『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』 作:牛☆大権現
沈黙。
京都駅前。
誰も動けなかった。
――最初の実験体は、既に完成している。
その言葉だけが、
頭の中で反響している。
「……完成って何だよ」
アレクセイが呟く。
Ⅱ世が即答した。
『嫌な予感しかしないな』
『少なくとも』
『英霊そのものではない』
「何故分かる?」
静馬が問う。
『完成していたら、
こんな回りくどい宣言はしない』
一拍。
『見せたいんだ』
『成果を』
フラットが小さく唸る。
『あー……』
『研究者だ』
『超研究者だこれ』
ライネスが続ける。
『つまり挑発』
『自分の理論が正しいと証明したい』
『だからわざわざ予告した』
その時だった。
真澄が顔を上げた。
「東山」
「何?」
「霊脈が揺れた」
全員が反応する。
園部秀雄が薙刀を握る。
黒田鉄山が静かに目を閉じる。
植芝盛平は。
ただ空を見上げていた。
「行くぞ」
老人の声。
迷いは無い。
次の瞬間。
全員が駆け出した。
◇
東山。
深夜。
観光客はいない。
だが。
完全な無人ではなかった。
寺院。
石畳。
古い木々。
その中央。
巨大な結界陣が展開されていた。
アレクセイは息を呑む。
「何だこれ……」
術式ではない。
武術だった。
剣。
槍。
弓。
銃。
柔術。
合気。
薙刀。
無数の型が。
魔術回路として刻まれている。
まるで。
巨大な教科書。
『気持ち悪いな』
カウレスが呟く。
『人類史の武術教本を、
そのまま魔術式にしたみたいだ』
その時。
結界の中央。
人影が立ち上がった。
男。
若い。
二十代ほど。
軍服でもない。
道着でもない。
スーツ姿。
だが。
どこか異様だった。
黒田鉄山が目を細める。
園部秀雄も。
植芝盛平も。
一瞬だけ。
言葉を失った。
「……何だあれ」
アレクセイが呟く。
男は静かに笑う。
「初めまして」
穏やかな声。
優しい笑顔。
なのに。
本能が拒絶する。
「私は失敗作です」
沈黙。
「いや成功作かな」
男は首を傾げる。
「自分でも分からない」
その瞬間。
アレクセイの背筋が凍った。
男の立ち方が変わる。
黒田鉄山になる。
次の瞬間。
植芝盛平になる。
さらに。
園部秀雄になる。
そして。
舩坂弘になる。
ボブ・マンデンになる。
シモ・ヘイヘになる。
ルーデルになる。
僅か数秒。
それだけで。
全員の型を再現した。
「……馬鹿な」
静馬が絶句する。
『観測データだ』
Ⅱ世の声が重い。
『今までの戦闘記録を
全部取り込んでいる』
男は笑う。
「違います」
全員が顔を上げる。
「取り込んだだけなら」
一拍。
「ただの模倣でしょう?」
その瞬間。
空気が変わった。
圧力。
重力。
存在感。
まるで。
複数の英霊が重なったような。
「私は」
男が微笑む。
「英雄の先です」
黒田鉄山の目が細くなる。
植芝盛平が静かに息を吐く。
そして。
初めて。
キャスターが怒った。
「……違うな」
男が首を傾げる。
植芝は前へ出る。
「お主は英雄ではない」
一拍。
「英雄の死体じゃ」
沈黙。
男の笑顔が。
初めて僅かに歪んだ。
その時。
Ⅱ世が通信越しに叫ぶ。
『全員聞け!!』
『そいつを完成させるな!!』
「どういう意味だ!?」
アレクセイが叫ぶ。
Ⅱ世は即答した。
『まだ足りないんだ!』
『だから京都へ誘導した!』
『あいつはまだ――』
一拍。
『植芝盛平と黒田鉄山のデータを取り切っていない!!』
空気が凍る。
全員が理解した。
だから。
京都だった。
だから。
セイバーを呼んだ。
だから。
キャスターを誘った。
黒幕の狙いは。
最初から。
この二人だったのだ。
男は静かに微笑む。
「では」
一歩。
前へ出る。
「続きを始めましょう」
その瞬間。
京都の霊脈全体が震えた。