『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』 作:牛☆大権現
空が、唸っていた。
低い。
腹の底を揺らす音。
エンジン音。
だが。
おかしい。
数が多すぎる。
「……幻影か」
真澄が空を睨む。
黒い影。
戦闘機。
爆撃機。
ドローン。
空全体が、
“戦争の記憶”で埋め尽くされていた。
『違う』
エルメロイⅡ世の声。
『半分は実体だ』
「は!?」
『ライダーの魔力が都市インフラへ干渉している』
『ドローン、通信衛星、民間電波』
『そこへ“戦争のイメージ”を上書きしている』
フラットが続ける。
『簡単に言うと』
『現代社会のシステム全部を、戦場へ誤認させ始めてる』
「簡単じゃねぇ!」
アレクセイが怒鳴る。
その瞬間。
街中から悲鳴が上がった。
誰かが走る。
誰かが叫ぶ。
「爆撃だ!」
「逃げろ!」
パニック。
連鎖。
恐怖が増幅していく。
「まずい……!」
真澄が符を展開する。
だが。
広すぎる。
街全体だ。
個人魔術では追いつかない。
その時。
植芝盛平が、静かに歩き出した。
「キャスター?」
老人は空を見ている。
ただ。
静かに。
「戦場とは、“心の流れ”でもある」
一歩。
雨の中を進む。
「恐れれば、人は自ら戦場を作る」
アレクセイは息を呑んだ。
それは。
ルーデルと同じことを言っているようで。
でも。
決定的に違った。
植芝は、
“壊し方”ではなく、
“止め方”を知っている。
「アレクセイ」
「……ああ」
「人を落ち着かせよ」
「は?」
「戦場を否定するのじゃ」
意味が分からない。
だが。
エルメロイが即座に言った。
『やれ』
「先生!?」
『今、都市全体が“空襲下”だと思い込んでいる』
『なら逆に、“違う”と認識させろ』
「そんな無茶苦茶な!」
『魔術とは認識の上書きだ!』
一喝。
『お前の専門だろうが!』
アレクセイは息を止めた。
認識。
儀礼。
象徴。
自分の魔術。
そこでようやく気づく。
(……逆に使うのか)
今までは。
強化。
拘束。
攻撃。
全部、“力を足す”魔術だった。
でも。
今必要なのは。
「……戦場じゃないって、思わせる」
白い稽古帯を握る。
柔らかい。
現実の感触。
その時。
グレイが静かに言った。
『日常を使ってください』
「何?」
『戦場じゃない景色を』
アレクセイは周囲を見る。
雨。
避難民。
泣いている子供。
震える老人。
戦場。
いや。
違う。
(街だ)
ここは。
人が生きてる場所だ。
「真澄!」
「分かってる!」
符が展開される。
東方木気。
北方水気。
結界が街路へ広がる。
だが。
その瞬間だった。
空。
黒い機影の一つが急降下する。
実体。
ドローンじゃない。
魔力で補強された爆撃端末。
「っ!」
避難民の真上。
間に合わない。
アレクセイが歯を食いしばる。
その時。
園部秀雄が、一歩前へ出た。
老いた身体。
だが。
姿勢だけは、
一本の槍みたいに真っ直ぐだった。
「ランサー!?」
真澄が叫ぶ。
園部は答えない。
静かに薙刀を構える。
雨。
呼吸。
間。
その全てが、
異様なほど整っていた。
そして。
老ランサーは、
静かに告げた。
「――武とは」
一歩。
「命を通す道です」
その瞬間。
空気が変わった。
園部を中心に。
世界が、
“道場”みたいな静けさへ変わる。
爆音が遠のく。
恐怖が鈍る。
避難民たちが、
思わず息を止める。
真澄が目を見開いた。
「まさか……!」
園部が、
薙刀を地へ打ち込む。
カン――――ッ!!
乾いた音。
だが。
その音は、
街全体へ広がった。
「修徳館――」
老人の声が響く。
静かに。
優しく。
厳しく。
「女武道の継承」
真名解放。
瞬間。
結界が展開された。
淡い光。
柔らかな白。
戦場の赤ではない。
稽古場の色。
朝の道場みたいな空気。
その瞬間。
避難民たちの顔から、
恐怖が少しだけ消えた。
「……え」
子供が呟く。
「こわく、ない」
爆撃端末が突っ込んでくる。
だが。
軌道が狂った。
まるで。
“ここへ落ちてはいけない”
とでも言うように。
真澄が息を呑む。
「非戦闘員への攻撃ペナルティ……!」
『結界そのものが、“弱者へ刃を向ける行為”を拒絶してる』
エルメロイが低く言う。
『これは……思想結界か』
フラットが興奮気味に叫ぶ。
『やばっ』
『薙刀教育そのものを概念化してる!』
園部は静かに立っていた。
雨の中で。
ただ。
人々を守るように。
「武は」
老ランサーが言う。
「人を怯えさせるためのものではありません」
その言葉に。
アレクセイは、
息を呑んだ。
ルーデルが、
空からそれを見ていた。
沈黙。
長い沈黙。
そして。
彼は初めて、
園部秀雄を“敵”として見た。
「……成程」
低い声。
「それが、お前たちの武か」
空襲幻想が、
また一つ消えた。