牡丹は花火になりたい   作:ズンドロ

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驚くべきことを発見した。私は国の命令により、異能者のクローン生成実験を行った。しかし、異能は一つの例外を除き、どの個体にも発現しなかった。

遺伝子配列
脳構造
神経発火パターン

全て一致していた。それでも、異能は継承されなかった。ただ一体だけ、別系統の異能を発現した個体が存在した。理由が説明できない。ならば、異能は肉体ではなく、個に宿ると考えるしかない。魂、という分類不能の概念を用いなければ。

────破壊された研究所から発見されたメモ



銃は危ない

2052年1月18日 天守島異能力学校 地下訓練場

 

 今日は初めて40人の生徒と1人の潜入任務中の軍人(くろい)がそろった。生徒たちは桐山との戦闘とは言えぬ、一方的な蹂躙を見たからだろうか、いやにおとなしい。白橋が大きな箱を持っている。

 

「……………じゃあ、今日は銃を使う。私が撃つから避けるか、防ぐ」

「「「「……………は?」」」」

 

 生徒たちの息があった。立川が顔を引きつらせる。

 

「菅原先生、今銃で打つって言いました?」

「……………うん。ゴム弾だから当たっても骨折で済む。折れたら黒井に直してもらう。理解した?」

 

 地下訓練場が静まり返る。理解はできていないようだ。神藤がかろうじて口を開く。

 

「待ってください。先生は分からないと思いますが、骨折は重傷なんですよ」

「……………知ってる。でも戦場でそんなことは言えない。それに頭には当てない」

「それはそうですけど」

 

 地下訓練場に沈黙が下りる。

 

「……………別に嫌なら、代わりに私の投石にする」

「投石でも死人は出るんですよ」

 

 牡丹が止まる、銃が否定されたときの代案が否定されたからだ。

 

「……………みんなは何がいやなの?」

「死ぬかもしれないからです。死ぬかもしれないのは怖いですから。人は危険性だけで怖くなります」

 

「……………ああ、人はそうか」

 

 何人かの生徒が息をのむ。牡丹が自分をヒトにいれていないような口ぶりだったからだ。

 

「……………でも実戦は手足がちぎれても動かなきゃいけない」

 

 訓練場がざわつく。

 

「……………痛いのに慣れていないと止まる。止まると死ぬ」

 

 桐山が意を決したように口を開く。

 

「先生のそれは実体験か」

「……………うん。殺したほう」

 

 地下訓練場の空気が凍る。桐山すらその答えを聞いて、動きが止まる。いつもと変わらないその声が、誇張も悪意もないことを示している。

 

「……………まだ動けるのに、痛みを感じると動けない人は多くいた」

「…………………………殺したんですか」

 

 誰かが震える声で聞く。

 

「……………うん。止まると味方が死ぬ」

 

 牡丹は否定しないし誤魔化さない。その声の中には「そうしなければならなかった」という現実があった

 

「……………」

 

 桐山は、ゆっくり拳を握る。彼は強い。少なくとも、この学校の生徒たちの間では五本の指に入る。だからこそ分かるのだ、これは狂気ではない。もっと厄介なもの、生存のための合理なのだ。彼の中で言葉が消え、また浮かび上がる。だが、否定できない。彼も痛みに悶える他者は隙だらけだと思ったことはあるからだ。おそらく、自分が経験した喧嘩よりも、異能者排斥運動よりも過酷な戦場でそれは正しい。そして苦しい。神藤が低く聞く。

 

「先生はいくつの時にそれを」

「……………9歳」

 

 空気が、完全に止まった。誰もすぐには反応できなかった。

 

「………………は?」

 

 立川の声は、ほとんど掠れていた。神藤がゆっくり顔を上げる。

 

「……9歳?」

 

「……………うん」

 

 牡丹は頷く。まるで、「昨日、雨だった」くらい自然な返答だった。それが逆に、生徒たちの理解を拒絶する。

 

「9歳って……小学校、3年とかだぞ……」

 

 誰かが呟く。牡丹は少し考えた。

 

「……………学校、知らなかった」

 

 また空気が沈む。彼女にとって、普通の9歳という基準自体が存在していない。桐山が静かに聞いた。

 

「……その頃から、戦場にいたのか?」

「……………うん」

「なんで」

 

 短い問いだった。牡丹は少しだけ首を傾げる。地下訓練場の空気が、ゆっくり冷えていく。

 

「……………私がいたのは戦場跡地だったから」

 

 牡丹は静かに続けた。

 

「……………人がたくさん壊れてた」

 

 誰も声を出さない。彼女の言葉には比喩がない。壊れてたは、本当に肉体が裂け、焼け、崩れた意味だ。

 

「……………最初は、みんな動かなかった」

 

 牡丹は少し考える。

 

「……………だから、モノだとと思ってた」

 

 神藤がゆっくり息を呑む。その最初がいつなのか、誰も聞けなかった。

 

「……………でも、時々また動くモノがあった」

 

 牡丹の視線が、どこか遠くを見る。

 

「……………少し動いていた、そして動かなくなった」

 

 地下訓練場の空気が、静かに沈んでいく。牡丹は、ただ観測結果を述べるみたいに言った。そこには悲劇を語る調子も、恐怖もない。だから逆に、生徒たちは言葉を失う。

 

「……………私は、最初、違いが分からなかった」

 

 牡丹は小さく続けた。

 

「……………動かないモノと、少し動くモノの違い」

 

 神藤の喉が詰まる。それはつまり、この人は死を知らない状態から始まったということだ。

 

「……………だから、動くようにした」

 

 誰かが息を呑む。

 

「……………でも、壊れてるモノは、すぐまた止まった」

 

 牡丹の声はどこまでも静かだった。

 

「……………熱がなくなって、動かなくなると、もう動かなかった」

 

 桐山がゆっくり目を閉じる。それはきっと、戦場跡地で、死にかけの兵士を見続けた記憶。瓦礫の下で、焼けた地面の上で、血の匂いの中で。8歳の少女は、死とは何かを覚えていった。

 

「……………だから、止まると動かなくなると導き出した……動けなくなると、そのまま壊れるから」

 

 立川が震える声で呟いた。

 

「それで……痛みに慣れろって……?」

「……………うん」

 

 牡丹は頷く。

 

「……………痛いと、人は止まる。でも、止まると、もっと壊れる」

 

 神藤が顔を伏せる。正しい。戦場では、たぶん本当にそうなのだ。撃たれて倒れた瞬間に終わる。足を止めた瞬間に死ぬ。だから彼女は、止まらない訓練を必要だと思っている。合理的に、純粋に。

 

「……………先生」

 

 神藤が低く呼ぶ。牡丹が視線を向けた。

 

「9歳の先生は……怖くなかったんですか」

 

 少しだけ沈黙、牡丹は考える。本当に、考えてから答えた。

 

「……………怖い、分からなかった」

「………………」

「……………知らなかったから」

 

 静かな返答だった。

 

「……………それを知ったのは11歳」

 

  牡丹は静かに言った。神藤が顔を上げる。

 

「……何があったんですか」

 

 牡丹は少し考える。記憶を掘り返すみたいに、ゆっくり。

 

「……………あるとき気付いた。戦場じゃないのに、脳にホルモンが大量に分泌されているのを」

 

 牡丹は静かに言った。

 

 神藤が眉をひそめる。

 

「……ホルモン?」

「……………うん。アドレナリン、コルチゾール、ノルアドレナリン」

 

 さらりと並ぶ単語に、生徒たちが固まる。

 

「……………身体は壊れてないのに、みんな壊れそうだった」

 

 牡丹は少しだけ目を伏せる。

 

「……………心拍が速くなって、呼吸が乱れて、眠れなくなって、誰もいない方向を見てた」

 

 神藤の背筋が冷える。PTSD。だが牡丹は、そんな名称で理解していない。ただ、脳の異常状態として見ていた。

 

「……………怖がっていた」

 

 ぽつり、と牡丹が言った。立川が目を瞬かせる。

 

「……それが?」

「……………うん」

 

 牡丹は静かに頷いた。

 

「……………傷は治るのに、壊れ続けてたから」

 

 誰も言葉を挟めない。

 

「……………身体は生きてるのに、脳だけずっと、戦場にいた」

 

 牡丹の瞳は遠い。たぶん、その時初めて彼女は理解したのだ。人間は、肉体だけでは壊れないと。

 

「……………だから、怖いを知った。それが怖いなんだって演算の答えがでた」

 

 牡丹は静かに言った。神藤の喉が詰まる。「理解した」ではない。「演算した」だ。彼女は、自分の感情として恐怖を知ったというより、人間たちの状態を観測し、そこからこれが恐怖という現象だと導き出したのだ。立川が乾いた声を漏らす。

 

「……それ、答え合わせみたいに言うんですね」

「……………?」

 

 牡丹は少し首を傾げた。

 

「……………だって、みんな同じ状態だった、脳波、ホルモン、自律神経、視線、反応速度」

 

 指を折るみたいに並べていく。

 

「……………共通してた。だから、これが怖い」

 

 七條が小さく目を伏せる。

 

「……感情を、現象として定義したのね」

「……………うん」

 

 牡丹は頷いた。

 

「……………知らなかったから」

 

 その言葉が重い。彼女は、人間として育っていない。恐怖を、泣きながら覚えたわけでも。誰かに抱きしめられて知ったわけでもない。戦場で壊れていく兵士たちを観測して、恐怖という概念を学習したのだ。神藤が低く聞く。

 

「……じゃあ先生、自分が怖かったことは?」

 

 牡丹は少し黙った。本当に、考えている。

 

「……………ない」

 

 牡丹は静かに答えた。誰もすぐには言葉を返せなかった。立川が乾いた笑いを漏らす。

 

「……いや、そんなことあります?」

「……………?」

 

 牡丹は本当に分からない顔だった。神藤がゆっくり聞く。

 

「先生、一回も?」

「……………うん」

 

 牡丹は頷く。

 

「……………怖い状態は分かる。でも、私の中にはなかった」

 

 七條が静かに目を細める。

 

「……恐怖反応そのものが薄いのね」

 

「……………多分」

 

 牡丹は小さく言った。

 

「……………身体も、脳も、みんなと違ったから」

「そうですね、菅原先生の肉体は、発見時にはすでに異能行使に最適化されていたという記録が残っています」

 

 白橋が補足をする。立川が顔をしかめた。

 

「……最適化?」

 

「軍の内部資料の表現です」

 

 白橋は淡々としている。そして静かに続けた。

 

「超高速演算、高精度知覚。極めて高い身体能力に加えて、恐怖、疲労、苦痛による行動阻害や能力の低下が極端に少ない理想的な軍人と」

 

 地下訓練場の空気が重く沈む。立川が引きつった顔で笑う。

 

「……人間の説明じゃないだろ、それ」

「実際、当時の上層部も人間として扱っていたかは怪しいですね」

 

 白橋は否定しない。

 

「兵器運用記録に近かった」

 

 神藤の指先がわずかに震える。牡丹は黙っていた。まるで、他人の話を聞いているように。

 

「……………でも、失敗作だった」

 

 ぽつり、と牡丹が言った。白橋が一瞬だけ目を細める。

 

「その記録まで知っていましたか」

 

「……………うん。嵐山が読んでた」

 

 七條が低く聞く。

 

「……失敗?」

 

 牡丹は静かに頷く。

 

「……………命令が、うまくできなかったから」

 

 誰も言葉を挟めない。

 

「……………痛くても動けた。でも、意味が分からない命令は聞かなかった」

 

 静かな声。

 

「……………効率が悪かったから」

 

 立川が絶句する。軍隊において、それは致命的だ。どれだけ優秀でも、命令で動かない兵器は制御不能に近い。白橋が淡々と補足する。

 

「菅原先生は、命令への服従より自己演算による最適行動を優先していたそうです」

「うわぁ…軍隊と相性最悪じゃん」

「ええ。ですが、命令で得られるであろう戦果より遥かに良い戦果をだしていたと記録されています」

 

 立川が頭を抱える。

 

「余計にタチ悪いなそれ……」

「上層部も判断に困ったでしょうね」

 

 七條が静かに言う。

 

「ええ、命令違反ばかりなのに、結果だけ見れば正解。しかも被害率が異常に低いという」

 

 白橋が淡々と補足する。

 

「菅原先生が介入した部隊は、生還率が統計的に見て明らかに高かった」

 

 神藤が牡丹を見る。

 

「……なんでそんなことができたんですか」

 

 牡丹は少し考える。

 

「……………死ぬ場所が見えたから」

 

 ぞわり、と空気が揺れる。

 

「……………人が壊れる流れが分かった。だから、そこを避けた」

 

 立川が低く呟く。

 

「未来予知かよ……」

「違う」

 

 牡丹は首を横に振った。

 

「……………演算した。弾道、視線、異能、地形、呼吸、筋肉、癖、風、温度」

 

 静かな声で並べていく。

 

「……………みんな、次に何をするか決まってた」

 

 神藤の背筋が寒くなる。それはもう、人間の直感ではない。超高速の戦術演算だ。

 

「……………だから、無駄な死に方が分からなかった」

 

 牡丹は小さく言った。

 

「……………避けられるのに、なんで死ぬのか分からなかった」

 

 白橋が静かに目を伏せる。

 

「その結果、命令を無視してでも最適解を取る個体として扱われるようになった」

 

 七條が苦く笑う。

 

「軍隊にとっては悪夢ね」

「ええ」

 

 白橋は頷いた。

 

「命令に従う兵士ではなく、自分で戦争を最適化する存在だった」

 

 沈黙。その表現が重すぎた。立川がぼそりと呟く。

 

「……先生、一人で戦場のルール変えてるじゃん」

「……………?」

 

 牡丹は少し首を傾げる。

 

「……………だって、生き残るほうがいい」

 

 あまりにも当然みたいに言った。神藤は目を閉じる。この人は、本当に悪意がない。人を守ろうとしている。ただ、その方法が、人間よりずっと戦場に近いだけだ。白橋が静かに言う。

 

「だから軍は、菅原先生を兵士として扱うのを途中で諦めた」

「……じゃあ何として?」

 

 立川の問いに、白橋は少しだけ間を置いた。

 

「戦争の管理者として。…………さて少し話し過ぎましたね」

 

 白橋が咳払いをする。空気を切り替えるように言う。

 

「そんな人物が、直々に戦闘訓練をしてくれるのです。普通なら国家機密級ですよ」

 

 立川が即座に突っ込む。

 

「いや空気戻んねぇだろ今の話のあと!」

「そうですか?」

「そうですかじゃないんですよ校長!」

 

 地下訓練場に、少しだけいつもの調子が戻る。だが神藤はまだ黙っていた。牡丹を見る。彼女は本当に、不思議そうな顔をしていた。

 

「……………?」

 

 なぜ空気が重いのか、完全には理解していない。ただ、自分の過去を説明しただけだと思っている、だがそれが原因だと導き出した。七條が小さく息を吐いた。

 

「……先生、自分がどれだけ重い話したか分かってる?」

「……………?」

「分かってないわね」

「……………うん」

 

 即答だった。立川が頭を抱える。

 

「うわぁ……」

 

 白橋が淡々と補足する。

 

「菅原先生は、自分の異常性を比較対象なしで育っていますから。本人の中では基準なんです」

「最悪だなその育成環境……」

「ええ、最悪です」

 

 校長が即答した。

 

 一瞬だけ、空気が止まる。

 

 白橋は珍しく感情を滲ませていた。

 

「だから、ここにいます」

 

 静かな声だった。

 

「少なくとも今は、戦争の管理者ではなく教師として」

 

 牡丹が少しだけ瞬く。

 

「……………教師」

「ええ」

 

 白橋は頷く。

 

「人間を学ぶための仕事です」

 

 神藤の指先がわずかに止まる。牡丹は黙っていた。その言葉を、ゆっくり考えるみたいに。

 

「……………人間」

 

 小さく繰り返す。そして数秒後。

 

「……………難しい」

 

 地下訓練場の何人かが、思わず吹き出した。重すぎた空気が、少しだけ緩む。立川が笑いながら言う。

 

「安心してください先生。俺らも人間よく分かってないんで」

「……………そうなの?」

 

「むしろ分かってる奴のほうが怖いです」

 

 神藤が静かに言った。牡丹は少し考えて。

 

「……………じゃあ、みんなも訓練中?」

 

 その瞬間、地下訓練場に笑いが漏れた。たぶん初めてだった。生徒たちが、菅原牡丹という存在を少しだけ怖がらずに見られたのは。

 

────

────────

 

 だが、その笑いも消えることになる。生徒達が訓練場の床に倒れ伏している。肉体の損傷と疲労は黒井によって直されているが、脳の疲労は消えていない。

 

「………………効率が悪くなってきたし終わり」

 

 大量の薬莢を片付けながら牡丹は戦闘訓練の終了を宣言した。

 

「……………レポートは自らの異能でできる銃対策、3000字以上」 

 

 牡丹は当然みたいに言った。床に倒れたまま、立川が死んだ声を出す。

 

「……3000……?」

「しかも銃対策限定……?」

 

 誰かが呻く。黒井は壁にもたれながら、生徒たちを見下ろしていた。彼の足元には、応急処置用の器材と空になった回復剤のアンプルが山になっている。

 

「ちなみにお前ら、今日だけで平均十四回は撃たれてるからな」

 

 数人が絶望した顔をした。

 

「数えるなよ!?」

「黒井くん、地獄の統計出すのやめて!?」

 

 七條が仰向けのまま天井を見る。

 

「……右肩、三回貫通されたわ」

「ゴム弾で貫通って表現初めて聞いたぞ……」

 

 立川が呻く。だが実際、牡丹の射撃は異常だった。避けきれなかった者は、ほぼ確実に急所を外した関節か筋肉を撃ち抜かれている。神藤がゆっくり身体を起こした。

 

「先生……質問いいですか」

「……………うん」

 

 牡丹は薬莢を異能で拾いながら答える。

 

「これ訓練っていうか、実戦じゃないですか」

「……………うん。実戦を想定してるから」

 

 あまりにもそのままの返答だった。神藤が額を押さえる。

 

「いや、想定の解像度がおかしいんですよ」

「……………?」

 

 牡丹は本当に分からない顔だった。

 

「だって、みんな異能使ってた」

「先生が使わせてたんですよ! 使わないと撃たれるから!」

「……………実戦もそう」

 

 地下訓練場が静かになる。その一言だけで、反論が少し難しくなる。桐山が壁に背を預けながら低く聞く。

 

「……先生、どのくらい手加減してた」

 

 牡丹の手が止まる。

 

「……………?」

 

「いや、どのくらい殺さないようにしてた」

 

 数秒、牡丹は考えた。

 

「……………7割くらい。難易度上げても精神負荷が高くなって効率が下がるから」

「「「「7割!?」」」」

 

 悲鳴みたいな声が重なった。立川が半泣きで叫ぶ。

 

「それって手加減じゃなくて、僕らの強度ぎりぎりですよね」

「……………うん」

「いやああああ」

 

 地下訓練場に絶叫が響く。黒井が小さく吹き出した。

 

「安心しろ。今日はだいぶ優しい」

「今日で優しい判定なの終わってるだろ……」

 

 神藤は深く息を吐く。だが、同時に理解してしまっていた。牡丹は本気で、自分たちを生き残らせようとしている。

 

 恐怖で止まるな。

 痛みで止まるな。

 撃たれても、思考を止めるな。

 

 それを身体に叩き込もうとしている。方法が、戦場そのものなだけで。

 

「……………でも」

 

 神藤が小さく言う。牡丹が視線を向けた。

 

「今日、分かったことはあります」

「……………?」

「銃って、怖いですね」

 

 一瞬、静かになる。

 

 牡丹は少し考えた。

 

「……………うん」

 

 小さく頷く。

 

「……………怖いのに動くのが大事」

 

 神藤は苦笑した。

 

「それ、簡単に言いますよね」

「……………難しい?」

「めちゃくちゃ難しいです」

 

 即答だった、牡丹は数秒黙る。

 

 それから、静かに言った。

 

「……………じゃあ、みんなすごい」

 

 その言葉に、生徒たちが少し止まる。

 

「……………怖いのに、ちゃんと動いてたから」

 

 誰も、すぐには返事できなかった。桐山が小さく鼻で笑う。

 

「……そりゃ撃たれるからな」

「……………うん」

 

 牡丹は頷く。

 

「……………でも、止まらなかった」

 

 地下訓練場に、少しだけ沈黙が落ちる。立川が天井を見たまま呟いた。

 

「……なんか褒められてる気がしねぇ」

「でもちょっと嬉しいの腹立つわね」

 

 七條が疲れた声で返す。黒井が肩を竦めた。

 

「まあ、菅原先生基準の褒めるだからな」

「比較対象が戦場なんだよなこの人……」

 

 神藤は小さく笑う。たぶん、この教師は、人間を知らない。学んでいる最中だ。けれど、人間を壊したくないとは思っている。だからこんな、滅茶苦茶なやり方で、自分たちを生かそうとしているのだ。牡丹が薬莢の入った箱を持ち上げる。

 

「……………じゃあ次回は、夜間のゲリラ対策、ここ明かり消したら真っ暗になるから、いい訓練になる」

「「「「待ってください」」」」




人物紹介

菅原 牡丹  (21 女)
本作の主人公。天守島異能力学校2-B担任。冬休みで戦闘訓練の教え方を元特別異能戦略実行部隊の人からいろいろ学んだ。実は個人個人で手加減の具合を変えている。

神藤 悠馬 (17 男)
精神干渉系の異能者。天守島異能力学校2-B。新聞部。レポートは異能で位置を少し誤認させる。

立川 一   (17 男)
二キロメートルまで、聴覚を飛ばすことができる異能者。天守島異能力学校2-B。新聞部部長。レポートは先に相手を察知する

七條 葵   (17 女)
紅い電気のようなものとなり、また操ることができる異能者。天守島異能力学校2-B。天守島異能力学校生徒会会長。レポートは銃を帯電させて暴発させる。

八谷 涼音  (17 女)
モノを清潔にすることができる異能者。天守島異能力学校2-B。生徒会会計。レポートは火薬を清潔にして不発させる。

白橋 不羈  (48 男)
情報を遮断する霧を発生させることができる異能者。天守島異能力学校学校長。話していい内容を話すことで、話しちゃダメなことを防いだ。

黒井灰  (17 男)
その正体は異能自衛隊特異異能尉、葭江 躯。天守島異能力学校に潜入任務として入る。治療の回数が多すぎて一番大変なのはこの人。レポートは異能で耐える。

桐山 破道(18 男)
風を操る異能者。天守島異能力学校2-B。桐山グループのトップ。レポートは風で散らす。
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