『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』 作:牛☆大権現
雨が弱くなる。
崩れた通信塔の残骸。
その奥から。
まだ、
微かに魔力が脈打っていた。
アレクセイは眉をひそめる。
「まだ術式が生きてる……?」
『当然だ』
エルメロイⅡ世が低く言う。
『あれだけの都市級術式だ』
『本体を潰した程度で完全停止するなら、
最初から脅威にならん』
フラットが小さく唸る。
『うわぁ……』
『完全に分散式だこれ』
『都市インフラ全部を術式ノード化してる』
代行者が通信塔を見る。
「……悪趣味だな」
「兵器としては合理的ですがの」
植芝盛平が静かに言った。
「だからこそ危険じゃ」
その時。
黒田鉄山が、
崩れた鉄骨へ近づいた。
静かに触れる。
一瞬。
アレクセイは背筋に寒気を覚えた。
セイバーの気配が消える。
本当に。
一瞬だけ。
“そこにいない”。
次の瞬間。
鉄骨が、
音もなく崩れ落ちた。
「……は?」
アレクセイが固まる。
斬撃が見えなかった。
黒田は崩れた断面を見ながら呟く。
「型が入っている」
『分かるのか?』
Ⅱ世が問う。
「ええ」
一拍。
「これは単なる魔術回路ではない」
「動きです」
神代静馬が低く続ける。
「呼吸」
「負荷移動」
「攻撃導線」
「視線誘導」
「全部、戦闘理論になってる」
アレクセイは息を呑む。
通信塔そのものが。
武術化している。
『……やはりな』
Ⅱ世の声が重い。
『ヴィクトールは、
兵器へ“用途の霊”を宿していた』
『だが今は逆だ』
『技術体系そのものへ、
英雄の戦闘理論を移植している』
代行者が小さく舌打ちした。
「最悪だな」
「何がだ」
静馬が問う。
代行者は即答した。
「これ、
“人間が要らなくなる”」
沈黙。
誰もすぐ返せなかった。
代行者は続ける。
「武術」
「戦術」
「生還法」
「判断」
「殺し合いの経験」
「全部を記録して、
再現可能にする」
一拍。
「その先にあるのは、
英雄じゃない」
雨音。
静かな声。
「交換可能な兵士だ」
アレクセイの胃が冷える。
その瞬間。
植芝盛平が、
静かに通信塔へ近づいた。
「キャスター?」
「アレクセイ」
老人は振り返らない。
「“型”とは何じゃと思う」
「え」
「黒田殿は、
生存の記録と言った」
一拍。
「では、
何故それを人へ伝える?」
アレクセイは答えられない。
植芝は、
壊れた鉄骨へ手を置いた。
「人は」
「一人では生きられんからじゃ」
静かな声。
「技は、
次の誰かを生かすために残す」
「じゃが」
老人の目が細くなる。
「これは違う」
一拍。
「これは、“効率”のための型じゃ」
黒田鉄山が静かに頷く。
「武が死ぬ時の形です」
その瞬間だった。
通信塔の奥。
黒い光が脈動した。
『来るぞ!!』
カウレスが叫ぶ。
次の瞬間。
崩れた鉄骨群が、
一斉に浮かび上がった。
いや。
違う。
“構えている”。
アレクセイの背筋が凍る。
瓦礫。
鉄骨。
崩れたドローン。
砲身。
全部が。
まるで一つの武術みたいに、
滑らかに連動していた。
「っ!!」
真澄が符を放つ。
「東方木気――!」
結界展開。
直後。
鉄骨が射出された。
轟音。
速い。
だが。
その瞬間。
黒田鉄山が消えた。
本当に。
一瞬。
視界から消失。
次の瞬間。
全ての鉄骨が、
空中で断ち切られていた。
アレクセイが息を呑む。
(見えなかった)
黒田は静かに納刀する。
「……型だけでは、
人は超えられない」
だが。
通信塔の奥。
黒い光は、
まだ止まらない。
むしろ。
脈動が強くなる。
『まずい!!』
Ⅱ世が叫んだ。
『術式が自己学習している!!』
「は?」
『戦闘を観測しているんだ!』
『黒田鉄山の動きまで取り込み始めてる!!』
空気が凍る。
アレクセイの血の気が引いた。
つまり。
戦えば戦うほど。
敵が完成する。