『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』 作:牛☆大権現
沈黙。
雨音だけが響く。
アレクセイは、
無意識に唾を飲み込んでいた。
“人間側”。
その言葉が、
妙に重い。
代行者は続ける。
「聖堂教会は、
魔術師が嫌いだ」
即答だった。
フラットが小声で、
『知ってた』
と呟く。
Ⅱ世が深くため息を吐いた。
『否定できん』
代行者は、
崩れた通信塔を見る。
「だが」
「それ以上に嫌うものがある」
一拍。
「“人間を捨てた魔術”だ」
空気が冷えた。
その瞬間。
植芝盛平が、
静かに目を細める。
代行者の視線が、
アレクセイへ向いた。
「お前」
「はい」
「何故戦っている」
アレクセイは一瞬黙った。
以前なら。
すぐ答えていた。
勝つため。
認められるため。
名門として証明するため。
でも。
今は違う。
「……帰るためだ」
静かな声だった。
「生きて」
「壊れずに」
「帰るために戦ってる」
雨が降る。
代行者は黙っていた。
長い沈黙。
その後。
「そうか」
それだけだった。
だが。
ほんの少しだけ。
空気が変わった。
その時。
黒田鉄山が静かに口を開く。
「ロード・エルメロイⅡ世」
『何だ』
「貴方は、
どこまで掴んでいる」
Ⅱ世は少し黙った。
そして。
『……聖杯の基盤術式だ』
「!」
真澄が目を見開く。
『今回の亜種聖杯戦争』
『根幹に、
冬木式ではない術式が混ざっている』
アレクセイが眉をひそめる。
「冬木式じゃない?」
『冬木の聖杯戦争は、
第三魔法への到達を目指した模造儀式だ』
『だが今回違う』
一拍。
『これは“観測”だ』
通信越しに、
ライネスが静かに続ける。
『武術体系』
『戦闘理論』
『殺人技法』
『生還法則』
『それらを英霊同士の衝突で抽出・記録・再現しようとしている』
神代静馬が、
ゆっくり拳を握った。
「武を……保存するためか」
『違う』
Ⅱ世が即座に否定する。
『保存だけなら、
英霊召喚システムで十分だ』
『今回の問題はその先だ』
一拍。
『“再現可能化”だ』
空気が凍る。
アレクセイは理解した。
理解してしまった。
「……量産」
『そうだ』
Ⅱ世の声が低い。
『英雄の技術を』
『教育』
『軍事』
『政治』
『治安』
『支配』
『あらゆる分野へ、
システムとして落とし込もうとしている』
黒田鉄山が、
静かに呟いた。
「型を、生き物ではなくする気か」
「ええ」
答えたのは植芝だった。
「武とは、本来」
一拍。
「人が人へ伝えるものじゃ」
「痛みも」
「呼吸も」
「恐れも」
「迷いも」
「全部含めて、武じゃ」
老人の目が細くなる。
「それを記録だけにした時」
「武は死ぬ」
沈黙。
その時。
代行者が、
初めて小さく頷いた。
「……そこは同意する」
アレクセイは少し驚く。
代行者は続けた。
「教会も、
技術そのものを否定はしない」
「問題は」
一拍。
「“人間を通さずに再現する”ことだ」
フラットが珍しく真面目な声を出す。
『あー……』
『それ、ヤバいね』
『だってそれ』
『“英雄を部品化する”ってことじゃん』
通信が静まる。
その言葉は、
あまりにも核心だった。
その瞬間。
園部秀雄が、
静かに薙刀を握った。
「だから」
老女は前を見る。
「まだ終わっておりませぬ」
雨の向こう。
崩れた通信塔。
その残骸の奥。
アレクセイは、
微かな魔力反応を感じていた。
まだ残っている。
ヴィクトールの術式が。
そして。
そのさらに奥。
もっと巨大な何かが。