Fate/Begins藤丸立香の聖杯戦争 〜Class:Assassin〜 作:紫道麻璃也
【Class:Berserker】
────『妻が浮気をしている』
知ったのは娘の結婚式前日のことだった。父親としては大切に育ててきた娘が嫁に行ってしまうことに色々と複雑に感じてしまうが、めでたいことだと気持ちを切り替えて結婚式のため意気揚々と単身赴任先から帰ってきた私は玄関で待ち構えていた妻にその事実を突きつけられた。携帯端末に表示された一糸纏わぬ姿になり仲睦まじく寝ている妻と会社の上司────社長の写真。しかも写真に映る妻の容姿は私と結婚した時期の容姿。
『あの子は貴方の子どもじゃなくてこの人の子なの。だから出てってくれる?』
そう侮蔑する様な視線を向け妻は家にあった私の物を詰め込んだバッグを押し付け追い出した。それだけに飽き足らず、数分後その上司から連絡があり、私は会社を解雇になった。理由としては人員削減のためと言っていたが真っ赤な嘘なのは薄々わかっていた。
「……………死に場所を探すか」
元々少々変わった養護施設育ちだった私にとって帰る場所は家族がいたあの家だった。だが追い出された身としてはもうその様な場所は無い。幸いにも通帳は単身赴任の時に一緒に持っていたから金はある。
「………うん?」
重くなった腰を上げ、視線を動かすと目についたのは一つのポスター。申し込み翌日で飛べるらしい怪しげなものだったが、死ぬことに変わりは無いのだから最期くらいは楽しもうと思い私はポスターに書かれている番号に電話を掛けた。
そして翌日、私は飛行機に乗り別の国にいた。学生時代に学んだ拙い英語を使い、何とか入国を果たした私はとある場所へ向かった。そしてその場所含め周辺での観光を堪能し終えた私は取っている宿には戻らずその場所に身を隠した。
────深夜
人の気配もなくなり、締め切った窓や扉から入る隙間風に少し寒さを感じるも行動に移した私は壁にかかっていたある物を手袋越しに降ろした。単身赴任になってから新しい趣味を始め、死に場所を求めていた私にとってはありがたい物だ。
(あの娘は知っているのだろうか………)
もう一生会えないであろう娘のことに心残りがあるが他人の子だとわかったあの時から会う資格などもう無いのだ………そして私が降ろした物にとって当たり前の行動をしようとしたその時──窓や扉から入っていた隙間風が止んだ。そのことを不気味に感じた私は辺りを見回した。だが何も無く誰もいない。
──すると私が降ろした物のすぐ下の床が青白い光を放った。突然のことで私は目を瞑ってしまった。
「君が私の召喚者か?」
屋内なのに突如風が吹き荒れ、光で眩しい中突如として私の耳に響いた声を確かめようと目を開くと私の前には少し霞んだプラチナブロンドの髪と血のように赤い瞳、そして首には大きな傷跡があるスーツ姿の好青年が椅子に座っていた。
「………しょ、召喚者?」
「そうだ………もしかして巻き込まれた系か?」
指をパチンと鳴らし私にそう問うた青年は椅子から降りると何かを確認するように私の周りをぐるぐると周り始めた。そして見つけたのか私の左手を取り手袋を剥いだ。するとそこにはタトゥーのような模様の赤いものが左手の甲にあった。
────こうして英霊バーサーカーと私────【
【Class:Rider】
夜の街を切り裂くように車は静かに走っている。窓の外には、無数の灯りが滲んで流れ、遠くには満ちた月が浮かぶ。
「貴方様が私に献上するのは『あらゆる願いが叶う黄金の杯』」
「ほう……『あらゆる願いが叶う』………か」
そう言いながらバックミラー越しに僕を見つめてくるのは指が何の抵抗もなくスルリと流れそうな長い
「その杯をを君に献上したとして何を対価とする?」
「不束者かもしれませんが私が貴方の妻となりましょう」
────こうして英霊ライダーと僕────【
【Class:Archer】
「おえぇちゃん…あういお」
(だれか……この子を、たすけて)
薄暗く湿気やカビによりジメジメした部屋の中で私は祈っていた。時計だけが情けの様に壁にかけられ、外に繋がる扉は南京錠で外から閉ざされている。そして唯一開くのは両親が客を連れて来たときのみ。最初は肉欲を抑えきれなくなった父親の相手をこの子の代わりに私が受けていたのだが、この子が母親に泣きながらその事実を伝えると母親は笑みを浮かべどこかへ電話をした。この子はこれで助かると思っている様で安堵の感情を出していたが私は見ていた────母親の顔が黒かった──
その数時間後私は知らない男に喰われていた。泣きながらこの子に見えない・聞こえないようにするのは苦心した。一日最低でも一人は母親か父親が客を連れて来る生活を送りどのくらいたったのだろうかここ最近客を連れて来なかった父親が久しぶりに姿を見せた。すると姿を見せた父親はこの子の髪をおもむろに掴みどこかへ連れて行こうとする。
「………あ…えて」
もう声と認識できなくなっている位に衰弱しきっている私の声は父親の耳には届かず連れていかれた。連れていかれたのは何やら怪しい炎が揺れる祭壇が鎮座する部屋。その祭壇に捧げられるように寝かされ手足に鎖を付けられたこの子は父親の顔を見る──黒かった。
「おああ…あん………あ?」
最近姿を見せない母親が気になり父親に再び声を掛けた。すると今度は聞こえた様で私たちへ振り向き何を言ったのか思考の表情を浮かべていた。
「あぁ、あの女か?ソレならそこにいるぞ」
父親は部屋の隅に指を差し私たちの視線を誘導した。そこには三つの黒い窪みとたくさんの白い突起のある丸い物体があった。この子は検討がついていない様だが私にはコレが何かわかる────頭蓋骨だ
(ああ、私たちもこうなってしまうのか)
もう抵抗する体力も気力も私とこの子には残っていない。母親が何故あんな姿になってしまっているかはわからないが知ったところで意味がない────
「…………て」
「んっ?」
まさか私の口からこんな言葉が出てしまうとは思っていなかった。だがこれを言わずに死んでしまったら後悔することになる────私は衰弱し切った喉を震わせ言った────
「た………すけ………………て」
その声が部屋に染み込むと部屋中の怪しい炎が全て消えた。急に光源を失ったことに父親は右往左往しているがそんなことはすぐに収まった。
「来た来た来た来た………きたぁぁぁぁぁぁぁ!!」
父親の目の前の足元に光を放つ円のようなものが微かに見えた。円はどんどん光を強くさせ強い風を起こし始めた。しばらくすると風が吹き止み、光る円があったと思われる場所には誰かが立っていた。
『………貴様が私のマスターか?』
「あぁ、そうだ!私が君のマスターだ!!さぁ、生贄も用意している!これで力をつけてくれ!!」
長い期間薄暗い部屋で暮らしていた私たちには誰かの顔がはっきりと見えない。声も何やら無骨で男か女かもわからない。だけど一つだけわかることがある──もうすぐこの子ともお別れなんだということが………
『………クズが』
「…ひょぺ?」
その誰かは父親に侮蔑の言葉を告げると懐に忍ばせていた拳銃を発砲し、額に風穴を開けた。仰向けに倒れた父親を私たちは見ていたが何も感じることは無かった。──否、助かったと感じた。
そんなことを思っているのも束の間父親を撃った誰かは足をこちらへ運んできた。そして私たちに──
『改めて問おう、貴女たちが私のマスターですか?』
────こうして英霊アーチャーと私たち────【かのん・しのん】の心温まる家族に出逢う聖杯戦争が始まった────
【Class:Lancer】
「ふむ………この部屋には良質な魔力が満ち溢れているな」
「あ、あああぁ………神よ……神よッ‼︎」
薄暗い私の汚部屋、そんな場所に神様が降臨した。ずっと夢見ていた理想的な男の子、そう認識した瞬間私は彼に心酔してしまった。神様からの望みならなんでも叶えてあげたい。何か食べたいのなら買ってくる、お風呂に入りたいのなら全身全霊で洗い流す、家が欲しいというならこの街の一等地に引っ越す、私は犬小屋でもいい‼︎だけどもし叶うのならば────
「そこの女」
「は、はい‼︎」
話しかけられただけで昇天しそうになった私は彼の次に紡がれる言葉を期待して待つ。どんなことを言われても即座に出来るように。
「気に入った、余に胎を捧げよ」
「………ほぇ?」
────こうして英霊ランサーと私────【
【Class:Saber】
「今からお前は俺様の奴隷だ!わかったな⁉」
「ッ⁉」
召喚に成功した俺様は英霊が名乗る前に令呪の一つを発動させ完全なる支配を行った。そもそも俺様はこの人種が大嫌いで手に入れた触媒が他にあるのならそれを選んでいたのは間違いない。だが、途中で中抜きが行われていたようで残っていた触媒は一つのみ。残っていた触媒がどこからどう見ても由来のものだと理解できた時は落胆した。だが、聖杯戦争まで時間がないことに変わりはないので仕方なく触媒として使うことにした。
「そして重ねて命ずる‼︎戦闘時を除き俺様の前に姿を見せるな!話しかけるな‼︎」
「………………」
そう令呪で命令すると承知したのか英霊はすぐさま霊体と化した。俺様がどんな英霊を召喚したのか気になるところでもあるが、そんなことはどうでもいい。俺様が英霊を馬車馬の様に使って勝ち残ればいいのだ。
────こうして召喚早々に令呪によって縛られた英霊セイバーと俺様────【アインザック・スミス】の野望を掴む聖杯戦争が始まった────
【Class:Casuer】
「『彼』の平穏を守らなきゃ」
ある一軒の洋館で私は自身の務めを果たすため誓いを口にする。幼少の頃から身近にいた幼馴染の『彼』。彼と家庭を持てばどんなに幸せだろうと思った日はあるが一般人である『彼』には伝えることなどできない。
「──天秤の守り手よ‼︎」
詠唱を終えると先程まで暴風のように荒れ狂っていた風が落ち着きを取り戻し、光を放っていた魔法陣の光も収束していった──だが、魔法陣の上には誰もいない。
「えっ、…失………敗?」
「いいや、成功しているよ」
「ッ⁉︎」
背後からの突然の声に反射的に魔術を構えた私が見たのは、私が小さい頃に練習していたピアノ──の座席に座り演奏をしている小柄で儚げなのに、神格的な存在感を放つ銀髪の少女がいた。
────こうして英霊キャスターと私────【東雲葵】の『彼』を守るための聖杯戦争が始まった────
【Class:Assassin】
「………………………………」
「………すぅすぅすぅ」
昨日の夜、一人暮らしの俺はいつもより少し早い時間に眠気を感じ、早々に横になったのは覚えている。
「………ねぇ」
「…すぅすぅすぅ………んっ?」
なのに朝起きたら部屋のベッドで寝ている髪を一つ結びにして流し、和服を着た小柄な女性がいた。それだけでも驚きだが、小柄な彼女に見合わない長さの刀を抱き抱えている状態で寝ており、この状況が理解できずちょっと怖かったが意を決して起こすために声を掛け、目を覚ますと同時に盛大な腹の虫の音が彼女からした。
「何か食べられるもの…ある?」
「………ちょっと待ってもらえるなら」
「楽しみ。おにぎりがあれば、なお良し」
頬が紅くなり上目遣いで彼女に見られたことに俺は少し拍子が抜けてしまったが、義兄の家に少しの間生活していたもう顔もあまり思い出せないとある少女を浮かべながら彼女に笑顔を向けて朝食の準備に向かった。
────こうして英霊アサシンと俺────【藤丸立香】の聖杯戦争が始まった────