦に立ち上がった。

立ち上がった柱の縁の温度が湾の半分の塩気を一気に押し上げた。

押し上げた縁の真ん中にこちらの無下限の境界の半円が薄く張られていた。

 

『——術式順転"蒼"』

俺は両手の指を一度だけ強く組んだ。

 

組んだ指の縁で、無下限の境界が半円のまま、湾の中央の方角に深く吸い込んだ。

吸い込んだ縁の真ん中で、赤犬のマグマの粒子の柱が半円の縁の真ん中にゆっくり流れた。

流れた縁の上で、粒子の柱の角度が半円の中心に向けて内側に寄せられた。

寄せられた縁の上で、赤犬の右拳の延長線がルフィの背中から二メートル横に逸れた。逸れた縁の上で、俺は両手の指をもう一度ゆっくり開いた。

 

『——術式反転"赫"』

 

開いた指の縁で、無下限の境界の半円が湾の中央の方角に薄く弾けた。

弾けた縁の風圧の真ん中で、赤犬の右拳の延長線が湾の塩気の上に二メートル深く押し戻された。

押し戻された縁の上で、赤犬の身体が湾の中央広場の縁から湾の海面の方角へ一気に流れた。

流れた縁の上で、湾の海面が低く一度だけ鳴った。

 

 

赤犬は湾の海面の縁で、片膝を深く刺した。

 

刺した縁の上で、赤犬の目がこちらの右目の奥を一拍だけ撫でた。

撫でた縁の重さに湾の塩気の温度がもう一段下に落ちた。

 

『——次は新世界で殺しに行く』

声は低かった。

 

「悪いな」

 

俺は片手を肩の上で、軽く振った。

 

「その頃には俺、もう少し強くなってるよ」

「——……」

 

赤犬の目の奥が一拍だけ深く沈んだ。

 

沈んだ縁の上で、赤犬はそれ以上追ってこなかった。

追ってこなかったのはこちらの片膝の関節の縁がまだ立っていたからだった。

立っていた縁の上で、赤犬の右拳の縁の温度がゆっくり湾の塩気の中に戻っていった。

 

 

俺は片足をゆっくり湾の北の方角に流した。

 

流した縁の上で、エースの肩を半身だけ支えた格好のまま、ジンベエの右腕の上にルフィとエースを乗せた。

乗せた縁の上で、ジンベエが片目だけをこちらに流した。

 

「——あんたは乗らんのか」

「乗らない」

 

俺は片肩を軽く回した。

 

「俺は別の道で帰る」

「……そうか」

 

ジンベエはそれ以上聞かなかった。

 

聞かないままジンベエの右腕が湾の海面を一本上に持ち上げた。

持ち上がった海面の上で、ルフィの足がぽん、と一度跳ねた。

跳ねた縁の上で、エースの目がゆっくりこちらに戻った。

 

「アズール」

声は低かった。

 

「——また会えるか」

「会える」

 

俺は片肩を軽く回した。

 

「世界のどっかで」

「……そうか」

 

エースの口の左の端が一段だけ上がった。

 

上がった縁の上で、エースの目の奥がもう一度だけ笑った。

笑った縁の上で、エースの背中がジンベエの右腕の上で、湾の北の方角にゆっくり流れていった。

流れていった縁の上で、ルフィの背中の麦わらが湾の風でもう一度大きく揺れた。

 

 

湾の南東の方角で、艦隊の白い帆がゆっくり翻っていた。

翻った帆の縁の上に、長い黒髪の輪郭が薄く立っていた。

 

ハンコックだった。

 

艦隊の縁からこちらの方角に片手を伸ばしかけて伸ばしかけた縁を本人が止めた。

止めた縁の上で、ハンコックの目の奥が一拍だけ濡れた。

濡れた縁を本人が瞬き一回で殺した。

殺した縁の上で、ハンコックの口がゆっくり動いた。声は湾の塩気の上をゆっくり越えてこちらに届いた。

 

「——アズール」

「ボア・ハンコック」

 

俺は片手を肩の上で、軽く振った。

 

「——また会おう、蛇姫」

声を二段下げた。

 

下げた声の奥で、女ヶ島の海岸の夜の温度が一拍だけ重なった。

重なった温度の縁で、ハンコックの肩が一拍止まった。

止まった肩の上で、長い髪の先が湾の風で一度だけ揺れた。

揺れた縁の上で、ハンコックの口がゆっくり動いた。

 

「——絶対よ」

声は短かった。

 

短いのに湾の塩気の半分を呑んだ。

呑んだ声の縁の真ん中に初めてハンコックが自分の覚悟を「絶対」と言い切った縁があった。

切った縁の上で、ハンコックの目の奥がもう一度だけ深く濡れた。

濡れた縁を今度は本人が殺さなかった。

殺さないままハンコックは艦隊の縁から湾の南東の方角へゆっくり流れていった。

 

 

湾の北の方角で白い帆と黒い帆と不揃いな帆がそれぞれ別の方角に流れていった。

 

流れていった縁の真ん中で、湾の塩気の温度がゆっくり夜の方角に戻っていった。

戻っていった縁の上で、湾の中央広場の真ん中に立ったまま、死んだ白ひげの輪郭が薄く残っていた。

残っていた輪郭の縁の上に湾の塩気がゆっくり夜の温度を被せていった。俺は片足を湾の海面の縁にゆっくり乗せた。

 

乗せた足の上で、無下限の境界を半径50cmまで深く絞った。

絞った縁の上で、湾の海面が片足の真下で薄く硬くなった。

硬くなった海面の上を俺はゆっくり歩き出した。

 

歩き出した縁の上で、湾の南東の方角の艦隊の影がもう一段薄くなった。

薄くなった縁の真ん中で、湾の北の方角のジンベエの右腕の波がもう一段遠くなった。

遠くなった縁の上で、湾の中央広場の真ん中の白ひげの輪郭が夜の温度の中で、ゆっくり立ったまま、止まった。

 

 

俺は片目だけを湾の南東の方角に流した。

 

流した目の縁の延長線の先にシャボンディ諸島の方角の海面の輪郭があった。

輪郭の縁の上で、シャクヤクが営む酒場の灯の温度が薄く立ち上がっていた。

立ち上がった温度の縁の上で、レイリーの右肩の輪郭が薄く重なった。

 

(——一旦、帰るか)

 

俺は片肩を軽く回した。

 

(——シャクヤクさんに、血、ちゃんと落として、ただいま、を言いに)

 

歩いた先の海面の上で、無下限の境界がもう一段薄く絞られた。

絞られた縁の上で、湾の塩気の温度が夜の方角にゆっくり戻っていった。

戻っていった縁の上で、こちらの右目の余熱がようやく一拍だけ深く沈んだ。

沈んだ余熱の縁の上で、二年前にCP9の地下訓練場で初めて開けたカードの縁の温度がゆっくり奥に畳まれていった。

 

畳まれた縁の上で、二年前にエースが酒場で「弟がいるんだ」と笑った顔の角度が湾の風の中で、一度だけ薄く重なった。

 

 

海面の上に、夜の温度が薄く戻ってきた。

 

戦争の音は、もう聞こえなかった。

 

聞こえないところで、誰かの低い笑い声だけが、まだ薄く尾を引いていた。

 

 

 





お知らせがあります。

このマリンフォード編をもって、本作はいったんここで筆を置きます。

アズールの旅は本当はまだ続きます。
シャボンディに戻った夜、レイリーとの再会、女ヶ島の海岸でのもう一度、空白の二年間、それから新世界でローやキッドと交わるはずの夜、まだ書きたい場面はたくさんあります。ただ書き手の側の都合と書きたい速度の問題で、いったんここで書き溜めさせてください。

完結ではないです。
打ち切りでもないです。

——近いうちにまた続きを書きます。

また会えたら——その時はよろしくお願いします。

ここまで★を、お気に入り登録を、感想を、本当にここまでの励みでした。
書き手というのは感想欄の一行で次の一話の速度がまるで変わる生き物で、本作は特に皆さんのその一行に最後まで支えられて湾の真ん中まで辿り着きました。
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