『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』 作:牛☆大権現
沈黙。
京都の夜。
霊脈が軋む。
実験体の瞳。
その奥から覗く何者か。
観測者。
黒幕。
英雄を量産しようとする男。
「黙れ」
実験体が低く呟く。
「黙れ」
怒り。
明確な怒り。
だが。
エルメロイⅡ世は止まらなかった。
『図星だからだ』
その瞬間。
轟音。
地面が砕ける。
京都の霊脈が暴走する。
しかし。
Ⅱ世の声は冷静だった。
『私は何人も見てきた』
『天才を』
『秀才を』
『怪物を』
『そして』
一拍。
『挫折した者を』
実験体の瞳が揺れる。
『お前は英雄に憧れた』
『だがなれなかった』
『だから研究した』
『分析した』
『記録した』
『模倣した』
『再現した』
『だが』
声が鋭くなる。
『一度も生きていない』
沈黙。
その言葉は。
刃だった。
実験体の拳が震える。
初めて。
本当に初めて。
感情が漏れる。
「違う」
小さい声。
『違わない』
「違う」
『違わない』
その時。
植芝盛平が静かに前へ出た。
「ロード」
『何だ』
「そこまでじゃ」
一拍。
「もう十分じゃ」
Ⅱ世が黙る。
老人は実験体を見る。
怒っていない。
責めてもいない。
ただ。
悲しそうだった。
「お主」
「何故武を学んだ」
実験体が答えない。
「何故剣を学んだ」
沈黙。
「何故戦を学んだ」
長い沈黙。
そして。
本当に小さな声。
「……弱かったから」
全員が黙る。
実験体は続ける。
「病弱だった」
「走れなかった」
「戦えなかった」
「守れなかった」
一拍。
「誰も守れなかった」
アレクセイは息を呑む。
初めて聞く。
こいつ自身の言葉を。
「だから学んだ」
「剣術を」
「柔術を」
「軍事学を」
「戦術を」
「英雄譚を」
「全部」
拳が震える。
「全部学んだのに」
一拍。
「何も変わらなかった」
京都の夜が静まる。
黒田鉄山が目を閉じる。
園部秀雄も。
神代静馬も。
誰も笑わない。
笑えない。
「だから」
実験体は顔を上げる。
「英雄を作ろうと思った」
その瞬間。
アレクセイは理解した。
こいつは。
悪人じゃない。
間違えたのだ。
とてつもなく。
致命的に。
間違えた。
植芝盛平が静かに言う。
「お主は」
一拍。
「誰かを守りたかったのじゃな」
実験体が止まる。
何も言えない。
「武とはな」
老人の声。
静かで。
温かい。
「勝つためにあるのではない」
一歩。
近づく。
「強くなるためでもない」
一歩。
「人を守るためにある」
その時。
アレクセイが思い出す。
最初の頃。
勝ちたかった。
認められたかった。
見返したかった。
でも。
今は違う。
帰りたい。
皆で。
生きて。
帰りたい。
その瞬間。
実験体の瞳から。
一筋だけ。
涙が流れた。
本人も驚いた顔をする。
「……何故だ」
植芝は笑った。
「人だからじゃ」
沈黙。
長い沈黙。
そして。
その瞬間だった。
京都全域の霊脈が。
突然。
逆流した。
『!?』
Ⅱ世が立ち上がる。
『まずい!!』
ライネスも顔色を変える。
『違う!』
『術式の暴走じゃない!』
『本体が切り捨てた!!』
空気が凍る。
実験体が顔を上げる。
「……ああ」
理解した。
自分が。
切り捨てられたと。
「失敗作」
小さな声。
「そうか」
その身体が崩れ始める。
霊基崩壊。
黒幕が。
証拠隠滅を始めた。
「待て!!」
アレクセイが飛び出す。
だが。
間に合わない。
実験体は笑った。
初めて。
穏やかに。
「ありがとう」
誰へ向けた言葉なのか。
分からない。
だが。
その瞬間。
植芝盛平が。
静かに右手を伸ばした。
そして。
初めて。
宝具の真名を口にする。
「――武産合気・天地因果返し」
世界が静止した。