「第五次から………八年」

午前一時四十四分。
夜は最も深く沈み、世界の輪郭さえ曖昧になる刻。

森に囲まれた神社は、静寂の底にあった。石段の脇に灯る行灯の火だけが、かろうじて現世との繋がりを示している。頭上には満ちた月。白銀の光が鳥居を、木々を、そして一人の巫女の姿を淡く照らしていた。

彼女はゆっくりと右手を差し出す。
その動きは、祈りにも似て、命令にも似ていた。

羽音が、夜の帳を裂く。

一羽の白い鳩が舞い降りる。月光を受けたその羽は神聖さすら帯び、現実の存在とは思えないほどに清らかだった。鳩の脚には、一通の封書。朱い蝋で封じられ、そこには厳かに刻まれた印がある。

――それは、選ばれし者への呼び声。

鳩は彼女の手に一瞬だけ触れ、すぐに羽ばたいた。
その瞬間、封書は淡く光り、粒子のようにほどける。

光は七つに分かれる。
それぞれが意志を持つかのように、夜空へと散っていく。

東へ、西へ、南へ、北へ。
都市の影に潜む者、灯りの下で眠る者、戦いを知らぬまま選ばれた者たちへ。

七人のマスターの元へ――。

彼女はその光景を、ただ静かに見送る。
感情の波はなく、ただ「役目」を果たす者の瞳だけがそこにあった。

やがて最後の光が闇に溶けると、森は再び沈黙を取り戻す。

彼女はゆっくりと目を閉じ、そして開く。
その瞬間、世界の歯車が音を立てて動き出したかのようだった。

静寂の中、彼女の声だけが響く。

「第六次聖杯戦争の開始を宣言する………冬木の地へ来れ」


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  プロローグ
  帰郷──そして、静かに始まる戦場2026年05月04日(月) 00:00
  夜道、エンジン音、そして“当たり前”になった関係
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