文芸部を追放された俺、廃墟ゲーセンで都市伝説クエストを攻略する 〜追い出された天才絵師と、学校怪異を解いていく〜 作:オカノヒカル
■ 第12話 渡り廊下の絵と、顔のない少女
壁に掛けられた絵が、俺に向かって⼆⽂字の⾔葉を投げつけた
『凡才』と……。
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旧館と新館をつなぐ渡り廊下は、この学校で唯一、時間の流れ方が違う場所だと思う。
壁の両側に卒業生の絵画作品が並んでいる。油彩、水彩、アクリル。テーマも画風もばらばらで、年代順に並んでいるわけでもない。ただ何十枚もの絵が、色褪せたり日焼けしたりしながら、誰に見られるでもなく壁に貼りついている。
放課後の渡り廊下は人通りが少ない。新館側の部活棟に用がある生徒は一階の連絡通路を使うし、旧館に残るのは被服部や天文部みたいなマイナー部活の連中くらいだ。俺がここを通るのは、単に帰り際の人混みを避けたいだけの話で、それ以上の理由はない。
だから、いつもなら素通りしていた。
なのに今日は、足が止まった。
廊下の中ほど、やや高い位置に掛けられた一枚。他の作品と同じB3サイズの額縁に収まっているのに、そこだけ空気の密度が違った。
制服姿の少女が描かれていた。桂明高校の濃紺ブレザーに、グレーのチェック柄スカート。赤いネクタイ。正面を向いている。
——顔がない。
目も鼻も口もなく、肌色の楕円がそこにあるだけだ。
のっぺらぼう。
そう呼ぶしかないほどに、その空白は鮮烈だった。ブレザーの縫い目、ネクタイの織り模様、スカートのプリーツに落ちる影。制服のディテールが驚くほど精密に描き込まれている分、顔だけがぽっかりと欠けていることの異様さが際立つ。
技巧的にも高校生の域を超えている。背景は抽象的な灰色のグラデーションで、特定の場所を描いたものではない。少女の立ち姿だけが、静かにこちらを——見ている。目がないのに。
何かに引っ張られるように絵の前に立ち尽くしていると、不意に視界の隅がちらついた。
額縁と壁のあいだ。うっすらと、文字が浮かんだ気がした。
——凡才。
目を細める。もう一度見る。何もない。壁のわずかな汚れと、蛍光灯の反射があるだけだ。
「……残像か。目の錯覚か」
声に出してから、周囲に誰もいないことを確認した。独り言の多い人間は信用されない——そういう損得勘定が反射的に働く。いつもの癖だ。
だが、見えた文字は頭に残っている。
凡才。
よりにもよって、一番見たくない二文字だった。俺は小説を書いている。ネットに投稿している。大した評価は得られていない。文芸部を追い出された理由は「低俗なラノベを持ち込んだ」だ。凡才。その言葉が刺さらない日はない。
だからこそ引っかかった。あれが単なる錯覚なのか、それとも何か仕掛けがあるのか。
額縁の裏側に手を伸ばしかけて、やめた。学校の備品を勝手にいじるのはまずい。それに、仕掛けがあるなら触って壊すのは一番愚かな手だ。
観測しろ。触るな。壊すな。記録しろ。
俺はスマホで絵の全体を撮影し、額縁の下に貼られた小さな紙を確認した。
——二〇一七年度卒業制作。
読めたのはそこまでだった。紙は経年で少し黄ばんでいて、他にも細かい文字が並んでいるように見えるが、ここからでは潰れていて判別できない。題名も作者名も、その場ではわからなかった。
額縁の右下の隅にも、何か小さな文字がある。署名か、管理番号か、あるいは連絡先の類かもしれない。だが薄くて読みづらい。今は時間もないし、無理に覗き込んで触るのは悪手だ。
写真に収まっていることだけ確認して、俺は先に進んだ。
**
その夜。ベッドに転がり、スマホの画面を睨む。
桂明高校の非公式Discord——ねむが作成し、今も管理を続けているサーバーだ。前のクエストで都市伝説の拡散は止まったが、サーバー自体は閉じさせていない。噂の流れを追うにはあそこが一番都合がいい。ねむもそれをわかっていて、黙って管理者を続けている。
都市伝説フォーラムをスクロールしていくと、見覚えのない話題が立っていた。
『渡り廊下ののっぺらぼうの絵って知ってる?』
『あー、あの顔のないやつ? 二年の先輩が気持ち悪いって言ってたやつだろ』
『あの絵の前に立つと、見た人にだけ文字が浮かぶらしいよ』
『マジ? 何が出るの?』
『人による。自分の本質を暴かれるんだってさ』
『都市伝説じゃん笑』
『試した人いるの?』
『友達が試したって言ってた。「臆病」って出たって』
『うそくせーーー』
怪談レベルの噂話だ。具体的な被害報告はなく、「友達が言ってた」の連鎖。ありふれた学校の都市伝説——そう片づけるのは簡単だった。
本当なら、昨夜届いた差出人不明のメールの方を考えるべきなのかもしれない。
——あなたは、あなた自身の真実を知りたいですか?
それとも知りたくないですか?
あの一文は、まだ頭の奥に引っかかったままだった。
オボロが珍しく黙り込んでいたことも含めて、思い返すたびに気分が悪くなる。
けれど、自分のことを考えるより先に、外にある異物の方へ目が向く。
渡り廊下の絵。顔のない少女。見た人にだけ文字が浮かぶという噂。
観測者なんて、たぶんそういう逃げ方の言い換えだ。
だが、俺には引っかかるものがある。
今日、あの絵の前で「凡才」が見えた。
偶然の一致にしては出来すぎている。友人が試して「臆病」。俺が見て「凡才」。もしこれが思い込みではなく何らかの仕掛けによるものなら——原理としてはどうなる?
目の前に立った人物に、その人物だけに見える文字を表示する。一対一の表示。角度を限定した光の反射か、レンチキュラーレンズのような視差を利用した仕掛けか。いや、「人によって違う文字が出る」のだとしたら、固定の仕掛けでは説明がつかない。
考えても仕方がない。情報が足りない。
俺はフォーラムのスレッドをブックマークして、スマホを枕元に置いた。
**
翌日の放課後。
校舎を出ると、初狩が何も言わずに後ろについてくる。廃墟ゲーセンに行くことはもう決定事項なので、いちいち言葉を交わすまでもない。かといって常に隣に並んで歩くような間柄でもなく、俺たちのあいだには二歩くらいの距離がある。それでも最初の頃よりは近づいたと言えるだろうか。
ふと振り返ると、初狩は視線を地面に落として、つまらなさそうな顔で歩いていた。
まあ、そうだろう。俺と一緒に歩くのが楽しいわけがない。あいつの目当てはゲーセンのPCとペンタブレットであって、俺はその手前にある鍵を持っているだけの人間だ。
——と、初狩の表情が変わった。
目が見開かれ、視線が正面に跳ねる。俺はつられて前を向いた。廊下の角を曲がろうとしている人影。見慣れた——いや、見慣れてはいるが、この場所にいるはずのない服装。
チャイナドレスを基調にした格闘装束。サイドに深くスリットの入った紅いスカート。編み上げのブーツ。
「ファーメイ?」
口をついて出た。格闘ゲーム『ストリートバンデッツ(ストバン)』の人気キャラ、ファーメイのコスプレだ。
テンションが一気に跳ね上がる。俺は自分でも驚くほどの速さで、小走りにその背中を追いかけた。
角を曲がった先にいたのは、ファーメイだけではなかった。もうひとり——白と蒼を基調にした軍服風の衣装。銀の飾緒、膝上のプリーツスカート。ストバンのもうひとりの人気キャラ、ラシー・ガーネット。
「あれ? たしか才くんだっけ?」
ファーメイ——ではなく、コスプレ姿の笹子先輩がこちらを振り返った。
「それ、ストバンのファーメイですよね? あと、そちらはラシー——」
興奮で声が上ずる。ラシーのコスプレをした女生徒がこちらを向いた。切り揃えた前髪の下、少し眠たげな目。
「そうそう。ストバンね。懐かしいでしょ」
「今も現役でやってますよ」
「昔のゲームなのに知ってるんだ?」
「現役でプレイしてますよ」
「移植されたのってPS3でしょ。物持ちいいね」
「正確にはアーケードなんですけど。実は叔父が閉店したゲーセンの管理を放り出しまして、俺が鍵を持ってるんです」
「へえ、面白い環境だね」
「ええ。あそこは時が止まってますから」
その言葉に興味を引かれたのか、ラシーのコスプレの先輩が一歩近づいてきた。
「今度あたしもそのゲーム触りたいんだけど、いける?」
「ええ、いつでもどうぞ。——それよりも、そのコスプレ撮ってもいいですか?」
「まるでカメコの少年ね」
先輩は笑い、書類の入ったクリアファイルを軽く振った。
「今、屋上の使用許可取ってきたところ。そこで動画を撮ろうと思ってたの。固定カメラだとつまんないからさ。キミ、カメラ回してくれる?」
「はい。喜んで」
観測者を自称する人間にあるまじき即答だったが、後悔はしなかった。カメラマンはある意味、究極の観測者だ。——そういうことにしておく。
「あたしは被服部部長の山田冴子。よろしくね」
屋上へ続く階段を上がりながら、ラシーの先輩が名乗った。振る舞いに無駄がない。階段の踊り場で鍵を開け、防火扉を押さえ、後続を通す。その一連の動作に迷いがなかった。
「俺は一年三組の高尾才です」
「ああ、笹子っちの言ってた子ね」
「才くん、あのときは本当にありがとね」
笹子先輩に改めて礼を言われ、首の後ろがむず痒くなる。
「いえ、あれは成り行きっていうか。どっちかというと——」
振り返ると、初狩が二歩後ろについてきていた。いつもの距離だ。
「初狩の方が助ける気満々でしたよ」
「ああいうのは……見ていて気分のいいものじゃないですからね」
初狩は目を伏せて、小さな声で言った。
「そっちの子は高尾ちゃんのカノジョ?」
山田先輩が振り返りざまに聞いてきた。
「違います」
「違います」
同時に出た声が、階段の壁に反響した。
「おお、きれいにハモったね。わりと気が合うんじゃない?」
**
屋上は、風が強かった。
コンクリートの床に夕方の光が薄く広がり、フェンス越しに校舎の影が長く伸びている。梅雨入り前の空はまだ明るく、薄い雲が風に流されて形を変えていく。
山田先輩が一眼レフタイプのデジタルカメラを差し出した。動画も撮れるタイプだ。
「説明いる?」
「いえ、この手のカメラは扱い慣れてます」
「じゃ、まずは静止画から」
「あ、あの——」
初狩が小さく手を挙げた。
「先輩方を、スケッチしてもいいですか。なんかいい絵が描けそうで」
「いいよ。初狩ちゃん、絵描きなんだ」
「ええ、まあ……」
「部活は美術部?」
「いえ……その」
「漫研とか?」
「すみません。どっちも追放されました」
「そっか」
山田先輩はそれ以上聞かなかった。深掘りもしなければ、同情も挟まない。「そっか」のひと言で受け取って、次に進む。
「それよりも撮影始めるんですよね? わたし、邪魔にならない場所でスケッチしてますので」
初狩はフェンス際のコンクリートブロックに腰を下ろし、スケッチブックを膝の上に開いた。
「じゃ、いこっか」
山田先輩が手際よくポジションを決める。笹子先輩——ファーメイの衣装のまま、軽く肩を回して応じた。
「了解です。あんまり盛りすぎんといてくださいよ」
「盛るのは編集でやるから」
軽口を叩き合う二人は、完全に息が合っていた。
俺はファインダーを覗き込む。笹子先輩がゆっくりと構えを取った瞬間、シャッターを切った。
モニターに映った画像を見て、息を呑む。
衣装の再現度。足の運び。重心の位置。風に靡くスカートの動き。全部が「ファーメイ」だった。コスプレを着た男子高校生ではない。キャラクターそのものがそこに立っている。
「……すごいな」
「でしょ。こういうの、動きがきれいなんだよね」
山田先輩が腕を組んで頷く。笹子先輩は少し照れたように頬を掻いた。
「うち、格ゲーのキャラやと体の向きとかクセで覚えてしもてるだけやし」
「その"だけ"が大事なんですけどね」
静かな声が聞こえた。フェンス際で、初狩がスケッチブックにペンを走らせている。目線は紙の上だった。
撮影の合間にちらりと覗く。荒いスケッチではなかった。立ち方、重心の移動、風に揺れるスカートの線——人間の「動き」そのものが紙に写し取られている。
圧倒的な才能の塊。凡才の俺には、嫉妬という感情すら届かない高さだ。
「何か言いました?」
独り言が漏れていたらしい。初狩がペンを止めずに聞いてくる。
「なんでもない」
撮影は順調に進んだ。勝利ポーズ、挑発ポーズ、技の一瞬の残心。俺は夢中でシャッターを切り続けた。ファインダー越しの世界は心地いい。自分がどこにもいなくなれる。
「高尾ちゃん、カメラ慣れてるね」
山田先輩に言われて、少しだけ肩が強張った。
「母がカメラを仕事で使う人で、小学校の頃から手ほどきを受けていたんですよ。デジカメじゃなくてフィルムも扱わされたんで、最初はだいぶフィルムを無駄にしましたけど」
「十年選手じゃん。どうりで、フレームが安定してるわけだ」
褒められ慣れていない。視線をファインダーに逃がして、次のシャッターを切った。
**
撮影が終わると、山田先輩が腕を伸ばしながら言った。
「今日はありがと。高尾ちゃんのカメラ、かなりいいよ。——そっちの初狩ちゃんも、スケッチ見せてもらったけどプロレベルだよね。同人誌とかやってそう」
「ファンアートはけっこう描いてますよ。蝶子とかファーメイとか」
「だったら衣装の細部を描き起こせるよね。コスプレ作るとき参考になりそう」
「冴子先輩、そんな物欲しそうな顔してると逃げちゃいますよ」
笹子先輩が苦笑いでツッコむ。山田先輩は悪びれもしない。
「うち人手足りないんだよね。見学だけでもどう?」
被服部への勧誘。唐突だが、山田先輩の口調に押しつけがましさはなかった。「来たければ来い」。それだけだ。
「考えておきます」
「行きます」
俺と初狩の返事が同時だった。
初狩の即答に、山田先輩が「お、いいね」と笑う。笹子先輩も「やったー、時雨ちゃんと蝶子の話できるー」と無邪気に喜んでいる。
俺は「考えておきます」と言った。嘘ではない。部活動に所属するということは人間関係が発生するということだ。面倒事が増える。損得勘定で言えば、メリットは少ない。
——なのに、断らなかった。
初狩がこちらを見て、わずかに口角を上げた。「行くんでしょう?」とでも言いたげな目だ。
俺は視線を逸らした。
**
廃墟ゲーセンREX。
シャッターの隙間から滑り込み、ポータブル電源のスイッチを入れる。薄暗い店内に、筐体の画面とデスクトップPCのモニターの光だけが灯った。カビと埃と古い配線の匂い。いつもの風景だ。
初狩は真っ直ぐ奥のPCに向かい、ペンタブレットを接続している。最近は毎日のようにここで何かを描いている。何を描いているのかは聞いていない。聞かないのが、今の俺たちの距離感だ。
「初狩」
「はい?」
「Discordで、ちょっと面白い噂が流れてる」
スマホの画面を見せた。「のっぺらぼうの少女」の都市伝説スレッド。初狩は手を止め、画面をスクロールしていく。
「面白い噂ですね。見た人にだけ文字が浮かぶ、ですか」
「昨日、俺もあの絵の前を通ったんだが——」
言いかけて、止めた。
「凡才」が見えたことを、初狩に言う必要があるのか。錯覚か仕掛けか判断がつかない段階で、中途半端な情報を共有するのは非効率だ。
「通ったんですが?」
「いや……まだ事件性はないなと思って。ただの怪談だ」
初狩は少し首を傾げたが、追及はしなかった。視線がスレッドに戻る。
「でも、この学校の都市伝説って——前の二件もそうでしたけど、ただの噂で終わったことがないですよね」
鋭い。まったくその通りだ。「座敷童は"いない子"の影」も「絶死の呪い」も、最初は怪談レベルの噂だった。それが現実の誰かの痛みと接続した。今回もそうならないとは限らない。
『面白くなりそうじゃな』
背後で声がした。
振り向くと、薄闇の中にオボロがいた。白い毛並みが筐体の光を受けて、ぼんやりと輪郭だけを浮かばせている。口元だけが笑っていた。
「面白がるな」
『面白がっておるのはお主もじゃろう。あの絵が気になっておる顔をしておったぞ』
「……気になるのと面白がるのは違う」
オボロは答えず、煙のように薄くなって消えた。あいつはいつもそうだ。核心だけ突いて、後は知らん顔で消える。
その時——デスクトップPCのモニターが明滅した。
メールソフトに新着の通知。差出人は——不明。
俺と初狩は顔を見合わせた。
アプリを開く。
────────────────────────────
差出人:不明
件名:クエストNo.0003『のっぺらぼうの少女』
本文:
【ミッション】レッテルの正体を見極め、真相を解明しろ。
それは、本当に"顔がない"のか。
それとも、誰かが削ぎ落としただけか。
貼られた言葉を、信じるな。
残ったものを、観測しろ。
真相は、
語られていない場所にある。
────────────────────────────
「レッテル——」
俺は画面を睨んだ。
「レッテルの正体を見極めろ、か。……まだ誰にもレッテルは貼られてないんだが」
都市伝説は怪談レベルの噂でしかない。特定の誰かが攻撃されているわけでもない。あの絵の前で「凡才」が見えたのは俺だけの体験であって、被害者がいるわけでもない。
なのに、クエストが届いた。
今までのクエストは、起きている問題か、これから起きる予兆かのどちらかだった。「いない子にされる」は初狩へのいじめがすでに始まっていた。「絶死の呪い」は安田が巻き込まれるより先にメールが届いていた。
だが今回は、誰が傷つくかすら見えない。
予兆だ。これから何かが起きるという——予告。
『これからじゃよ』
オボロの声が、薄闇のどこかから届いた。姿は見えない。
俺は画面を見つめたまま、何も言い返せなかった。
初狩が楽しそうに笑いながら呟く。
「……来ましたね、次のクエスト」
「ああ」
「高尾クン」
「なんだ」
「さっき、あの絵の前を通ったとき——何か見えたんじゃないですか?」
やはり誤魔化せなかったか。この子は妙に勘が鋭い。いや——絵を描く人間は観察力が高いのだ。俺の顔のわずかな変化を、読み取ったのだろう。
「……文字が見えた気がした。目の錯覚かもしれない」
「なんて?」
「——凡才」
言ってしまってから、少し後悔した。
だが初狩は笑わなかった。
「なるほど。それは確かに、高尾クンには刺さりますね」
「容赦ないな、お前」
「事実ですから」
初狩は画面に目を戻した。
「レッテルの正体を見極めろ——ですか。面白い問題設定ですね」
「面白いって言うな」
「事実です」
初狩がもう一度小さく笑う。
俺はクエストメールをもう一度読み返した。
——貼られた言葉を、信じるな。残ったものを、観測しろ。
まだ何も見えていない。何が起きるのかもわからない。
だが、一つだけわかることがあった。
あの絵には、何かがある。そして、それを利用しようとする誰かが——これから、現れるということを。