心を閉ざした少女からの激重感情   作:あさまらたゆかあわ

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はじまり

人里の朝は、いつも通りだった。

 

店を開ける音があちこちから聞こえて、通りには朝飯の匂いが流れている。野菜を運ぶ人、井戸へ向かう人、走り回る子どもたち。見慣れた景色。

その通りの一角にある甘味処《雨宮》も、静かに暖簾を揺らしていた。

 

私の店の朝は、昼ほど忙しくはない。茶を飲みに来る年寄りや、仕事前に一息つきに来る常連がちらほらいるくらいだ。店の中にも、落ち着いた空気が流れている。

 

奥の厨房では父が団子を焼き、母は湯呑みに茶を注いでいた。

雨宮澄は、拭き終えた皿を棚へ戻しながら店内を見回す。

 

「澄、お茶お願い」

 

「はい」

 

窓際の席に座る顔なじみの老人へ茶を運び、空いた卓を軽く拭く。やることは多くない。けれど、手が空いているなら何かしていた方が落ち着いた。

 

こうして家の手伝いをするのも、いつもの朝のことだった。

一通り済んだところで、父が声をかける。

 

「澄、今のうちに休んどけ」

 

「うん」

 

振り向くと、盆の上に三本団子が置かれていた。焼きたてで、まだ少し湯気が立っている。澄はそれを受け取り、裏口から外へ出た。

 

店の横の縁側に腰を下ろす。

一本目の団子を口に運ぶ。ほんのり甘く、焼き目が香ばしい。

二本目を取ろうとして、澄の手が止まった。

 

皿の上には、一本しか残っていなかった。

 

「……え?」

 

三本あったはずだ。一本食べた。なら二本残っているはずだった。

澄は皿を見つめ、もう一度数える。やはり一本しかない。

 

「……なんで?」

 

誰かが取った気配はない。父や母がこんな悪戯をするとも思えなかった。

猫でも来たかと周囲を見る。けれど、それらしい姿はない。

その代わり、妙な感覚だけがあった。すぐ隣に、誰かいる。

 

澄は動かず、そのまま視線だけを横へ向けた。

縁側。柱の影。庭先。何もいない。それでも、気配だけは消えなかった。

澄はじっと目を凝らす。すると、何もなかった場所に輪郭が浮かぶ。

黒い帽子。緑の髪。少女の顔。

 

そして、口いっぱいに団子を頬張っている姿。

 

「……」

 

「……」

 

しばらく見つめ合ったあと、少女は飲み込んで笑った。

 

「見つかった」

 

「団子返して」

 

澄が即座に言うと、少女はけらけらと笑う。

 

「もう食べちゃった」

 

年は澄と同じくらいに見える。けれど、ついさっきまでそこにいなかった。いや、いたのに見えていなかった。そんな感覚だった。

 

「あなた、誰?」

 

「古明地こいし」

 

少女は楽しそうに足を揺らした。

 

「貴方、私のこと見えるんだね」

 

「……見えてるから見てるだけ」

 

「へえ。変なの」

 

「初対面で失礼すぎるでしょ」

 

そう返すと、こいしはまた笑った。人里の朝は、いつも通りだった。

けれどこの日から、雨宮澄の毎日は少しずつ、いつも通りではなくなっていく。

 

 

 

 




主人公プロフィール
* 名前:雨宮 澄(あまみや すみ)
* 年齢:15歳
* 種族:人間
* 居住地:人里
* 性格:少しぼんやりとした少女。かなりのマイペースだが、頼まれたことはきちんとこなし、困っている人がいれば自然と手を貸す優しさもある。感情をあまり表に出すことはなく、常にジト目で好奇心旺盛。

能力名
見えないものが見える程度の能力

内容

* 他人には認識できないものを見つけられる
* 隠れている存在や気配にも気づける
* 見落とされた物や存在感の薄いものも察知しやすい
* こいしのような“気づかれにくい存在”も見える

制限・特徴

* 自分の意思でオンオフできない
* 必要な時だけ自然と見つかる
* 何でも見えるわけではない
* 戦闘は不向きで攻撃手段はないが「危険」が見えるので、攻撃を避けることはできるかも…?
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