牡丹は花火になりたい   作:ズンドロ

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手足が海鮮市場の魚の様に並べられていた。それから身元を割り出すのに2か月かかった。
────ある軍医の手記


天守島異能力学校編
異能力学校の先生になりました


2051年12月28日 千葉県 新船橋市 トアルスーパ

 

「広告の白菜は売り切れでございまーす」

 

 菅原 牡丹(すがわら ぼたん)は困っていた。それは、彼女がともに暮らしている老夫婦の昼食用に買おうとしていた、一個89円の白菜が目の前で売り切れてしまったのだ。

 

「……どうしよう」

 

 牡丹を末の娘のように可愛がっている菅原 椿(すがわら つばき)、彼女ならばありふれたことであると笑い飛ばすだろうが問題は彼女の夫、目白(めじろ)であった。彼は白菜が大の好物であるのだ。

 目白は今日の朝も勝手に白菜を食し、椿に軽い小言を言われていた。

 

 急いで別のスーパーマーケットに行き白菜を入手できたが、値段が倍になってしまったと、牡丹はトボトボと雪が降る帰路に就いた。

 この家に来て7年が経つがこの老夫婦は食事の時だけ非常に頑固…面倒であるのだ。今回はまともに見える椿もパンに関してはとにかくこだわりが多く、挙句の果てにはパンの捏ねすすぎで腕を疲労骨折する始末である。

 食事はエネルギーを取れれば良いと考えていた牡丹とって最初は理解不可能なモノであったが、今では二人は似ているなぁとしか思っていない。

 

「……ただいま」

「おかえりなさい、牡丹」

「おぅ帰ったか、タン」

「「手洗いと、うがい」」

 

 この変なところで息があった夫婦に牡丹は苦笑し、牡丹をタンと呼ぶ目白に白菜の入ったバックを手渡し洗面所に向かった

 手洗いとうがいを済ませ牡丹は鏡に映る自分を見た。

「…もう少しのびて…欲しかったな。もう…手遅れだけど」

 

 幼い顔、肩甲骨あたりまで伸びる髪、かろうじてジェットコースターには乗れる程度の身長、凹凸のない身体、菅原家に来てから何一つ変わっていない容姿。

 そう一見小学生から中学生にしか見えない彼女、菅原 牡丹はもう21歳の誕生日を先週迎えた成人女性であるのだ。現在無職であるが。

 楽しそうに切った白菜を鍋に入れている目白を尻目に、牡丹はテーブルに食器を並べた。

 

「「いただきます」」「……いだだきます」

 

すると、付けてあったテレビから緊急ニュースが流れてきた。

『本日午前11時ごろ、新潟県内の市立雛菊小学校にて、大規模な火災が発生しました。消防の発表によりますと、出火元は校舎2階の教室と見られ、現在も消火活動が続いています。

県警の調べによりますと、火災の原因はこの小学校に通う4年生の男子児童による発火系異能力の暴発と判明しました。周囲の証言によれば、当該児童はかねてより一部の同級生から異能を理由とした執拗な嫌がらせを受けていたとの情報もあ』

 

突然プツリと切れたテレビに牡丹はリモコンを探そうとするが、椿がリモコンを持っていることに気づいた。

 

「さて、食事の続きをしましょう」

 

 ニュースの続きを見たい気持ちを抑えて牡丹は甘い卵焼きに少しケチャップをつけて食べた。

 

「……おいしい」

 

 牡丹は二人は能力者を差別しない稀有な存在であることに感謝をしているが、同時にある種の危機感を覚えている。

 能力者はいともたやすく命を奪い去ってしまう存在であるからだ。それを牡丹は一番よく知っている。

 

「「ごちそうさまでした」」「……ごちさまです」

 

 目白が食器についた水をふき取り、食器棚にしまいながら牡丹に話しかけた。

 

「タンよぉ、異能者学校で働くは気はねえかぁ」

「ちょっと、あなた、牡丹に話すののはまだと決めているでしょう!!」

 椿が珍しく声を荒げたが、目白は気にせず続けた。

 

嵐山(あらしやま)さんがよぅ、タンに頼みごとがあるらしいんだよぉ」

 

「……いいよおばあ様…嵐山さんが…なんで、出動?」

 

 目白はあわてて食器を取り落としそうになりながら。

 

「あぁ違う違う、嵐山さん言うにはよぉ、天守島(てんしゅとう)異能力学校つーところの、異能戦闘の先生が産休に入りそうだからタンにその間だけやってもらいてぇらしいんだわぁ」

「……天守島…小笠原の…軍事施設?」

「そうそうぅ、そこの学校だぁ、まぁ異能部隊たちのヒナどもに死なない方法を教えてくれって、嵐山さんがいってたぜぇ」

 

 椿は来年で90歳を迎えるというのにしっかりとした動きで牡丹の隣の席に座り、手を握った。

 

「いい牡丹、嵐山さんはね別に牡丹を傷つけようとしているんじゃないの、牡丹は今21歳これから長いでしょう、だから私たちが死ぬ前に仕事を見つけるためにっていってくれたの。牡丹は働かなくてもいい位のお金は持っているけれどそれは働かなくてもいいってことじゃないの」

「そうだぞぉ、嵐山さんは牡丹を一番見ているおれらに言うかどうかを決めてほしいって、頭下げてお願いしてきたんだぞぉ」

 

 牡丹は一度大きく深呼吸をしてから。

 

「…話だけでも聞いて…みる」

「そうかぁ、話し合いは嵐山さんと牡丹が最後にあった場所でやるんだとよぉ」

「…分かった、私はスーツ探してくるね。……嵐山さんに連絡お願いします」

「牡丹、無理しなくてもいいんですよ」

「…大丈夫」

 

牡丹は自室に入りベットに倒れこんだ。

 

(天守島の学校は軍の基地にある.なんで私をそんな場所に?最近は情勢も安定しているが)

 

 牡丹は枕を抱き寄せながら嵐山と初めて出会った時のことを思いだしていた。

 

      2038年 7月4日 太平洋沖 護衛艦しまず

 

 護衛艦しまずの一室で、軍服を着た少女と男が向かい合っていた。

 

「君が”花火”だね。初めまして僕は、嵐山 実巳(あらしやま さねみ)、陸軍で陸将をしている少し偉いおじさんなんだ。これから君は僕の直属の異能部隊として働いてもらう、よろしくね」

「…分かりました、やることは変わらないんですよね」

「そうだよ、何時もどうりのことをしてもらう」

 

 牡丹はその答えを聞いたきり、目の前のモノから一切の興味をなくした。続けて嵐山が何か続けて言っていたが、彼女にとって外界とは壊すモノと壊さないモノの二種類のみであり、壊さないモノに興味はないからだ。着ているぶかぶかの軍服に付けられた多くの勲章がきらりと光を反射するのを見てまた増えるのかと考えていると。

 

「────というわけで君には、ニューカレドニアにある敵基地を破壊してもう。……話聞いているよね、体調とか悪い?」

「……聞いています。……体調も大丈夫です」

「ならいいんだけど、体調管理はしっかりね。明日の05:00に荷物をまとめて、この部屋に来て」

「……はい」

 

 牡丹は幽鬼のような足取りで部屋から出て行った。

 

(あの人が新しい"じょうかん"、前のはどんなものだったっけ、まあいいや)

 

そして牡丹は────

 

 

 

     2051年12月28日 千葉県 新船橋市 菅原家 牡丹の部屋

 

 牡丹は、椿が自らの部屋の前に居る気配を察知して、眠りから覚めた。

 

(眠っていたのか、おばあ様は何の用だろう)

 

 

「牡丹、スーツは見つかったのかしら」

「…まだです…おばあ様」

「そうでしょうね、私の部屋のクローゼットにありましたよ、そうそう嵐山さんから、明日10時に会おうですと連絡が来ました」

「…わかりました」

 

 牡丹はスーツを椿の部屋から回収して、クローゼットに入れた。

 

(明日は10時だから9時に家に出ればいいのか。後これも必要か)

 

 そして、鍵付きの棚から取り出した革張りの小箱を取り出して中にある黒い勲章を確認してからバックに詰めた。

 

 

    2051年12月29日  福岡県 福岡市 国家防衛監督省 九州異能管理局 1階

 

 着慣れていないスーツに身を包み、待合室の椅子に座っている牡丹は手慰みに先ほど食べた最中の包み紙で折り鶴を折っていた。

 

『受付番号1129番、13番窓口までお越しください』

 

(13番窓口はあそこか、30分くらい待たされたけど、今は9:45約束には間に合うかな)

 

 牡丹は機械音声の案内の通りに13番窓口に向う。すると、13番窓口にいる恰幅の良い女性が牡丹に話しかけた。彼女の胸元に着いている名札に成田とある。

 

「本日はどのようなご用件でしょうか」

(小さい子、異能の申請かな)

「……ええと、嵐山さんに用があって」

(嵐山そんな職員いたかしら、記録分別(メモリーソート) 探索(サーチ):九州異能管理局 職員 嵐山 結果:記録(メモリー)に存在しません)

 

 成田は嵐山という職員は九州異菅(九州異能管理局)にいないと、彼女の異能力(メモリーソート)で確認した上で牡丹に言った。

 

「嵐山にですか、申し訳ありませんが、書類など目的の分かる物はお持ちではありませんか」

 

 牡丹はスーツのポケットの中から革張りの小箱を取り出して、成田に渡した。

「……これで分かると…思います」

「なるほど、一旦確認させていただきます、……成田です、14番窓口案件です。局長呼んでください。……はい、なんでって…黒勲章(デリートワンズ)です。今案内のものを呼んでいますので少々お待ちください」

 

 成田は内線電話をかけた後、叫びそうになったのを押しとどめた自分を称賛、今日だけビールを解禁することに決めた。地蔵のように微動だにしない牡丹を見ながら、忘れてしまうことを考えた。

 

(嘘でしょ、こんな小さな子が黒勲章(デリートワンズ)を持っているというの、この案件後で口止め来るわね。もし黒勲章(デリートワンズ)がこの子のものなら、内閣総辞職どころじゃないわね、しかも四つ星、存在しないと思ってた、一介の役所職員には重すぎる話ね、というかこれ局長が極秘で対応する話よね)

 

「……あの……それ返してもらえますか」

「ああ、ハイどうぞ」

(成田さん、すごいな。叫びそうになったのにあんなに落ち着いて対応して)

 

 そして、重苦しい静寂を破ったのは杖を突いた老人だった。

 

「大変申し訳ありません、菅原牡丹さま。九州異能管理局の局長をしております、(いぬい)と申します。約束のお相手はあと五分ほどで来るそうです。成田さん、後は私が引継ぎをしますので、"第二準備室で待っていてください(機密保持契約を行う)"」

「分かりました、"お茶(契約)の種類はなににしますか”」

「”ミルクティー(異能契約書)”の準備をお願いします」

「かしこまりました」

(ということは黒勲章(デリートワンズ)はこの子…この人の物なのね、一枚数百万する異能契約書を使うくらいだもの)

 

 乾は牡丹を連れて、エレベータに入り階数ボタンを複数回押し、エレベータがゆっくり存在しないはずの地下に進んでいき5分くらいたってから、ようやく牡丹を見た。

 

「菅原牡丹さま、これはただの独り言として聞いてください。今日はたまたま成田という信頼できる職員が対応しましたが、お恥ずかしいことに信頼できない職員もおります、故に──」

「……分かった、もう見せない」

「それならよいのですが。さて私はここまでです。あとはエレベータから出たら、部屋は一つしかありませんので迷うことはないでしょう。そこに約束のお相手がおります、どなたかは私は存じ上げませんが」

 

 エレベータは止まった。牡丹はエレベータから出て乾にお辞儀をすると、右手に見える扉を開けた。

 すると、柔和そうな笑みを浮かべた壮年位に見える男性、その傍らには二十一世紀半ばには不釣り合いな甲冑姿の男がいた。

 

「…おし…お久しぶりです嵐山さん、その甲冑の人は?」

「7年ぶりだね、雪 じゃない、菅原 牡丹くん。この人は私の護衛だよ、樋野(ひの)くんだ。軍の中じゃトップクラスの守りの使い手だよ」

 

 すると、甲冑からぐぐもった声が聞こえてきた

「嵐山異能幕僚長この少女は何者でありますか」

 

「…私は…菅原 牡丹です。…家事手伝いです」

 

「嵐山異能幕僚長、民間人を最高機密が保管されている部屋に入れるとはなにを考えていておいでですか!!」

 

 嵐山は少し驚いたような顔をして言った。

 

「マジで、聞こえるの。ボク全然無理だよ、えーすごーい。何言ってるの教えて牡丹くん」

「嵐山異能幕僚長!!!!!!自らの立場を理解して口調に気を付けてください!!!!」

「…ええと…自己紹介をしてほしいって…機密とか丈夫なのって言ってます」

 

「大丈夫大丈夫、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「話は菅原夫妻から聞いていると思うんだけど要は能力者のクソガキどもに死なない程度に現実を見せつけてほしいんだ」

「嵐山異能幕僚長!!!!!!能力者ではなく異能者です!!!!!!!!2047年に七條元内務大臣が能力者発言をして辞職に追い込まれたのをお忘れですか!!!!!!!!!!!!!!」 

 

 嵐山は鬱陶しそうに樋野に何かを囁き、机に置いてあったノートパソコンを操作して牡丹に見せた。

 ディスプレイに映し出されたのは高校生くらいの青年が風の異能を用いてを三十代くらいの男をお手玉しにて遊んでいる姿である。

 

『こんなに弱いカスに何が教えられるんですか、ねぇせ・ん・せ・い』

『桐山、止めろ、これは命令だ』

『はぁい、分かりましたよ、弱虫』

『ぐぇ、ハァハァ、このことは、フッー、上に報告するからな』

 

 そして再び男が風の異能で弄ばれたところで動画は終わった。

 

「…つまり…それを痛めつければいいんですか」

「本当に変わってないね君は、いや少し穏当になったかな、前なら殺すとか言いそうだもんね。まあここに来たってことは先生やってくれるのかい」

「…はい、ずっとはおばあ様たちに甘えられませんから」

「さっきの発言は訂正するよ、君から他人を思いやる言葉を聞いたからね」

 

すると、嵐山は目を閉じ 、開いた。さっきまでの、頼りない風格ではない、異能自衛隊最高階級としての顔になり。

 

「菅原牡丹特別異能戦略実行部隊(とくべついのうせんりゃくじっこうぶたい)副隊長の無期限潜入作戦を終了し、天守島異能力学校の戦闘教官として新たな異能部隊を作り出すこと、これは命令だ」

「…私に教官が務まるかは不明ですが、命令であれば完遂するのみです。異議はありません……あいかわらずこういうの好きですよね」

「これくらいしか楽しみないんだから良いでしょ」

 

 そうして、牡丹が呆れていると。

 

ガシャン

「え、は、あえ、とくべついのうせん、ふくたいちょう、な、へあ、ん」

 

 嵐山は後ろにいる甲冑が消え尻餅をついた樋野を見て顔を青ざめさせた。そしてさらに青い顔をしている樋野の肩をつかみ顔を近づけた。

 

「ごめん樋野くん今の話聞かなかったことにできる?君も戦争を引き起こしたくはないだろう。ね、ね」

「は。特別異能戦略実行部隊の副隊長はメキシコ終焉戦で死亡したと大本営発表がありましたので、はい、甲冑を着ていましたのでええ、よく聞こえなかったであります」

「そうそう、君は甲冑を着ているとき難聴なんだ。そうだよね」

「はい。そうでありますそうであります、まったくぐぐもって聞こえるであります」

 

 牡丹はいきなり自分を置き去りにして会話を始めた二人に困惑している。

 

(嵐山さんと樋野さん、なにをやっているんだろう)

「……あの、何か悪いことでもいいましたか」

「「なにも」」

 

 そうして、少し問題はあったが菅原 牡丹は職を得ることになったのだ。

 

「あ、そうそう、初勤務日は今日だからよろしくね」

「…早く言ってください」

 




人物紹介

菅原 牡丹 (21 女)
本作品の主人公。趣味は鍛錬と刺繡。特別異能戦略実行部隊の副隊長だったが、潜入任務の体で暇を出されていたが、この度先生になった。

菅原 椿  (89 女)
牡丹と同居している老婦人。趣味はパン作りと水泳。第三次世界大戦において孫を6人、ひ孫を3人失っている。

菅原 目白 (88 男)
牡丹と同居している老紳士。趣味はガーデニングと登山。大学で植物学を教えていた。

成田 優   (38 女)
九州異能管理局の職員、記憶をファイリングして記憶できる異能者。趣味はボクシング。子供が4人いる。多分もう出てこない。

乾 隆    (73 男)
九州異能管理局の局長、色々なことを知りすぎて局長をやめることができない人。趣味は老後の計画を考えること。多分もう出てこない。

嵐山 実巳   (51 男)
異能自衛隊異能幕僚長、死んだら自分の時間を5秒間巻き戻すことができる異能者。最近ストレスで十円禿げが4つできた。趣味はゲームだがここ6年やれていない。

樋野 豊正    (28 男)
異能自衛隊三佐、自分と周囲の仲間に防壁を張ることができる異能者。趣味はサボテン収集。かなり融通が利かないタイプの人
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