『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』   作:牛☆大権現

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武は誰のものか

 京都の霊脈が震える。

 

 地面が唸る。

 

 寺社を結ぶ見えない流れが、

まるで巨大な血管のように脈打っていた。

 

 アレクセイは息を呑む。

 

 目の前の男。

 

 実験体。

 

 英雄の模倣体。

 

 だが。

 

 それだけではない。

 

 あまりにも自然だった。

 

 黒田鉄山の立ち方。

 

 植芝盛平の呼吸。

 

 園部秀雄の間合い。

 

 舩坂弘の重心。

 

 シモ・ヘイヘの視線。

 

 ボブ・マンデンの脱力。

 

 ルーデルの圧力。

 

 全部ある。

 

 全部あるのに。

 

 何かが決定的に違う。

 

 その時。

 

 黒田鉄山が前へ出た。

 

「セイバー!」

 

 静馬が叫ぶ。

 

 だが。

 

 黒田は止まらない。

 

 ただ静かに歩く。

 

 実験体も歩く。

 

 互いに。

 

 同じ速度。

 

 同じ歩幅。

 

 同じ姿勢。

 

 そして。

 

 五歩。

 

 四歩。

 

 三歩。

 

 二歩。

 

 一歩。

 

 カン――――!!

 

 金属音。

 

 アレクセイは目を見開く。

 

 抜刀が見えない。

 

 だが。

 

 二人は既に斬り結んでいた。

 

 黒田鉄山。

 

 そして。

 

 黒田鉄山を模倣した何か。

 

 再び。

 

 カン!!

 

 カン!!

 

 カン!!

 

 火花。

 

 高速。

 

 常人には何も見えない。

 

『嘘だろ……』

 

 カウレスが絶句する。

 

『完全に再現してる』

 

『いや』

 

 Ⅱ世が即座に否定した。

 

『違う』

 

 その時。

 

 黒田鉄山が一歩踏み込む。

 

 実験体も同じ動きをする。

 

 だが。

 

 次の瞬間。

 

 黒田の木刀が。

 

 実験体の額を軽く叩いた。

 

 コツン。

 

 本当に。

 

 子供へ教えるみたいに。

 

 軽く。

 

 実験体が止まる。

 

 初めて。

 

 困惑した顔になる。

 

「何故だ」

 

 静かな声。

 

「同じだったはずだ」

 

 黒田鉄山は答える。

 

「違う」

 

 一拍。

 

「お前は結果を真似ている」

 

「?」

 

「私は理由で動いている」

 

 沈黙。

 

 実験体は理解できない。

 

 だから。

 

 黒田は続けた。

 

「何故この歩幅か」

 

「何故この間合いか」

 

「何故この速度か」

 

「何故今斬るのか」

 

 一拍。

 

「それが無い」

 

 実験体が初めて後退する。

 

 ほんの半歩。

 

 その様子を見ながら。

 

 植芝盛平が小さく笑った。

 

「ようやく気付いたかの」

 

「キャスター?」

 

 アレクセイが振り向く。

 

 老人は前を見る。

 

「武とは技ではない」

 

 一拍。

 

「人じゃ」

 

 実験体の顔が歪む。

 

「人?」

 

「そうじゃ」

 

「理解できない」

 

「当然じゃな」

 

 植芝は頷く。

 

「お主は武だけを集めた」

 

「だから空っぽじゃ」

 

 その瞬間。

 

 実験体の周囲の魔力が爆発した。

 

 怒り。

 

 いや。

 

 焦り。

 

 初めて感情が生まれた。

 

「違う!!」

 

 京都全域へ声が響く。

 

「私は完成している!!」

 

 地脈が揺れる。

 

 結界が軋む。

 

 その時。

 

 アレクセイの令呪が熱を帯びた。

 

 植芝盛平が静かに言う。

 

「アレクセイ」

 

「はい」

 

「お主は何を学んだ」

 

 突然だった。

 

 だが。

 

 答えは出ていた。

 

「……帰ること」

 

「うむ」

 

「壊れないこと」

 

「うむ」

 

「生きて帰ること」

 

 植芝が笑う。

 

 優しく。

 

 嬉しそうに。

 

「なら」

 

 一拍。

 

「それを教えてやれ」

 

 アレクセイは目を見開く。

 

「俺が?」

 

「お主しかおらん」

 

 その瞬間。

 

 実験体が突撃した。

 

 京都の霊脈を背負い。

 

 全英雄の模倣を重ね。

 

 完成した兵器として。

 

 だが。

 

 アレクセイは逃げなかった。

 

 初めてだった。

 

 勝つためではない。

 

 認められるためでもない。

 

 誰かを見返すためでもない。

 

 ただ。

 

 帰るために。

 

 そして。

 

 皆を帰すために。

 

 アレクセイは一歩前へ出た。

 

 植芝盛平が隣へ並ぶ。

 

 黒田鉄山が刀を構える。

 

 園部秀雄が薙刀を立てる。

 

 神代静馬が拳を握る。

 

 通信の向こうでは。

 

 エルメロイ教室全員が見守っている。

 

『行け』

 

 Ⅱ世が言った。

 

『ここから先は』

 

 一拍。

 

『君達の戦いだ』

 

 京都の夜空に。

 

 巨大な魔術陣が広がる。

 

 そして。

 

 英雄の模倣体と。

 

 人間達の反撃が。

 

 ついに始まった。

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