『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』   作:牛☆大権現

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記録者の名

 雨が止んだ。

 

 誰も動かない。

 

 瓦礫の下。

 

 黒い紋様。

 

 そして。

 

 浮かび上がった署名。

 

 エルメロイⅡ世だけが、

その名前を見て顔色を変えていた。

 

『……馬鹿な』

 

 アレクセイは思わず叫ぶ。

 

「先生!」

 

「誰なんだ!?」

 

 通信越し。

 

 沈黙。

 

 長い沈黙。

 

 その後。

 

 Ⅱ世は静かに言った。

 

『アレクセイ』

 

『まず確認する』

 

『この名前は、

お前達には聞き覚えがないはずだ』

 

 黒田鉄山も。

 

 植芝盛平も。

 

 静馬も。

 

 誰も反応しない。

 

 代行者だけが、

小さく目を細めた。

 

「やはりか」

 

『知っているのか』

 

 Ⅱ世が問う。

 

 代行者は頷いた。

 

「教会側でも、

名前だけは記録されている」

 

 アレクセイの心臓が鳴る。

 

 嫌な予感しかしない。

 

『その術者は』

 

 Ⅱ世が低く続けた。

 

『時計塔にも所属していない』

 

『聖堂教会にも所属していない』

 

『魔術協会の正式記録にも存在しない』

 

 真澄が顔をしかめる。

 

「そんなことあるのか?」

 

『ある』

 

 ライネスが代わりに答えた。

 

『本当に危険な魔術師は、

組織に所属しない』

 

 一拍。

 

『所属した瞬間、

追跡されるから』

 

 フラットが珍しく真面目だった。

 

『封印指定候補とか、

そういうタイプだね』

 

 アレクセイは寒気を覚える。

 

「じゃあ、

そいつが黒幕なのか?」

 

『……分からん』

 

 Ⅱ世は即答しなかった。

 

『だが』

 

『少なくとも、

ヴィクトールは駒だ』

 

 空気が重くなる。

 

 あれだけの術式。

 

 あれだけの被害。

 

 あれだけの戦争。

 

 その元凶ですら。

 

 駒。

 

「ふざけるな……」

 

 静馬が低く吐き捨てる。

 

 神代静馬。

 

 普段なら怒鳴る男だ。

 

 だが今は違う。

 

 本当に怒っている時ほど。

 

 静かになる。

 

「人を死なせて」

 

「街を壊して」

 

「全部実験か」

 

 代行者が答えた。

 

「そうだろうな」

 

 一拍。

 

「だから教会も警戒している」

 

 植芝盛平が、

崩れた術式を見る。

 

「武を記録する」

 

「武を再現する」

 

「武を管理する」

 

 老人は首を振った。

 

「違う」

 

「武とは、

そういうものではない」

 

 その時だった。

 

 黒い紋様が脈打つ。

 

 ドクン。

 

 心臓みたいに。

 

 全員が反射的に身構えた。

 

『下がれ!!』

 

 Ⅱ世が叫ぶ。

 

 直後。

 

 黒い紋様が展開した。

 

 巨大な魔術式。

 

 空へ。

 

 都市へ。

 

 地脈へ。

 

 まるで。

 

 最後のメッセージみたいに。

 

 その中心に。

 

 一つの文章が浮かび上がる。

 

 誰かの言葉。

 

 誰かの宣言。

 

 アレクセイは目を見開いた。

 

 そこには。

 

 こう書かれていた。

 

 

 『英雄は死ぬ』

 

 『だから技を残した』

 

 『技は失われる』

 

 『だから記録した』

 

 『記録は劣化する』

 

 『だから管理する』

 

 『管理は支配になる』

 

 『だが人類は支配されるべきだ』

 

 

 空気が凍った。

 

 植芝盛平が、

初めて明確な怒りを見せる。

 

 黒田鉄山も。

 

 園部秀雄も。

 

 静かに目を細めた。

 

 その思想は。

 

 武道家にとって。

 

 最大の侮辱だった。

 

 だが。

 

 本当に凍りついたのは。

 

 その次の一文だった。

 

 

 『次の実験場は京都』

 

 

 沈黙。

 

 アレクセイの顔から血の気が引く。

 

 京都。

 

 日本屈指の霊地。

 

 神社。

 

 仏閣。

 

 霊脈。

 

 結界。

 

 そして。

 

 大量の観光客。

 

 真澄が符を握り潰した。

 

「……ふざけるな」

 

 代行者も。

 

 初めて露骨に顔をしかめた。

 

「これはまずいな」

 

『同感だ』

 

 Ⅱ世が即答する。

 

『京都は冬木より危険だ』

 

『地脈規模が違う』

 

『もし向こうで同じことをされたら』

 

 一拍。

 

『今回とは比較にならん』

 

 その瞬間。

 

 アレクセイは理解した。

 

 終わっていない。

 

 ライダーとの戦いは。

 

 ヴィクトールとの戦いは。

 

 序章だった。

 

 本当の敵は。

 

 まだ姿すら見せていない。

 

 そして。

 

 植芝盛平が静かに立ち上がる。

 

 白い稽古帯が揺れる。

 

「行くぞ」

 

 老人の声は静かだった。

 

 だが。

 

 今までで一番強かった。

 

「今度こそ」

 

 一拍。

 

「帰れなくなる者を出してはならん」

 

 その言葉に。

 

 アレクセイは、

無意識に白い帯を握っていた。

 

 ――京都。

 

 次の戦場が、

待っている。

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