牡丹は花火になりたい   作:ズンドロ

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一 空間に対する直接的干渉を可能とする異能
二 生体の治癒、再生又は生命維持に著しい影響を及ぼす異能
三 その他、内閣異能安全保障会議が特に指定する異能
これらは特定異能として発現してから三十日以内に登録する必要がある
────特殊異能管理法


留年回避のための不良捕獲作戦編
留年はしないほうがいい


2052年1月26日

 

「……………桐山、神藤、立川。このままだと留年する」

 

 ホームルームで牡丹がそう告げた

 

「……………桐山、神藤は出席が足りない。立川はテストでカンニング用の道具を売りさばいたから」

 

 神藤が固まる。脳裏に七條と婚約するに至った経緯が頭によぎる。

 

「それを言ったら七條もじゃ」

「……………七條は親が学校にけんきん?したからいいらしい」

 

 教室が静まり返った。

 

「待て」

 

 立川が手を挙げる。

 

「なんだ」

「今すげえ問題発言が聞こえた」

「……………?」

「寄付したら出席不足が許されるの?」

「……………そうなの?」

「そうなの!?」

 

 七條が慌てて立ち上がる。

 

「違うわよ!」

「違うのか」

「これは国政に関わることで、だから公的な休みってなってるのよ……………たぶんお父様がそう働きかけたと思う。うん

「……………じゃあ、七條も特別補講。土日使ってやる。着替えと遺書もって今日の21時に港に集合」

 七條の表情が固まった。

 

「待ちなさい」

「……………なに」

「今さらっとおかしなものが混ざってたわよね」

「……………着替え?」

「その後」

「……………港?」

「その前」

「……………遺書」

「そこよ!!」

 

 教室が爆発した。

 

「なんで補講に遺書がいるんだよ!」

「補講じゃねえだろそれ!」

「先生、それ補講の説明じゃなくて遠征の説明だ!」

 

 牡丹は不思議そうに首を傾げる。

 

「……………でも、危険だから」

「危険な補講をするな!」

 

 神藤が机を叩いた。立川も青い顔になる。

 

「待て待て待て。港って何だ」

「……………港は学校の港」

「知ってます」

「……………船があるけど、今回は私が異能で送る」

「どこですか」

 

 牡丹は白橋からもらった資料を開く。

 

「……………ニューフクオカ」

「犯罪都市じゃないですか。何しに行くんです?」

「……………不良をやっつける」

 

 神藤が立ち上がる。

 

「いや補修で?世界最大最悪の犯罪者の楽園に」

「……………うん、最近、異能増強薬が密輸されたからそれを回収する」

「それ不良じゃないですよね。犯罪組織ですよね」

「……………不良。私もいくから安心して」

 

 牡丹は自信満々に頷いた。教室にいる生徒は同じことを考えていた。

 

(((いや。先生は大丈夫だろうけど)))

 

 桐山が手を上げる。珍しく、その顔に困惑が浮かんでいた。

 

「あー、それ軍が対応するやつだろ」

「……………補修で使うから、軍からもらってきた」

 

 誰も言葉を理解できなかった。神藤が最初に反応する。

 

「待ってください」

「……………なに」

「今なんて言いました」

「……………補修で使うから、軍からもらってきた」

「そこです」

「……………?」

 

 牡丹は首を傾げた。神藤は両手で顔を覆う。

 

「軍の作戦を補修に使うな」

「……………?」

「なんで不思議そうなんですか」

 

 立川も机を叩く。

 

「いや待って。軍も渡したんですか」

「……………うん」

「なぜです」

「……………頼んだらもらえた」

「八百屋で大根買うみたいに言うな」

 

 神藤が即座に突っ込んだ。牡丹は本気で意味が分からないという顔をしている。

 

「……………?」

「その反応やめてください」

 

 立川も額を押さえる。

 

「いや、誰に頼んだんですか」

「……………偉い人、こりゃ特殊部隊に死人が出るから君に任せるわって言ってた」

 

 数秒。数十秒経ってからようやく桐山が動く。

 

「どこの特殊部隊だ」

「……………えーと、うん。第八異能空挺団」

「…………………………馬鹿じゃねえの。第三次世界大戦の前線帰還者しかいねぇ部隊だろそれ」

「……………うん。あと空挺団を送ればニューフクオカに緊張が走るから補修で終わらせたほうがいい。無駄な出血がない」

 

 立川が泣きそうになりながら立ち上がる。

 

「それ僕たちですよね」

「……………違う、不良」

 

 だれも安心していない。神藤が机に突っ伏す。

 

「先生、補修って知ってますか。勉強をするんです」

「……………これも異能犯罪の勉強。実際にやったほうが勉強になる」

「そのせいで死ぬんですけど」

 

 牡丹は首をかしげる。

 

「……………?なんで、私がいるのに死ぬの?」

 

 神藤は口を開こうとして止めた。この教師がそう言ってるのだ。多分そうなのだろう。

 

「先生、根拠はあるんですか?」

「……………戦って勝てる相手しか戦わせないし、治療型の異能者もいる」

「何人で特殊作戦、いや補修にいくんです?」

「……………私、神藤、七條、立川、桐山、治療型の異能者の6人」

「断ったら」

「……………留年」

「留年で」

「……………ダメ」

 

 神藤は即答し、牡丹に否定される。牡丹はまるで聞き分けのない子供に言い聞かせるような雰囲気を出した。

 

「……………安心して、手足の二、三本は生やせる。死んでも大丈夫、生き返して戦わせるから」

「安心できる要素が一個もない」

 

 神藤が絞り出すように言った。

 

「……………?」

 

 牡丹は本気で不思議そうだった。

 

「……………その治療型の異能者は今回のために招集した。レンタル代でこの校舎が建てられる。行こう」

「分かりました。行けばいいんでしょう」

「あっ、堕ちた」

 

 

────

────────

 

 天守島の港に四人の生徒がカバンを持って牡丹の到着を待っていた。

 

「葵、ほんとに来るのか?」

「悠馬より、強いし。菅原先生もいるし。まあ引け目がないって言ったら嘘になるし」

「桐山くん、荷物少ないね」

「現地調達する。立川は何だその荷物」

「ああ、これかい。取材用の道具」

「とことん、ジャーナリストだなお前」

 

 すると牡丹が現れた。その脇には簀巻きにされた何かがあった。

 

「……………着いた」

「うーん☆やっばぁこのフライト☆これが一緒になるヒトたち★ヨロシクね☆私、星宮 スバルっていいまーす☆」

「よろしくお願いします。神藤 悠馬です」

「七條 葵よ」

「立川 一です」

「桐山 破道だ」

「……………じゃあ行くよ」

 

 次の瞬間、牡丹たちの姿は消えた。視界が白く染まる。神藤たちは浮遊感を感じて下を見た。雲が高速で流れている。否、自分たちが高速で移動しているのだ。

 

「うわあああああああああああああああ!?」

 

 神藤が叫んだ。

 

「先生ぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「……………なに」

 

 牡丹の声はいつも通りだった。まるで教室で話しているような距離感で聞こえる。

 

「飛んでる飛んでる飛んでる!」

「……………うん」

「うんじゃない!」

 

 立川も青い顔になっていた。下を見ると海がある。島がある。都市がある。それらがものすごい速度で後方へ流れていく。七條が髪を押さえながら叫ぶ。その髪は揺らいですらいない。

 

「先生!」

「……………なに」

「速度は!?」

 

 牡丹は少し考えた。

 

「……………たぶん秒速二キロくらい」

 

 沈黙。

 

「たぶんって言った?」

「言ったな」

「言ったわね」

 

 神藤たちが青ざめる。桐山だけが意外と冷静だった。

 

「先生」

「……………なに」

「落ちたら」

「……………私と星宮以外死ぬ」

「だろうな」

「……………でも落ちない」

 

 牡丹が当然のように言った。その周囲には薄い光の膜が広がっている。神藤はそれを見てようやく気付いた。

 

「先生これ全部先生が支えてるんですか」

「……………うん」

「六人を?荷物も?」

「……………うん」

「僕ら喋ってるのも?」

「……………うん」

 

 神藤は黙った。考えるのをやめた。すると隣でスバルが楽しそうに笑った。

 

「アハハハハ☆」

「何でそんな元気なんですか」

「楽しいから☆」

 

 スバルは空中で寝転がるような姿勢になる。

 

「ボタンちゃんの移動手段って大体コレだし☆」

「ボタンちゃん」

「うん☆」

「いつもコレなんですか」

「うん☆」

「航空法とか」

「適用されないよ☆」

「なんで」

「誰も捕まえられないから☆」

 

 神藤は遠い目になった。その時、牡丹が前を見たまま言う。

 

「……………着く」

「え」

 

 神藤が顔を上げる。遠く、水平線の向こう。巨大な光の塊が見えた。ネオンが輝く海上に広がる超巨大都市。無数の高層ビル。違法建築。飛行艇。広告。煙。爆発。喧騒。

 

 ニューフクオカ。世界最大最悪の犯罪都市。七條が思わず呟く。

 

「うわ……」

 

 立川は既にカメラを構えていた。

 

「すげぇ」

 

 桐山は眉をひそめる。

 

「終わってんな」

 

 そして。牡丹が何気なく付け加えた。

 

「……………あ、財布忘れた」

「忘れたんですか」

「……………不良からもらうからいい」

「えぇ」

 

 そうして補修をするためにニューフクオカに降り立ったのであった。

 

 

 

 

「では不良捕獲作戦を始める」

「はい」

「おう」

「本当にやるんです?」

「葵頼む」

「はぁい☆」

 

────

────────

 

 

 ジョン・シークは薄暗く、狭い路地を走っていた。その右足に靴はなかった。彼はニューフクオカにありふれた、薬の売人である。時折、本州に忍び込んでは、小中学生に麻薬を売りつけ、依存させて内臓が綺麗なうちに売る。ごくありふれた薬の売人だ。

 

「はぁはぁ、糞なんでこんなことになってんだよ。オェエ、まだ追ってきてやがる」

 

 そう彼は今日も仕事を終えて小金を得たばかりであった。そう、たまにの贅沢で娼婦でも買おうと町を散策していただけのよくいる男は現在追われていた。路地の入口に中学生くらいの女が立っていた。

 

「お嬢ちゃん、一人?」

 

 今日はこれにするか。しかも健康そうだ、丁度良い。そう思った瞬間だった。突然マフィアのような男が現れた。しかも強い異能者だ。だから逃げた。でも逃げても逃げても追いかけてくる。

 

「……………」

 

 追いかけてくる男は、何度も見失って、また現れて追いかけてくる。

 何度も角を曲がる。

 振り返る。

 誰もいない。

 助かった。そう思った数秒後には、またあの男が立っている。薬の売人として当然の脚部強化手術を受けていなければとうに捕まっていただろう。子供を50人売りさばいて、ようやく受けられた手術がこんなことに役に立つとは思ってもいなかった。男の風の異能をどうにか凌ぎ、大通りに出る。慌てて走る彼を気に留めるものなどいない。

 

「くそ、風の異能……………路地はあっちか」

 

 ジョンは思わず目に入った路地に入った。風の異能相手に大通りはまずいからだ。路地に飛び込んだ彼は瞬時に理解をした。間違えたのだと。

 

「ちきしょう、行きどまりだ」

「……………不良発見、薬もある。うん運がいい」

「えっ」

 

 ジョン・シークは頭に強い衝撃を感じ、目の前が真っ暗になった。この後、彼を見たものはいなかった。薬の売人がいなくなるニューフクオカではありふれたことだ。そして彼に薬を卸していた元締めも数週間後には連絡先を消すだろう、そして数秒でその存在すら忘れる。元締めが生きていたらの話になるが。

 

────

────────

 

「……………不良ゲットだぜ」

「先生何かマズい気がしますそれ」

 

 薬の売人を昏倒させた牡丹たちは廃ビルにいた。そこに住んでいたホームレスたちは既に死んでいた。薬物中毒、ここではありふれた死因だ。死体の埋葬を終えた桐山と立川が戻ってきた。

 

「まさか先生に声かけるなんてなぁ、葵にはこなかったぞ」

「多分、気品がありすぎて、手を出したら死ぬと思ったんじゃない」

「気品というか気迫というか、危険だろ」

「悠馬、何の話?」

「葵が高嶺の花って話だ」

 

 ニューフクオカに合った服から、特殊繊維製の戦闘用衣服に着替えた七條が帰ってきた、その顔にはまだ化粧が残っている。

 

「うぅ、化粧品をこんなことに使うなんて」

「いいもん使ってるから、だれも話しかけに来なかったな」

「嬉しいような、悲しいような。寒かったし」

 

 うめき声を上げる売人の頭を牡丹が掴む。次の瞬間。その体がまるで地面に打ち上げられた魚のように跳ねる。口を大きく開けているが、何も聞こえてはこない。牡丹が声を中和しているからだ。もししていなくても桐山の張った結界に遮られるだろうが。

 

「……………不良おはよう」

「誰だおま…………………………ァァ」

 

 薬の売人の体が跳ねる。

 

「……………おはよう」

「……………ァァ……………」

 

 また跳ねる。しかし、先ほどより高度が下がっている。

 

「……………おはよう」

「…………………………ァ」

「あー、先生俺に任せろ」

「……………桐山、うん」

 

 そして桐山は足を上げて下した。

 

ぽきん

 

 薬の売人の足が折れた。

 

「おはよう、挨拶は大切だよなぁ」

「わあぉ☆」

 

 星宮が歓声を上げる。薬の売人は悲鳴を上げようとして、桐山に鳩尾を殴られ沈黙する。数分後、薬の売人がようやく喋れるようになった。

 

「おはよう、名前は?俺はそうだな立川だ」

「えっ、桐や」

「立川だ」

「はい、ひっ、おはようございますジェームズ・スト────」

 

ぽきん

 

「ぎゃああああああ!!」

「嘘は良くねぇよ」

 

 神藤はジョンを見下しながら言う。

 

「ジョン・シーク。34歳。本州での薬物販売727件。臓器売買219件、窃盗53件その他余罪多数────だろ?まったく悪い奴だ。記憶を探っても罪悪感がない」

「でこの人どうするんです」

「あはっ☆それはもちろん超略式裁判です☆」

 

 立川が尋ねると、星宮が答える。

 

「そうですね☆新型の脚部強化手術受けているので脚は残してね☆」

「まあ、これで嘘つかなかったら、上に連絡とらせたんだがよぉ、嘘ついたしなぁ」

「あ☆脊椎になんか仕込んでます☆それも見たことないです☆」

「……………これか、ほかには」

「ないです☆」

 

 ジョンは死んだ。

 

 

「……………神藤やっぱこういうの便利」

「ほんと記憶探ってるとき気分悪かったですよ」

「あはっ☆いいですね☆好きになっちゃいます。レンタル代はなしでいいです」

 

 星宮が目を瞬かせる。

 

「いいでしょう私の婚約者です」

「まだ婚約者でしょ☆冗談です☆だからその目をやめてください☆」

「まあ、聞いただけでも気分悪いしな、感覚もある分きついだろ」

「ほらこれ精神安定用の工場の映像」

「ありがとな、立川」

 

 数十分後、精神を安定させた神藤は、情報を共有する。こんな時には情報伝送(テレパシーver2)が役に立つ。

 

「で、俺らは何をやりゃあいいのか」

「……………不良の上を捕まえる。神藤が記憶を探る。その上を捕まえる。薬の回収と子供の回収ができたら帰る、それで」

 

 そして牡丹は止まる。

 

「……………今日はもう寝よう」

「そうしましょうか」

「はい☆精神的な疲労もありますので☆」

「寝る場所はどうするんです」

 

 神藤が尋ねる。

 

「それは上に簡易ですがベット設置してます☆そこです☆」

 

 

────

────────

 

 草木も眠る丑三つ時、生徒たちは夢の中にいた。牡丹と星宮が廃ビルの屋上でニューフクオカの混とんとした夜景を見ていた。

 

「……………神藤はだめ」

「はぁい☆わかってます☆」

「……………だめ」

「わかりました☆結構アレ☆きゅぴぴーんと来たんですよ☆今回は我慢します☆」

 

 星宮がそっと、床のその下に視線を向ける。

 

「……………むう」

「それであの新型の脚部強化手術なんですが☆あれやばいです☆リミッター外してたら誰か死んでます☆多分上はもっといじくってます☆100☆%☆」

「……………不良がそんなものを」

「あと脊椎☆あれ新型のメモリでした☆本人の生体情報と位置を保存するやつ☆」

「……………だから、何人か来てるのか」

「はい☆相変わらず☆その技☆終わってますね★枷を四肢を潰せ(ペダイ トリーベテ・タ・メラ)☆」

 

 廃ビルに近づいたヒットマン風の男たちが、手足をもがれ、のたうち回っている。

 

「うーん☆情報とかなさそうなので消していいですよ☆あと生徒に見せられません★」

「……………わかった」

 

 男たちは空の彼方に消えていった。否、消えたのではない。射出された彼らの肉体は空気との摩擦に耐えられず、上空で削れ、燃え、跡形もなく消滅した。

 

「……………神藤の何が琴線にふれたの?」

「えっ☆コイバナですか☆そうですね☆あんな危険な力持っているのに☆それにちゃんと危機感を持っていること☆彼かなりいじめられていましたよ☆多分しかも結構酷い☆それでもちゃんとまともでいられたことにキュンです☆」

「……………うん、神藤は強い。あ、まただ」

「…………………………ほんとに☆人を息をするようにハイジョできますね☆こわいです★」

 

 空に昇る光の筋を眺めながら星宮はそうつぶやいた。

 

 

 




人物紹介

菅原牡丹(21) 主人公。童顔。

神藤悠馬(17) 悪夢を見た。

立川一(17) 取材のネタを探している。

桐山破道(18) 過去一番キレてる。

七條葵(17)ニューフクオカの現状を知識では知っていた。

星宮スバル(23) ずっと人の弱さを見てきた。
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