霊夢と魔理沙の視線は信じられないものを見るような目で、まっすぐ澄に突き刺さったまま動かない。
一度瞬きをする。
もう一度見る。
「なにしてんだ!?」
「なにしてんのよ!!」
二人の声が、ぴたりと重なったその瞬間、空気が止まる。さっきまで飛び交っていた弾幕も、揺れていた霧も全部が、一瞬だけ息を潜めたみたいに静まり、怒鳴り声と困惑の声の余韻だけが、じわっと広がっていく。
澄はびくっと肩を震わせる。完全に場違いな場所で、完全に場違いな怒られ方をしている自覚が一気に押し寄せる。
逃げ場がない。
視線が、一斉に自分に向いた気がしてぎゅっと体が固まる
「…うっ」
小さく声が漏れる澄をよそに、レミリアの視線は、ゆっくりとフランへ移っていった。さっきまでの余裕とは少し違う、ほんのわずかに低くなった声。
「…なんで部屋から出てるのかしら?」
問い詰めるような響き。レミリアは怒っているようで、鋭い視線をフランに向ける。だがフランは、その視線を真正面から受け止め、一歩も引かなかった。
むしろ、一歩前に出る
「私、もう地下に引きこもらないから!」
はっきりと言い切る。その声は強くて、迷いがない
「これからは、澄とこいしと一緒に、外で遊ぶって決めたの!」
手に力がこもる。ただの思いつきじゃなく、ちゃんと決めたことだということが、その空気が伝わる。
レミリアの目が、すっと細くなる
「…そんなこと、私が許すと思うのかしら?」
それは冷たい言葉だが、フランは怯まない。
「お姉様がなんて言おうと関係ないわ!」
声を張り、さらに一歩進む。
「私が決めたことだもの!口を挟まないで!」
その言葉が落ちた瞬間、レミリアの表情がほんの一瞬だけ止まった。それは、フランが今まで見せてこなかった反抗に対する僅かの驚き。だがすぐに消えた。
レミリアは、小さく息を吐く。
「…へぇ」
低く、短く。
だが、それだけで空気が張り詰める。そんな横で魔理沙が頬をかく。
「なんだなんだ……姉妹喧嘩か?」
軽い調子で言う魔理沙の一言を無視して、霊夢は一瞬で澄のところに飛んでいき、ぐっと距離を詰める。そして逃げ場を塞ぐように目の前に立った。
「ちょっとあんた!なんでこんなとこにいるのよ!」
強い声真正面から叩きつけられ、澄は一歩引きそうになるが、動けない
「えっと……その……」
視線が泳ぎながらも、なんとなか言い訳を探す。
でも出てこない。
「黒幕が……気になって……」
結局、小さな声で正直に言った。だが霊夢にははっきり聞こえる。そして、澄の応えに、霊夢の顔がゆっくり歪む。
「はぁ?」
低い声。
そして明らかに爆発寸前な霊夢の顔。
「そんな理由で来る場所じゃないでしょここ!」
そして一気に爆発する。
「遊びじゃないのよ!?」
澄は完全に固まる。
「ご、ごめんなさい……!」
慌てて頭を下げ、反射的に出たその言葉に霊夢は一瞬だけ、言葉を止める。そしてまた怒りのまま続けようとして――
ふっと、霊夢の鋭い視線が澄の体を上下になぞる。その瞳は、まるで隠れた傷一箇所も見逃さないと誓っているかのようだった。
「……怪我は?」
少しだけ声が変わる。さっきまでの怖さはなく、もっと必死で、余裕がないような、そんな声だった。
「変なことされてないでしょうね」
問い詰めるような声に、澄は圧倒されて慌てて首を振った。
「う、うん、こいしがいたから大丈夫…」
その一言で霊夢の視線が横に流れる。
「……こいし?」
「あ、あはは……初めまして、霊夢……」
初めて、そこに意識が向く。こいしが少しだけ引きながら手を振る。
向けられた視線のあまりの温度差に、こいしはたじろぎ、少し身を引きながら手を振った。その瞬間。霊夢の動きが、完全に止まった。
数秒。風が止まり、森の虫たちの声さえも消え去ったような、重苦しい沈黙がその場を支配する。
そして。ぷるっ、と霊夢の肩が小さく震えた。
「……は?」
低く、静かすぎる声。怒りというよりも、信じられないものを見てしまったときのような、底冷えする響き。
「妖怪……?」
霊夢の全身から、バチバチと激しい殺気があふれ出す。
「あんた、妖怪なんかと一緒にいたの……っ!?」
霊夢の瞳が、これまでにないほど激しく燃え上がる。
「どんだけ危ないか分かってんの!?妖怪なんて今は笑ってても、お腹が空いたらあんたをパクッと食べちゃうかもしれないのよ!? 」
「だいたい、守ってくれる人が欲しいなら私を呼びなさいよ! どこの馬の骨ともわからない妖怪に頼るくらいなら、私のところに来たら良いじゃない!」
こいしが、霊夢のその一方的な言い方にムッとして、澄の前に一歩踏み出した。
「ちょっと、なによそれ!私は澄の友達だもん!傷つけるわけないじゃない!」
だが、霊夢はそれを遮るように、吠えるように叫ぶ。
「うるさい、あんたのことなんか信用してないわよ!」
ピリついた空気に、澄はすっかり怖くなって、ただオロオロするしかなかった。霊夢の怒りだけでも手一杯なのに、そこへさらに追い打ちをかけるような声が響く。
「ふーん?そこの人間に、変なこと吹き込まれたのかしら?」
声の主は、レミリア。どこまでも静かで、それでいてナイフのように鋭い声。その視線が、澄の体に突き刺さる。ただ見つめられただけなのに、全身を鎖で縛られたような強い圧迫感。
「ひっ……」
恐怖のあまり、小さな悲鳴が漏れた。けれど、その声が消え切るよりも早く――。
「やめて!」
フランが弾かれたように割って入った。震える澄を守るように、その小さな体の前に立ちはだかる。
「澄は私の、大切な友達よ!!」
強く、響き渡る声で言い切る。姉であるレミリアに対しても、一歩も引くつもりはない。
「澄を怖がらせないで!」
違う方向からの強い感情がぶつかり合い、その場の空気はさらにかき混ざっていく。
張り詰めた空気を切り裂くように、それまで様子を伺っていた魔理沙がポリポリと頭をかいた。
「えーと……」
少し困ったような、あきれたような顔。
「で、さっきの続き、どうすんだ? これ」
あまりにも場違いな一言。だけど、今の異常な空気の中では妙に現実的で、かえってトゲがある。魔理沙の発言で少し落ち着いた霊夢がちらっと、冷めた目でレミリアを見た。
「はぁ…そうね。じゃあ、そこの妹も入れて……三対一でいいんじゃない?」
さらっと、とんでもないことを言い出す。さすがのレミリアも、これには即座に反応した。
「それは無茶でしょう!? どんな理屈よ!」
思わずツッコミを入れる。カリスマあふれる吸血鬼の主も、霊夢のあまりの極論に一瞬だけ表情が崩れた。その時だった。
「三対一……?」
フランがぽつりと、地面を見つめたまま呟く。
「……違うわ。そうじゃない」
ゆっくりと、フランの手が上がった。その手の中に、ゴォッ! と激しい炎が灯る。炎は渦を巻き、やがて禍々しい剣の形を作っていく。禁忌の武器、レーヴァテイン。
「私は、一人で戦う!」
言い切るのと同時に、フランが地面を蹴った。一瞬で距離を詰め、その巨大な炎の剣を思い切り振り下ろす。ドォォォン! と空気が爆ぜるような音。レミリアはそれをギリギリで横に飛んで回避した。紅い炎が空を真っ二つに裂き、熱風がレミリアの頬をなでる。
「……少し、お仕置きが必要みたいね」
レミリアの声が、低く沈む。妹の反抗、そして澄を巡る混乱。そのすべてにケリをつけるべく、彼女の右手に紫の光が集まった。現れたのは、必中の魔槍、グングニル。
「覚悟しなさい、フラン!」
姉妹の激突を前に、周囲の空気はさらに熱く、激しく震え始めた。
次の瞬間、轟音とともに二人が激突した。ドォォォン! と空を震わせる衝撃波に、魔理沙は「うおっ」と慌ててその場を離脱する。箒を操り、霊夢たちの元へ戻ってきた魔理沙は、苦笑いを浮かべた。
「おいおい……。なんだよ、急に派手な姉妹喧嘩が始まっちまったぞ……」
対照的に、霊夢は冷めた様子で腕を組んでいた。
「別にいいんじゃない? 放っておけば」
あまりにあっさりとした物言い。
「姉が倒れれば異変解決になるし。もし妹が負けても、弱ったところを叩けばいいんだから」
淡々とした、あまりに現実的な判断。
「どっちにしろ、私たちにとっては悪くない展開でしょ」
霊夢はそこまで言うと、すっと視線を澄へと向けた。
「あんた」
低く、逃げ場のない声。
「自分がどれだけ危うい状況にいたか、ちゃんとわかってんでしょうね」
鋭い視線に射抜かれ、澄は肩をびくっと震わせた。
「ご、ごめん…ほんとに…」
完全に萎縮して、今にも泣き出しそうなほど小さくなる。それを見かねて、こいしが二人の間に割って入った。
「ちょっと! さっきから言い過ぎじゃない?!」
だが、霊夢は表情ひとつ変えず、即座に言い返す。
「あんたみたいな妖怪の言うことなんて、一ミリも信用してないって言ってるでしょ」
火花が散るようなピリついた空気に、澄は呼吸をするのも忘れてしまいそうになる。
「まあまあ、今は落ち着けって」
そこへ魔理沙がひょいと間に入り、場の空気をなだめるように指を差した。
「今は、あっちの戦いを見とこうぜ」
指差す先では、紅い炎と紫の閃光が激しく入り乱れていた。フランとレミリアが本気でぶつかり合う、吸血鬼姉妹の壮絶な空中戦が始まっていた。
主人公のせいで原作崩壊がえげつない…w
これからどうなるんだ……