『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』 作:牛☆大権現
エルメロイ教室・非常対策会議
ロンドン。
時計塔。
現代魔術科。
その一室は、
完全に修羅場だった。
「いやいやいやいや無理でしょこれ!!」
フラットが叫ぶ。
机の上。
モニター。
SNS。
動画。
ニュース速報。
全部同時に流れている。
しかも。
そのどれもが、
“半分だけ真実”だった。
「ドローン暴走説、AIテロ説、都市ガス爆発説、軍事演習誤認説……」
カウレスが頭を抱える。
「情報汚染が追いつかない!」
「追いついてるだけマシよ」
ライネスが紅茶を飲みながら言う。
優雅。
なのに目だけが怖い。
「本来なら、もう聖堂教会が来てる」
「来てるよぉ……」
イヴェットが青い顔で呟く。
「第八秘跡会、動いてる」
室内の空気が重くなる。
その瞬間。
ロード・エルメロイⅡ世が、
深くため息を吐いた。
「……最悪だ」
本日二十回目くらいの声だった。
「先生」
グレイが静かに声を掛ける。
「日本へ向かわないのですか」
Ⅱ世は即答しなかった。
机へ散らばる資料を見る。
日本地図。
霊脈図。
都市インフラ構造。
SNS解析ログ。
その中央。
赤い丸。
今回の戦場。
「行きたいさ」
低い声。
「だが、行けん」
フラットが振り返る。
「え、でも先生なら何とかなるんじゃ」
「ならん」
即答。
「私が直接日本入りした瞬間」
一拍。
「“ロード・エルメロイ派による聖杯戦争介入”になる」
沈黙。
カウレスが顔をしかめた。
「……政治案件か」
「そうだ」
Ⅱ世が額を押さえる。
「しかも今回は、
規模が悪すぎる」
モニターへ映る映像。
炎上都市。
飛行体。
爆発。
「神秘秘匿の限界線を踏み抜いている」
その時。
ライネスが静かに補足した。
「正確には、“まだ踏み抜いてない”わね」
「ギリギリ、
現代テロの範囲へ押し込めてる」
「誰のおかげだと思ってる」
「わたくし達のおかげでしょう?」
悪びれない。
だが。
実際そうだった。
フラットが高速でキーボードを叩く。
「はいはいSNS汚染追加ー」
「“最新AIドローン暴走事件”タグ流しまーす」
「うわぁ地獄」
カウレスが呟く。
「いやでも実際これ、
“魔術”より“軍事事故”っぽいのが最悪なんだよな……」
Ⅱ世が頷く。
「ヴィクトールはそこを理解している」
一拍。
「奴は神秘を隠す気がない」
グレイが目を伏せた。
「……魔術師なのに」
「だから危険なんだ」
Ⅱ世の声が低くなる。
「本来、魔術とは秘匿されることで成立する」
「だがヴィクトールは違う」
「現代社会へ接続し、
“システム”へ変換しようとしている」
ライネスが小さく笑った。
「現代魔術科の悪いところを、
煮詰めたみたいな男ね」
「笑い事じゃない」
「でも面白いでしょう?」
「最悪だ」
本日二十一回目だった。
その時。
通信術式が光る。
別回線。
ライネスが目を細めた。
「……来たわ」
「誰だ」
「遠坂凛」
室内の空気が少し変わる。
Ⅱ世が顔をしかめた。
「繋げ」
通信起動。
空間モニターへ、
遠坂凛の姿が映る。
『ちょっとアンタ達』
開口一番。
『何やってんのよ日本で』
「私に言うな」
Ⅱ世が即答する。
「弟子がやらかしている」
『アンタの胃痛ポイントそこなの!?』
「他に何がある」
『いっぱいあるでしょうが!!』
凛が頭を抱える。
『冬木の霊脈まで揺れてるのよ!?』
カウレスが青ざめた。
「マジで?」
『マジよ』
『しかも都市霊脈への人工接続とか正気じゃない』
一拍。
『ヴィクトール・シュタインベルクね?』
Ⅱ世が頷く。
「知っているか」
『名前だけ』
『現代魔術科の危険人物リストにいた』
フラットが「うわ」と呟く。
『“都市文明そのものを魔術回路化する”とか論文出して、
半分発禁食らってたわよ』
「やはりか……」
Ⅱ世が目を閉じる。
凛が真面目な顔になる。
『で』
『アンタ、どうするの』
沈黙。
長い沈黙。
その後。
Ⅱ世が静かに答えた。
「弟子を帰す」
一拍。
「それだけだ」
凛が少しだけ目を細めた。
『……アンタらしいわね』
その時。
別回線が割り込む。
『ちょっと待ちなさい!!』
金髪縦ロール。
ルヴィアだった。
『日本であれだけ派手に暴れておいて、
帰すだけで済むと思っているんですの!?』
「増えた……」
フラットが小声で呟く。
ルヴィアは怒っていた。
本気で。
『都市規模戦闘など下品にも程がありますわ!!』
『エーデルフェルトとして、
聖堂教会側へ根回ししていなければ、
今頃代行者が現地入りしていますのよ!?』
「抑えてくれてるのか……」
カウレスが引きつる。
『当然ですわ!!』
一拍。
『借り一つですわよ、エルメロイⅡ世』
Ⅱ世は深くため息を吐いた。
「……覚えておく」
その時。
グレイが小さく呟く。
「先生」
「何だ」
「アレクセイさん達、
帰れますか」
沈黙。
室内が静まる。
Ⅱ世は窓の外を見た。
ロンドンの夜。
遠い日本。
そこにいる、
不出来な弟子。
「帰してみせる」
低い声。
でも。
確かだった。
「私は、そのために教師をやっている」