──────実験体125号の日記
2052年1月27日
牡丹が研究所を制圧し、自衛隊のヘリを待っているころ、桐山と立川は少女を伴ってダイナーにいた。
「このオニオンリング旨いな」
「うん、揚げたてだしね」
「おいしい。おいしい」
「おう、うまいか……………なんで飯食ってんだろうな俺ら」
「それは桐山くんがご飯食べたいって言ったからね」
「だよなぁ」
桐山は正面にいる少女から視線を動かし、天井の切れかけたライトを見る。
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桐山と立川は目的地から500メートル離れたビルの屋上にいた。たむろしていたチンピラを叩きのめした桐山は立川に尋ねた。
「立川どうだ研究所に入れそうか?」
立川は首を振って答えた。
「無理、下水道まで監視されてる」
「あの売人が知っている情報は偽造じゃないってことだな。ただの娼館にしては警備が厳重すぎる」
「そうだね。調べたところ結構安めで、見た目も壊れかけなのに、中は厚めの装甲がある」
立川は肩に担いだアンテナにいくつか機器がついた道具を下して、解体を始めた。アンテナに付いたケーブルを外し、アンプと演算機を分離していく、モニターの画面にカバーを付けた。
「でどうする」
「あー、先生はまず生きて帰るが第一にしろって言われてたし待機で」
「僕ら留年しない?」
解体を続ける立川は、後ろを見ずに疑問を呈した。
「立川は寝てたけどな。先生曰く、情報取れたらいいらしいぞ」
「どこまでか言ってた」
「何も。情報取れたらいいとしか」
桐山が、壁によりかかりながら答えた。その足元ではチンピラたちが手足を縛られている。かろうじて動いてはいる。
「今僕らが、取れる情報は、そこの構造の一部だけくらいだよ」
「うん?聴覚飛ばして、建物の構造分からねぇのか反響とかで」
「聴覚だからね、音がなきゃ反響も何もないからね。人とかが動かないとわからない」
解体した道具をスーツケースに詰めた立川は立ち上がる。
「で、僕らが取れる方法は2つ」
立川はチョークを取り出す。
・客として潜入する(命の危険度大)
・この情報に留年するかを賭ける(命の危険度小)
「客として入るのは問題があって。一つ目は金がない。結構安いと言ったけどそれでも僕ら二人の所持額より高い」
床に金銭不足と書く。立川は続けて。
「二つ目は連絡が取れなくなる。あそこじゃ、電波は吸収されて、連絡できない。特に僕は戦闘力がないからね、戦いになったらそのまま死ぬ」
立川は連絡不可と書いた。
「三つめは指定されたとこ以外行くのが難しい。異能で聞いてみたけど部屋に着くまで案内係が一緒にいる。下手な行動したら囲まれて死ぬ」
監視付きと書いて、桐山の方を見た。
「はっきり言って、無理ゲー。しかもこれは確実な情報で、向こうには敵対的な高位異能者がいるかもしれない。先生の助けが欲しい」
「まじか。今は8時40分だろ。先生が1時間で終わらすとして、作戦開始が9時半。10時半に終わんのか。でも先生は下見をしたって言ってたな、ならどっかに糸口があるはずなんだが」
桐山が頭を抱え下を見る。チンピラが着ていたベストに目が行く。そこにあったのは黒い塊であった。授業で牡丹が使っていたものとよく似ている。
「銃か……………武器……兵器…爆弾……………そうだ爆弾だ」
桐山は何かを閃いた。そして立川が書いた地図を見る。
「立川。下水道の強度はどれくらいだ」
立川はカバンを広げ端末を取り出した。そして調べ始めた。
「うーんと、第三次世界大戦のころに作られた防空壕にもなる奴だから、空爆には耐えられる強度だけど」
その答えを聞いて桐山は笑みを深める。
「じゃあ、爆発させても大丈夫ってことだな」
「うん、でも地上には響くよ。爆弾で監視している人倒してもすぐ増援がくると思う」
立川がそう指摘すると、桐山は獰猛な笑みを浮かべる。
「そうか、爆発させれば意識はそっちに向く。でも相手も陽動だって気付くよなぁ」
「だろうね。相手も素人じゃない。しかも人数もいっぱいいる。二手に分かれてもこっちの数十倍はいるね」
「でも動くよなぁ、意識は外に向く。まさか自分がいるところに爆破するなんて考えないよな、素人じゃないわけだしな」
「そうだけど。まさか」
桐山は壁際から動き娼館の方へ目を向ける。
「そのまさかだ。まず、俺と立川が下水道に侵入して、爆弾を仕掛ける。で、俺が客として入る」
「それで時間が少し経ったら、僕が爆発させてその間に桐山くんが娼館を調べるってわけ?途中でばれたらどうするの?」
立川が訝し気な態度で言う。
「ああ、その時はパニックになって誤って入ったって言えば、何もしないよりはまだマシだ」
「そのためだけに、自分の足元爆破させるわけか。でも代案もないしそれで行こう」
「まあ、見つかっても二人以上五人以下だろう。そのくらいなら勝てる」
桐山はそう言って、ビルの階段に向かった。
「そのために爆弾を作るぞ」
立川は牡丹からもらった資料をめくる。
「えーと、一番近い武器屋はこのビルの十二階だね」
「……………終わってんなここ」
立川も大きなバックを背負って桐山の後を追った。
「そういえば、爆弾のお金ってどうするの」
立川が階段を下りながら桐山に問いかけた。
「さっきのチンピラたちから貰った」
「ああ、そういえば必要なのは爆薬だけだよ。念のため装置は持ってきてるから」
「……………お前、なんのために持ってきてんだよ」
桐山が少し立川から距離を置いた。立川が慌てる。
「そんなんじゃないよ。ほかの事に使えるモノを組み合わせると爆弾の時限装置が作れるだけで」
「たとえば」
桐山はそう言うと、チンピラたちから貰った金を数え始めた。
「そこらへんに落ちてた携帯電話と発振器………あと時限装置はそもそも大したものじゃなくて、そこらへんにある水と空き缶と発泡スチロールとアルミホイルがあればできるよ。」
「その知識のために使った時間の十分の一さえあれば、平均点位取れるだろ」
呆れたように桐山が言う。立川が理解が難しい問題に悩む生徒に教えるような口ぶりで。
「やだなぁ、カンニング用の道具だったり方法だったりを作る時間にした方が楽しいよ」
「数学の山田が泣くぞ。来るときは閉まってたが武器屋だったんだな。カフェかと思ったわ」
そうして二人は十二階に着いた。ただのクラシックなカフェである。数人の客と店員しかいなかった
「え?ここであってんのか」
「あってる。店員さん、鉄臭い泥水をください」
お冷を持ってきた店員にそう告げると。カタログを持ってきた。
「どうぞ、他にご注文は」
「ホットコーヒー。ブラックで」
「僕はミルクコーヒーでお願いします」
「かしこまりました」
注文を終えた二人はカタログをめくり始めた。拳銃からライフル。対戦車地雷や条約で禁止されている銃弾まである。そして目的の爆薬のページを見つけた
「へぇー。オクトニトロキュバンまであんのか」
「流石に過剰過ぎない?C-4でいいんじゃない。第一それ下手したら下水道が崩落するよ」
「まC-4だな」
桐山がそう結論付けると。店員がコーヒーを持ってきた。
「ご注文のホットコーヒーブラックとミルクコーヒーでございます」
「ありがとうございます。あとこれ5キロもらえます?」
「かしこまりました」
そうして、二人はコーヒーを飲む。立川が資料を広げようとするが桐山に止められる。
「結構近いから広げんな」
「あ、ごめん。じゃあ
立川はまるでピアニストのように手を動かす。トントンとコーヒーカップの淵を叩く。
『下水道なんだけど。結構蜘蛛の巣状になってる。桐山くん爆風を閉じ込めるために異能の遠隔発動できる?』
桐山も同様にリズミカルにテーブルを指で叩く。
『距離は?』
『百ってとこだね』
『いける』
そういうと桐山はコーヒーを飲み干した。立川もそれに続いた。会計に向かう
「五千六百円です。こちらお持ち帰りの商品です」
「あー、一万円で」
「こちらおつりです」
会計を終えた二人はひとまずビル内の空き部屋に入った。
「じゃあ爆弾作りと行こうか。桐山くんは地図覚えといて」
「おう」
桐山は立川から渡された地図と下水道の構造を頭の中で立体的に組み立て始めた。立川は、小さなビニール袋に入った雷管を取り出し、回路に組み込んでいる。
「娼館の部屋に偽造して階段があるのか」
「うん。通路に隠すよりバレにくいしね。娼館に通っても使わない部屋があっても違和感は感じないだろうし」
「それでその部屋には十人くらいの警備がいるってことだが。異能者じゃねえだろ」
「多分、居たとしても高位異能者じゃない。桐山くんなら勝てる」
チキ、という音が鳴り。爆弾が完成した。大きなのが一つと小さいのが二つだ。桐山は目を開け、腕時計を見る。9時15分を指し示す。
「よし行くぞ」
「うん」
下水道に降り立った二人は暗視ゴーグルをつけて歩いている。
「で俺が異能で爆風を閉じ込めるわけだな。場所はさっきのメモの所か。爆破のタイミングは?」
「ここ電波通らないから、時限式になっちゃうけど。腕時計くらいは持ち込めるからそれで計って」
その時。
ぴちゃぴちゃぴちゃ
という音と共に小さな影が向かってきた。それは薄い緑色の手術着をきた少女だった。
「っ」
少女は下水道を右に曲がり、見えなくなった。数秒の沈黙の後、桐山が口を開く。
「今、子供いなかったか?手術着着た」
「いた。追うよ」
「もう捕まえたぞ」
二人は子供が向かった方向に行くと、風の球体に包まれた少女がいた。
「相変わらず、行動が速いね────何か来た。逃げるよ」
「追っ手か。案内頼む」
桐山は少女を担ぎ立川の後を追った。
「爆弾はまだ設置してないけど。どうする」
「子供優先だ。追っ手は?」
「ばらけてるからまだ見つかってない。でもその子の足になんかあった。多分、発信器。これで外して」
立川はそう言って、ベルトに着いた道具の中から軍用のワイヤーカッターを取り出し、桐山に投げた。それを受け取った桐山は少女の足を見る。
「これか。ッチ、硬い」
桐山は風の異能で少女と自分を持ち上げ、全身を踏みしめるようにして全体重を乗せ発信器を切る。火花が散る。カンッという音がなり地面に転がった。
「それ、遠くに飛ばせる?陽動にしたい」
「分かった……………あー、大丈夫だ。お兄さんたちは君を助けに来たんだ」
桐山はそう少女に告げると、少女は何度か瞬きをした。
「
「?どういう」
「そこのはしご昇って外に出るよ」
立川がそう言ってはしごを昇り、ベルトから30センチほどの棒を取り出すとマンホールが開いた。暗視ゴーグルを外した桐山は異能を使い外まで飛び上がった。薄暗い路地である。立川がマンホールを閉じた。
「ふぅ。ひとまず子供一人回収できたから留年は回避できるね」
「そういや、補修だったなこれ」
「ありがとうござます。わたしはいかなきゃ」
「ちょっと待ってもらえるかな」
少女はそう言って立ち去ろうとしたが、立川が止める。少女をみる10歳くらいのコーカソイドだ、淡い金色の髪をしている。立川は膝を曲げ視線を合わせる。
「えーと。そうだね。僕は立川。立川 一、そこのお兄さんは桐山 破道。見た目は怖いけど優しい人だよ」
「
少女がそう言うと、桐山の眉が少し上がる。そして膝をついて少女に問いかける。
「君は異能をもってるの?」
「うん。みらいし。あとのことが見える。くらいと見えないから、まえにげて、ごめんなさい」
「マジか……………友達はいつ死んじゃうの?」
「あした。だからいかなきゃ」
明日。その答えを聞いた桐山と立川は目を合わせる。
「この子僕らで守って、後は先生にやってもらうか」
「多分下水道にはもう忍び込めない。未来視がいなくなったら血相を変えて探すだろ」
その時。
ドォォン
轟音が響き、ビルの谷間から見えていた、高層のビルに穴が開き崩壊した。異能で3人を守った桐山は土埃が静まってから異能を解いた。立川が地図を開く。
「……………先生だ」
「だろうな。ってことはあと15分で終わるだろ」
「
少女がそう言うと、桐山は顎をさする。
「未来視で見えなかったのか?」
「うん、みんなほねのやりの人にたおされてしんだ。赤いかみなりのおねえさんも風のおにいさんも」
立川が端末を取り出し、調べ始める。そして見つけた。
「骨の槍?どっかで見たよ、確か、あった。ロバート=ペトロ・ウィリアムズ。高位異能者の傭兵。二つ名ありだ」
「強さは?」
「少なくとも、僕らじゃ無理。未来視でもそうらしいし」
「そうか、じゃあ俺らは俺らにできることをやる。ひとまず場所変えるぞ」
桐山は少女に着ていた上着を渡すと、大通りに向かっていった。少女の手を掴んだ立川もそれに続いた。
大通りは騒がしかったが、ビルが崩壊したのにも関わらず大してその話をしていなかった。少女は立川の顔に目線を送る。
「だいじょうぶなの?」
「そうだね、先生はとても強いから。すぐに友達も助かるよ」
「うん」
くぅぅ
少女の腹から音が鳴る。桐山が振り返る。
「飯食うか。俺腹減ったから」
「そうだね、ご飯にしようか」
そうして三人はダイナーに入っていった。
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桐山と立川は少女と会話をしながら、暗号でやり取りをしていた。
「君の名前は?」
「ソフィア・サラス」
「ソフィアって言うのか。なんであそこにいたの」
『立川、近くに来る奴がいたら教えろ』
桐山が顎に手をやりながら少女の名前を聞く。立川は資料を広げて何かを書き込んでいる。
『分かった。それと、先生が担当の研究所に人員が向かってる。三分後にここの前を通過する。それでも警備は多い』
「ソフィアちゃんはどうしてあの場所にいたの?」
「みらいしで、でれるとわかって。もっと、みらいしをつかったら。助けられるってわかった」
『そうか、一応ここ見えないよな。あと体に発信器とか埋め込まれてないよな』
ソフィアがバーガーに齧り付く。ソースが反対側から垂れ皿に落ちる。
『うん。確認済み。あと、補修組のグループに情報は送っといた』
すると。
ピピピピ
牡丹から連絡が来た。桐山は端末に表示されたメッセージを見る。
[制圧完了。立川、桐山、自衛隊の人を送った。私は神藤、七條のもとに行く]
『神藤たちピンチか?』
「ソフィア、助けが来るぞ友達も助かる」
「うん、自衛隊の人が来るからね。もう大丈夫だよ」
『グループには何もないけど。連絡を怠るような人たちじゃないし────連れてトイレ行け』
立川は着ている上着を脱ぎ、薄汚れた服を着た。桐山はソフィアの手を引いてトイレに駆け込んだ
すると、警備員を着た集団が入ってきた。全員銃で武装している。立川に一人近づいてきた。そしてソフィアの写真を見せる。
「失礼、このような少女を見なかったか」
「いんや見てないね。何かのお嬢さんかい?」
「知らないならいい。そうか感謝する。引き上げるぞ」
警備員の者たちは立ち去ろうとしただがダイナーの主人がそれを引き留めた。
「いたぞ。トイレに入っていった。だからな」
そしてダイナーの主人が指を擦る仕草をする。警備員の男が銃を向ける
「そうか」
パァン
「えっ」
「桐山くん防壁全開」
そしてソフィアを抱えた桐山が壁を壊し、立川の後ろに立った。風が渦巻き、三人を包む。銃弾がそれる。
「撃つな!実験体がいるぞ」
立川がカバンから小包を取り出し投げた。小包に着いた装置のライトが点滅する。そして完全に点灯する。
ピ────────
ドォン
ダイナーが吹き飛んだ。渦巻く風の球体が店から飛び出し近くのビルの屋上に着地する。
「なにがおきたの」
「ただの喧嘩だ」
桐山がソフィアに渡した上着から、何本かの棒を取り出し、接続した。一本になった棒を振り回し加減を確かめる。立川はカバンから折り畳み傘のようなものを展開した。
「立川、どのくらいいる?」
「57。いやどんどん増えてる。まずい、何か来る」
ふわりと女が着地した。そして三人を見た。桐山はとっさに棒を前に出す。5メートル吹き飛ばされる。
立川は女を見る。腕が四本ある、いや三本が義手だ。黒いヴィクトリア朝のドレスを纏っている。その皮膚はどこか陶器を思わせる。立川は女の体内に聴覚を飛ばす。そしてとんでもない違和感を覚えた。
「この人右腕と脳以外機械だ」
「立川、子供任せた。下がってろ」
風を脚に纏わせた桐山はソフィアと立川を風の球体に包んで二つ先のビルに射出した。桐山と女が向かいあう。桐山の手首に痛みが走る。だが戦える。女が手を上げる。
「こんにちは。腕を折る気でやったんですが、丈夫ですね」
「ああ、こんにちは。俺が目的、なわけないよな」
「はい、ソフィア・サラスが目的です。邪魔を排除するのが私の仕事です」
「そうかよ」
女が手を桐山に向けた。桐山が跳んだ。
「おや。避けられました」
(こいつの異能は、手からなんか出して、攻撃をする。四本腕はそのためか?風を纏っているのにそれに干渉せずダメージがあった。衝撃波の類じゃないな。あり得るとしたら水のみに反応。生物ってこともあり得るな。いや考えても無駄、手の先に居たらダメージってことだ)
そのまま女に棒を振るう。右の義手に受け止められる。棒を手放し後襟を掴む。だが女は動かない。
(重い!そうか中は機械か)
「淑女の服を掴むことのないように。社交界で嫌われてしまいますよ」
「アドバイスどうも」
後襟を掴む手が棒を取りにいく。しかし、女が棒を蹴飛ばす。桐山は片手だけで跳ね、女の後方10メートルに立ち、そして伏せる。
ガキョン
女の左上義手が、音を立て、桐山のいたところに向く、伏せるのが遅れていたら、直撃していた。
(回避間に合った)
伏せた姿勢のまま、わずかに浮き上がった桐山は、棒の元へ飛ぶ。そして、腕時計から立川の声が出る。
「桐山くん、ソフィアちゃんから、その人水に弱いって」
「そうか、逃げてろ」
「無理、今籠城中、ソフィアちゃんいなかったらとっくに殺されている」
「なら耐えてろ」
棒を掴んだ桐山は急上昇する。自衛隊のヘリコプターが見えた。さっきまでいたビルの屋上にある貯水タンクめがけて異能を放つ。壊れたタンクから溢れた水が女に襲い掛かる。
「これはいけない」
女がそうつぶやく。水が女を避けていく。まるで、水とはそういうものだという様に。飛沫が女の服に数滴かかる。だが桐山にとっては、相手の異能を理解する最後のピースでもあった。桐山は女の前に滞空する。
「お前の異能は重力いや斥力だな。でも制限がある。一定以上の重量、密度にしか作用しない。だから空気は干渉しなかった。発動条件は手を向けた先だ」
「すばらしい。私の異能を見破った人の中でも早さは副隊長、隊長につづいて三番目です。ですが理解と勝利は別です」
女がその四つの腕で拍手をする。そして、カシュンという音と共に踏み込んできた。義手が延びて桐山に襲い掛かる。さらに途中で関節が増え予測が不可能だ。桐山は上昇し、圧縮した風をぶつける。
「ッチ、効いてない。立川のとこに行くか」
女を置いて立川とソフィアのもとに向かう、数十人の警備員の男たちを風で吹き飛ばした桐山はビルに入る。そのビルは昔はマンションであったようだ。ソフィアと立川を風の球体に入れ、それごと持ち上げる。
「立川説明は後だ、自衛隊のヘリに飛ばす」
『分かった。けど桐山くんは?』
「俺は一人で逃げられる」
腕時計からの立川の声に答えた桐山はビルから飛び出す。そして自衛隊のヘリに向かう。
「それは危険です。あなたの異能ではヘリが落ちてしましますよ」
女がすぐ隣にいた。桐山の脇腹に手が触れた。声にならない悲鳴が上がる。かろうじて風の球体を維持していたが、桐山の口から血が流れる。
(まずい、痛い、飛べたのか。立川は、苦しい、子供は、辛い、息ができない)
桐山が女に目を向けるとソフィアを抱えていた。ソフィアの目の色が変化する。
「
「はい」
すると自衛隊のヘリから男が跳んできた。神経質そうな眼鏡の男である。桐山と立川は相反する二つを感じ思った。自己認識が侵食される。
自分はそれを作る歯車の一つだ、血は潤滑油で、五感はセンサーだ、膜の下に金属の蔦が這う。肉体は鉱石である。鉱石が大きくなり、石に溶け込む。
自分はそれを作る細胞の一つだ。腕はそれの指先で、臓腑はそれのための濾紙だ、皮膚から心臓が芽吹く。肉が踊り、神経が脈打つ。
立川が無意識的に自分の腕を見た、慣れ親しんだ自分の腕だった。鉱石も心臓も生えていないことを確認して息を吐いた。
「何をやっている、
「あら、葭江隊長。副隊長の生徒さんに指導をしています」
「桐山破道だな。すまないこのポンコツが迷惑をかけた」
立川が目を開く。葭江躯は桐山に触れ治療を開始した。桐山は意識を失う。
「葭江躯特別異能尉ですよね、黒井くんはどうしたの?」
「黒井灰は天守島にいる。俺もあれも端末だ」
立川が珠命に視線を向ける。ソフィアは落ち着いている。
「この人は誰なんですか」
「珠命。異能自衛隊の特別異能尉補佐だ。あと特別異能戦略実行部隊の時に俺と牡丹の部下だった女だ。あまり常識がない」
「先生の部下の方だったんですね。僕らの目的の研究所はどうしたんですか」
「制圧済みだ」
桐山の傷を治した葭江は、ソフィアを立川に渡した後、珠命の義手を引きちぎる。
「桐山 破道、立川 一が保護してあるソフィア・サラスを引き取るように言ったはずだが」
「彼岸、いえ牡丹の生徒がどんなものか知りたくて攻撃しました」
珠命の足から蔦が生える。ここに神藤がいたなら彼女が喜んでいたと言うだろう。
「かなり強いですよ彼、あと十年したら今の私と同じくらいになります」
「そうか」
葭江は携帯端末を取り出す。
「牡丹か、珠命が桐山破道を殺しかけた。すまない────あぁ、治療は済んである。ソフィア・サラスも無事だ────研究所はもう自衛隊の管理下だ────来るのか」
すると牡丹が現れた。桐山に近づく。生きていることを確認した牡丹は、珠命に軽い蹴りを入れる。
「……………しゅめい、なんでこんなことしたの」
「彼岸、あなたの生徒はあなたが関わる価値があるか試したかったんですよ。殺す気はありません」
「……………しゅめいの、許可なんていらない」
「合格ですよ」
「特別異能戦略実行部隊って、みんなこうなの?」
「ああ、全員どこか狂っている」
立川のつぶやきに葭江が答えた。立川は空を見る。
「これが救国の英雄たちか」
その声は空に消えていった。
人物紹介
菅原 牡丹(21) 主人公。珠命が桐山と戦闘をしたと聞き急遽飛んできた。
立川 一(17) カバンの中は本州で出したら捕まる物がいっぱい。
桐山 破道(18) 珠命が自衛隊としり愕然とした。
葭江 躯 (26) ソフィア・サラスの回収に来た。
黒井 珠命 (32) 脳と右腕以外を自分の意志で機械化した。葭江のことが好き。
ソフィア・サラス(8) 未来視の異能者。異能より本人の方が大事である。