『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』 作:牛☆大権現
爆撃は、止まっていた。
夜空。
燃える山。
赤い炎だけが揺れている。
Ju87の機体内部は、静かだった。
エンジン音だけが響いている。
ルーデルは操縦席に座ったまま、黙っていた。
片脚。
義足。
血の匂い。
戦場の臭い。
「……ライダー」
後部座席。
ヴィクトール・シュタインベルクが低く呼ぶ。
「何故、止めた」
返事はない。
ただ。
ルーデルは夜を見ている。
炎の向こう。
さっきまでいた場所を。
「あと一押しで、地脈固定は完了した」
ヴィクトールの声は冷たい。
「何故、撤退した」
沈黙。
長い沈黙。
その後。
「……帰れ、と言ったな」
ルーデルが呟いた。
ヴィクトールが眉をひそめる。
「何だ?」
「帰れないわけじゃない」
低い声。
疲れた声。
「そう言った」
ヴィクトールは苛立ったように舌打ちする。
「戯言だ」
「戦争に帰還などない」
「壊れた人間は壊れたままだ」
「だから利用価値がある」
その瞬間。
空気が変わった。
ヴィクトールの喉に、
銃口が突きつけられていた。
いつ抜いたのか、見えなかった。
ルーデルは振り返っていない。
前を向いたまま。
それでも。
確実に急所へ向いている。
「……ライダー?」
ヴィクトールの額に汗が浮く。
「今の言葉」
ルーデルの声は静かだった。
「それは、“戦場を知らん者”の言葉だ」
ヴィクトールが息を呑む。
初めてだった。
ライダーが、自分へ明確な敵意を向けたのは。
「お前は戦争を“道具”だと思っている」
一拍。
「だが違う」
夜空。
遠くの炎。
ルーデルの目は、どこか遠くを見ていた。
「戦争は、人を喰う」
「敵も」
「味方も」
「誇りも」
「帰る場所も」
ヴィクトールは歯を食いしばる。
「だから何だ」
「勝者は存在する」
「兵器は進歩する」
「人類は争いで発展してきた!」
その瞬間。
ルーデルが笑った。
乾いた笑い。
どこか悲鳴みたいな。
「……そうだな」
銃口が下がる。
「だから、お前はまだ壊れていない」
ヴィクトールは眉をひそめた。
「何?」
「羨ましいと言ったんだ」
その言葉に。
ヴィクトールは初めて、
理解できないものを見る顔をした。
ルーデルは再び前を見る。
燃える山。
そこにいた少年。
白い帯。
“帰る”と言った目。
「……帰還、か」
ぽつりと呟く。
その時。
機体後部で、
魔術通信が開いた。
『ライダー陣営、応答せよ』
時計塔。
監督役側の通信。
『戦場固定化が中断された理由を説明してもらおう』
ヴィクトールが舌打ちする。
「面倒な」
だが。
ルーデルは笑った。
今度は、ほんの少しだけ。
人間らしく。
「……今日は終戦だ」
機体が旋回する。
炎から離れる。
山が遠ざかる。
そして。
その背中を見送りながら。
アレクセイは、まだ知らなかった。
今、自分が。
初めて“敵を退かせた”ことを。