『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』   作:牛☆大権現

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帰るための戦い

 

 

 炎が、山を舐めていた。

 

 赤い。

 

 熱い。

 

 木々が爆ぜる音が、絶え間なく響いている。

 

 それでも。

 

 アレクセイは、ルーデルから目を逸らさなかった。

 

 空の上。

 

 爆炎の中心。

 

 壊れた兵士。

 

 戦場に置き去りにされた男。

 

「帰る、か」

 

 ルーデルが呟く。

 

 笑っていない。

 

 風の中で、その声だけが妙に静かだった。

 

「そんな言葉を聞いたのは、いつ以来だろうな」

 

 アレクセイは息を呑んだ。

 

 初めてだった。

 

 この男が、“人間”に見えたのは。

 

「ライダー」

 

 真澄が低く呼ぶ。

 

 警戒は解いていない。

 

 園部も薙刀を下ろしてはいない。

 

 それでも。

 

 空気が少しだけ変わっていた。

 

「お前たちは」

 

 ルーデルがこちらを見る。

 

「何故、戦う」

 

 アレクセイは一瞬、言葉に詰まった。

 

 今までなら。

 

 勝つため。

 

 証明するため。

 

 認められるため。

 

 そう答えていた。

 

 でも。

 

 今は違う。

 

「……帰るためだ」

 

 口から自然に出た。

 

「生きて」

 

「壊れずに」

 

「帰るために戦う」

 

 静寂。

 

 その後。

 

 ルーデルが、小さく笑った。

 

 今度は、どこか疲れた笑みだった。

 

「甘いな」

 

「かもな」

 

 アレクセイは否定しない。

 

「でも、それでいい」

 

 白い稽古帯を握る。

 

 柔らかい。

 

 汗と土を吸った帯。

 

 最初の頃みたいに、“力の象徴”には見えない。

 

 もっと違う。

 

 積み重ねだ。

 

「……変わったな」

 

 真澄が小さく呟く。

 

「何が」

 

「顔」

 

 アレクセイは眉をしかめた。

 

「前はもっと、“勝ちたがってた”」

 

 図星だった。

 

 何よりも。

 

 誰よりも。

 

 勝ちたかった。

 

 天才たちを見返したかった。

 

 でも。

 

(違ったんだな)

 

 勝っても。

 

 壊れたら意味がない。

 

 その時。

 

『アレクセイ』

 

 通信。

 

 エルメロイⅡ世。

 

『時間がない』

 

「……分かってる」

 

『ライダー陣営の地脈固定が始まっている』

 

 真澄の顔色が変わる。

 

「まずい……!」

 

「何だ」

 

『戦場の固定化だ』

 

 エルメロイの声が低い。

 

『このままだと、この一帯が“常時戦場化”する』

 

 アレクセイは息を止めた。

 

 つまり。

 

 逃げても終わらない。

 

 戦場そのものが残る。

 

『ルーデルは“戦場環境”を霊基と結びつけている』

 

 フラットが珍しく真面目な声を出す。

 

『これ、放置するとヤバいよ』

 

「止める方法は!?」

 

 叫ぶ。

 

 沈黙。

 

 その後。

 

『……一つだけある』

 

 エルメロイが答えた。

 

『“戦争”を否定しろ』

 

「は?」

 

『ライダーの霊基は、“戦場であること”で強化されている』

 

 一拍。

 

『なら、戦場を成立させるな』

 

 意味が分からない。

 

 だが。

 

 植芝は、静かに頷いていた。

 

「なるほどのう」

 

「キャスター?」

 

「“流れ”を止める必要はない」

 

 老人は空を見る。

 

「終わらせればよい」

 

 その瞬間。

 

 アレクセイの中で、何かが繋がった。

 

 ルーデルは戦争そのもの。

 

 だから。

 

 戦うほど強くなる。

 

 なら――

 

「戦わなければいい」

 

 真澄が息を呑む。

 

 園部が静かに目を細めた。

 

『そうだ』

 

 エルメロイが即答する。

 

『徹底的に“戦場を拒否”しろ』

 

「……そんなこと」

 

 できるのか。

 

 相手は爆撃機だぞ。

 

 戦争そのものだ。

 

 だが。

 

 植芝は静かだった。

 

「戦場とは、人が作るものじゃ」

 

 一歩。

 

 老人が前へ出る。

 

「人が戦わねば、そこは戦場にならん」

 

 ルーデルの目が細くなる。

 

 初めて。

 

 わずかに揺れた。

 

「……それは」

 

 低い声。

 

「理想論だ」

 

「そうじゃな」

 

 植芝は否定しない。

 

「じゃが」

 

 風が吹く。

 

 炎が揺れる。

 

「理想を捨てた者から、壊れていく」

 

 沈黙。

 

 長い。

 

 空の上で。

 

 ルーデルが、じっとこちらを見ていた。

 

 その目は。

 

 怒りでも狂気でもなかった。

 

 何かを思い出そうとしている目だった。

 

『アレクセイ!』

 

 グレイの声。

 

『今です!』

 

 アレクセイは顔を上げる。

 

 分からない。

 

 でも。

 

 今しかない。

 

「ライダー!」

 

 叫ぶ。

 

「帰れ!」

 

 空気が止まった。

 

 真澄が目を見開く。

 

 フラットが「うわ」と呟く。

 

 エルメロイが頭を抱えた気配がした。

 

 でも。

 

 止まらない。

 

「お前、もう戦争の中にしかいないだろ!」

 

 爆炎の中へ叫ぶ。

 

「でも!」

 

 一拍。

 

「帰れないわけじゃないだろ!」

 

 沈黙。

 

 ルーデルは答えない。

 

 ただ。

 

 ほんのわずか。

 

 笑みが消えていた。

 

 空が唸る。

 

 炎が揺れる。

 

 そして。

 

 初めて。

 

 爆撃が止まった。

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