人工筋肉の開発に全てを捧げる彼女は、
仲間との出会いと葛藤を経て、
再び“走る意味”と向き合い未来を切り開く。
生とは、虚しいものである。
活きる為に何かしらの壁にぶつかり、時にそれを突破し何かを遺して行く者。
時にそれに押しつぶされ何もなし得ず、只怠惰に日々を過ごし消え行く者。
どれを選ぶかは、”キミシダイ”で誰も君の生を否定はしない。
君が否定しなければ……
──────────────────────────────────
深夜、暗く冷たく静かな部屋にカタカタとキーボードを操作する音がする。
「んっ、んー」
デスクから離れて座ってるチェアーの背もたれに体を預けて縮まった背中や脚をのばす。
ふと、煌々と輝くマルチモニターから目を離して天井を見上げる。すると、どっーと睡魔が襲ってきた。
「……ねっ、眠い」
喉の乾きも覚えた。
そうだ、ちょっと飲み物を買いに行こう……
そっと、椅子から重く固まった腰を上げて部屋を出ていった。
~~~~
風も光も通さない室内とは打って代わり、外はとても明るかった。
『まっ、まぶしぃ』
全てを平等に照らしつける光と熱の化身が容赦なく衰えたからだに刃を突き立てる。
彼女にとってそれは地獄とも呼ぶのだろう。
フラフラと、そして、ゆっくりと、
目的の場所まで足を進める。
『ここは日陰だから助かる~』
白色の自動販売機が単機ぽつりとある寂しい場所。
ここは意外と他の子にも知らてなくて穴場だったり、
他の所では見かけない飲み物も置いてあったりする。
「えぇっ、と……珈琲、コーヒー」
商品を眺めてた時だった。
背後から声を掛けられた。
「……あれ……アナタは」
振り返るとそこには見覚えのある少女が、
「マンハッタンカフェさん」
練習後なのだろうか、ジャージ姿のカフェ。
その後方からも誰かこっちに向かってきていた。
「カフェ。有ったかい?なんで、こんな日に限り近場の運動飲料は売り着てるのか。それは興味深い事情ではあるが……おや?君は」
そちらもジャージ姿のタキオン。
そして、彼女はカフェの前の人物に気付いて名を告げた。
「アマ……テンダイトくんだったかな?」
小麦色の肌、スラリとしたスレンダーなボディ、
ショートボブで腰まで伸びるロングなサイドバングを肩から後ろに回し真ん中くらいの位置でヘアゴムをつけてまとめている。
彼女はトレセン学園の制服を着用していた。
「アグネスタキオンさん。お久しぶりです」
他人行儀のように深々とお辞儀をする彼女。
それを見かねてタキオンは呆れかえる。
「はぁ……アマテくん、私の事はタキオンでいいといつも言ってるじゃないか」
アマテはそうわれて、バツの悪そうな表情で苦笑いを顔に浮かべた。
「一応、先輩ですから」
で何故ココに?──タキオン達に素朴な疑問を投げかける。この場所はある意味、普通の生徒には縁のないところだからだ。
「アマテくん、君は確かに私の後輩ではあったが……今は違う。だろう?」
タキオンは嫌なものを見るような目でアマテの首から下げれている紫のカードホルダーをチラリと見据えた。
そこに入っているのは彼女の学生証だ。
おや?可笑しい……別に学生証は常に提示する義務はなかったはずだが
そこにはこう書かれていた。
──────────────────────────────────
学科:医学部
学年:大学生
年齢:15歳
※中等部 卒業試験 合格
※高等部 卒業試験 合格
※大学生 認定試験 合格
~~(日付)
──────────────────────────────────
彼女は大学生であった。
そして、ここは大学部校舎である。
「……」
カフェはそのやり取りにもお構いなく自販機を除いていた。
「タキオンさん……ここにも……ないです」
そう聞いた、タキオンは頭を抱えた。
どうしたのだろうか?
「アグ……タキオン先輩。どうしたんですか?」
「あぁ、アマテくん。その呼び方の方がいい……いや、とてもしょうもないんだが」
彼女の直帰の悩みの種は昨日発売されたと言う新商品の運動飲料がどこに行っても完売で手に入らない事らしい。
「しかし、なんで自動販売機なんですか?学園の近くに小売店なんていくらでも……」
あれ?だったら?なぜ、自販機なんだ?
「……ないんだよ」
「は?」
小声過ぎて完璧には聞き取れなく咄嗟に声が出てしまった。
「自販機限定なの!そこのメーカーの!」
珍しく……
「そういう事ですか。先輩が研究以外で悩んでいるって珍しいですね」
「これも、研究の一貫さ。珍しい成分が含まれていると言う話だからね。この成分がとても興味深い内容で……キミ聞いてるのかい?」
君も研究者なのだろうに……
そう、アマテは研究者だ。
しかし……またかと、彼女は頭を抱え深くため息をつく。
「私とアナタでは分野が違うのをお忘れで?」
「確かにそうだが、目指す頂は一緒じゃないか。そうだ、一緒に共同研究でも」
とても有意義であろう提供を持ちかける。
だが、アマテはそう考えてはいなかった。
「いつも言ってますが、お断りします。私には時間が無いので」
そう、鉄のように固く強い意志を見せるとそっと温かい黒いとオレンジの缶飲料のボタンを押し商品を手に取るとその場から風のように立ち去った。
「タキオンさん……彼女の研究って」
「気になるかい?」
そっと、彼女の去った後の寂しい轍を見据えながら話を続けた。
──────────────────────────────────
アンテンダイトはただの医大生である。
彼女は昔から要領だけは良かった。
何故、今、トレセン学園の医学部いるのか?
その話は今は詳しくは語れない。
──────────────────────────────────
「なぁ?アマテ、遊ぼう?」
彼女はパートナーブライト。
アマテの元クラスメイト。
「いまは、忙しいんです。後にして下さい」
彼女は研究中にしかつけることのない白銀の眼鏡のつるにかかっている長い横髪を掻きあげ、耳にかける。
「だって、お前いなくなって、めっちゃ暇なんだけど~、なんで、宮崎から出てきて。こんな所でべんきょうしてんの?ここ、都心だよ?」
彼女たちは九州の東。その昔、神が降り立ったと呼ばれる場所、今は普通の田舎からこちらへ上京してきた。
「私は遊びに来た訳じゃないから」
んっ、んー……彼女はその場で長々背伸びをする。
実はブライトが来てから3時間くらいたっている。
「やから、事前にメッセ送ったやん~」
「やけん、忙しいけん。また後な!」
えぇ!……ブライトは落胆する。
実はこのやり取りも5回目。
「もうすぐ”お昼”だから。ご飯食べよ?」
「……えっ?」
その単語を耳にして、徐ろに壁掛け時計を視野に入れた。
「!」
アマテはその事実に今まで頭に使っていた熱が一気に冷めて青ざめた。
「
お昼、終わるじゃん!!!!
」
──────────────────────────────────
~食堂~
たどり着いた時は、そこに食べ物がなかった。
「ごめんねぇ、今日はすき焼きだったんだけどぉ……」
彼女達の後ろで山のように積み重なる皿を空にしている芦毛の人物がまだ、食事をしている。
「?」
頬を齧歯類の様に膨らませチラリとこちらを見据えるウマ娘。
「フゴフゴ..……」
「オグリ、話したいことがあるんやったら。食い終わってからにせぇや?」
オグリキャップはパンパンに膨らんだ頬の中味を飲み込むと、徐ろに声をかける。
「あの……よかったら、一緒に食べるか?」
「オグリ先輩!いいのか?」
ブライトは尻尾をぶんぶん振り回し席に着く。
「えっ、いいんですか?」
「オグリがええよって言うてるんや、アンタもたべな?アマテ」
アマテは恐る恐る席に着いて、手を合わせる。
「「いただきます」」
~~~~
そこには、世界一標高のある山脈の様な形を成した皿達の山が出来上がっていた。
「所で、アマテ?」
「なんですか、マタモ先輩」
タマモクロスは周りに聞かれるのを憚れるかのように小声で耳打ちする。
「研究はどこまで行ってんの?また、あのレギンス欲しいんやけど?」
「……」
アマテは短く沈黙した。
「進行度的には28%位です」
「28%?!この間の奴で7%やったのに?!」
タマモは驚きのあまり立ち上がる。
その衝撃音に驚き、周囲のウマ娘の視線を集めるが彼女の存在を確認すると各々の食事を再開する。
「し、試作品は?」
タマモは嬉々として質問する。
だが、帰ってきた答えは簡素なものだった。
「試作2号はもう作って、実際にテストしました。
1走目 マイルを走ってもらいましたが、ウマ娘の脚力では耐久性が圧倒的に足りず400m位で解れ、完走する頃には破裂。これでは使い物には……」
「いや、完走出来る時点ですごいやん?」
アマテは、そう言われたが彼女が目指しているのは使い捨ての一時的な身体強化装着具ではないのだから、
「と言うか、アマテンダイト。君...」
走れるんだな? オグリはそっと、視線を鋭くした。
アマテはそれに耐えきれなくなり、席を後にして研究室に向かった。
~~~~
彼女が食堂から姿を消した後、ブライトはポツリと小言を漏らした。
「……アマテは走れるけど、走らないんだよ?」
ブライトはどこから持ってきたのか...チョコバナナクレープをモフモフしていた。
…って、ホント何処から持ってきた?
「どうこっちゃ?ブライト」
「ん~……アマテに言わないでね?」
パートナーブライトは昔の話を始めた。
──────────────────────────────────
7年前
~地元・宮崎~
あれは、急な事故だった。
登下校の途中。
私と妹は小学校からの帰り道、少し舗装された道路を歩いていた。
「ねぇ、ねぇ。おねぇちゃん!」
妹は縁石の上を一本橋を渡るようにバランスを取って遊んでいた。
「こらこら、カイ?あぶないよ~」
これだけ見れば、微笑ましい日常の風景だった。
不意に遠くから……
「あっ、うちのハチが」
飼い主の手を離れ、此方に向かってくる秋田犬。
そのまま、妹に伸し掛ろうとする。
「キャ!」
妹は秋田犬の重さに耐えきれず道路へ...
そして、
──────────────────────────────────
「で、それがなんであの子が走らない理由になるん?」
タマモクロスは疑問を口に出した。
これは、純粋に幼い時にそう言った悲しい出来事があった、それだけで彼女が”レースを走らない”理由にはならないからだ。
「まぁ、アマテが話さなきゃ。私は話さないよー、
じゃあ、先輩方。まったねぇ~」
パートナーブライトはその場を後にした。
「ん〜、難しいなぁ。タマ」
オグリは彼女に目配せをする。
「いや、オグリ。あまり、クビを突っ込むのはやめようや」
そっと、2人は食べ終えた食器を返却口に持っていった。
福の神の様な腹を突っ返させながら。
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深夜・27時
~グランド~
薄い叢雲が空を覆う、夜のグランド。
「ふぅ...」
月明かりや星明かりすらない暗い夜だが、目さえ慣れれば全然何があるか視認できる。
黒いタンクトップとデニムのクォーターパンツ、白いスニーカー。
その下に黄と赤の蛍光色で軌跡が描かれている黒のタイツを身につけていた。
「試作4号、距離 長距離。タイムは平均以下」
構える...
少し風が吹き、芝の切屑が舞い、若草匂いが鼻腔をくすぐる。
その時、月光が刺した。
「(バッッツ!!)」
大地を踏みしめ上半身を低く平行に、
膝を胸に当たるように引き付け、
足が地面に着いた時水をかく様に蹴る。
「はっ、はっはっはっ」
それを眺めている人物がいた。
「へぇ……面白いことしてんじゃん」
銀髪の奇人がそこには……いた。
~~~~
また、月が雲に身を潜める。
「はぁ、はぁはぁ……くっ、はぁ」
膝に手をついて激しい活動で荒れた息を調える。
「もう少し、早く走っても大丈夫?なのかな……」
そのよく回らない頭で走った結果を分析していると、視界に1本のペットボトル飲料が、
「センパイ、おっかれちゃんです!」
そのコーラを受け取り、蓋を開ける。
「あ、ありがとうございます。えっ…と……(!)」
そこにはジャージ姿のゴールドシップ、
(ウマ娘界のハジケリスト)その人がいた。
「(ヤバい……この人にはあまり関わりたくないのに)」
「いま、お前。私と関わりたくないと思っているな?」
「
なぜバレた!
」
色々な資料を見たがこの人はよく分からない……と言うか、分かりたくもない。
「練習中か?だったら、このゴルシ様が相手をしてやんよ~」
「……」
どうしよう(大汗)私あまり併走とかしたことないんだけど、
内心、アマテは大いに戸惑っていた。
「あっ、うぇええ……と私はこ」
「帰るとか言わねぇよな?」
うわぁ……これ、走らないと行けないやつだ。
渋々、了承し……併走をする事になった。
~~~~
月明かりが大地をまた照らす。
スタート地点にお互い思い思いの我流の構えをして、時を待つ。
そして、雲が流れ……
月が隠れた。
(バッツ!!)
ゴルシはその併走に驚いた。
「(はぁ?こいつ、遅いぞ?)」
「どうかしました?」
アマテが走っている速度は通常のウマ娘の初速の8割弱。
一瞬、ゴルシは自分が早いのか?と疑問を持ってしまった。
「おいおい、アタシは追込みなんだけど...それより遅いって……」
「まぁ……走れば分かりますよ」
2人の距離は約4馬身。
そのまま、1つ目のコーナーに入る。
ゴルシはいつも通りの入り方をする。
一方、
アマテは上重心をコーナー内に重心を傾ける……傾けるんだが、
「はぁ?!」
なんだよ、あの重心のかけかた……倒れるぞ!
アマテの体の軸は60°以下になる様に倒れており彼女の軌跡は斜めに足跡が残っていた。
そして、
「はっ、速えぇぇ」
4馬身差あった距離も、今や1馬身。
ゴルシ、焦る。
「あれ、先輩。どうかされたんですか?」
「ふん。まだ、腹6分目だ。まだ、カレーは食えるぜ!」
直線はそのまま、通過し最終コーナーに入ろうとする。
「(やっ、やべぇ。コーナーで加速ってどうするんだよォ)」
ゴルシもさっき、彼女がやった重心ん傾ける姿勢をやろうと想い、脳内シュミレートをかける。
「アタシの身長はりんご23個分だから、あの角度を再現すると……」
「あの先輩、コーナー来ますよ?」
おわぁあ……目を閉じて考えていたから入る準備を怠っていたが流石重賞レースを走っているだけある。
少し、膨らんだがコーナーインする……だが、
「すみませんね」
「ちょ!」
アマテはコーナーで加速する。
膨らんで空いたインコースを加速していく、
ゴルシはただ、見ていることしか出来なかった。
コーナー終了時、2人の間は2馬身。
いつものゴルシなら難なく、追えただろう……だが、
相手は直線前のコーナーから加速を始めて、ここでも加速する。
あっという間に、5馬身。
そのまま、彼女はゴールした。
「はぁ、はぁは……」
また、息が荒くなる。
「ほっほ、ふぅ……」
ゴルシも走り終えた。
その時、
(バリバリリリ!)
何かが破ける音がした。
アマテはこれが何を意味するか理解していた。
「やはり、耐久に問題ありですか……」
「おいおい、なんだよ。今の音は?」
アマテはそっと自分の下半身を指さす。
履いていたタイツが見るも無残に破れ散らかしていた。
「勝手に破けるタイツ?」
アマテは首を横に振る。
「私が研究している人工筋肉、身体強化装着具”Ansola”。
あの重心と加速はこれがあれば、後は少しの練習で出来るようになります。」
ゴルシはそれを聞いて欲しいと伝えたがアマテはうん、とは言ってくれなかった。
「残念ながら、貴女の体格に合わせようとすると構造上再計算を行わないといけなくなって、基礎モデルの完成が遅れるので……ごめんなさい」
ベンチに置いておいたタオルを手に取りその場を後にしようとする。
「なぁ?また、走らねぇ?お前気に入ったわ」
アマテは足を止める。
そして振り返り柔かな笑顔でこう言った。
「好きにしてください」
それから、叢雲の夜にゴルシと走る日課ができたが……
気が付くと、
(ガヤガヤ)
「なんか、人増えてる……」
グランドに来たアマテは……今27時だよね?なんで6~8人くらい人がいるの?と困惑していた、その後ろから、
「よっ?アマテ。待ってたぜ!」
「ゴルシさん……」
元凶はこの人だった。
まぁ、私は研究データが取れたので悪い気持ちはなかったのだが……まさか、あんな事になるとは思ってもなかった。
──────────────────────────────────
~数ヶ月後~
私は皇帝の前にいた。
「単刀直入に言う、アマ テンダイト……レースに出てくれ」
「…………いやです」
少し、間が空いたがすぐに切り返す。
「なぜだ?」
「それは……研究をする時間が惜しいからではダメですか?」
何かを突き詰めると言う意味では間違えてはいないだがしかし、
「なら、支援金を切る。研究室も没収し、普通の大学生になってもらう」
「そんな横暴な!」
それだけは、非常に困る。
資金も場所も設備もなければ研究どころの話ではない。
「それでも、走らないのか?」
「…………」
アマテは黙った、ここは答えない方が良いと考えたからだ。
すると、ルドルフはこう告げた。
「妹との約束か?」
「!」
アマテは驚いた、何故それを……
「何故って、顔をしている。隠そうとしても無駄だよ。君のお友達と両親への調書は出ている」
「……何もかも、お見通しって訳ね…はぁぁ」
あーやだ、やだ。アマテは傍にあったソファーに飛び乗り体を預ける。
流石、偉い人が座る椅子、ふかふかである。
「もし、君がレースに出るのであれば我が中央の粋を集めた技術をお貸しできるが……どうかな?」
悪い話ではない、が……
「お断りします。これは私の問題です」
そう言って、彼女は部屋を出ていった。
ルドルフはチラッと脇に置いてある資料を手に取る。
「両脚筋膨張軟化症か……」
さて、どうしたものか……ルドルフはまた空を見上げていい案はないかと物思いに耽った。
──────────────────────────────────
アマテが研究室に戻る道中、
「あっ!アマテ~」
パートナーブライトと鉢合わせた。
「探したけん、どこ、いっちょったと?」
「ブライトには関係ない……」
無視して、通り過ぎようとすると不意に右腕を掴ままれる。
「お前、大丈夫?」
「何が?」
ブライトは申し訳なさそうにこう答える。
「お前、今にも泣きそうな顔してるけん」
「えっ……」
と、頬を伝う熱い雫が流れている事に気付く、
「えっ……なんで(グスっ)」
「アマテ、こっちおいで…」
ブライトは彼女を平均より少し大きい柔らく暖かい胸に優しく抱いてあげる。
(静かに泣く彼女)
「辛かったんやね。話きこか?」
それから、拙い声で親友に何があったかを話した。
「それ、単純にアマテがレースに出ればいい……あっ、カイとの約束け?」
「そう、カイとの約束」
約束は始めてレースは彼女と一緒に走る。
そんな、簡単で難しい話ではない……はずだった。
「……あの日が悔やまれるね」
「うん」
あの日、妹…カイオーガイトは事故により腰椎を損傷、
結果として両脚筋膨張軟化症と言う、
足の筋肉が自身の意思では締めることが出来ず緩み自力で立つことが困難な障害を背負ってしまった。
だから、アマテは身体強化装着具”Ansola”を作った。
この完成系は1度履けば、日常動作はおろか……走ることも出来るそんな神器に等しいモノを作ろうとしていた。
「まぁ、たまには妹ちゃんに会いに行きなよ……宮崎は遠いけどねw」
「そうだね、ブライト」
ありがとう、元気でたよ……そう言い残して、研究室へ戻って行った。
──────────────────────────────────
~3日後~
妹の容態が悪化した。
私は慌てて、新幹線と特急列車、電車を乗り継ぎ(飛行機と船は苦手なので
妹が入院している病院へ急いだ。
「はっ、はっ、はっ」
「院内は走らないで「ごめんなさい!」はぁ…」
勢いよく病室の横扉を開ける。
「カイオーガイト!!」
そこには電動医療用ベットの上半身を上げ、体を預け外を眺めていた水色のショートヘアの少女がいた。
そして、私伸びかけに答える。
「えっ?おねぇちゃん?」
カイは驚きを隠せなかった。
「えっ、カイ。お前……」
アマテも驚きのあまり、目が点になる。
「カイ。お前、障害が全身に回って今にも命が途絶えるって病院から手紙が……」
アマテは震える声でそう口に出すと…背後から複数の声。
「おや、ここがこの地域の最先端医療の現場かい?何ともレトロな香りがするけどねぇ」
「レトロな香り……ここに来る前に四季……と言う喫茶店を……見つけました。後で……行きましょう」
「おい、カフェ。あたしも「いやです」最後まで言わせろ!」
と、見覚えのある3人と……
「うぅ……」
縮こまっている親友。
「ごめん、アマテ。皇帝に脅されて」
「なんて言われたの?」
アマテは気になって尋ねた。
ブライトは小さな声でこう言った。
「中央の人気、スイーツ店のパフェ食べ放題フリーパスくれるって言われて……」
ちらっと、その証を見せてくる
「「「「
釣られとるやん
」」」」
えへへ、ブライトとは照れ隠しで頭を搔く。
「ところで、アマテくん。この症状は外部からアプローチが難しい分野ではないのかね?」
アマテは苦虫を食んだ顔をすると、自分の弱さを認めた。
「はい、先輩。私の研究も80%強は進んでますけど、飽くまで筋肉の補助。筋肉そのものを支えるには力不足でした」
うんうん、タキオンは相槌を挟む。
「で、あの……宜しくければ、一緒に…」
彼女は口に出すのがもどかしいく、上手く話せない。
「一緒に……なんだね?」
タキオンは分かっていたが敢えて言わなかった。
そして、アマテは行った。
「一緒に研究させて貰えませんか?」
タキオンは少し俯いて口元を隠した。
心配になったアマテは近寄ろうとしたそれは稀有だった。
「その言葉、待ってたよ。何から始める?とりあえず、ケミカル Σ でも、投与するかい?」
気分が高まり、興奮冷めやらない研究者を彼女は静止する。
「妹を実験材料にしないでください」
すっ、と……このメンバーで身長のいちばん高い人物を指差す。
「あっ、あたしが?!いやいや、そんなの嫌だよ」
ゴルシは精一杯拒否の念を伝えるがそれは一言で消え去った。
「そうですか、折角この地方で伝わる伝説とか、ご飯の美味しい店……チキン南蛮もいいですね。宮崎牛とかもご馳走しても良かったのですけど、ほら、私大学で研究してるので資金はあるので……」
「やるやるやる。なんだよ、勿体ぶりやがってこのー」
ゴルシはアマテの頭を撫でる。
「みんな、ありがとう」
アマテは目頭が熱くなる。
「(おねぇちゃん……よかったね)」
その姿をカイは優しく見守っていた。
──────────────────────────────────
~3年後・4月前半~
私はパドックから先にコースに向かう為、ウマ道を通っていた。
「ブルブル、」
身体が震えている、そこに声をかける人がいた。
「おねぇちゃん♪♪」
カイオーガイトが鯨をモチーフにした青い勝負服を着て立ってた。
脚には白い”Ansola”。
「カイ……」
アマテが感動にふけっていると、カイから指摘された。
「おねぇちゃんの勝負服、全然可愛くないけど……」
私の勝負服は白いタンクトップに猫の線画が左脇腹にちょっとあるくらいで、夜色のフロントチャックのパーカーを着崩し、デニムのショートパンツ。
そして、紺色の”Ansola”。
「いいんだよ、私はこれで……」
なんとなく、覚悟も決まった。
そして、仲良く二人で手を取り、日の本に出て歓声を浴びた。
──────────────────────────────────
生とは、虚しいものである。
活きる為に何かしらの壁にぶつかり、時にそれを突破し何かを遺して行く者。
時にそれに押しつぶされ何もなし得ず、只怠惰に日々を過ごし消え行く者。
どれを選ぶかは、”キミシダイ”。
これから、彼女たちがどんなお話を繋いでいくのか、
それは、私が決める事ではない。
だが、これは言える。
幸せになって欲しいと、切に願うのが…
私の望みで、それは
”君たちにも言えるだろう”
~Forever like this~