心を閉ざした少女からの激重感情   作:あさまらたゆかあわ

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鬼巫女すぎる

赤い霧の中を、二人で歩いていく。

 

やがて視界が開け、大きな湖が現れた。

 

その中央に――

霧に包まれた、赤い館。

 

「……あれだ」

 

理由は説明できない。

 

けれど、あそこに今回の異変の黒幕がいると、はっきり分かった。

 

澄はしばらく湖を見つめてから、隣のこいしを見る。

 

「……泳ぐのは、無理だよね」

 

「うん」

 

「……抱っこして」

 

少しだけ間があって。

 

こいしは、ぱちっと目を瞬かせた。

 

「いいよー」

 

どこか嬉しそうに笑う。

 

(……ちょっと可愛い)

 

そんなことを思いながら、軽く澄を抱き上げた。

 

「しっかり捕まっててね」

 

そのまま、ふわりと宙に浮かぶ。こいしに抱えられたまま、湖の上を越えていく。足元には黒く沈んだ水面。風を切る感覚と一緒に、館がどんどん近づいてきた。

 

「着くよ」

 

そのまま、館のすぐそばへ降りる。ふわり、と静かに着地した。

目の前にそびえる赤い壁。近くで見ると、思っていたよりもずっと大きい。

 

「正面は……あっちかな」

 

こいしが壁の向こうを指さす。二人は気配を潜めたまま、壁に沿って歩き出した。館の外周をなぞるように、ぐるりと。

 

やがて視界が開け、正面の門へと辿り着く。門の前には一人の女性が立っていた。

 

「…門番かな」

 

小さく囁く。

 

「こっそり行こう」

 

二人はそのまま気配を消したまま、そっと動く。

 

――その時。

 

門番の女性が、ふとこちらを見た。

 

「……え」

 

澄の背筋に、ぞくりとしたものが走る。今まで、こんなことは一度もなかった。こいしの手を握ってにいれば、誰にも気づかれないはずなのに。

 

「……今、見られた?」

 

「うん……?」

 

こいしも少しだけ不思議そうに首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

門番――紅美鈴は、ふと顔を上げた。

 

「……?」

 

わずかな違和感。視線を、門の右手――

茂みのある方へ向ける。何かが“いる気がする”。けれど、姿は見えない。赤い霧の中、葉が揺れるだけ。それでも、美鈴はじっとその方向を見つめる。

 

だがすぐに眉をひそめる。

 

「……気のせい、ですかね」

 

そう呟きながらも、完全には納得していない様子だった。

 

(でも……あとで咲夜さんに怒られるのも嫌ですし……)

 

そんな風に考えたのか、一歩また一歩気配のした茂みに近づいていく。

 

その瞬間――

 

(しまっ――)

 

「門番なのに、余所見していいのかしら?」

 

声と同時に、お札が美鈴目掛けて飛んだ。

 

「っ!」

 

美鈴は咄嗟に腕で受けるが、体勢を崩す。すぐに距離を取り、構え直した。

 

「……不意打ちとは、卑怯ですね」

 

表情を引き締め、構えを取る。

 

「ですが――歓迎しますよ」

 

空気が変わる。先ほどまでとは違う、戦う者の気配。

 

「紅魔館の門番として、簡単に通すわけにはいきません」

 

霊夢はそれを見て、少しだけ面倒そうにため息をついた。

 

「そう」

 

そして――

 

「じゃあ、さっさと終わらせるわ」

 

霊夢の周囲に、札が浮かび上がる。

 

一瞬で、空気が張り詰めた。

 

――霊符 夢想封印

 

無数の光弾が、美鈴へと一斉に放たれる。

 

「え、ちょっ――」

 

構える間もなく、直撃。派手な音とともに、美鈴の姿が吹き飛ぶ。

 

そのまま館の壁に突っ込み――

 

めり込んだ。

しかも見事に、下半身だけ外に出た状態で。

 

「……」

 

しん、と一瞬だけ静まり返る。壁にめり込んだまま、ぴくりとも動かない美鈴。霊夢はそれを見て、ふっと息をつく。

 

「……とても強敵だったわ」

 

まったく感情のこもっていない声で、そう呟いた

 

 

 

 

館の門前。

壁にめり込んだまま、ピクリとも動かない美鈴。その横を、霊夢は何事もなかったかのように通り過ぎる。

 

そして――

 

「おーい、霊夢!」

 

軽い声とともに、魔理沙が降りてきた。

 

「先に行ったくせに遅いわね」

 

霊夢は振り返りもせず言う。

 

「あの妖精な、なかなか強くてだな……ちょっと手間取ったぜ」

 

「ふーん」

 

興味なさそうに返す霊夢。

 

「ああ、そういえばさっき――」

 

少し考えてから続ける。

 

「壁にめり込んでるやつがいたんだが、あれお前の仕業か?」

 

霊夢は一瞬だけ間を置いた後に、めんどくさそうにそっぽを向いた。

 

「知らないわ。寝相が悪いだけなんじゃない?」

 

さらっと言い放つ。魔理沙は少しだけ黙ってから、もう一度壁の方をちらっと見た。

 

「……また壊滅的な寝相のやつがいたもんだな」

 

妙に納得したように頷く、霊夢は何も言わず、そのまま館の方へ歩き出した。

 

「行くわよ」

 

「おう!」

 

魔理沙も深く考えずについていく。

 

 

 

 

 

 

 

――茂みから一部始終を見ていた。

 

「……え?」

 

(いや、ちょっと待って。今のなに?門番さん、さっきまで普通に立ってなかった?え、なんで壁に刺さってるの?早くない?一瞬過ぎない?)

 

「…」

 

とりあえず、見なかったことにしよう。

 

(…霊夢は鬼。霊夢を怒らせたらだめ)

 

心の中で固く誓う。

その隣で。

 

「すごいね、あの人間!」

 

こいしはめちゃくちゃ楽しそうだった。

 

「一発だったね!」

 

「…うん」

 

(いや、すごいだけで済ませていいやつ?これ)

 

もう一回ちらっと門の方を見る。……やっぱり刺さっている。

 

「……」

 

ちょっとだけ気の毒になった。ほんのちょっとだけ。

 

「いこっか」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中に入った瞬間、霊夢と魔理沙はわずかに足を止めた。

 

「……広くない?」

 

霊夢がぽつりと呟く。外から見たよりも、明らかに広い。長く伸びる廊、いくつも続く部屋。

 

「こんなもんだろ」

 

魔理沙はあまり気にしていない様子だったが、どこか面白そうにあたりを見回している。

 

「広いなら、手分けした方が早いわね」

 

霊夢が言う。

 

「ああ、それがいいな」

 

魔理沙はすぐに頷き、そしてにやっと笑う。

 

「じゃあ勝負だ!どっちが先に黒幕を倒せるか!」

 

言い終わるや否や、そのまま走り出してしまった。

 

「…元気ね」

 

霊夢はため息を一つつき、歩き出す。長い廊下を一人で進み、足音だけが静かに響く。

 

しばらくすると――

 

コツ、コツ、と。奥から別の足音が聞こえてきた。

 

「…そろそろラスボス出てきても良い頃じゃない?」

 

ぼんやりとそんなことを言いながら、前を見る。やがて姿を現したのは――

メイド服で銀髪ボブカットの女。静かな足取りで近づいてくる。

完璧超人のメイド、十六夜咲夜だった。

 

「あんた、ここの主人?…ってわけでもなさそうね」

 

咲夜は一瞬だけ間をおいて、少しだけ眉を顰める。

 

「当たり前でしょ、どう見たらそう見えるのよ」

 

「はぁ、あの霧、あんたたちの仕業でしょ?何が目的なの」

 

咲夜はわずかに目を細めた。

 

「お嬢様にとっては、陽の光が邪魔なのよ」

 

「こっちは迷惑してるのよ、さっさとやめてくれる?」

 

霊夢は即答する。

 

「それはお嬢様に言ってちょうだい」

 

「あっそ、じゃあ呼んできて」

 

あっさり言う霊夢。だが咲夜は首を横に振る。

 

「お嬢様を危険な目に合わせるわけにはいかないわ」

 

「じゃあここで騒げば出て来るかしら?」

 

霊夢の目が鋭くなる。咲夜は小さく息をつき、静かに告げる。

 

「あなたがお嬢様に会うことはできない」

 

「――時間を止めてでも、足止めできるから」

 

その瞬間、空気が変わった。

咲夜が先に動き、指先から放たれたナイフが、一直線に霊夢へ飛ぶ。だが霊夢は、それを紙一重でよける。

 

「遅いわね」

 

軽く言い放つ、その瞬間

 

――奇術「ミスディレクション」

 

「…!」

 

咲夜が指を鳴らしたその瞬間、目の前にびっしりと並んだナイフの壁が現れ、まるで逃げ場を奪うかのように一直線に迫ってきた。

 

「っ!」

 

霊夢は反射的に体をひねり、その鋭い刃の隙間を縫うように滑り込む。頬をかすめる風が一瞬だけ肌を撫で、あと少しでも遅れていれば確実に当たっていたと分かる。

 

なんとか抜けた、そう思った次の瞬間――

 

ふっと、周囲の音が消えた気がした。

 

「……?」

 

違和感に気づいたときには、もう遅い。

 

さっきまで正面にいたはずの咲夜の姿が消え、代わりに真横や背後といった死角を塞ぐように、空中にナイフが“置かれている”。さっきまでそこには何もなかったはずなのに、まるで最初からあったかのように静かに浮かんでいた。

 

(なっ――)

 

考えるより先に体が動く。無理やり体勢を崩しながら、迫ってくるナイフを次々と避けていく。だがその軌道は容赦がなく、完全には捌ききれない。

 

「っ……!」

 

ひらり、と布が裂ける音がした。

 

ほんのわずかに、服の端が切り裂かれている。

 

霊夢はすぐに距離を取り、小さく息を吐いたあと、口元にわずかな笑みを浮かべた。

 

「……まるで手品ね」

 

どこか皮肉を含んだ声。

 

咲夜は表情を変えることなくナイフを構え直し、淡々と答える。

 

「あなたって思ったよりすばしっこいのね」

 

その声音には揺らぎがなく、すでに次の一手を見据えているのが分かる。

 

「これはどうかしら?」

 

――幻符「クロックコープス」

 

霊夢の周囲に、無数のナイフが現れた。前後左右、さらには斜め上や足元に至るまで、あらゆる角度から隙間なく配置されている。

 

それらはただ浮かんでいるだけではない。喉元、心臓、人間の急所。

ほんの少しでも動けば、そのどれかに触れる位置。まるで、ここから先は逃げ場がないと宣告するかのようだった。

 

「…ちっ」

 

わずかに舌打ち、その直後。止まっていたナイフが同時に動き出し、一斉に霊夢へ目掛けて飛んでくる。

 

「……でも、甘いわね」

 

――夢符「封魔陣」

 

霊夢が短く呟くと同時に、彼女を中心に眩いばかりの朱色の紋様が爆発的に広がった。

 

360度、上下左右から迫っていた銀色の凶器が、霊夢の体に届く直前、見えない壁に叩きつけられたような音を立てて霧散していく。

 

咲夜の放ったナイフをすべて光の塵へと変えながら、結界の圧力に押し潰され、壁に叩きつけられる咲夜。

 

「ぐっ……っ!!」

 

彼女の体を宙へと跳ね上がる。

 

「まだ……よ……。お嬢様のもとへ……行かせるわけには……」

 

結界の衝撃に弾き飛ばされ、背中を強く壁に打ち付けた咲夜は、苦しげに喘ぎながらもなんとかして立ち上がった。その瞳には、敗北を拒む執念と、主への忠誠心が燃え盛っている。だが、次の瞬間、彼女の視界から霊夢の姿が消えた。

 

「往き生際が悪いわね」

 

低く、冷えた声が、すぐ耳元で響いた。

 

「――っ!」

 

振り向こうとしたその瞬間、霊夢の拳が迷いなく咲夜のお腹に直撃する。衝撃が、咲夜の体を横へと弾き飛ばし、再び壁へと叩きつけられる。今度は受け身も取れない。力が抜け、そのまま床へと崩れ落ちる。

 

「……」

 

咲夜の手からナイフこぼれ落ちる。

かすかに動こうとする気配もあったが、もう体は言うことを聞かない。意識が静かに途切れ、完全に沈黙した。

 

「ふう…」

 

霊夢は軽く息を吐き、拳をぶらぶらと振る。

 

「…ん、ちょっとやりすぎちゃったかしら」

 

痛みを確かめるように呟き、倒れた咲夜を見下ろす。

 

「でもまぁ…なかなか楽しめたわよ」

 

霊夢はそれ以上気にすることもなく、くるりと背を向ける。

 

「さて、と」

 

次へ進むために、紅魔館の奥へ歩き出した。




感想やお気に入りしてくれると凄く嬉しいです!!
普通に考えて人里の普通の人間が吸血鬼の館に行くとか自殺行為ですよね…
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