『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』   作:牛☆大権現

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帰る者、帰れない者

 轟音。

 

 京都の夜空が揺れる。

 

 実験体が踏み込む。

 

 その一歩だけで。

 

 石畳が砕けた。

 

 速い。

 

 重い。

 

 強い。

 

 アレクセイは理解する。

 

 今まで戦ってきたサーヴァント達とは違う。

 

 こいつは。

 

 全員を混ぜている。

 

 黒田の神速。

 

 園部の間合い。

 

 舩坂の耐久。

 

 ルーデルの圧力。

 

 シモの冷静さ。

 

 ボブの初動。

 

 全部。

 

 全部ある。

 

 だからこそ。

 

 歪だ。

 

「っ!!」

 

 神代静馬が飛び出した。

 

 祝詞。

 

 呼吸。

 

 神降ろし。

 

 身体神降ろし《カムナガラ・オーバーライド》。

 

 筋肉が膨張する。

 

 瞳が光る。

 

 人間の限界を超える三分間。

 

 拳が放たれる。

 

 実験体も拳を出す。

 

 激突。

 

 轟音。

 

 空気が爆ぜる。

 

 だが。

 

 静馬は笑った。

 

「なるほどな」

 

 一歩。

 

 さらに踏み込む。

 

「お前」

 

 拳。

 

 肘。

 

 肩。

 

 連撃。

 

「戦ったことないだろ」

 

 実験体が初めて顔をしかめる。

 

 静馬は続ける。

 

「知識はある」

 

「型もある」

 

「技術もある」

 

 一拍。

 

「でも」

 

 さらに踏み込む。

 

「命を懸けたことがない」

 

 その瞬間。

 

 実験体が吹き飛んだ。

 

 地面を削る。

 

 だが。

 

 すぐ立ち上がる。

 

 損傷は少ない。

 

『静馬!』

 

 Ⅱ世が叫ぶ。

 

『深追いするな!』

 

「分かってる!」

 

 だが。

 

 神代静馬の膝から血が流れていた。

 

 限界が近い。

 

 三分。

 

 本当に三分しか保たない。

 

 その時。

 

 園部秀雄が前へ出る。

 

「若い者は下がりなさい」

 

 薙刀が静かに上がる。

 

 老いた手。

 

 だが。

 

 全く揺れない。

 

「ランサー」

 

 アレクセイが呟く。

 

 園部は微笑んだ。

 

「そろそろ」

 

 一拍。

 

「老婆の仕事です」

 

 次の瞬間。

 

 薙刀が閃いた。

 

 速い。

 

 だが。

 

 黒田ほどではない。

 

 実験体も反応する。

 

 受ける。

 

 返す。

 

 斬る。

 

 その全てを。

 

 園部秀雄は読んでいた。

 

 一撃。

 

 二撃。

 

 三撃。

 

 四撃。

 

 五撃。

 

 実験体の顔色が変わる。

 

「何故だ」

 

 園部は答える。

 

「積み重ねです」

 

 六撃。

 

 七撃。

 

 八撃。

 

「人は」

 

 九撃。

 

 十撃。

 

「毎日少しずつ強くなる」

 

 薙刀が鳴る。

 

 実験体が押され始める。

 

 そして。

 

 アレクセイは気付く。

 

 宝具だ。

 

 既に始まっている。

 

 真名を叫ばない。

 

 だが。

 

 積み重なるほど強くなる。

 

 ランサーの宝具。

 

 ――『直心影流・一千本の朝稽古』。

 

 その時。

 

 実験体が後退した。

 

 初めて。

 

 明確に。

 

 恐れた。

 

「理解できない」

 

 園部は静かに答える。

 

「当然です」

 

 一拍。

 

「貴方には昨日が無い」

 

 沈黙。

 

 その言葉は。

 

 実験体へ深く突き刺さった。

 

 昨日。

 

 今日。

 

 明日。

 

 失敗。

 

 反省。

 

 積み重ね。

 

 それが無い。

 

 完成品だから。

 

 その時。

 

 植芝盛平が前へ出た。

 

 静かに。

 

 本当に静かに。

 

 白い稽古帯が揺れる。

 

 実験体が反射的に構える。

 

 初めてだった。

 

 今まで一度も。

 

 植芝へ攻撃していない。

 

 いや。

 

 できなかった。

 

 老人は笑う。

 

「怖いかの」

 

 実験体が黙る。

 

「不思議じゃな」

 

 一歩。

 

 植芝が近づく。

 

「お主は強い」

 

「英雄の技を持つ」

 

「戦える」

 

 一拍。

 

「なのに」

 

 老人の声が優しくなる。

 

「何故そんなに苦しそうなんじゃ」

 

 実験体が止まる。

 

 初めて。

 

 完全に。

 

 動きを止めた。

 

 アレクセイは理解した。

 

 植芝は戦っていない。

 

 問いかけている。

 

 そして。

 

 その問いは。

 

 実験体が最も持っていないものだった。

 

「……分からない」

 

 小さな声。

 

 本当に小さな声。

 

「私は」

 

 一拍。

 

「何のために作られた」

 

 京都の夜が静まる。

 

 その瞬間。

 

 アレクセイの背筋に寒気が走った。

 

 違う。

 

 実験体じゃない。

 

 もっと遠く。

 

 もっと巨大な何か。

 

 誰かが。

 

 こちらを見ている。

 

『全員離れろ!!』

 

 エルメロイⅡ世が絶叫した。

 

 今まで聞いたこともない声で。

 

『そいつを通して!!』

 

『術者本人が覗いている!!』

 

 空が割れた。

 

 京都全域の霊脈が。

 

 一斉に唸り始める。

 

 そして。

 

 実験体の瞳が。

 

 別人のものへ変わった。

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