「にせん──さんじゅう年?」
はは、と乾いた笑みが零れてしまう。
何かの間違いでなければ、俺の知っている時代から15年以上は経過しているじゃないか……!
冗談みたいな話だ。
それでも、手の中の携帯端末はやけに現実的で──小さくなりすぎていることに、妙な感動すら覚えてしまう。
「……いや。ほんとに2030年なのか?」
わかりきったことを、確認する自分がいる。
学生証にだって、ネオンで輝く大型ビジョンにだって。
同じ数字が、同じ年号が、まるで当然のように表示されている。
「……冗談、じゃない」
ため息が、勝手に漏れた。
文字が読めること。
言葉が通じることからここが日本であることだなんて簡単に想像がつく。
でも、それだけに想像がつかなかったのだ。
ここが15年も先の未来だってことに。
でも、強いて違うところをあげるとするなら、それは────
──先ほどから見られている、ということだろうか。
悪質なストーカーならばどれほど
ああ、厭になる。
こうして感覚を研ぎ澄ませていると、嫌でも思い出す。
忘れていたいものまで、引きずり出される。
「……でも」
立ち止まっても、何も変わらない。
何事にも、
だから、とりあえず学校に向かうことにした。
◇
携帯端末を頼りに、学校へ辿り着く。
時刻は九時半。
……言い訳のしようもない遅刻だ。
これで、電車が遅延していた、などの理由があるならばともかく今の遠野志貴にその理由は使えそうにない。
「……仕方ないか」
大人しく遅刻届でも出すか、と職員室へ向かう。
そうして、職員室前に来て一つのコーナーが目についた。
忘れ物コーナーと不格好に書かれたであろう文字がこちらに向いている。
その中に、見覚えのないものがあったのだ。
「スマ……コン?」
なんとなく、気になってケースの鍵を
見たこともないそれはどうやら新品のようで。
それでも学校に無許可で持ってきていいものではないみたいで。
持ち主は先生のところに来なさいなんて注意書きが添えられている。
常識的に考えれば、ここで触らないのが正解だ。
なのに。
俺は、コレから目を離せないでいる。
「……確認するだけだ」
誰に言い訳しているのかもわからないまま、ケースの中に手を伸ばす。
取り出したそれは、想像以上に軽かった。
黒いフレーム。
眼鏡、というよりは――
「コンタクト……か?」
いや、違う。
似ているだけで、別物だ。
「スマコン、ね」
携帯端末で調べてみると、どうやらここ15年の間に発明された新技術のモノらしい。
それもこのサイズでかなりの高性能なのだとか。
だからか少しばかり額もお高い。
高校生が気軽に手を出すには少々厳しい代物だ。
「他人の物、だしな」
興味を押し殺して、元の場所に戻す。
それはただの技術だ。
情報社会の延長線上にあるもの。
――少なくとも。
俺の疑問を解決してくれるものじゃない。
そう決めつけて、職員室へ向かった。
◇
特に変わったことは起きず、
そう認識している自分に、どこか違和感を覚えながら、放課後になった。
朱い日差しが教室を照らしている。
手がかりという手がかりは見つからず、あるのは何もわからないという事実だけ。
何故、2030年にいるのか。
あの白い女はどうなったのか。
──わからない。
思い出そうとするたびに、思考に靄がかかる。
まるで、そこだけ意図的に塗り潰されているみたいに。
「……っ」
まただ。
脳みそに直接針でも差し込むような鋭い痛みがはしる。
「……ぐ、ッ……!」
机に手をつく。
視界が揺らぐ。
思い出そうとするたびに、繰り返されるソレ。
「……なんなんだよ……」
記憶が拒絶している。
思い出すな、とでも言うみたいに。
ゆっくりと息を吐いて、整える。
無理に思い出そうとするのはやめだ。
「────」
ふと、窓の外を見る。
赤い光が、街を染めている。
――赤。
あか。
「…………」
驚くほど鮮明で、あかい。
バラバラになった女を
反射的に歯を食いしばる。
違う。
それが現実じゃないことくらい。
さっきまで見ていたのは、ただの夕焼けだ。
……なのに。
目を逸らしても、残っている。
網膜の裏側に、焼き付いたみたいに。
「……帰るか」
押し寄せる不調を、押し込めるように呟いて、教室を出た。
校門前。
部活帰りの生徒たちが、緩やかな流れを作っている。
その中に紛れる。
帰り道は、遠くない。
30分もあれば着くはずだ。
知らない道のりを歩く。
徐々に人気が減っていく。
朱い日差しは消え、薄暗い世界に変わろうとしている。
「──え」
ふいに、足が止まる。
そこは想像していた屋敷ではなかった。
有間と書かれた表札は、間違いなくお世話になっていた場所で。
だけど、それでいて
未だに、超かぐや姫側のキャラクターが出ていないという。……次の話で出てくるといいなぁ