こいしは明るく笑っていた。けれど、どこか遠くを見ているようでもあった。
その視線は澄に向いているようで、実際にはあまり向いていないような、曖昧な距離感だった。話しかけている今この瞬間ですら、こいしがどこまで興味を持っているのかはよく分からない。
それでも、目の前にいることだけは確かだった。
「……まだいるの」
澄がそう言うと、こいしは少し首をかしげた。
「いるよ」
こいしはそう言って、それ以上何も付け足さなかった。
澄もそれ以上、何を聞けばいいのか分からない。
会話がそこで途切れる。縁側に、少しだけ変な間が落ちた。
「……」
澄はなんとなく視線を逸らす。
気まずい、というほどでもないが、何も言わないまま時間が流れるのは落ち着かなかった。
一方で、こいしは特に気にしていない様子だった。むしろ、その沈黙の中で澄の顔をじっと見ている。
「……なに」
澄がそう言うと、こいしは少しだけ目を細めた。
「貴方、名前なんて言うの?」
突然だった。澄は一瞬だけ考えてから、普通に答える。
「雨宮澄」
「ふうん」
それだけだった。特に驚いた様子もないし、興味があるようにも見えない。ただ、知識として聞いただけ、そんな反応だった。
また、間が落ちる。縁側に、さっきより少し長い沈黙が流れた。
「……」
澄は少し居心地が悪くなって、手元の皿を見る。何か話さないといけない気がするが、特に話題もない。
「……だんご、食べる?」
そう言いながら、盆の上の皿を軽く持ち上げる。こいしは一瞬だけその皿を見て、ぱっと顔を明るくした。
「いいの?」
「うん。まだ残ってるし」
「食べる!」
即答だった。
さっきまでの曖昧さが少しだけ消えている。澄はその反応を見て、無言で1つ団子を差し出した。こいしはそれを受け取ると、嬉しそうに口へ運ぶ。
「おいしい」
「そう」
会話はそこで止まる。けれどさっきよりは、少しだけ空気が柔らかかった。
だんごを食べながら、こいしは澄の顔をまたじっと見ていた。
さっきから視線は外れていないのに、どこか焦点が合っていないような不思議な目だ。
「……その“目”、何?」
澄は視線を少し落として、こいしの胸元にある紫の丸い物体に対して言う。
「……こいしって、妖怪?」
その言葉が出た瞬間、こいしの空気がわずかに変わった。
さっきまでの軽さが、ほんの少しだけ薄くなる。
「妖怪だったら、どうするの?」
声は変わらない。明るいままなのに、どこか試すような響きが混じっていた。
普通なら、そこで少し身構えるのかもしれない。
食べられるとか、危ないとか、そういう考えが浮かぶのだろう。
けれど澄は、特に何も変わらなかった。
危ないかどうかは、もう分かっている。
少なくとも、目の前のこいしからは、そういう「危険」な気配はしない。
「別に」
澄は淡々と答えた。
「どうもしない」
こいしは、その言葉の意味を測るように、しばらく澄の顔を見ていた。
それから、少しだけ目を丸くする。
「……へえ」
驚いたような、それでいてどこか面白がっているような声だった。
さっきまでの曖昧さが、ほんの少しだけ澄に寄る。
「怖くないんだ」
「別に」
「澄を食べちゃうかもしれないのに?」
「…食べないでしょ」
「そうだね」
こいしは小さく息を吐くように笑った。
けれど、その視線はまだ澄から離れない。
今まで見てきた誰とも違う反応。
怖がらない。距離を取らない。意味を深く考えない。
ただ“そこにいるから、そう扱う”だけの少女。
こいしは、少しだけ興味を持ったように澄を見つめた。
「澄って、なんなの?」
その問いに、強い意味はない。
ただ、少し知りたくなっただけの声だった。
主人公は見えないものを見つける程度の能力なので、こいしが危険かどうかが何となく見えています。どう見えるかですが、嫌な感じがするとか本能的に危険だと感じる黒いモヤのようなものが見えたりしています。こいしにはそれが見えなかったから安全だと思ったのです。
駄文ですまねぇ…!!!