────「はじめての異能史」 ”百薬毒竜”について 146P エイチ社
2052年1月14日
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコン
「…………桐山いる」
日曜日の学生寮で、生徒たちが遠巻きに見る中、牡丹は桐山の部屋の前にいた。返事はないが、桐山は中で動いているのが牡丹に感じ取れた。部屋の奥で何か重いものを蹴る音。舌打ち。さらに乱暴な足音。ギャングやマフィアのような外見の生徒が顔を出した、彼は桐山 破道。桐山グループのリーダーである。
「朝っぱらからうっせえ…………誰だお前」
「…………担任、入るよ」
「ちょ待てよ、おい」
部屋はギャングのような外見に似合わず、意外にもモダン風であり、きれいに整理整頓されている。その洒落たテーブルの上には書きかけのレポートが置いてある。桐山は一瞬、牡丹を睨みつけた。鋭い目つき。耳には銀色のピアス。首筋には薄い傷跡。明らかに普通の高校生の空気ではない。だが牡丹は気にした様子もなく、靴を脱いで部屋へ入った。
「おい、勝手に――」
「……クラスになんで来ないの」
「……………………黙れ」
桐山の声が低くなる。部屋の空気が一瞬で張り詰めた。
「……は?」
牡丹はテーブルのレポートを見る。
「……途中まで書いてる」
「関係ねぇだろ」
「……来る気はある」
「だから何だ」
桐山は壁へ寄りかかりながら牡丹を睨む。その視線には露骨な威圧感があった。普通の教師なら気圧されてもおかしくない。だが牡丹はまるで気づいていない。
「…………私に勝ったら黙る」
桐山の眉がぴくりと動いた。
「……あ?」
低い声。だがその奥に、わずかな興味が混ざる。
「お前、俺が誰か知って言ってんのか」
牡丹は少し考える。
「……桐山。猪原の上」
「そういう意味じゃねぇ」
桐山は舌打ちした。部屋の奥、ソファの横には金属の杖が立てかけられている。床には鍛錬用らしい重り。窓際には大量の栄養剤生活感より戦闘準備の匂いが強かった。牡丹はぼんやり周囲を見る。
「……ちゃんと鍛えてる」
「……」
「……なんで学校来ないの」
桐山は鼻で笑った。
「つまんねぇからだよ」
「…………」
「雑魚の授業聞いて何になる」
廊下の空気が凍る。
「うわ……」
「言った……」
遠巻きの生徒たちが顔を引きつらせる。だが牡丹は怒らない。ただ少しだけ桐山を見る。
「……じゃあ、強い人なら来る?」
「は?」
「……私に勝ったら、来なくていい……でも負けたら、授業来る」
桐山が小さく笑った。次第に肩を震わせる。
「……ハッ、ハハ……!」
彼は明らかに面白がっていた。
「教師が生徒にタイマン挑んでんのか?」
「……うん」
「馬鹿だろお前」
「…………多分」
その返答で、逆に桐山の笑いが止まる。
彼は牡丹を改めて見た。細い身体に気の抜けた声。とても強者には見えない。だが、部屋へ入ってから一度も隙が見えない。本能が警鐘をけたたましく鳴らす、逃げろと。桐山の視線が細くなる。
「……お前、異能は?」
「…………使う?」
「使えよ」
「……分かった…………第Ⅰ体育館に来て。そこでやる」
そう言って踵を返した。桐山は数秒その背中を見つめ――ニヤリと笑う。
「面白ぇ」
廊下へ出た瞬間、遠巻きにしていた生徒たちが一斉に道を開けた。
「うわ出てきた!」
「マジでやるの!?」
「桐山相手に!?」
だが牡丹は気にせず歩く。桐山も、その後ろを獣みたいな目で追っていた。
地下訓練場で向かいあうのは牡丹と桐山である。どこから聞きつけてきたのか、立川がどちらが勝つのか、掛けの胴元をしていた。
「はいはい賭けるなら今のうちー。桐山勝利1.2倍、菅原先生勝利4倍ねー」
「倍率終わってるだろ!」
「いやでも桐山強ぇし」
「桐山一人で上級生30人潰したしな」
「去年の対抗戦、教師一人ぶっ飛ばしたってマジ?」
「マジ。停学3か月」
「なんで退学になってねぇんだよ……」
「桐山グループ全員桐山に入れてるぞ」
「当たり前だろ」
地下訓練場の一角は、既に軽い祭り状態だった。2-A、2-Bだけではない。他学年まで集まっている。模擬市街地区画上の観覧スペースには生徒がずらりと並び、スマホを構える者までいた。
「これ白橋校長止めなくていいの?」
「むしろ許可したらしいよ「青春ですねぇ」てさ」
「終わってんなこの学校」
当の牡丹はというと。
「…………」
ぼんやりしていた。
「先生、なんか言うことないんですか」
「……怪我しないように」
「保健体育じゃないんですよ」
神藤が思わず突っ込む。対する桐山はジャケットを脱ぎ、肩を回していた。鋭い目。獣みたいな威圧感。周囲の空気が自然と離れる。
「桐山先輩ガチじゃん……」
「そりゃそうだろ」
桐山は牡丹を見る。相変わらず隙がない。立ち方が自然すぎる。重心が読めない。視線も定まっていないようで、全部見えている。本能がまた警鐘を鳴らす。
――危険。
だが、桐山は笑った。
「俺にタイマン挑んてきたヤツは腐るほどいるが、教師は初めてだ」
「…………だぶん最後」
「だろうな」
レフェリーの格好をした白橋がどこから持ってきたのか分からない開始用の電子ホイッスルを掲げる。
「では、健全な交流戦を始めましょう」
「どこが健全なんですか」
「賭博まで始まってますよ」
「青春ですねぇ」
白橋は満足そうだった。
立川は既にメモ帳を片手に叫んでいる。
「まだ賭け間に合うよー! 今なら桐山1.1倍、菅原先生6倍!」
「倍率上がってんじゃねぇか!」
「誰か先生側に賭けろよ!」
「怖くて無理!」
「菅原先生に15万」
「黒井君も掛けるの?」
地下訓練場の空気は完全にイベントだった。だが、当事者二人だけ、空気が違う。桐山はゆっくり息を吐く。
「異能、使えよ」
「…………うん」
牡丹が答える。その瞬間、空気が変わった。
「――ッ」
桐山の背筋へ冷たいものが走る。何も起きていない。殺気もない。威圧感もない。なのに、空間そのものが重くなったみたいだった。観客席のざわめきが少し静まる。
「……なんか寒くね?」
「いや、分かる」
神藤が眉をひそめた。読心を使っているわけでもない。だが直感的に分かる。
――この教師、ヤバい。
桐山が異能を起動する。空気が唸り、突風が地下訓練場を吹き抜ける。
「うわっ!?」
「風!?」
観客席の生徒たちが思わず顔を庇う。桐山の足元を中心に、渦を巻くような風圧が広がっていた。床の埃が舞い、周囲の軽い備品が滑る。桐山は笑う。
「吹っ飛ぶなよ、教師」
竜巻を横にしたような一撃が牡丹に飛ぶ。あと5メートル。2メートル。30センチ。2センチ。掻き消える。牡丹の丁度2センチで、風が止まっている。周囲の埃が舞い、備品が風に煽られるなか、牡丹の2センチ前で風が止んでいる。まるで世界が静止したように。
「────は?ッチ」
さらに出力を上げる。暴風が轟音を上げ牡丹に向かう。地下訓練場の空気が悲鳴を上げる。観覧席の生徒たちが姿勢を低くし、手すりへしがみついた。暴風で砕けた床片が、牡丹の目前で音もなく落ちる。
「お、おい!? これヤバくね!?」
「桐山先輩本気だ!」
無意味。風は牡丹へ届かない。2センチ。その境界線を越えた瞬間、暴風が音もなく消滅する。桐山の背筋へ冷たい汗が流れた。異能を破壊されているそう思えるほどに理解できない。風量ではない、威力でもない、相性でもない。届く前に消えている。しかも牡丹は微動だにしない。避けるでも、防ぐでもなく、ただ立っているだけだ。 呼吸すら変わっていない。まるで、桐山だけが必死に暴れているみたいだった。
「…………ッ」
桐山は歯噛みする。本能が叫んでいた。近づくな。アレは危険だと。だが、ここで退けば終わる。観客席には自分のグループの連中もいる。何より、自分自身が許せない。桐山は地面を蹴った。暴風による加速。視界が流れる。瞬きほどの時間で牡丹の懐へ潜り込み、拳を叩き込む。風を纏った近接打撃。コンクリートすら砕く威力。だが、牡丹と目が合った。
「…………遅い」
次の瞬間、桐山の身体が消えた。
「え?」
誰かが間抜けな声を漏らす。暴風による加速、その倍、いや3倍にも見える速度で、桐山が観客席横の壁へ叩きつけられていた。
否、
叩きつけられる直前で急停止した。桐山にはかすり傷一つない。その異様さに、逆に全員が息を呑む。壁の目前、鼻先が触れそうな距離で、桐山の身体は完全に静止していた。まるで時間そのものを掴まれたように。彼の周囲では、制御を失った暴風だけが荒れ狂い、壁を削り、観客席へ砂塵を叩きつけている。
「なっ……」
「止まってる……?」
桐山自身が一番理解できていなかった。動けない、いや違う。止められている。全身に見えない圧力が絡みついているような感覚。異能で加速した運動エネルギーそのものを握り潰されている。ゆっくり。本当にゆっくりと、桐山の視線が動く。牡丹は、開始位置から指一本動いていなかった。
「…………」
そして、その圧力がゆっくり、ゆっくり小さくなっていく。
解放される。そう理解した瞬間、桐山は反射的に異能を発動させる。牡丹の背後。空気を一点へ超圧縮された暴風槍が至近距離から脳天を貫────牡丹の後ろで束ねた風がぐにゃにと曲がる。牡丹の体の輪郭に沿うように、なにかに誘導されているように。そしてそのまま桐山に直撃する。
「ガッ────!!」
今度こそ桐山の身体が壁へめり込む。観客席の床が震える。生徒たちは静まりかえっている。誰も声を出せなかった。
桐山 破道
この学校で最強格と恐れられていた男が、一方的に叩き潰されている。しかも、何をされたのか誰も理解できていない。
「…………今の攻撃は良かった」
牡丹がぽつりと言う。地下訓練場が静まり返る。褒めた。今この状況で。壁へめり込んだ桐山ですら、一瞬理解が遅れた。
「……は?」
「……ちゃんと考えてたから…………止められるって分かって、後ろに回した。いいアイデア…………採点は済んだ。終わりにする。全力で防御してね」
牡丹がようやく動く。右腕を前に軽く出す。
「あれはデコピン?」
牡丹が指を弾く。火花が散る。桐山に突き進む。だが桐山は動けなかった。本能が理解してしまった。
――あれは、まずい
火花は小さい。線香花火の半分程度。なのに視線を離せない。空気が歪む。熱ではない。圧力でもない。もっと根本的な“何か”が凝縮されている。白から蒼へ、蒼から白へ色を変えていく。熱くない。だが、本能だけが理解する。
──――触れたら終わる
火花の周囲には、熱も衝撃も漏れていない。空気すら揺れていない。地下訓練場の警報が突然鳴り始めた。
『超高熱源反応検知。超高熱源反応検知』
「はぁ!?」
「訓練場のセンサー!?」
「ちょっと待て待て待て!!」
白橋ですら笑顔を引きつらせていた。
「青春の範囲超えてませんかねぇ!?」
桐山は歯を食いしばる。逃げれば負ける。そんな意地はもう吹き飛んでいた。これはただの生存本能だ。全力。牡丹は確かにそう言った。桐山の異能が爆発する。暴風が地下訓練場全体を揺らした。何層もの風壁。回転圧縮。乱流。空気そのものを削り取る防御障壁。桐山が今出せる最大出力。観客席の生徒たちは立っていられず伏せる。
「桐山先輩、本気の防御……!」
「初めて見た……」
火花が接触する。風が消えた。
「────え」
桐山の瞳が見開かれる。自慢の暴風障壁が、紙みたいに穿たれていた。蒸発。破壊ですらない。存在ごと持っていかれている。
火花は止まらない。迫る。近づく。
(────あっ、俺死ぬんだ)
桐山が初めて明確な死を理解した、その瞬間、桐山の鼻先、ほんの数センチ前で火花は消えた。本当に突然。鼻先数センチ、まつ毛が焼けてもおかしくない距離で、超高熱は跡形もなく霧散していた。遅れて、桐山の前髪がふわりと揺れる。誰も声を出せなかった。
地下訓練場に、異様な静寂だけが広がる。桐山の呼吸音だけがやけに大きい。
(――生きている)
理解した瞬間、全身から汗が噴き出す、膝が笑い、立っているのがやっとだった。その時、天井の警報灯が赤く回転し、耳障りなブザーが響き渡る。
『高熱源反応消失を確認。消火シークエンスを開始します』
ガコンッ――!!
天井のスプリンクラーが一斉に作動した。
「うわっ!?」
「冷っっっ!!」
「スマホ! スマホ死ぬ!!」
豪雨みたいな水が地下訓練場へ降り注ぐ。観客席は完全にパニックだった。
「避難訓練かよこれ!」
「誰だ教師に兵器持たせたの!」
「校長止めろォ!!」
その中心で、牡丹だけは微動だにしていない。
スプリンクラーの水は、牡丹の身体に触れる寸前で逸れていた。まるで見えない膜でも存在するかのように、雫が彼女を避けて落ちていく。桐山は、それを呆然と見ていた。
(――なんなんだコイツ)
強いとか、そういう話じゃない。理屈が通じない。異能を使っているのは分かる。だが、その異能が何をしているのか全く理解できない。風を消した。動きを止めた。熱を生み出した。そして今、水すら触れない。自分が今まで知っていた異能者の枠から外れている。牡丹は桐山を見た。
「…………まだやる?」
その声で、桐山はようやく現実へ引き戻される。数秒の沈黙。やがて桐山は濡れた前髪をかき上げ、深く息を吐いた。
「…………降参だ、馬鹿」
その瞬間、観客席からどっと歓声が上がった。
「生きてたァ!!」
「桐山先輩負け認めた!?」
「ていうか先生何者!?」
「4倍うめぇぇぇ!!」
「ガハハハ、菅原先生に10万かけて本当に良かった、さあ菅原先生に掛けていた皆様、配当はこちらです。神藤くーん手伝って」
「なんで俺が……ってうわ多っ!?」
立川の足元にはビニールに包まれた札束が積まれていた。明らかに学生が持っていていい金額ではない。神藤はドン引きしながら紙袋へ詰めていく。
「お前ら何やってんのマジで……まあ俺も掛けたけど」
「
「犯罪寄りだわ」
一方、観客席は未だ騒然としていた。
「いや待って、先生の異能なんなんだよ!」
「熱系? 重力系?」
「風消えてたよな!?」
「つーか最後の火花なに!?」
誰一人として答えられない。白橋だけは傘をさしたまま、ニコニコしていた。
「いやぁ青春ですねぇ」
「校長の基準どうなってんだよ!!」
ツッコミが飛ぶ。その騒ぎの中、桐山は壁から身体を起こした。まだ足元は少しふらついている。真正面から死を突きつけられた感覚が、脳裏に焼き付いて離れない。牡丹はそんな桐山へ近づく。
「…………」
「……な、なんだよ」
桐山が僅かに身構える。だが牡丹はぼんやりしたまま、
「…………ちゃんと防御できてた。えらい」
「…………は?」
「……直撃したら死んでた」
「分かってるわ!!」
桐山が思わず怒鳴る。観客席から笑いが起きた。だが牡丹は気にしていない。
「…………あとレポート、途中まで良かった」
その言葉で、桐山の表情が止まった。
「……読んだのかよ」
「……机の上にあったから」
「勝手に入って勝手に読んでタイマンしてんじゃねぇよ……」
頭を抱える桐山。だが、不思議と不快感はなかった。
牡丹はふらりと出口へ向かう。スプリンクラーの水は相変わらず彼女だけ避け続けている。
「…………じゃあ明日、一限」
「…………」
「…………来なかったら、また行く」
桐山は数秒黙り込み、やがて深くため息を吐いた。気づけば、明日の一限を考えていた。
「…………チッ。分かったよ」
(――ああいう奴を、本物って言うのか。勝てねぇわけだ)
その返事を聞き、牡丹は小さく頷く。
「…………よかった」
そして本当にそれだけ言って、地下訓練場を後にした。残された生徒たちは、しばらく誰も動かなかった。皆、同じことを考えていた。
(((――なんであんな化物が教師やってるんだ。)))
校長室にて
ドゴオオオン
「…………あしえ、ひどい」
「生徒を殺しかけるな」
牡丹に拳骨を放った黒井はソファに座りこむ。牡丹は床で正座をしている。
「極小とはいえ、恒星を生徒に放つな」
「…………恒星じゃない」
「ほぼ恒星だ」
黒井は即答した。校長室には重い沈黙が流れる。窓の外では、未だに地下訓練場の修復班が慌ただしく動いていた。白橋は机に肘をつきながら、疲れ切った顔で報告書を読んでいる。
「訓練場センサー、「災害級熱源反応アリ」って記録してますけど」
「…………誤検知」
「正常に動いた結果ですよ」
白橋は深くため息を吐いた。
「というか、なんでそんなものを生徒相手に使うんですか」
「……防御してって言ったから」
「その理論で許されるなら世の中の兵器全部セーフなんですよ」
牡丹は少ししょんぼりする。
「…………でも、ちゃんと止めた」
「鼻先数センチで止めるな」
黒井が真顔で言う。
「止め損ねたらどうするつもりだった」
「…………止め損ねない」
「その自信は怖いですねえ」
牡丹は黙る。白橋が報告書を閉じた。
「菅原先生」
「…………はい」
「あなた、自分がどれだけ危険か理解してます?」
「…………危なくない」
「危ないです」
「……ちゃんと制御してる」
「そこじゃない」
白橋は額を押さえた。
「普通の異能者は、全力を制御する以前に、そんな出力そのものが存在しないんですよ」
静かな声だった。牡丹はぼんやり白橋を見る。黒井も腕を組んだまま続けた。
「お前の異能は火力がおかしい。それを精密制御で成立させてるからタチが悪い」
「…………」
「広範囲破壊型ならまだ避難で済む。だが、お前は殺したい対象だけ消せる」
「…………あしえが教えた」
黒井は否定しなかった。白橋が苦笑する。
「敵だけ消して味方を無傷、なんて芸当、本来は理想なんですけどねぇ」
「…………うん」
「問題は、その理想を実現してる本人が危険物なことです」
少しの沈黙。やがて黒井が長く息を吐いた。
「桐山が無事だったから今回は説教だけで済ませる」
「…………」
「次からはもう少し加減しろ」
牡丹は小さく首を傾げる。
「…………かなり加減した」
「それで恒星をぶつけるんですか。とんでもないですねえ」
白橋はふっと笑う。笑うしかない。
「でもまあ」
「?」
「桐山君が明日から授業来るそうですよ」
牡丹の目が少しだけ開く。
「…………ほんと?」
「ええ。本当に嬉しそうですね、菅原先生」
牡丹は数秒黙り込み、やがて小さく頷いた。
「…………よかった」
その一言だけは、戦闘中よりずっと人間らしかった。
「…………あしえ、私に掛けてた。半分」
「……………………フン」
人物紹介
菅原 牡丹 (21 女)
本作の主人公。天守島異能力学校2-B担任。休日出勤である。帰りにピザを買った。
神藤 悠馬 (17 男)
精神干渉系の異能者。天守島異能力学校2-B。新聞部。牡丹に1万円掛けた。配当金は七條に没収された。
立川 一 (17 男)
二キロメートルまで、聴覚を飛ばすことができる異能者。天守島異能力学校2-B。新聞部部長。今日、一番稼いだ。今度、税務署からお客さんが来る。
白橋 不羈 (48 男)
情報を遮断する霧を発生させることができる異能者。天守島異能力学校学校長。青春を満喫する姿を見れて大満足。
黒井 灰 (17 男)
その正体は異能自衛隊特異異能尉、葭江 躯。天守島異能力学校に潜入任務として入る。配当金はギターに使う。
桐山 破道(18 男)
風を操る異能者。天守島異能力学校2-B。桐山グループのトップ。この後、グループに授業にまじめに受けることを指示した。実は成績はトップ10に入る