『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』   作:牛☆大権現

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観測塔

 京都の夜は静かだった。

 

 不気味なほどに。

 

 東山での戦闘から数時間。

 

 アレクセイ達は、寺院の一角を借りていた。

 

 休息。

 

 作戦会議。

 

 負傷者の治療。

 

 そして。

 

 最後の戦いの準備。

 

 その全てを行うために。

 

 だが。

 

 誰も眠っていなかった。

 

『座標の解析が終わった』

 

 エルメロイⅡ世の声。

 

 通信術式の向こう。

 

 教室の面々も起きている。

 

『観測者の工房は京都北部』

 

『鞍馬山地下』

 

 真澄が眉をひそめる。

 

「鞍馬か」

 

「知ってるのか?」

 

「天狗伝説」

 

「修験道」

 

「古い霊脈」

 

 一拍。

 

「武術の伝承も多い」

 

 静馬が鼻で笑う。

 

「武術オタクには最高の立地だな」

 

『その通りだ』

 

 Ⅱ世が即答した。

 

『あの男が選ぶならそこしかない』

 

 地図が展開される。

 

 山。

 

 霊脈。

 

 寺院。

 

 地下空洞。

 

 そして。

 

 巨大な魔術陣。

 

『観測塔』

 

 ライネスが呟く。

 

『こっちの呼称だけどね』

 

『要するに』

 

『巨大な観測施設よ』

 

 アレクセイが顔をしかめる。

 

「何を観測してる」

 

『人類』

 

 即答だった。

 

 全員が黙る。

 

『英雄』

 

『武術』

 

『戦争』

 

『教育』

 

『思想』

 

『継承』

 

 一拍。

 

『人間の強さ』

 

 植芝盛平が目を閉じる。

 

「だから武ばかり集めておったのか」

 

『おそらく』

 

 Ⅱ世が頷く。

 

『あの男は英霊召喚を逆利用した』

 

『英雄の記録を読むためにな』

 

 沈黙。

 

 その時。

 

 寺の襖が開いた。

 

 全員が振り向く。

 

 入ってきたのは。

 

 クララ・ウィンチェスター。

 

 そして。

 

 ボブ・マンデン。

 

「やっと見つけた」

 

 クララがため息を吐く。

 

「アーチャー!」

 

 アレクセイが立ち上がる。

 

 ボブは笑った。

 

「よう坊主」

 

「生きてたか」

 

「そっちこそ」

 

「死ぬにはまだ早い」

 

 その後ろ。

 

 さらに足音。

 

 白い迷彩服。

 

 シモ・ヘイヘ。

 

 無言。

 

 だが来た。

 

 さらに。

 

 ヘレナ。

 

 舩坂弘。

 

 神代静馬。

 

 黒田鉄山。

 

 園部秀雄。

 

 気付けば。

 

 全員が揃っていた。

 

『……壮観だな』

 

 Ⅱ世が苦笑する。

 

『亜種聖杯戦争でここまで全陣営が同席することは珍しい』

 

 その時。

 

 舩坂弘が口を開いた。

 

「一つ聞く」

 

 全員が見る。

 

「この戦いが終わったら」

 

 一拍。

 

「帰れるのか」

 

 沈黙。

 

 誰も即答できない。

 

 だが。

 

 植芝盛平が答えた。

 

「帰る」

 

 即答だった。

 

「帰るとも」

 

 舩坂が笑う。

 

 少しだけ。

 

 本当に少しだけ。

 

 肩の力が抜けた。

 

 その時。

 

 黒田鉄山が立ち上がった。

 

「では確認しましょう」

 

 全員が見る。

 

「観測者は強い」

 

「術式も巨大」

 

「工房も要塞」

 

 一拍。

 

「ですが」

 

 静かな声。

 

「彼には一つ欠けている」

 

 アレクセイは気付く。

 

 黒田も。

 

 植芝も。

 

 園部も。

 

 みんな同じ答えに辿り着いている。

 

「継承です」

 

 沈黙。

 

「技は人から人へ伝わる」

 

「本ではない」

 

「記録でもない」

 

「データでもない」

 

 一拍。

 

「人です」

 

 その言葉に。

 

 全員が頷いた。

 

 ボブ・マンデンも。

 

 シモ・ヘイヘも。

 

 舩坂弘も。

 

 それぞれ違う時代。

 

 違う国。

 

 違う戦場。

 

 それでも。

 

 同じものを背負っている。

 

『なるほど』

 

 Ⅱ世が小さく笑った。

 

『やっと見えてきた』

 

「何がです?」

 

『奴の敗因だ』

 

 通信越し。

 

 ロード・エルメロイⅡ世は静かに言った。

 

『観測者は英雄を集めた』

 

『だが仲間を作れなかった』

 

 京都の夜風が吹く。

 

 そして。

 

 全員が立ち上がる。

 

 最後の戦いへ向かうために。

 

 鞍馬山。

 

 観測塔。

 

 英雄になれなかった男が待つ場所へ。

 

 アレクセイは白い帯を握った。

 

 最初は勝つためだった。

 

 今は違う。

 

 帰るためだ。

 

 皆で。

 

 生きて。

 

 帰るために。

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