心を閉ざした少女からの激重感情   作:あさまらたゆかあわ

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姉妹喧嘩

空で、レミリアとフランが激突する。

 

空中で赤と紫の閃光が激突し、爆発のような衝撃波が森を震わせた。弾幕ごっこのルールなんて、そこには存在しない。あるのは、吸血鬼としての圧倒的な「力」のぶつかり合いだけだ。

 

速すぎて、澄には何が起きているのか、ほとんど見えなかった。ただ、姉妹が本気でぶつかっていることだけは分かった。

 

「……ふぅん」

 

レミリアは空中で槍を軽く回しながら、妹を見据える。

 

「まさか貴女の方から“外に出たい”なんて言い出すとは思わなかったわ」

 

フランは答えない。ただ、じっとレミリアを睨み返している。だが、レミリアの言う通りだった。今までフランは、自分から地下を出たがらなかった。閉じ込められている、という認識すら薄い。

 

自分の力が危険なことも、自分でよく分かっていたからだ。だからずっと、地下室の中で一人遊びを続けていた。

 

何百年も。

だが、澄と会ってから、少しだけ変わった。

 

『外って、そんなに楽しいの?』

 

何気なく聞いたフランに、澄は変な顔をしていた。

 

『うん…色んな生き物がいる』

 

『ふぅん』

 

『…見てみたい?』

 

その時の澄の反応を、フランは覚えている。可哀想なものを見る目でもなく、恐れる目でもなく。ただ純粋に、「じゃあ今度行ってみる?」みたいな顔をしていた。

 

それが、妙に頭に残っていた、だから、外に興味が湧いた。それだけだった。

 

「あの人間の影響?」

 

レミリアが問う。

 

「……別に」

 

「でも、きっかけではあるんでしょう?」

 

フランはむっとする。レミリアはそんな妹の反応を見て、小さく笑った。

 

「貴女、自分がどれだけ危ないか分かってる?」

 

「分かってるもん」

 

「本当に?」

 

次の瞬間、レミリアが消えた。

 

「っ!」

 

反射的にフランが後ろへ飛ぶ。ほぼ同時に、さっきまでいた場所を紅い槍が貫いた。

 

遅れて衝撃波。

フランが笑う。

 

「お姉様、本気じゃん」

 

「当たり前でしょう」

 

レミリアの瞳は真剣だった。

 

「私は別に、貴女が外に興味を持ったことを否定してるわけじゃない」

 

槍を構え直す。

 

「ただ、“その程度の覚悟”で外に出られても困るのよ」

 

フランの笑みが少し消える。

 

「外には人間も妖怪もいる。貴女が力を抑え損ねれば、一瞬で壊れるわ」

 

「……壊さないもん」

 

「口で言うのは簡単ね」

 

レミリアが踏み込む。空中で衝撃が弾けた。フランはレミリアの攻撃を受け止めながら、少しずつ押される。

 

やはり経験が違う。

レミリアはフランより圧倒的に戦い慣れていた。

 

「ねぇフラン」

 

グングニルを打ち込みながら、レミリアが静かに言う。

 

「もし、その人間を壊したらどうするの?」

 

 フランの動きが止まった。

 

「…………え」

 

「貴女、力の加減苦手でしょう?」

 

その言葉は、責めるようでいて事実だった。フランは、自分の能力を完全には制御しきれていない。だからこそ、地下にいた。

 

「もし本当に、うっかり壊したら?」

 

「……壊さない」

 

「でも絶対ではない」

 

「壊さないったら!」

 

フランの魔力が膨れ上がり、空気が震える。

次の瞬間、空気が爆ぜた。

 

 ドンッ!!

 

フランの姿が掻き消える。

 

速い。

 

レミリアが目を細めた瞬間には、もう目の前だった。

 

「お姉様ぁっ!!」

 

レーヴァテインが振り下ろされる。レミリアは即座にグングニルを横へ構える。

 

激突。

 

ギィィィィン!!!

 

火花ではなく、魔力の奔流が四方へ弾け飛び、湖面が爆発みたいに抉れる。だがフランは止まらない。

 

「まだまだぁ!!」

 

押し込む。

レーヴァテインの炎がさらに膨れ上がった。それは力任せで、本来なら隙だらけの攻撃。けれど、フランの膂力と魔力がそれを無理やり成立させていた。

 

レミリアのグングニルが軋む。

 

「っ……!」

 

「おりゃあああぁっ!!」

 

フランが流し込んだ魔力で、レーヴァテインの炎が異常なまでに膨れ上がっていた。熱量だけで空気が歪む。このまま真正面から受ければ、ただでは済まない。

 

「くっ…!」

 

そしてレミリアはグングニルを横へ大きく薙ぎ払った。

 

ドォンッ!!

 

凄まじい衝撃。

 

そしてそのままレミリアのグングニルが振り抜かれる。紅の軌跡が夜空を裂き、遅れて衝撃波が湖面を叩いた。

 

フランは咄嗟に身をひねる。けれど避け切れず、槍先がフランの頬を浅く裂き、赤い血が散った。

 

「っ!」

 

「遅いわ」

 

レミリアは容赦なく追撃する。

力任せに暴れるフランと違い、レミリアは最小限の動きで確実に急所を狙っていた。フランは後退しながらもそれを防ぐ。だが少しずつ押されていった。

 

「むぅ〜…!」

 

悔しそうに頬を膨らませた瞬間。レミリアが一気に踏み込んだ。

 

「もう終わり?」

 

グングニルが喉元へ迫る。

その時。

 

「…くっふふ……あはははは! お姉様、壊れちゃえ!!」

 

フランの瞳が妖しく光り、無邪気さと狂気が入り混じった笑い声が空に響き渡る。その瞬間、フランの体がぶれ、4人のフランに分裂した。

 

「「「「遊ぼう、お姉様!!」」」」

 

その瞬間、四つの圧倒的な魔力が膨れ上がり、周囲の空気がビリビリと震える。それを見たレミリアは、ふぅ、と深い溜息をついた。

 

「……反抗期にも程があるわね。少し頭を冷やしなさい」

 

四方向から同時に襲いかかるフランたち。一人は上空から炎の剣を振り下ろし、二人は左右から肉薄し、最後の一人は死角である真下から鋭い爪を突き立てる。普通なら逃げ場のない波状攻撃。だが、レミリアは動じない。

 

「甘いわ」

 

レミリアは最小限の動きで真下からの突きをかわすと、グングニルの石突きで地上のフランを弾き飛ばす。そのままコマのように回転し、左右から迫る二人をグングニルの風圧だけで押し戻した。さらに、頭上から迫る本物のフランの一撃を、あえて避けない。

 

レミリアは翼を瞬時に硬質化させ、盾のようにして炎の剣を受け止めた。ギギギギッ……! と、魔力と魔力が削り合う不快な音が響く。

 

「一人じゃ勝てないから分身? 小細工を覚えたわね」

 

レミリアは冷たく言い放つと、翼を大きく羽ばたかせてフランを突き放した。すぐさま四人のフランが再び包囲網を築こうとするが、レミリアの方が速かった。彼女は霧のように姿を消したかと思うと、分身の一人の背後に現れ、その首筋に指先を添える。

 

「消えなさい」

 

冷徹な一言とともに魔力を流し込むと、分身はパンッ! と音を立てて赤い霧に霧散した。

 

「あと三人」

 

一体、また一体と、レミリアは「本物の吸血鬼の戦い方」を見せつけるように、無駄のない動きでフランの分身を処理していく。

 

そして追い詰められたフランが無言で片手を天に掲げた。その瞳からはハイライトが消え、底知れない闇のような色が広がっている。

 

「……きゅっとして」

 

フランが虚空を掴むように、指を折り曲げた。レミリアの顔から、さっきまでの余裕が消え失せる。

 

「まさか、フラン……っ!?」

 

「どかーん」

 

フランが拳を固く握りしめた瞬間。レミリアの胸のあたりで、空間そのものが爆発した。

 

ドォォォォォォォォン!!

 

その瞬間、レミリアの体が中心から激しく爆発した。

 

「あはは……。あ……あれ?」

 

我に返ったフランが、自分の手と、誰もいなくなった空を見上げてポツリと呟いた。

 

「……お姉様、殺しちゃった……?」

 

その場にいた全員が凍りついた、その時。飛び散った紅い霧が、無数のコウモリとなって集まり始めた。だが、その数は明らかに先ほどより少なく、力弱い。やがてコウモリたちが地面に降り立ち、一人の少女の形を作る。

 

「……痛たっ。……冗談じゃないわよ、本当に」

 

そこに立っていたのは、いつもの威厳あふれるレミリア……ではなく、一回りほど体が縮んでしまった、幼い姿のレミリアだった。体の一部が完全に破壊されたことで魔力が足りず、大人の姿を維持できなくなったのだ。

 

「お、お姉様……? なんだか、小さくなってる?」

 

フランが不思議そうに首を傾げると、レミリアは引きつった笑いを浮かべた。

 

「まさか、実の姉を本気で殺しにかかるなんてね……それだけ本気ってことかしら…ね」

 

レミリアは自分の短くなった腕やスカートを眺め、どこか遠い目をした。そして深々と、今日一番の大きな溜息をついた。

 

「……はぁ、いいわ。負けよ、負け。あんな真っ直ぐな目で見つめられたら、姉としてこれ以上意地を張るのも無粋ね」

 

レミリアは、ちんまりとした体で精一杯の威厳を保ちながら、澄の方を見据えた。その目はまだ鋭いが、姿が小さいせいでどこか微笑ましくも見えてしまう。

 

「いい? フラン。……約束しなさい。その1、人間をむやみに殺さない。その2、決めた時間には必ず帰ってくる。その3、出歩くときは咲夜や美鈴を連れて行くこと」

 

「…………???」

 

突然始まった「お約束」に、フランは目を白黒させて固まっている。レミリアは、ちんまりとした体で精一杯のカリスマを振り絞って言い放った。

 

「この約束が守れるなら、外に遊びに行ってもいいわよ」

 

「! ほんとに!? やったぁぁ!! ありがとう、お姉様!」

 

フランは爆発のことなんてすっかり忘れて、小さくなったレミリアに抱きついた。

 

「ちょ、苦しいわよ! 重いわね!」

 

と照れ隠しで怒るレミリアだったが、その表情はどこか優しかった。そしてフランは、弾けるような笑顔で澄の元へと駆けていく。

 

「澄! 遊びに行っていいって! 私、外に行けるよ!」

 

ぎゅーっと抱きついてくるフランの温もりに、澄は驚きつつも、ようやく安心したように笑みを浮かべるのだった。

 

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