『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』 作:牛☆大権現
雨は止んでいた。
都市から、
赤い光も消えている。
崩れた通信塔。
沈黙したドローン群。
焦げた道路。
そして。
避難民達の小さな声。
泣き声。
安堵。
疲労。
ようやく。
“戦場じゃない音”が戻ってきていた。
アレクセイは、
瓦礫へ腰を下ろしたまま空を見上げる。
「……終わったんだよな」
「一応はの」
植芝盛平が隣へ座る。
老人の姿。
小さい。
だが。
今この場で、
一番大きく見えた。
「一応?」
「戦とは、終わった後が長い」
アレクセイは苦笑した。
「先生みたいなこと言うなよ」
「先生じゃからな」
即答だった。
その時。
通信術式が開く。
『アレクセイ』
エルメロイⅡ世。
だが。
声がいつも以上に疲れている。
「先生」
『生きているな』
「なんとか」
『そうか』
一拍。
『今から話すことを、
よく聞け』
空気が変わる。
アレクセイは姿勢を正した。
『まず結論から言う』
『今回の件は、
時計塔上層部まで到達した』
「……だろうな」
『聖堂教会も動いている』
「うわぁ……」
フラットの声が混ざる。
『ちなみに埋葬機関までは来てない!』
『まだセーフ!』
「基準が怖いんだよ!!」
『でもマジでギリギリだからね!?』
Ⅱ世が咳払いする。
『現在、
事件は“都市型軍事テロ”として処理されている』
『SNS・監視記録・現場映像の大半は汚染済みだ』
カウレスが割り込む。
『いやほんと死ぬかと思った』
『監視カメラ八千台処理したんだぞ俺!?』
『途中から半泣きだったわ!!』
「ありがとうな……」
『感謝は金でくれ』
その時。
ライネスの声。
『問題はここからよ』
一拍。
『ヴィクトール・シュタインベルクが生きてる』
沈黙。
アレクセイの顔が引き締まる。
「……逃げたのか」
『ええ』
『肉体は半壊』
『魔術回路もかなり焼けた』
『でも逃走には成功した』
植芝盛平が静かに目を閉じた。
「そうか」
怒ってはいない。
むしろ。
少し悲しそうだった。
『ただし』
Ⅱ世が続ける。
『奴はもう時計塔へ戻れん』
『完全に危険人物認定だ』
アレクセイは息を吐いた。
「なら、終わりか?」
『いや』
即答。
『むしろここから始まる』
その瞬間。
アレクセイの背筋が冷える。
『ヴィクトール単独で、
あれほどの都市術式は組めない』
一拍。
『資金』
『霊脈』
『インフラ接続』
『政治工作』
『全部、規模が大きすぎる』
フラットが珍しく真面目だった。
『つまりスポンサーいる』
『しかも超デカいの』
ライネスが静かに補足する。
『時計塔内部か』
『あるいは外部』
『どちらにせよ、
“武のデータ”を欲しがってる勢力がいる』
アレクセイが眉をひそめる。
「武のデータ?」
その時。
Ⅱ世が少し黙った。
そして。
低く言った。
『アレクセイ』
『お前達、
気づいているか』
「何を」
『今回のサーヴァント』
一拍。
『全員、“武”の到達者だ』
沈黙。
アレクセイの脳裏を、
英霊達の姿が過る。
植芝盛平。
園部秀雄。
黒田鉄山。
ボブ・マンデン。
シモ・ヘイヘ。
舩坂弘。
ルーデル。
『しかも方向性が全部違う』
『対人』
『教育』
『戦争』
『暗殺』
『決闘』
『生還』
『防衛』
『それぞれが、
人類の“戦い方”の極致だ』
植芝盛平が、
静かに呟いた。
「……なるほどの」
Ⅱ世が続ける。
『つまりこの聖杯戦争』
一拍。
『“武の観測実験”だ』
空気が止まった。
「は……?」
『聖杯が集めているのは、
単なる魔力量ではない』
『武の思想』
『技術』
『戦闘理論』
『人の闘争本能』
『その到達点だ』
アレクセイは言葉を失う。
その時。
真澄が静かに呟いた。
「だから……」
「ライダーは、
都市を戦場へ変えた」
『そうだ』
Ⅱ世が答える。
『極限状況で、
英霊達がどう戦うか』
『どう思想をぶつけるか』
『それを観測している』
一拍。
『おそらく黒幕は、
“武”を管理しようとしている』
その瞬間。
植芝盛平が、
静かに目を開いた。
空気が変わる。
老人の目が、
初めて明確な怒りを宿していた。
「……武とは」
一拍。
「人を縛るためのものではない」
その時。
遠く。
瓦礫の向こう。
足音が響いた。
静かに。
ゆっくり。
現れたのは。
黒衣の男。
そして。
その隣を歩く、
刀を差した老人。
黒田鉄山。
セイバー陣営だった。