『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』   作:牛☆大権現

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白い死神は、まだ撃たない

 雨が止んでいた。

 

 代わりに。

 

 霧が出ていた。

 

 白い。

 

 街を覆うような霧。

 

「……嫌な感じだな」

 

 アレクセイが呟く。

 

 園部の結界は、

まだ街を守っている。

 

 避難民の混乱も、

少しずつ落ち着き始めていた。

 

 だが。

 

 空気が変わった。

 

 静かすぎる。

 

 さっきまでの空襲幻想が嘘みたいに。

 

「真澄」

 

「ああ」

 

 蘆屋真澄の目が細くなる。

 

「来てる」

 

 その瞬間。

 

 植芝盛平が止まった。

 

 老人の視線が、

霧の向こうを見ている。

 

「キャスター?」

 

「……殺気が薄い」

 

 低い声。

 

「じゃが、“死”がおる」

 

 アレクセイの背筋に寒気が走る。

 

 次の瞬間。

 

 パンッ――!

 

 乾いた音。

 

 遅れて。

 

 街灯が砕け散った。

 

「っ!?」

 

 真澄が即座に符を展開する。

 

 だが。

 

 遅い。

 

 どこから撃たれたのか分からない。

 

『狙撃!?』

 

 カウレスの声。

 

『熱源探知……駄目だ!』

 

『霧で散ってる!』

 

 フラットが舌打ちする。

 

『うわ、来た』

 

『アサシンだ』

 

 アレクセイは反射的に身を低くした。

 

 心臓がうるさい。

 

 見えない。

 

 敵が。

 

 その時。

 

 舩坂弘が、低く呟いた。

 

「伏せろ」

 

 全員が地面へ伏せる。

 

 直後。

 

 第二射。

 

 弾丸が、

アレクセイの髪を掠めた。

 

「っ……!」

 

 冷や汗が吹き出る。

 

 死ぬ。

 

 今の、

あと数センチで。

 

「なんだよこれ……!」

 

「狙撃だ」

 

 舩坂は静かだった。

 

「本職のな」

 

 その声に。

 

 妙な重みがある。

 

 この男、

経験している。

 

 戦場で。

 

 こういう“見えない死”を。

 

 真澄が歯を食いしばる。

 

「位置が取れない……!」

 

『当然だ』

 

 エルメロイⅡ世の声。

 

『相手はシモ・ヘイヘだぞ』

 

 一拍。

 

『近代狙撃兵の到達点だ』

 

 第三射。

 

 今度は避難誘導灯が吹き飛ぶ。

 

 悲鳴。

 

 避難民がまた混乱する。

 

「クソッ!」

 

 アレクセイが叫ぶ。

 

 だが。

 

 撃ち返せない。

 

 位置が分からない。

 

『落ち着け』

 

 エルメロイが低く言う。

 

『ヘイヘは“殺していない”』

 

「は?」

 

『見ろ』

 

 アレクセイは周囲を見る。

 

 街灯。

 

 標識。

 

 誘導灯。

 

 全部、

“人の近く”を撃っている。

 

「……警告射撃?」

 

『そうだ』

 

 グレイが静かに言う。

 

『アサシンは、“止まれ”と言ってます』

 

 霧。

 

 静寂。

 

 白。

 

 その空気の中。

 

 低い声が響いた。

 

「これ以上進むな」

 

 男の声。

 

 感情が薄い。

 

 でも。

 

 敵意とも違う。

 

「この先は戦場になる」

 

 アレクセイは目を細める。

 

「アサシン……!」

 

「避難民を連れて下がれ」

 

 一拍。

 

「死ぬぞ」

 

 その言葉に。

 

 真澄が眉をひそめた。

 

「警告してる……?」

 

『そういう男だ』

 

 エルメロイが答える。

 

『シモ・ヘイヘは、“守るために殺す”側の人間だ』

 

 その瞬間。

 

 霧の奥で、

気配が動いた。

 

 だが。

 

 殺気がない。

 

 本当に。

 

 ただ、

“そこにいる”。

 

 植芝が静かに前へ出た。

 

「キャスター!?」

 

 老人は霧を見る。

 

 静かに。

 

「お主」

 

 植芝が言う。

 

「帰りたい者を守っておるのか」

 

 沈黙。

 

 長い沈黙。

 

 その後。

 

「……そうだ」

 

 アサシンの声。

 

「戦場へ入るな」

 

「入れば、人は壊れる」

 

 アレクセイは息を止めた。

 

 まただ。

 

 また、

“同じこと”を言っている。

 

 ルーデル。

 

 舩坂。

 

 そしてヘイヘ。

 

 みんな、

戦場を知っている。

 

 だから。

 

 誰より、

壊れ方を知っている。

 

 その時。

 

 通信が割り込んだ。

 

『アレクセイ!』

 

 フラットの声。

 

『マズい!』

 

「今度は何だ!?」

 

『ライダー陣営動いてる!』

 

『しかも――』

 

 一拍。

 

『アサシン陣営の防衛ラインへ向かってる』

 

 空気が凍る。

 

 真澄が息を呑む。

 

「ルーデルが……?」

 

『ヘイヘと衝突する』

 

 エルメロイが低く言う。

 

『戦争の化身と、“祖国防衛”の英雄が』

 

 霧の向こう。

 

 アサシンの気配が、

ほんのわずかに変わった。

 

 初めて。

 

 殺気が混じる。

 

「……来るか」

 

 低い声。

 

 静かな狩人の声。

 

 その瞬間。

 

 遠くで。

 

 爆撃機のエンジン音が響いた。

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