『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』   作:牛☆大権現

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学ぶ敵

 沈黙。

 

 雨音。

 

 そして。

 

 黒い脈動。

 

 通信塔の残骸の奥で、

術式が生きている。

 

 いや。

 

 生きているどころじゃない。

 

 成長している。

 

『まずい』

 

 エルメロイⅡ世が低く言った。

 

『これは単なる礼装じゃない』

 

『学習機構だ』

 

 アレクセイは顔をしかめる。

 

「学習?」

 

『見て分からんか』

 

『黒田鉄山の動きを観測している』

 

『つまり』

 

 一拍。

 

『次からは対応してくる』

 

 背筋が寒くなる。

 

 今。

 

 この瞬間。

 

 世界最高峰の剣術家の技術が、

敵側へ蓄積されている。

 

 黒田鉄山は静かだった。

 

 怒りもない。

 

 焦りもない。

 

 ただ。

 

 通信塔を見ている。

 

「なるほど」

 

 一歩。

 

 前へ出る。

 

「面白い」

 

 アレクセイは思わず振り向いた。

 

「面白い?」

 

「ええ」

 

 黒田は頷く。

 

「つまり」

 

「型だけを真似ている」

 

 一拍。

 

「なら問題ない」

 

『いや問題しかないだろ』

 

 フラットが即ツッコミを入れた。

 

『先生ー!!』

 

『黒田さん怖いよー!!』

 

 だが。

 

 植芝盛平が、

静かに笑った。

 

「うむ」

 

「まだ学べておらん」

 

 その時。

 

 通信塔の残骸が動いた。

 

 鉄骨。

 

 瓦礫。

 

 崩れた砲身。

 

 それらが組み合わさる。

 

 人型。

 

 いや。

 

 剣士。

 

 無機質な武人。

 

 目のない顔。

 

 だが。

 

 構えだけは完璧だった。

 

「……」

 

 神代静馬が息を吐く。

 

「気持ち悪いな」

 

 次の瞬間。

 

 剣士が消えた。

 

 速い。

 

 神速。

 

 まるで。

 

 黒田鉄山。

 

 そのもの。

 

「っ!」

 

 アレクセイは反応できなかった。

 

 だが。

 

 黒田鉄山は違った。

 

 カン――――!!

 

 金属音。

 

 一歩。

 

 黒田が身体を捻る。

 

 その動きは。

 

 さっきまでと違う。

 

 遅い。

 

 いや。

 

 あえて遅くしている。

 

『……?』

 

 カウレスが首を傾げる。

 

『何してるんだ?』

 

 その瞬間。

 

 黒田が言った。

 

「見ていなさい」

 

 次の斬撃。

 

 通信塔の剣士が踏み込む。

 

 黒田は受ける。

 

 弾く。

 

 避ける。

 

 切らない。

 

 ただ。

 

 流す。

 

 植芝が小さく笑った。

 

「ほう」

 

 アレクセイは気付く。

 

 学習させている。

 

 わざと。

 

『なるほど』

 

 Ⅱ世が低く呟いた。

 

『型を学ばせているんじゃない』

 

『限界を教えている』

 

 黒田が一歩踏み込む。

 

「型とは」

 

 斬撃。

 

 流す。

 

「答えではない」

 

 避ける。

 

「問いだ」

 

 受ける。

 

「何故そう動く」

 

 流す。

 

「何故そう斬る」

 

 かわす。

 

「何故そう生きる」

 

 その瞬間。

 

 通信塔の剣士が止まった。

 

 わずかに。

 

 本当に僅かに。

 

 動きが乱れる。

 

 黒田鉄山が静かに言った。

 

「お前には無い」

 

 一拍。

 

「理由が」

 

 そして。

 

 初めて抜刀した。

 

 見えなかった。

 

 アレクセイには。

 

 本当に。

 

 何も見えなかった。

 

 気付いた時には。

 

 通信塔の剣士が。

 

 縦に割れていた。

 

 沈黙。

 

 崩れる残骸。

 

 雨音。

 

 だが。

 

 通信塔の奥。

 

 黒い光はまだ消えない。

 

『まだだ!』

 

 Ⅱ世が叫ぶ。

 

『本体は別にある!』

 

 その時。

 

 代行者が初めて動いた。

 

 静かに。

 

 崩れた通信塔へ近づく。

 

「……なるほど」

 

 瓦礫の下を見ている。

 

「何か分かったのか?」

 

 静馬が問う。

 

 代行者は答える。

 

「これ」

 

 一拍。

 

「聖杯の術式じゃない」

 

 空気が止まった。

 

 Ⅱ世も黙る。

 

 ライネスも。

 

 フラットも。

 

 全員が。

 

 代行者の次の言葉を待っていた。

 

「正確には」

 

 瓦礫の奥。

 

 黒い紋様を指差す。

 

「誰かが」

 

「聖杯へ後付けした術式だ」

 

 アレクセイの心臓が鳴る。

 

 黒幕。

 

 ヴィクトールではない。

 

 もっと上。

 

 もっと前。

 

 この戦争を作った誰か。

 

 そして。

 

 その時だった。

 

 黒い紋様の中心から。

 

 一つの名前が浮かび上がる。

 

 誰かの署名。

 

 誰かの魔術刻印。

 

 誰かの設計者名。

 

 雨の中。

 

 エルメロイⅡ世が、

その文字を見た瞬間。

 

 珍しく。

 

 本当に珍しく。

 

 顔色を変えた。

 

『……馬鹿な』

 

 その声には。

 

 明確な動揺が混じっていた。

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