『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』 作:牛☆大権現
雨が、霧へ溶けていた。
白い街。
焦げた匂い。
崩れた道路。
避難民の泣き声。
その上を。
ルーデルの爆撃機が旋回している。
低く。
静かに。
まるで獲物を探す鷹みたいに。
その一方で。
ボブ・マンデンは、
街灯の上に立っていた。
帽子を指で押し上げながら。
「さて」
軽い声。
「続きをやるか?」
空気が張る。
決闘。
たった今、
ルーデルの“戦争”は、
ボブによって“一対一”へ引きずり込まれた。
その時だった。
ブゥゥゥン――――……
低い振動。
アレクセイが眉をひそめる。
「……何だ?」
次の瞬間。
街灯が点滅した。
信号機が高速で明滅する。
監視カメラが一斉にこちらを向く。
『っ!?』
カウレスの声。
『都市ネットワーク異常接続!』
『今度は直接侵食だ!』
エルメロイⅡ世の声が、
即座に低くなる。
『来たか……』
その声音に、
アレクセイの背筋が冷えた。
「先生?」
『ライダーのマスターだ』
瞬間。
遠方の高層ビル群が、
赤黒く光った。
通信塔。
送電設備。
アンテナ群。
そこを走る、
魔術回路めいた光。
「……なんだ、あれ」
真澄が呟く。
植芝盛平が静かに目を細めた。
「機械へ、霊を憑かせておる」
次の瞬間。
街全体のスピーカーから、
男の声が響いた。
『戦術式、第二段階へ移行』
冷たい声。
感情が薄い。
『都市戦闘領域を固定する』
「ヴィクトール……!」
クララが眉をひそめる。
その瞬間。
街が変わった。
ガコン――!!
自販機が開く。
中から小型機銃。
配送ドローン群が、
赤い光を灯す。
道路標識が回転し、
魔術文字が浮かぶ。
「なっ……!?」
『都市礼装化!』
フラットが叫ぶ。
『インフラ全部に術式通してる!!』
ガガガガガガッ!!
掃射。
コンクリートが砕ける。
真澄が即座に符を展開。
「下がって!」
避難民を庇う。
その時。
エルメロイⅡ世が、
珍しく舌打ちした。
『最悪だな』
『現代魔術科の悪癖を、
ここまで拡大したか』
「どういうことだ!?」
アレクセイが叫ぶ。
Ⅱ世は即答した。
『《機械降霊》だ』
『近代オカルティズムと戦場迷信を、
現代インフラへ接続している』
一拍。
『本来なら、時計塔で止められる類の研究だ』
アレクセイは息を呑む。
Ⅱ世の声が、
さらに鋭くなる。
『兵器というのはな』
『ただの機械ではない』
『戦場では、“願い”と“恐怖”が宿る』
街の監視カメラが、
ギギギ、とこちらを向いた。
『帰りたい』
『死にたくない』
『撃ち殺したい』
『守りたい』
『そういう感情が、
長い戦争の中で兵器へ染み付く』
フラットが珍しく真面目に呟く。
『……呪いみたいなもんだね』
『そうだ』
Ⅱ世が続ける。
『ヴィクトールはそれを、
“用途の霊”として定義している』
一拍。
『戦車には突破の霊』
『爆撃機には殲滅の霊』
『ドローンには監視と殺傷の霊』
『都市インフラそのものへ、
戦争概念を感染させている』
アレクセイの背筋が寒くなる。
「そんなこと……」
『本来なら神秘秘匿に抵触する』
Ⅱ世の声が低い。
『現代社会へ接続しすぎている』
『魔術ではなく、“軍事テロ”として成立しかけているんだ』
その時。
ライネスが静かに割り込んだ。
『つまり最悪ね』
『神秘が薄れる代わりに、
“システム”として定着する』
『時計塔が一番嫌う形よ』
アレクセイは理解した。
ヴィクトールは。
“隠す気がない”。
その時。
高層ビルの頂上。
黒いコートの男が姿を現した。
ヴィクトール・シュタインベルク。
眼鏡。
軍用礼装。
背後には、
都市インフラと接続された魔術ケーブル。
まるで。
街そのものと融合しているみたいだった。
「初めましてだ」
冷たい声。
ヴィクトールは、
アレクセイ達を見下ろしている。
「エルメロイ教室の劣等生諸君」
アレクセイの眉が跳ねる。
「……言ってくれるじゃねぇか」
「事実だろう」
ヴィクトールは淡々としている。
「君達は、人間を見すぎる」
一拍。
「だから非効率だ」
その瞬間。
ルーデルの爆撃機が、
空中で静止した。
低い声。
「ヴィクトール」
「何だ」
「子供がいる」
沈黙。
ヴィクトールは即答した。
「だから?」
空気が凍った。
その瞬間。
ルーデルの目から、
感情が消えた。
「……お前」
低い声。
「戦争を知らんな」
ヴィクトールは鼻で笑う。
「知る必要があるか?」
「戦争とは効率だ」
「人命は資源だ」
「恐怖は制御装置だ」
「兵器は進化だ」
一拍。
「そして都市は、
最も優れた戦場になる」
その言葉に。
植芝盛平が、
静かに前へ出た。
「ほう」
老人の声。
「では、お主は何を見ておる」
ヴィクトールは即答した。
「システムだ」
その瞬間。
アレクセイは理解した。
こいつ。
本当に。
人間を見ていない。