恋と三角と召喚獣   作:藤の星

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バカテスト

第三問

問 以下の英文を訳しなさい。
[This is the bookshelf that my grandmother had used regularly.]

姫路瑞希、吉井明久、姫野穂里の答え
[これは私の祖母が愛用していた本棚です。]

教師のコメント
『正解です。きちんと勉強していますね。』

土屋康太の答え
[これは私の祖母が             です。]

教師のコメント
『訳せたのはThis isとmy grandmotherだけですか。』

島田美波の答え
[Dies ist das Bücherregal, das meine Großmutter regelmäßig benutzt hat.]

教師のコメント
『できれば日本語でお願いします。』

Fクラス男子の答え
[☆●◆▽¬♪*× 。]

教師のコメント
『できれば地球上の言語で。』


第三問

Aクラスへの宣戦布告。雄二はそれを切り出した。

 

「勝てるわけがない。」

「これ以上設備を落とされるなんて嫌だ。」

「姫路さんがいたら何もいらない。」

 

そんな悲鳴が教室内のいたるところから上がる。てか、誰だっ!瑞希ちゃんにラブコールを送っているのはっ!

 

「そんなことはない。必ず勝てる。いや、俺が勝たせてみせる。」

 

ラブコールを送っている犯人を探している最中、圧倒的な戦力差を知りながらも、雄二はそう宣言していた。

 

「何を馬鹿なことを。」

「できるわけないだろう。」

「何の根拠があってそんなことを。」

 

否定的な意見が教室中に響き渡る。君達はそう思うだろうけどさ。

 

「根拠ならあるさ。このクラスには試験召喚戦争で勝つことのできる要素が揃っている。」

 

そんな雄二の言葉を受けてクラスの皆が更にざわめく。

 

「それを今から説明してやる。」

 

得意の不敵な笑みを浮かべ、壇上から皆を見下ろす親友。

 

「おい、康太。カメラの手入れをやめて前に来い。」

「……。(コクリ)」

 

手入れをしていたカメラをちゃぶ台に置くと壇上へと歩き出した。

 

「土屋康太。お前らには寡黙なる性識者(ムッツリーニ)とでも言ったほうが分かりやすいか。」

「……。(ムスッ)」

 

康太が不服そうな表情をする。土屋康太という名前はそこまで有名じゃない。でも、ムッツリーニという名前は別だ。その異名は男子からは畏敬を、一部女子からは軽蔑を込めて語られている。

ちなみに“一部”なのには理由があるけど、それはまた別の話だ。

 

「ムッツリーニだと……?」

「馬鹿な、ヤツがそうだというのか……?」

「だがヤツの机を見ろ。高級そうなカメラだぞ……。」

 

それは単純に康太の趣味が写真撮影だからだよ。決してエッチな写真を撮るためじゃないから。

 

「???」

 

瑞希ちゃんは頭に多数の疑問詞を浮かべているみたいだ。普段は土屋君としか呼んでないからね。ムッツリーニというあだ名の由来は分からなくてもいいと思う。

 

「姫路のことは説明する必要もないだろう。皆だってその力はよく知っているはずだ。」

「えっ?わ、私ですかっ?」

「ああ。ウチの主戦力だ。期待している。」

 

瑞希ちゃんだったらこのクラスの中で主戦力かもね。もちろん、雄二や秀吉、康太もそれに数えられるよね。

 

「そうだ。俺達には姫路さんがいるんだった。」

「彼女ならAクラスにも引けをとらない。」

「ああ。彼女さえいれば何もいらないな。」

 

誰だ、さっきから瑞希ちゃんに熱烈ラブコールを送っている人は。あとで康太に頼んで調べてもらおうかな。雄二も眉間に皺がよっているし。

 

「それに木下秀吉だっている。」

 

秀吉は学力では名前を聞かないけど、演劇や双子のお姉さんのこととかで有名だ。

 

「おお……!」

「ああ。アイツ確か、木下優子の……。」

『『『妹っ!!』』』

「ワシは男じゃっ!!」

 

やはり馬鹿ばっかりだ。あれだけ男だと主張している秀吉を女扱いって。

雄二が一度島田さんを一瞥してーー。

 

「当然俺も全力を尽くす。」

「ウチはっ!?」

 

華麗に島田さんをスルーしていた。

 

「確かになんだかやってくれそうな奴だ。」

「坂本って、小学生の頃は神童とか呼ばれていなかったか?」

「それじゃあ、振分試験の時は姫路さんと同じく体調不良だったのか。」

「実力はAクラスレベルが2人もいるってことだよな!」

「だからウチはっ!?」

「ん?ああ、島田は確か数学はBクラス並だったよな。」

「ええそうよ。数学だけならBクラスなんだから。」

「論外だ。」

「なんでよっ!?」

「いいか?俺達はAクラスに挑むんだ。Bクラス並では役に立たん。」

「くっ……。」

 

正論を言われて悔しげな表情をしながら席に座る。

 

「どうだ?これだけの戦力がいればいけそうだろう?」

 

そんな雄二の言葉を聞いていけそうだ、やれそうだ、そんな雰囲気が教室内に満ちていた。そう、気が付けば、クラスの士気は確実に上がっていた。

 

「それに、吉井明久だっている。」

 

……シンーー。

 

そして一気に下がる。ここで僕の名前を挙げる必要性はないと思う。雄二もやらかしたって感じで片手で顔を覆って天を見上げている。まぁ、仲間内では当たり前だったからね。

 

「誰だよ、吉井明久って。」

「聞いたことないぞ。」

 

ほら。周りから知らないって声が上がってくる。

 

「あー、すまん。知らないなら教えてやる。明久の肩書きは《特別処遇者》だ。」

「ねえ、それってどういうものなの?」

 

島田さんが首を傾げている。聞き馴染み無い単語だからしょうがないけど。

 

「具体的には教師の雑用係だな。力仕事とかそういった類の雑用を、特例として物に触れるようになった試験召喚獣でこなすといった具合だ。」

「へぇーそうなのね。」

 

島田さんが納得したように頷く。しかし周りは雄二の説明を聞いて小声で話し合っている。

 

「なあ、教師の雑用をするのは観察処分者じゃなかったか。」

「ああ。やっぱ過去の栄光だけで信じちゃ駄目だな。」

 

雄二を疑う声も聞こえてきた。ちなみに《観察処分者》と《特別処遇者》は共通点は物に触れること。違うところはフィードバックの有無だ。

 

「おい、明久。去年どれくらい召喚獣を動かした?」

「んー。1日最低でも1回。多いと3〜5回は動かしてたかな?だから100は超えてると思うよ。」

「聞いたか、お前ら。この明久はもしかしたら学年1いや、学園1の操作力を誇る。これでもまだ勝てそうにないか?」

 

僕らの会話を聞いた周りが次第にざわついてくる。

 

「そうだよな。操作力が凄いってことやられ難いってことだよな。」

「いける。いけるぞこれはっ!」

「とにかくだ。俺達の力の証明として、まずはDクラスを征服してみようと思う。」

 

雄二の言葉に再び士気が上がり始める。

 

「皆、この境遇は大いに不満だろう?」

『『『当然だ!!』』』

「ならば全員(ペン)を執れ!出陣の準備だ!」

『『『おおーーっ!!』』』

「俺達に必要なのはちゃぶ台ではない!Aクラスのシステムデスクだ!」

『『『うおおーーっ!!』』』

「お、おー……。」

 

クラスの雰囲気に圧されたのか、瑞希ちゃんも小さく拳を作り掲げていた。

 

「よろしい!それならばDクラスへの宣戦布告の使者として島田。無事大役を果たせ!」

「いやよっ!下位勢力の宣戦布告の使者は大抵酷い目に遭うわよねっ!」

「何言ってんだ島田。そんなの映画の中だけに決まっているだろう?」

「そ、そうなの?」

「ああ。それに男が女に暴力を振るわけないだろう?」

「そうよね?じゃあ何時からにするの?」

「今日の13時からで頼む。」

「分かったわ。じゃあ行ってくるわね。」

「おう。行ってこい。まあーー。」

 

ガララ…ガララ、ピシャッ

 

「女には襲われるだろうがな。」

「お主も悪よのう。」

「…知ってて行かせた。」

 

島田さんが出ていってからいつの間にか雄二の周りに秀吉と康太が集まっていた。僕と瑞希ちゃんもそれに続くように集まる。

 

「それにしても女に襲われるって。」

「どういうことですか?坂本君。」

「1年の時にいただろう?男嫌いの女子生徒が。確か…。」

「…清水美春。」

「そうだ。そいつがDクラスにいるんだ。」

「「ああ……。」」

 

確かに居たね、そんな子が。僕も何回か豚野郎呼ばわりされたっけ。

 

「そやつがDクラスにおるのを知っておって雄二は島田を使者として送ったからのう。」

 

それを聞いてとりあえず僕は島田さんの無事を祈った。

 

〜Fクラスsideout〜

 

ガララッ。

 

「失礼するわっ! 私達FクラスはDクラスに対して宣戦ふ――」

「お姉様ぁぁぁ~~っ!」

「くっ、って美春っ!? 貴女このクラスだったの!?」

「そうですわ、お姉様。美春はDクラスですの♪」

「ま、まあいいわ! それよりクラス代表は誰かしら!?」

「ああ、俺だ。」

「さっきも言ったけど、私達FクラスはDクラスに対して宣戦ふ――」

「お姉様ぁ……♡」

「はぁ……はぁ……」

「じゅるり……」

「って、脱がさないでよっ!?」

 

いつの間にか美春の手が、美波の制服へ伸びていた。

 

「お姉様、美春と一緒に大人の階段を昇りましょう♪」

「昇らないわよっ! あんたも見てないでこの子止めなさいってば!」

「あ、ああ……。清水さん、その辺で――」

「邪魔をするなら、美春は容赦しませんわ?」

「……悪い。俺には無理だ。」

「そこで諦めないでよっ!?」

 

教室中の視線が、一斉にDクラス代表へ向けられる。

 

だが当の本人は、全力で視線を逸らしていた。

 

「ともかく! 私達FクラスはDクラスへ宣戦布告します! 開戦は今日の13時! いいわねっ!?」

「ああ。試召戦争に拒否権はないからな。その布告、受け取った。」

「それじゃ、これで失礼す――」

「逃しませんわよ、お姉様♪」

「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

次の瞬間、美波を抱えた美春が凄まじい勢いで教室を飛び出していった。

 

――その直後。

 

廊下に、悲鳴が響き渡った。

 

〜Dクラス前sideout〜

 

廊下に島田さんの悲鳴が響き渡ってしばらくたった頃。

 

ガラッ

 

「騙したわね、坂本っ!」

 

そこには衣服が乱れて半脱げ状態の島田さんが居た。

 

「騙してなんかいないぞ。ちゃんと女子には襲われるかも、と言ったしな。」

「あ、えっ。そうなの。悪かったわね。」

「ああ。お前が向かった後にな。」

「やっぱり騙してるじゃないっ!」

「それよりちゃんと宣戦布告してきたか?」

「それよりって…。こっちは貞操の危機だったんだから。ええ。今日の13時からでいいのよね?」

「上出来だ。諸君聞いたか!開戦までしっかり英気を養えっ!」

『『『うぃっーすっ。』』』

 

雄二が放った言葉にクラスメイト達は気の抜けるような返事をした。

 

「さて、俺達も昼飯でも食うか。屋上でいいか?」

「大丈夫だよ。」

「構いません。」

「大丈夫じゃの。」

「…大丈夫。」

「あっ、坂本。ウチも一緒していい?」

「ああ、構わんぞ。いいよな。」

 

雄二の言葉にそれぞれが頷く。

 

「時間も惜しいし、さっさと行くか。」

「あっ、雄二。僕行くところあるから遅れて行くね。」

「私もついて行くので遅れます。」

「おう。早めに戻ってこいよ。」

「分かったよ。じゃあ、行こっか。」

「はいっ。」

 

僕らは雄二達と別れて新校舎に向かって歩き出した。

 

 

渡り廊下のところまでくると新校舎の方から穂里ちゃんと霧島さんが歩いてきてた。

 

「今から迎えに行こうと思ってたんだ。霧島さんはどうしたの?」

「……雄二にお弁当渡し忘れたからついてきた。」

「そうだったんだ。」

 

僕と霧島さんで話している横で瑞希ちゃんと穂里ちゃんが話していた。

 

「Fクラスはどうでしたか?」

「ちょっと昭和チックな感じですね。席は決まってなかったので明久君の隣にしました。」

「むぅ、羨ましいです。」

 

朗らかに微笑んでる瑞希ちゃんと少しむくれてる穂里ちゃんの対比が面白い。じゃなくて。

 

「時間も無いし、移動しようか?霧島さんも一緒に行く?」

「……いいの?」

「雄二のやつも霧島さんから手渡されたら嬉しいでしょ?」

「……なら、行く。」

 

少しはにかんだそう答えた霧島さんを見て雄二の背中を押して良かったって思える。

 

「じゃ、行こっか。」

 

穂里ちゃんと霧島さんを加えて僕らは屋上へと足を進めた。

 

 

僕が先頭で屋上に通じる扉を開けて太陽の下に出た。雲一つない空から眩しい光が差し込む。春風とともに訪れた陽光に、僕らは全員目を細めた。見渡すと雄二達が車座に近い形で座っていた。

 

「よう、遅かったな。って翔子も連れてきてどうしたんだ?」

「雄二の弁当渡し忘れたんだって。だから一緒に来たんだ。」

「そうだったのか。悪いな翔子。」

「……別に大丈夫。」

「んで姫野はなんでだ。」

「元々一緒に食べる約束をしてたからね。別に良いでしょ?」

「ああ、構わねえよ。」

 

僕らも空いている場所へ座る。右には瑞希ちゃん、左には穂里ちゃん。そして雄二の隣には霧島さんが腰を下ろした。

 

「ミーティングの前に腹拵えでもするか。」

「そうだね。はい、瑞希ちゃん、穂里ちゃん。」

「ありがとうございます、明久君。」

「ありがとうございます、明君。」

「……はい、雄二。」

「サンキューな、翔子。」

 

僕は持ってきた弁当箱の内、一つを瑞希ちゃんに、もう一つを穂里ちゃんに渡した。霧島さんも雄二に弁当を渡してる。

 

「ちょっと吉井!その女子誰よっ!というかなんで吉井が弁当を渡してるのよっ!」

「ん?この子は姫野穂里。僕の幼馴染だよ。んで、僕らは中学生の時から交代で作っているんだよ。」

「そうですね。明久君は私達の料理の先生なんです。」

「明君の料理はとっても美味しいんですよ。」

「だからって…。」

 

島田さんが言い淀んでいるうちに雄二達が僕らの弁当箱を覗き込んでいた。

 

「お、今日は明久の日か。」

「相変わらず美味そうじゃのう。」

「…交換を所望する。」

「もちろん、良いよ。」

 

雄二達に弁当箱を見せる。

 

「んじゃあ俺はーー。」

「「坂本君。」」

 

雄二が僕の弁当から選ぼうとすると瑞希ちゃんと穂里ちゃんから声がかかる。

 

「どうしたんだ。姫路に姫野。」

「「ちょっとこっちにきてください。」」

 

2人とも笑顔なのにちょっと圧がある。それに気づかずに雄二がついていった。少し離れたところで。

 

「坂本君。そこに座ってください。」

「ん?ああ。」

「あぐらじゃなくて、正座です。」

「あ?なんでーー。」

「「せ・い・ざ、ですっ!」」

「あ、ああ…。」

 

遠いから所々でしか聞こえないが、雄二が正座させられた。

 

「うーむ、悩みどころじゃ…。」

「…悩む。」

「……どれもまだ勝てそうにない。」

 

こっちではいつの間にか霧島さんも混ざって吟味している。

 

「良いですか、坂本君。翔子ちゃんがお弁当を作ってきてくれたんです。」

「それなのに明君の弁当と交換しようとするのはどういう事ですか?」

「別に明久君のお弁当を食べないで、とは言いません。」

「明君のお弁当が美味しいのは分かります。」

「「翔子ちゃんは、坂本君の恋人ですよね?」」

「……はい。」

「そうですよね。何で一口も食べずに明久君のお弁当と交換しようとしたんですか?」

「せめて一口食べて翔子ちゃんに確認をとってから交換するべきだと思います。」

「だがなぁ、明久は去年だけだがあのーー。」

「「言い訳は聞きませんっ。」」

「…はい…。」

 

おおっ、雄二が女子に圧で負けたの初めて見た。

 

「うむ、決まったのじゃ。明久よ、その唐揚げとピーマンの肉詰めを交換してくれぬか?」

「…俺はその金平牛蒡を希望する。」

「……吉井、私は卵焼きがいい。」

 

こっちもこっちで決まったみたいだ。

 

「好きに交換していっていいよ。」

 

向こう(雄二達)の方を見ながら言うと弁当が軽くなったり重くなったりを繰り返している。弁当箱の重みを手で感じていると雄二達が戻ってきた。

 

「ったく、余計時間喰っちまったぜ。」

「「坂本君が悪いんですよ?」」

「悪うございました。時間も無えしさっさと食べちまおうぜ。」

 

元の位置に座ったのを合図に皆がようやっと食べ始める。雄二は先程瑞希ちゃん達に何を言われたのが知らないけど、最初に霧島さんから貰った弁当を開けて味わうように食べていた。

 

「ん。相変わらず美味えな。ありがとな、翔子。」

「……どういたしまして。」

 

不器用ながら感謝の言葉を言う雄二と少し頬を赤らめ、微笑みながら言葉を返す霧島さんを見ているとこちらも微笑ましくなる。

 

「さて、翔子には悪いが、明久。お前の唐揚げを――って、誰だぁっ!? 俺の唐揚げを奪ったのはっ!?」

「雄二のじゃなくて僕のね?」

「そんな事はどうでもいいっ! 二個しか無かった明久の唐揚げを誰が――秀吉っ! お前かっ!?」

「うむ? 何か問題でもあるかのう?」

 

秀吉は悪びれる様子もなく、小首を傾げる。

 

「問題大有りだろうがっ!? 明久の唐揚げはなぁ、そこらの唐揚げとは次元が違うんだよっ!」

「大袈裟じゃのう。」

「大袈裟なものかっ! 外はサクッとしてんのに中は驚くほど柔らかくて肉汁が――って、そうじゃねえ! それを奪った今、お前が憎いっ!」

「そもそも、霧島の手作り弁当を後回しにしようとした雄二が悪いんじゃろう?」

「美味いものを食いたいのは人間の本望だろうがっ!?」

「……自業自得。」

「うるせぇ康太っ! いいからその唐揚げを寄越せ、秀吉ぃぃぃぃっ!!」

「嫌じゃ♪」

 

そう言い切ると同時に、秀吉は唐揚げを一口で口へ放り込んだ。

 

「あっ――」

 

雄二の手が、空を切る。

 

数秒の沈黙。

 

そして――

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

雄二の悲痛な叫びが、春空へ虚しく響き渡る。

 

「……大袈裟じゃのう。」

「大袈裟じゃねえっ! 俺は今、人生の楽しみの三割を失ったんだぞっ!?」

「安い人生だね。」

「うるせぇっ!」

 

涙目で叫ぶ雄二を見ながら、僕は小さく溜め息を吐いた。

 

「はいはい。そんなに騒がなくても、まだあるから。」

 

そう言って自分の弁当箱から唐揚げを一つ摘み、雄二へ差し出す。

 

「……明久。」

「その代わり、今度ジュース一本ね。」

「親友ぅぅぅぅっ!!」

「現金だねぇ。」

 

雄二は感極まったような顔で唐揚げを受け取ると、今度こそ大事そうに口へ運んだ。

 

「……っ、やっぱ美味え。」

「そこまで喜ばれると作った側としても嬉しいかな。」

「うむ。店でも開けそうじゃ。」

「……毎日食べたい。」

「さりげなく重い事言ってる人が居るね?」

 

僕らがそんな馬鹿なやり取りをしている隣では、女子達も小声で話していた。

 

「もう……坂本君ったら。さっきのお話、全然意味が無いじゃないですか。」

 

少し頬を膨らませながら、瑞希ちゃんが不満そうに呟く。

 

「まあまあ、瑞希ちゃん。明君の料理が褒められるのは、わたし達としても嬉しいですから。」

 

穂里ちゃんは苦笑しながらそう言って、宥めるように微笑んだ。

 

「でもですよ、穂里ちゃん。」

「……雄二は、ちゃんと私のお弁当も褒めてくれた。」

 

ぽつりと呟いた霧島さんの声には、ほんの少しだけ嬉しそうな色が混じっていた。

 

「それだけで、私は嬉しい。」

「翔子ちゃん……。」

「翔子ちゃんって、本当に坂本君のこと好きなんですねぇ。」

「……今更。」

 

そう言いながら、霧島さんはどこか満足そうに小さく微笑む。

 

その横顔を見て、瑞希ちゃんと穂里ちゃんも思わず顔を見合わせ、くすりと笑みを零した。

そんな女子達のやり取りを横目に、ふと僕は島田さんが妙に静かな事に気が付いた。

 

「……?」

 

さっきまで騒がしかったのに、珍しい。

 

不思議に思って視線を向けると、島田さんは地面に手を付き、まるで“orz”とでも言いたげな体勢で項垂れていた。

 

「ど、どうしたの?」

 

恐る恐る声を掛けながら弁当箱へ視線を落とす。

 

すると――

 

「あ。」

 

僕の弁当箱から、卵焼きが一つ消えていた。

 

「あの、島田さ――」

「…明久。」

 

横から康太が静かに声を掛けてきた。

 

「ん? どうしたのさ、康太。」

「…気にしなくていい。」

「へ?」

「…明久の料理を初めて食べた女子は、大体ああなる。」

「そうじゃな。去年も何人か似たような反応をしておったのう。」

 

秀吉がしみじみと頷く。

 

「そうなの?」

 

思わず聞き返すと、雄二が呆れたように肩を竦めた。

 

「お前、自覚ねぇのかよ。」

「いや、自覚って言われても……。」

 

ただ普通に作ってるだけなんだけど。

 

僕が首を傾げていると、未だに床へ手を付いたままの島田さんが、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……吉井。」

「な、なに?」

「アンタ……これ毎日作ってんの?」

「え?うん、まあ。」

 

その瞬間。

 

島田さんは再びガクリと崩れ落ちた。

 

「ちょっ!? 島田さんっ!?」

「時間も無ぇんだ。さっさと食っちまえ、明久。」

「いやでも、島田さんが――」

「そのうち復活するのじゃ。」

「…経験談。」

「放っとけ放っとけ。そのうち復活する。」

 

Dクラス戦も近いし気掛かりだが島田さんを放置することにした。

 

 

「さて、食べ終えた頃だし、ミーティングを始めたいんだが。」

 

ちらりと穂里ちゃんと霧島さんを見る。

 

「……大丈夫。私達はここで帰る。」

「あ、明君、瑞希ちゃん。明日は私の番なのでお弁当箱預かっちゃいますね。」

「ありがとね、穂里ちゃん。」

「ありがとうございます、穂里ちゃん。」

 

穂里ちゃんに弁当箱を渡して霧島さんと共に屋上を出て行くのを見送る。それを見計らったように雄二が徐に立ち上がった。

フェンス前の段差まで歩くとそこに腰を下ろす。僕らも雄二を中心として車座となって座り込んだ。

 

「して雄二よ。一つ気になっていたんじゃが、どうしてDクラスなんじゃ?段階を踏んでいくならEクラスじゃろうし、勝負に出るならAクラスじゃろう?」

「そういえば、確かにそうですね。」

「まぁな。当然考えがあってのことだ。」

 

雄二が鷹揚に頷く。

 

「どんな考えですか?」

「色々と理由はあるんだが、とりあえずEクラスを攻めない理由は簡単だ。戦うまでもない相手だからな。」

「え?でも、ウチらよりはクラスが上よ?」

 

確かに成績で振り分けられている以上EクラスはFクラスより上だと言える。だけど。

 

「振分試験の時点では向こうが強かったかもしれないがな。けど、実際のところは違う。明久、周りの面子を挙げてみろ。」

「えーっと…。」

 

周りを見渡す。ふむ…。

 

「親友3人と女の子が1人、それと可愛い幼馴染が1人いるね。」

「誰が女の子じゃと!?」

「そこで秀吉が反応するの!?てっきり雄二か康太が反応するかと思ってたよ!?」

「秀吉がボケるとはなぁ…。」

「…出遅れた。」

「康太もボケるつもりだったの!?」

「落ち着け、明久。とりあえず姫路の体調に問題がない以上、正面からやり合ってもEクラスには勝てる。だから戦う意味がないってことだ。」

「?それならDクラスとは正面からぶつかると厳しいのかしら?」

「いや、Dクラスとも正面からぶつかっても勝てるが、まぁ所謂、経験値稼ぎってところだな。」

 

ああ、つまり雄二が言いたい事が分かった気がする。

 

「Dクラスとの試召戦争で操作に慣れて、次の試召戦争の足掛かりにするって事?」

「正解だ、明久。B、Cクラスだと万が一負ける可能性があり、Eクラスだと操作不十分になる可能性がある。だからDクラスなんだ。」

「なるほどのう。ワシらの経験の為じゃったのか。」

「ああ。しかも初陣だろ?派手にやって今後の景気づけにしたいしな。」

 

獰猛な笑みを浮かべた雄二が僕らの顔を見渡す。

 

「いいか、お前ら。ウチのクラスはーー最強だ。」

 

静かにしかし力強い雄二の言葉が僕らに響く。

 

「いいわね。面白そうじゃない!」

「そうじゃな。Aクラスの連中に下剋上というものを教えてやるとするかの。」

「……。(グッ)」

「頑張りますっ。」

「僕らなら勝てるよ!」

「それじゃ、作戦を説明しよう。」

 

涼しい風がそよぐ屋上で、僕らは勝利の為の作戦に耳を傾けた。

 

 

 

「あ、雄二。僕試召戦争には途中から参加するね。」

「ん?どうしてだ。」

「ほら試召戦争が始まると先生達って自習用のプリントを作って各教室に配るでしょ?その手伝い。」

「……すまないな、明久。」

「大変じゃのう、お主も。」

「…面目無い。」

「いいのいいの、そういう雑用をやるのが僕の役目みたいなものだし。それより雄二、僕が合流する前に負けたりしないでよ?」

「はっ!お前が来る前にケリつけてやるよ。」

 

互いに軽口を叩き合って僕らは不敵に笑った。

 

「それじゃあ、行ってくるね。」

「おう、決着までに間に合えよ。」

「頑張ってくるのじゃ。」

「…(グッ)」

「頑張ってください。」

 

雄二と秀吉、瑞希ちゃんはそれぞれ言葉を、康太は親指を立てて励ましてくれる。そんな皆の声を背に受けながら、僕は屋上を後にした。




〜グダグダコーナー〜
藤「今回でこのコーナーも3回目。今回のゲストは木下秀吉と土屋康太です。」
「初めましてじゃのう。木下秀吉じゃ。」
「…土屋康太。」
藤「はい、初めまして。」
「………。」キョロキョロ
「む、どうしたのじゃ康太よ。」
「…作者。」
藤「なに、康太。」
「…カメラを取り付けてもいいか?」
「何を言っておるのじゃお主は!?」
藤「何が目的かな?」
「…ここだと本編で見れないあいつらの珍しい表情が取れる。」
藤「成程…。」
「作者も考え込んでおらんで拒否せいっ。」
藤「許可しよう。」
「…助かる。」シュバっ
「何故に許可を出したのじゃ!?」
藤「まあまあ、秀吉。ちょっと落ち着こうか。」

コトリ←煎餅&緑茶

「ふむ、落ち着くのじゃ。」
藤「さて、秀吉も落ち着いたことだし。」
「じゃのう。」
藤「また次回お会いしましょう。」
「待つのじゃ!今回ワシはツッコミと相伴に預かっただけじゃぞ!?」
藤「えー、だって相方の康太が居ないから、いっかなって。」
「ワシがよくないのじゃ!」
藤「それじゃまた次回っ!」
「会話をせんかーっ!」
「…今戻った。」
「遅いのじゃ!!」
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