『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』   作:牛☆大権現

27 / 27
武は、人を残すために

 白い結界が、

街へ薄く広がっていた。

 

 道場の空気。

 

 静かな朝稽古みたいな空気。

 

 だが。

 

 園部秀雄の呼吸が、

明らかに乱れている。

 

「ランサー!」

 

 真澄が支える。

 

 園部は薙刀を杖代わりにしながら、

小さく息を吐いた。

 

「……少々、欲張りました」

 

 口調は穏やか。

 

 でも。

 

 顔色が悪い。

 

 霊基が軋んでいる。

 

『当然だ』

 

 エルメロイⅡ世が即座に言う。

 

『本来のレンジを超えている』

 

『都市全域へ概念圧を拡張など、

無茶にも程がある』

 

 フラットが珍しく真面目だった。

 

『しかもランサーの宝具って、

“教育”とか“武道倫理”系だよね』

 

『だから広げられてるだけで、

普通の対都市結界じゃない』

 

『むしろこれ、

“みんなに道場の空気を思い出させてる”感じだ』

 

 園部が静かに頷いた。

 

「武とは、本来」

 

 一拍。

 

「人を帰すためのものですから」

 

 その瞬間。

 

 ガギギギギ――……

 

 都市術式が再び脈動する。

 

 赤い光。

 

 ドローン群が、

無理やり起動を再開する。

 

 ヴィクトールの声が響いた。

 

『精神論でシステムは止まらない』

 

『理解しろ』

 

『都市は既に戦場へ移行した』

 

 アレクセイが歯を食いしばる。

 

「クソ……!」

 

 確かに。

 

 園部の結界は効いている。

 

 でも。

 

 押し返し切れてない。

 

 ヴィクトールの術式は、

都市インフラそのものへ接続されている。

 

 規模が違う。

 

 その時。

 

 植芝盛平が、

静かにアレクセイを見た。

 

「アレクセイ」

 

「……何だよ、キャスター」

 

「お主、まだ“力比べ”をしようとしておる」

 

 アレクセイが言葉に詰まる。

 

 植芝は続けた。

 

「相手の土俵で勝とうとするな」

 

 一拍。

 

「流れを変えよ」

 

 その瞬間。

 

 アレクセイの脳裏に、

エルメロイⅡ世の声が重なる。

 

『都市全体が術式核だ』

 

『つまり逆に言えば、

接続点を断てば崩れる』

 

 アレクセイが顔を上げる。

 

「……通信塔」

 

『そうだ』

 

 Ⅱ世が即答する。

 

『ヴィクトールは都市インフラへ、

“戦争の用途霊”を流し込んでいる』

 

『だが、全域同時制御には核が必要だ』

 

 ライネスが補足する。

 

『あの男、

現代魔術科にしては古典寄りね』

 

『術式構造が“儀式魔術型”よ』

 

『つまり中枢を壊せば全体が崩れる』

 

 カウレスが即座に解析画面を展開。

 

『都市魔力流動を確認!』

 

『アンテナ塔から、

地下送電網へ流してる!』

 

 フラットが笑った。

 

『なるほど』

 

『都市を礼装にしてるんじゃなく、

都市へ“戦争の霊”を感染させてるんだ』

 

 アレクセイは息を吸った。

 

 見えてきた。

 

 これは。

 

 単なる火力勝負じゃない。

 

「……キャスター」

 

「うむ」

 

「俺達、

あの塔を落とせばいいんだな?」

 

 植芝盛平は小さく笑った。

 

「壊すだけでは足りん」

 

「え?」

 

「流れを戻すのじゃ」

 

 一拍。

 

「戦場を、人の住む場所へな」

 

 その言葉に。

 

 アレクセイの中で、

何かが繋がった。

 

 ヴィクトールは、

都市を戦場へ変えた。

 

 なら。

 

 逆をやる。

 

 人の場所へ戻す。

 

「真澄!」

 

「分かってる!」

 

 蘆屋真澄が即座に札を展開。

 

「中央土気――固定!」

 

 地面へ符が突き刺さる。

 

 都市霊脈へ干渉。

 

 園部の結界を、

一点集中で補強する。

 

『おお』

 

 フラットが感心した声を出す。

 

『ランサーの概念結界を、

陰陽道で“土地”へ固定してる』

 

『めちゃくちゃ日本術式連携だこれ』

 

 その瞬間。

 

 ヘイヘの声。

 

「三秒作る」

 

 霧の奥。

 

 パンッ――!!

 

 狙撃。

 

 通信塔周囲の監視ドローンが墜ちる。

 

 同時。

 

 ボブ・マンデンが笑った。

 

「なら、道作るのは俺だな」

 

 パンパンパンパンッ!!

 

 超高速射撃。

 

 道路上の機銃群が次々沈黙する。

 

 そして。

 

 空。

 

 ルーデルが静かに言った。

 

「……行け」

 

 次の瞬間。

 

 爆撃機が急降下。

 

 だが。

 

 狙うのは人じゃない。

 

 通信塔周囲の対空網。

 

 轟音。

 

 爆発。

 

 防衛ラインが吹き飛ぶ。

 

『ライダー!?』

 

 ヴィクトールが怒鳴る。

 

「何をしている!」

 

 ルーデルの声は静かだった。

 

「兵士にも」

 

 一拍。

 

「守りたい場所くらいある」

 

 その瞬間。

 

 アレクセイは走り出した。

 

 白い稽古帯を握り締めながら。

 

 初めてだった。

 

 “勝つため”じゃなく。

 

 “帰る場所を残すため”に走ったのは。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。