『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』 作:牛☆大権現
バキィィィィッ――――!!
赤黒い演算核へ、
巨大な亀裂が走った。
都市全域が震える。
監視カメラ。
信号機。
ドローン。
全ての赤い光が、
一斉に明滅した。
『馬鹿な……!!』
ヴィクトールの声が揺れる。
『都市術式が……!』
アレクセイは歯を食いしばったまま、
拳を押し込む。
熱い。
いや。
違う。
これは。
“人間の感情”だ。
怒り。
恐怖。
殺意。
帰りたかった想い。
全部。
全部ここへ流れ込んでいた。
「っ……!!」
頭痛。
吐き気。
膨大すぎる。
その瞬間。
植芝盛平の手が、
静かに肩へ触れた。
「流されるな」
老人の声。
「受け止めるな」
一拍。
「通せ」
その瞬間。
アレクセイの呼吸が変わった。
押さない。
耐えない。
流す。
合気。
都市核を通る、
膨大な“戦争”の感情。
それを。
ぶつからず、
逸らし続ける。
『……ッ!?』
ヴィクトールの顔が歪む。
「何故だ!」
「何故耐えられる!!」
アレクセイが叫び返す。
「耐えてねぇ!!」
一拍。
「一人で抱えてねぇんだよ!!」
その瞬間。
通信が開く。
『当然だ』
エルメロイⅡ世。
『お前一人なら、
とっくに潰れている』
フラットが笑う。
『でもさ』
『今回はみんないるじゃん』
カウレスが術式補助を流す。
『送電網逆流開始!』
『都市魔力循環、
こっちで分散処理する!』
ライネスが静かに続ける。
『まったく』
『面倒な弟子を持ったものね』
真澄が地面へ符を叩きつける。
「中央土気――固定!」
園部秀雄が、
静かに薙刀を支える。
「まだ、立てます」
ヘイヘの狙撃。
パンッ――!!
都市術式中継機破壊。
ボブ・マンデンの早撃ち。
パンパンパンパンッ!!
残存ドローン沈黙。
舩坂弘が、
血まみれのまま笑った。
「若いのが帰るまで」
一拍。
「死ねん」
ヘレナが怒鳴る。
「だから死にかけてるでしょうが!」
空。
ルーデルの爆撃機が、
静かに旋回していた。
「……そうだな」
低い声。
「帰らねばな」
その瞬間。
ルーデルが急降下する。
通信塔最上部。
ヴィクトールの魔術中枢へ。
『ライダー!?』
ヴィクトールが叫ぶ。
「やめろ!」
「お前は兵器だ!」
「俺の兵器だ!!」
沈黙。
その後。
ルーデルが静かに答えた。
「違う」
一拍。
「俺は、人間だった」
37mm砲展開。
轟音。
ヴィクトール背後の制御中枢が吹き飛ぶ。
『ぁ――――!?』
都市術式が崩壊を始める。
赤黒い光が消えていく。
街灯が戻る。
信号機が正常化する。
ドローンが墜ちる。
都市から。
“戦争”が剥がれていく。
ヴィクトールが膝をついた。
「何故だ……」
呆然と呟く。
「何故分からない」
「戦争は進化だ」
「効率だ」
「統合だ」
「人類は争いで発展した!」
植芝盛平が、
静かに答えた。
「そうじゃな」
一拍。
「じゃが」
老人は、
ゆっくり街を見渡す。
泣いている子供。
崩れた建物。
疲れ果てた避難民。
血まみれの兵士達。
「人は」
一拍。
「帰る場所があるから、生きられる」
沈黙。
長い沈黙。
ヴィクトールは、
何も言えなかった。
その瞬間。
都市核が崩壊する。
赤黒い演算炉が、
音を立てて砕け散った。
眩しい光。
爆風。
そして。
静寂。
雨だけが降っていた。
アレクセイは、
その場へ座り込む。
全身が痛い。
でも。
空を見上げた。
赤い光は消えている。
ただの雨空だった。
『……終わったか』
エルメロイⅡ世の声。
珍しく、
疲れていた。
アレクセイは、
小さく笑った。
「先生」
『何だ』
「……帰れそうだ」
通信の向こうで。
Ⅱ世が、
ほんの少しだけ笑った気がした。