『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』 作:牛☆大権現
す
空が、埋まっていた。
巨大な影。
一つじゃない。
複数。
黒い機影が、夜空を覆っている。
エンジン音。
振動。
空気そのものが震える。
「……冗談だろ」
アレクセイの声が掠れた。
無理だ。
数が違う。
個人でどうにかできる領域じゃない。
ルーデルは、その中心に立っていた。
爆炎の中で。
戦場の王みたいに。
「良い顔だ」
笑う。
「ようやく理解したか」
空から声が降る。
「戦争は、“技”では止まらん」
その瞬間。
爆撃。
今までとは比べ物にならない。
空そのものが落ちてくる。
「――来るぞ!」
真澄が叫ぶ。
結界展開。
符が燃える。
園部が前へ。
植芝が構える。
アレクセイは、歯を食いしばった。
怖い。
本気で。
今までで一番。
それでも。
逃げない。
「キャスター!」
叫ぶ。
「どうする!?」
植芝は、空を見ていた。
静かに。
老人の目には、恐怖がない。
「流れが増えただけじゃ」
「簡単に言うな!」
次の瞬間。
空が落ちた。
轟音。
熱。
爆風。
死。
植芝が動く。
円。
半歩。
回転。
風が流れる。
だが。
今度は、抜けきらない。
圧が残る。
地面が割れる。
本堂の柱が吹き飛ぶ。
「っ!」
アレクセイは吹き飛ばされた。
肺から空気が抜ける。
痛み。
耳鳴り。
立て。
立たないと死ぬ。
「アレクセイ!」
真澄の声。
顔を上げる。
植芝が、押されていた。
初めて。
老人の足が、地面を削っている。
「……キャスター」
喉が鳴る。
ルーデルが笑った。
「そうだ」
歓喜。
戦場の熱狂。
「個では、戦争に勝てない!」
その言葉が、空から叩きつけられる。
アレクセイは歯を食いしばった。
悔しい。
でも。
(間違ってない)
分かってしまった。
戦場は、人一人の技術なんか踏み潰す。
どれだけ極めても。
砲弾一つで死ぬ。
爆撃一つで終わる。
「だから皆、壊れる」
ルーデルの声が低くなる。
今度は笑っていない。
「仲間が死ぬ」
「街が燃える」
「昨日まで生きていた奴が、肉になる」
爆音の中で。
その声だけが、妙にはっきり聞こえた。
「それでも、人は戦場へ行く」
アレクセイは息を止めた。
その声には。
狂気だけじゃないものが混ざっていた。
疲労。
諦め。
空洞。
「ライダー……」
真澄が呟く。
ルーデルは空を見上げる。
まるで、昔を見ているみたいに。
「戦争は、人を壊す」
一拍。
「だが」
笑った。
乾いた笑み。
「壊れた後でも、人は戦える」
その瞬間。
アレクセイは理解した。
この男は。
最初から壊れている。
英雄じゃない。
勝者でもない。
ただ。
“戦場から帰れなかった人間”だ。
『アレクセイ』
エルメロイの声。
低い。
『聞こえるか』
「……ああ」
『お前、今何を見た』
問われる。
アレクセイはルーデルを見る。
爆炎の中心。
笑っているのに。
どこか空っぽな男。
「……人間だ」
思わず出た。
「壊れた、人間だ」
静寂。
その後。
『そうだ』
エルメロイが静かに言った。
『英霊とは、“結果”だけではない』
一拍。
『そこへ至る過程も含めて、召喚される』
だから。
マンデンは“決闘”で。
黒田は“完成”で。
ヘイヘは“静寂”で。
ルーデルは――
(戦争そのもの)
『理解しろ』
エルメロイの声が落ちる。
『相手の強さではなく、“何に変えられたか”を』
その瞬間。
植芝が、一歩前へ出た。
押されながら。
それでも。
静かに。
「戦場は、人を壊す」
老人が言った。
ルーデルが目を細める。
「そうじゃ」
「だが、人は壊れるために生きておるのではない」
風が吹く。
爆炎が揺れる。
「帰るために、生きるのじゃ」
ルーデルの笑みが、初めて止まった。
沈黙。
空。
炎。
その中で。
アレクセイは、白い稽古帯を握った。
柔らかい。
何度も汗を吸って。
土に汚れて。
自分の手に馴染み始めている。
「……帰る」
呟く。
誰に言ったのか分からない。
「俺は、帰る」
その瞬間。
植芝が、少しだけ笑った。
「よろしい」
空が揺れる。
戦争は終わっていない。
まだ続く。
それでも。
アレクセイは初めて、“戦う理由”を見つけ始めていた。