『攻撃できないキャスターで聖杯戦争を勝ち抜く方法』 作:牛☆大権現
寒さが、まだ残っている。
見えない狙撃。
“そこにいる”という確信だけを残して消えた敵。
アレクセイは息を整えながら、白い稽古帯を握った。
「……今の、どうすればいい」
自分に言っているのか、誰かに言っているのか分からない。
その時。
端末が震えた。
着信。
エルメロイ教室(グループ通話)
「……は?」
通話に出る。
『繋がったか』
ロード・エルメロイⅡ世の声。
その背後に、複数の気配。
『状況はある程度把握している』
「は?」
『お前の通信ログは筒抜けだ。甘いな』
いつも通りの口調。
だが、安心感がある。
アレクセイは一気に言った。
「アサシンがいる。見えない。撃たれたら終わりだ」
『ああ、推定はついている』
間髪入れない。
『北欧圏の狙撃系英霊。おそらくシモ・ヘイヘだ』
アレクセイは息を呑んだ。
「……もう分かってるのか」
『情報の断片を繋げばな』
冷静。
だが、その速度が異常。
そこで別の声が割り込んだ。
『え、それもう確定じゃない?』
軽い声。
フラット。
『雪の気配+不可視+音遅延って、それ以外ないでしょ』
「お前……」
アレクセイは歯を食いしばる。
相変わらずだ。
軽いのに、核心だけ持っていく。
『拙も、そう思います』
静かな声。
グレイ。
『あのような気配は、戦場に長くいた者のものです』
落ち着いた分析。
現場を知っている声。
『ふふ、面白いわね』
別の声。
ライネス。
『見えない敵に、攻撃できないキャスター。最悪の組み合わせじゃない』
「笑い事じゃない!」
アレクセイは叫んだ。
「こっちは死にかけてるんだぞ!」
『だからだ』
エルメロイの声が落ちる。
『だから、全員で考える』
一瞬、静かになる。
その一言で、場が締まる。
『まず確認する』
教師の声。
『お前のキャスターは、“攻撃された場合のみ成立する”で間違いないな』
「……ああ」
『ならば結論は一つだ』
一拍。
『攻撃させるな』
アレクセイは固まった。
「……は?」
『単純だろう』
当然のように言う。
『成立条件を潰せばいい』
「いや、それができたら苦労しないだろ!」
『だから考える』
エルメロイの声は揺れない。
『アサシンは“認識されない限り必中”の可能性が高い』
フラットが続く。
『つまり逆に言えば、認識されたら弱くなるよね』
『視覚ではなく、別の知覚で捉えるべきかと』
グレイ。
冷静。
『匂い、温度、地面の振動……』
『ああ、それそれ』
フラットが軽く乗る。
『“見る”から外れればいいんだよ』
アレクセイの手が、わずかに震えた。
植芝の言葉が蘇る。
――見るな。
繋がる。
「……空気」
呟く。
「空気の薄さ……そこに、何かが通る」
『それだ』
エルメロイが即答した。
『お前のキャスターの指導と一致する』
「……何で分かるんだよ」
『当たり前だ』
少しだけ、皮肉が混じる。
『現場で起きている現象は、必ず理屈で説明できる』
それが、この男だ。
『じゃあ作戦ね』
ライネスが楽しそうに言う。
『あなたは“見る”のをやめる』
『代わりに、感じる』
グレイ。
『で、そこに攻撃を“通す”んじゃなくて』
フラットが続ける。
『“通らせない”』
アレクセイは息を呑んだ。
それは。
今までと、真逆だ。
攻撃するのではない。
防ぐのでもない。
“成立させない”。
『理解したか?』
エルメロイが問う。
アレクセイは白い稽古帯を握った。
汗で柔らかくなっている。
少しだけ、自分の手に馴染んでいる。
「……やってみる」
『いい返事だ』
短く言う。
『生き残れ。それが最優先だ』
通信が切れる。
静寂が戻る。
だが。
さっきとは違う。
“見えない恐怖”が、少しだけ形になった。
「……キャスター」
「うむ」
植芝が頷く。
「分かったか」
「全部じゃない」
正直に言う。
「でも、やることは分かった」
立つ。
呼吸を整える。
目を閉じる。
視覚を捨てる。
空気。
温度。
わずかな歪み。
(いる)
そこ。
ほんの一瞬。
空気が抜ける。
「――そこだ!」
叫ぶ。
園部が動く。
薙刀が振られる。
空間を、切る。
そして。
初めて。
“弾かれた”。
見えない何かが。
確かに。
次の瞬間。
遠くで、雪を踏む音。
逃げた。
今度は、完全に。
アレクセイは息を吐いた。
身体が震えている。
だが。
「……勝った?」
真澄が横で呟く。
アレクセイは首を振った。
「違う」
白い稽古帯を握る。
「負けなかっただけだ」
その言葉に、植芝が静かに頷いた。
「よろしい」
初めて。
本当に初めて。
アレクセイは“戦いの形”を掴んだ。
その瞬間だった。
遠くで、別の気配が動いた。
重い。
機械のような。
そして――
戦場そのものを変える気配。
「……次が来るぞ」
植芝の声。
アレクセイは顔を上げた。
今度は分かる。
これは。
今までとは違う。
“戦争”だ。