牡丹は花火になりたい   作:ズンドロ

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第三次世界大戦において
序盤に死んだ者は幸運である、まだ戦争に意義があるからだ
中盤に死んだ者は幸福である、この先は地獄だからだ
終盤に死んだ者は至福である、この先には生しかないからだ
死ねなかった者は絶望である、何もかもが戦争で焼けてしまった
────詩人 ニューロマン・フェット 「火に包まれた星の寓話」より


まあ現実なんてそんなもの

2052年1月27日 ニューフクオカ 旧福岡空港

 

フィイイイイイインンンンンンン

 

 ニューフクオカの組織が共同で管理している旧福岡空港に飛行機が着陸した。多くの人、薬、武器、情報がここから出ていき、また入っていく。その飛行機から二人の女が降りてきた。

 

「葭江躯が確認されたって?波並冗談だよね」

「本当さ、鏡花。佐渡から射出されたものが自衛隊のヘリに飛び乗ったという報告があった。確実に”無機器官”だ」

「黒井 えー、なんとかいのち?じゃないの。あとここに来るのゲートでいいじゃん」

「珠命と呼ぶんだ。漢字の課題も増やさなきゃね。飛行機を使って移動した事実が必要なのさ」

 

 そう波並が告げると、鏡花はむくれた。飛行機の中で寝ていたせいか、髪に癖がついている。

 

「なんで葭江躯がニューフクオカにいるのよ。日本はニューフクオカを領土としてないんじゃないの」

「だが、彼を止められるのはこの世に誰もいないのさ。彼が行くと言ったら、それは決定事項だよ」

「ほんと強い異能者って最悪」

「君も十二分に強い異能者だよ、鏡花」

 

 その二人の後ろを荷物を持った黒服たちが、追従する。今日ここニューフクオカで”破邪”と”鏡門”の世話をして、またニューフクオカにいたという証拠でもある。

 

「で。なんで私がニューフクオカに居なきゃいけないワケ?」

「さあね。東EU支部が何かをするらしい。私たちは関係ないということになっている。まあリスクヘッジだよ」

「りすくへっじ?」

 

 波並の足が止まった。数秒後、ゆっくりと振り向いた。

 

「もし、東EUが失敗しても、私たちに被害がいかないようにするためさ」

「東EUのみんなも仲間じゃないの?」

「そうなんだけど。……………とりあえず私たちはニューフクオカに居ればいいのさ」

 

 黒服の男が二人に近づいてきた。そして、波並に耳打ちした。

 

「”破邪”様。”博士”から「DEHOI64899t」とのことです」

 

 それを聞いた波並は、踵を返して鏡花の手を引いた。

 

「鏡花、君の予想も当たった。葭江 躯と黒井 珠命がニューフクオカにいる。あと継火の協力組織を襲撃するらしい」

「ちょっと、どうするのよ」

「なにも、過ぎ去るのを待つだけさ。襲撃まであと30分だ。さっさと安全なところにいくよ」

 

 そうして二人はリムジンに偽造した装甲車に乗り込んだ。

 

 

 その地下に存在する元軍事施設で神藤、七條、星宮は侵入を開始した。

 

「ここですね☆」

「そうですね。じゃあ案内頼みます」

「は……………い」

 

 虚ろな顔をしているいかにもといった風貌の男が運転をする車が駐車場に入る。

 

「まさか、先生の娼婦の恰好で釣る作戦でうまくいくなんて」

「はい☆あの服無駄じゃないでしょう☆」

 

 車の後ろで着替えている二人の音が目隠しをしている神藤にはやけに大きく聞こえた。それを打ち消すべく口を開く。

 

「俺らの目的は、ここにいるはずの子供の回収。星宮さんはここを拠点にしている犯罪者のボスの捕獲でいいんですか」

「はい☆ボタンちゃんも終わったらすぐ来るそうです☆あと四本腕ちゃんも☆」

「悠馬がいてホントによかったわ。精神誘導なかったらもっと大変だったわよ」

「つきまし……………た」

 

 神藤の精神干渉によって、自我を奪われた男が車を止め、薄暗い駐車場を先導する。この軍事施設が廃棄されたのは十年の前だからか、柱の近くにゴミが積まれ、注射器がゴミ袋を突き破っている

 

「こんなとこあったのか。ネットの噂だと思ってたけど」

「はい☆使われたことはないですけど☆その前に九州大爆撃があったので☆今は犯罪者の巣窟です☆」

 

 星宮が補足する。遠くから人影がこちらをのぞいている。先導する男を視認すると闇に消えていった。そして、男が鍵束を取り出す。扉には陸上自衛隊福岡空港地下基地と書かれている。軋みを上げながら扉が開いた。

 

「じゃあ☆侵入開始です☆まず予定どうりボスの元に行きましょう☆」

「あんないしま……………す」

「やけに順調にいくわね。なにか嫌なことが起こりそう」

「うまくやればいいだろ、葵」

 

 複数人とすれ違ってはいるが、全員軽く会釈をするだけで挨拶すらしない。男曰くボスはかなりの女好きで娼婦を男に連れて行かせているのは真実のようだ。

 

「認識阻害はうまくいってるな」

「そうですね☆」

「なんだか複雑な気分」

 

 そして、男がある扉の前で立ち止まる。救護室と刻印されている扉をノックした。

 

「三羽の夜鷹。娼婦をおつれしました」

「そうか、置いて帰れ」

「では……………どうぞ」

 

 男が扉を開け、三人は救護室に入った。薄暗い廊下とは真逆で、清潔でどこか甘い油のにおいがする。薄いカーテンの向こうに人影があった。

 

「なんだこのにおい」

「三人か豪勢じゃね」

「えい☆」

 

パァン

 

「せいっ」

 

チリッ

 

 人影が倒れた。星宮がカーテンを開けると一人の男と三人の女が全裸でベットの上にいた。女はどこか呆然としている。男はというと、首に銃創があり、電撃を食らった後の火傷が全身に回っている。

 

「捕獲完了ですね☆あとはこれを☆」

 

 星宮が男の頭に何本か注射を打つ。七條は女たちにタオルをかけた後、神藤の目隠しを外した。

 

「何打ってるんですか?」

「脳を保存する薬です☆これさえ打っていれば☆脳から情報を取り出せます☆」 

「そんなのあるんですか?」

「はい☆怖い人の技術です☆」

 

 七條は脱ぎ捨てられた男の服から端末を取り出し、メモリを差した。学校では見たことがない表情をしている。

 

(葵、暗殺者退けた後の顔になってる)

「この女の人たちから情報取るか?」

「いいえ☆何も知らないでしょう☆たぶん誘拐された人ですから☆この部屋のどこかに香炉があると思うので☆それ回収してください☆ご禁制の品です☆」

 

 神藤が部屋を見渡すと、薄く煙を出す、ツボのようなものを見つけた。それの蓋のつまみを軽くひねると煙が止まった。

 

「まあ☆軽い麻薬です☆私は効きませんし☆アオイちゃんも効かないでしょう☆」

「ええ、幼少期から薬の耐性は付けてきたもの。あとで悠馬にもつけさせるから」

「わかった」

 

 星宮は男の頭に刺さった注射器に液体がないことを確認してから。男を持ち上げようとして二人に声をかけた。

 

「シンドウくん☆アオイちゃん☆これを浴槽に運ぶの☆手伝ってください☆」

「わかったわ」

「了解です。……………何するんですか?」

「ちょっきん★です☆」

「……………そうですか」

「はい☆私は作業しているので☆二人は休んでてください☆」

 

 星宮は部屋に元からついていた浴室に入り、神藤と七條は部屋のソファに座っている。

 

「なんかここ人の価値が低いな。補修にきてからなんか大事なものが揺らいでいる気がする」

「ええ。でもその感想は持ち続けなきゃいけないものよ。私も大概なくしかけてるけど、完全になくすと先生や星宮さんの様になる」

「なくしたほうが楽なのかな」

 

 それを聞いた七條は神藤の顔に手を添え、頬をつまんだ。

 

「それはダメ。私が好きになったのは、どんなことがあってもちゃんと正しいところに居れるところだから」

「わかってるけど。だけど」

「だけどじゃない。わかった」

「うん」

 

 七條は神藤に頭をあずけた。浴室から水の音が流れ続ける。時折、星宮の掛け声が聞こえる。作業に苦労しているようだ。呼吸と拍動がやけに大きく聞こえる。

 

「いい。止まれる人であること。私との約束でしょう」

「わかってる。葵を止められる人間である。あの時約束した」

「そう、でも私は」

「お二人さん★終わりました☆」

 

 星宮がボウリングの玉より一回り大きい球を手に持って後ろに立っていた。慌てて立ち上がった七條の頭が神藤の顎に直撃する。

 

「あ☆治しますね☆あと私たちがするのは待機です☆完全に相手のホームですので☆ボタンちゃんが来るまで待機です☆」

「ありがとうございます。いいんですか動かなくて」

「いいのよ。悠馬が危ないなと思ったら待機って先生にいわれているから」

「はい☆しかも★ここ正面からはほぼ勝てません☆生存第一☆子供回収第二です☆いまお楽しみ中ってなってるので三時間くらい関わらないように指示がでているので十分間に合います☆」

 

 星宮は球を脚で転がしながら言う。彼女の服は少し濡れている。

 

「少しヒマなので☆ボタンちゃんがなんでこんな補修をした話でもしますか☆」

「ええ、お願いするわ」

「そうですね☆まず私の昔話でもしましょうか☆────」

 

────

────────

 

 

2046年6月12日 長野県 閉環病院

 

「はあ★またまたまたまた★くだらない★おっさんたちのために★骨髄取り出す必要があるんですか★」

「いいや、おっさんではない。国を先導する尊い御方たちだ。誇るべきであって面倒臭がるな言語道断だ」

 

 足が円筒形の金属筒に包まれた星宮がストレッチャーに乗せられ運ばれている。窓は相変わらずシャッターが閉じられている。

 

(ああ★またですか★4年くらい太陽見ていませんね★お日様浴びないと不健康になっちゃいます★私の異能じゃ不健康になるどころか死ぬこともできませんけど★)

 

 ため息をつき、運んでいる男を見る。星宮がこの病院に閉じ込められてから若返っているように見える。実際若返っている。この男は何度足を切り取ったのか、何度内臓を取り出されたのか、何度脳幹を採取したのか、数えてすらいない。

 

 星宮スバルの異能”神産巣日神(かみむすび)

 

 その効果は己に触れている生命の若返り。損傷した傷も若返って直すことができる。

 

 始めはただの治癒の異能だと診断された。希少だがこのような行為をされるほどではない。だが彼女が9歳の時それは起こった飼っていたゴールデンレトリバーのススキが死んだのだ。彼女が物心ついたときからそばにいた親友だった。彼女は命尽きたそれを抱きしめた。最悪の軌跡が起こった。ススキが蘇ったのだ。そう彼女の異能は、”神産巣日神(かみむすび)”は死すら例外ではない。彼女の両親はどちらかと言えば善側の人間ではあった。裕福なほうではなかったが愛情をもって育てていた。だが世界をひっくり返せる宝を目の前にして欲を掻かないでいられるほど強くはなかった。そして、死という人類最大にして最強の敵を否定する業を目の前にして義務感に突き動かされるほど善人ではなかった。だから判断を他者に任せた。その重すぎる責任から逃れるために。

 

 葭江躯は後にこう語る。

 

「よくいる一般人に救世主が生まれた結果として必然といったところだ」

 

 黒井 珠命は後にこう語る。

 

「異能は人類ができなかったからこそ、発生しなかった問題を表面化しました。これが悪なのかは一概には言えません」

 

 星宮 スバルは後にこう語る

 

「いやー★ご飯も食べなくていいってわかったので食べさせてもらえませんでした★5年ぶりくらいに食べた★白がゆが嫌いだったのに涙がでるほどおいしかったです☆あと★足の金属の筒外されたとき自由だ☆って思いました」

 

 判断を他人に委ねる。このことは、日常でよくあることだ。どの店で食事をするか。どの服を買うか。どの映画を見るか。毎日どこかで人は些細な選択を委ねている。ただ一つ違ったのは、委ねたものが昼食のメニューではなく、人類の未来だったことだ。そして、その結果は最悪だった。

 

 繰り返される実験。解剖。採取。星宮スバルの異能は、麻酔すら損傷として修復した。痛みを消すことは許されない。意識を失うことも許されない。十歳の少女にとって、それは人格を八度破壊し、なお余りある苦痛だった。だが、さらに残酷なことに、本来ならば、その苦痛は人間を壊す。脳は変質し、心は摩耗し、あるいは狂気によって自我を守ろうとする。しかし星宮スバルには、それすら許されなかった。異能が脳の損傷を修復したからだ。恐怖による変化も。苦痛による変質も。自我を守るための破綻すら。すべて若返りによって元へ戻された。だから彼女は正気だった。一度も狂うことなく。

 

 研究者たちは最初だけ疑っていた。狂言か、あるいは親馬鹿の戯言だろうと。だが、半日でそれは使命と希望に変わった。死を覆せるかもしれない。老いを終わらせるかもしれない。人類は終末の四騎士の最後の一柱に永遠に別れをつげられるかもしれない。その希望が金銭欲に変わるのに長い時間は必要なかった。その使命が選民思想になり果てるのに人を救う実績は必要なかった。

 

「人類をいずれ救う」

 

 それだけで十分だった。星宮 スバルが人類を救うための道具になったのは何週間経ってだろうか。

 

「たすけて いたい たすけて やめてください」

 

 その声を認識しなくなったのは何時からだろうか。始めはそのたびに声をかけていた。心を痛めた者がいた。泣きながら手術室から出て行った者がいた。吐きながら記録をつけていた者がいた。もういない。いつしかその声は代り映えのない音になった。

 

 だが、それも終わりがきた。資金が尽きたのだ。研究には金が必要だ。そして彼らはこう考えた。これを使ってそのための金を持ってくればいい。死はまだ覆せてはいないけど若返りまではできてるから。それはとてもいい考えであった。しかし、思い違いがあった。希望や使命は金で腐る。その早さはヒトによって異なることを。

 

 次第に金使いが荒くなっていった。以前は付けていなかった悪趣味な腕時計。年の差が倍くらい違う愛人。高級車。会員制のクラブ。世界を救う息抜きには丁度いい。少女の脊髄をプレス機で潰して得たその液体を注入する、活力がみなぎる。息抜きと称したものと世界を救うという建前その均衡が少しずつ少しずつ欲望に傾いていった。

 

 それからはもう早かった。会員制の美容クラブを立ち上げた。お試しで1年若返らせた。評判が密かにだが確実に広まった。なんと、順番待ちが起こった。ある時誰かが言った、VIPコースも作りましょう。若返らせる部位によって値段をつけましょう。それらは成功した。だれもが幸福になった、若返った者も、金を得た者も、人類を救う者も。うめき声をあげる物以外は。

 

 だがその幸福を破壊する者が現れた。四本の腕にドレスをきた女だ。そしてそれらがそこにいる人間すべての死神だった。

 

「こんにちは。私は黒井 珠命特別異能尉補佐と申します。本日は葭江 躯特別異能尉及び嵐山 実巳異能幕僚長より伝言があって参りました。」

『下らんクラブの会員連中はすでに特別異能戦略実行部隊が処理している。お前らが最後だ』

『大戦中に治癒型の異能隠し持ってたんだね。その子がいればもう少し被害減らせたのにな残念。嵐山実巳異能幕僚長が宣言する戦時中特定異能者隠匿法につき死刑で。まあ、来世に期待するよ』

「……………理解いたしましたか?」

 

 悲鳴と怒号が飛び交う。手術着をきて施術を待つ老女が下に降りてきた。

 

「うるさいのだけれども、施術はま」

 

どちゅ

 

 老女は壁から三センチまで圧縮された。数秒、沈黙。狂乱が起こった。女に縋りつき買収を持ち掛ける者がいた、急いで裏口に駆け込み、ズラリと並んだ高級車に乗り込もうとする者がいた。保管庫からアンプルを持ち出そうとする者もいた。地下に逃げ込もうとする者も。

 

どちゅ

どちゅどちゅ

どちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅ

どちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどち

どちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅ

 

 女以外動くモノはなかった。女は壁に張り付いたモノから鍵を取り出す。地下への扉へと歩み出した。

 

「あら、開かない。歪んだのかしら?」

 

メキィィ

 

 女の腕が動き扉を破砕する。薄汚れた手術台の上に管でつながれた少女がいた。その目は何処か遠くを見ている。その少女の腹を裂き内臓を取り出している男がいた。

 

「あともう少しで完せ」

 

どちゅ

 

「生きてはいますね。ええと、私は黒井珠命特別異能尉補佐です。あなたが星宮スバルさんですね」

「……………」

「あなたを回収しに来ました」

「……………」

「理解しましたか」

「……………」

「無視は悲しいのですが」

「……………」

「では回収しますね」

 

カシュン

 

 女の腕が開き少女を持ち上げる。階段を上り、外に出る。太陽が昇っている。少女の目から涙があふれる。

 

「一つ忘れていました」

 

バゴーォォン

 

 女が手をかざすと少女を8年間閉じ込めていた檻が壊れた。人類を救うという大義を掲げていたものが砕け散る音でもあった。これはただの老朽化した病院が自壊したと記録されるだろう。

 

 

 

 数か月後。星宮スバルは山奥の屋敷にいた。本人の精神状態を加味して病院ではなく、この屋敷で療養することになった。

 

「あだぁ★リハビリ辛いです」

「ええ、6年近く歩いていなかったと記録されています。あと三セットです」

「はぁい★」

 

 二本の義手を外した女が見守る中で星宮スバルはリハビリテーションを行っている。精神状態は、皮肉にも”神産巣日神(かみむすび)”が正常に戻した。肉体も問題なかったが、赤子のように立ち上がることはできなかった。女のリハビリテーションは最初拷問に近いものである。崖から突き落とし、這い上がれ。遠洋に船で移動したと思ったら海に叩き落して、泳いで帰ってこいなど。たまたま女に会いに来た小柄な少女が意味が薄いといったら、今の様に変わったが。

 

「終わりましたね。次は算数です」

「休みほしいです★」

「問題ないでしょう。やります」

 

 

 さらに一年後。星宮スバルは学校の教室のように作られた部屋で、緊張して座っていた。女が入ってきた。その手には封筒が握られていた。

 

「星宮スバル。高卒認定試験合格です」

「やったぁ☆これで勉強から解ほ────」

「今日から、医師国家試験の勉強がはじまります。教えるのは私ではありませんが」

「やだ☆お祝いもないんですか☆」

「今日の食事は豪勢なものにしていますが?」

 

 

────

────────

 

「というわけで☆世界はいい人もいます☆それ以上にわるい人が多いです☆ボタンちゃんはこの補修をした理由はわるい人を見て、いつの間にかわるい人にならないように楔を打つために☆たとえ善意だったとしてもそれが続くとは限りませんから☆」

(想像の百倍えげつない話だったわね。六年前の富裕層連続失踪事件の真相がこんな理由だったなんて)

「いやこれ聞いちゃダメですよね」

「はい☆」

「否定してください」

「ナイショですよ☆」

 

 神藤は頭を抱えた。聞いていけない話を聞いた。富裕層連続失踪事件は小学生だった神藤も記憶にある。テレビによく出ていた芸能人。広告でよく見ていた会社の会長。地方で地主をしていた国会議員。それが同じ一日で消えた。日本中が大騒ぎになった。海外逃亡か?テロにでも巻き込まれたのか?二か月もしないうちにニュースで見なくなったが。

 

(若返りか。公表できないわけだ)

 

 強い力はそれだけで人を集める。知らない男の思いを寄せる人を精神干渉してくれと脅された記憶が脳裏に浮かぶ。たしか、その前に試験に集中できるようにして欲しいという願いを叶えた。解れた恋人の思い出を思い出しにくいようにして欲しいという願いを叶えたような気がする。精神干渉型の異能という珍しいが確かに複数いるものでこれだ。星宮スバルは次元が違う。若返り、果ては不老不死という古来からの人類の願いを叶えられるのだ。世界中が欲しがる。

 

「本当に言っていいんですか。俺が老いたら、星宮さんを」

「いいえ☆今のままだったら☆大丈夫です☆」

「老いるのも楽しみよ。悠馬」

「葵はいいのか」

 

 七條が目を閉じる。そのあと、ゆっくり時間をかけて目を開いた。

 

「きっと、欲しがるでしょうね。でもそれ用に使おうとしたら死ぬわよね」

「はい☆どんなにばらばらにしても百人しか不老にできませんから☆」

「その席のために流れる血の方が多いのか」

「はい☆100点をあげます☆」

 

 星宮がそう言うと、端末が振動した。液晶に表示された文字はボタンちゃん☆

 

[治療]

「うん☆あー☆そういう」

 

 すると三人の前に手術台が現れた。天井に空いた穴から青空が見える。星宮は手術台の上にいた少女を担ぐ。足で転がしていた球を神藤に渡す。

 

「逃げますよ☆」

「どこにです」

「上に☆穴がありますので」

「悠馬。少し痛いけど我慢して」

 

 星宮が跳躍して空いた穴の壁を蹴る。体を反転させてさらに壁を蹴る。神藤をお姫様抱っこした七條の足が赤く煌めき、穴の壁を滑り出した。扉を叩く音がする。

 

「ボス。敵襲です……………ボス!!敵襲です。開けてください」

 

 扉を開けた男が部屋を確認している。その上を駆け上がる影。

 

「舌噛むから黙って。悠馬」

「わかっ」

「あとで治しますね☆」

 

 駐車場に着いた神藤たちは、そこでようやく息をついた。いや、正確には神藤だけだ。星宮は肩に少女を担いだまま平然としている。七條も神藤を降ろし、制服の裾を払っただけだった。

 

「さっさと逃げますよ☆早くしないと☆気づかれます☆」

「そうね。悠馬、近づいてくる人いるから精神干渉して。運転させて」

「わかった」

 

 すると、二人の男が近づいてきた。あからさまに堅気ではない。

 

「お前らなに」

「女だデカいほうは俺に」

精神混線(マインドパニック)

 

 男たちは呆然とし、生気が消えた。精神混線(マインドパニック)はよく効いたようだ。

 

「うーん☆迷いがないですね☆」

「ええ、迷ったら撃たれるから」

「先生に仕込まれていますから。俺らを外まで連れていけ。もう一人は攪乱していろ」

「は……い」

「了……解」

 

 

 

 

 

 

 男の運転する車で神藤たちは脱出した。その車の中で七條はあることに気づいた。

 

「そういえば、両親の話はなかったですけど」

「あ☆言い忘れていました☆ええとですね☆」

 

────

────────

 

「ごめんなさい。悪かったです。スバルの事を黙っていたのはあやまります」

「たすけてください。スバルにあやまりたいんです」

「8年遅かったな」

 

 東京都国家防衛監督省異能管理局本部地下2階に二人の男と二つのモノがあった。盆栽のようなものだ。鉢から伸びた金属質の幹に人の頭が生えている。それが喋っている。

 

「随分といい暮らししているじゃん。働いてないけど」

 

 男が資料をパラパラめくる。高級車に、スイートルームではしゃぐ姿、クラブに入り浸る生活それらが写っている。もう一人の男が口を開く。

 

「星宮スバルの事を隠匿する代わりに資金を得ていたことは確認済みだ。戦時中特定異能者隠匿法で死刑だ」

「すみません娘を戦場に行かせたくなかったんです」

「年齢からして前線にいくことはない。さらに、異能からして後方で欠損を直すことになっただろうな。それを示す資料も金庫から見つかったぞ」

 

 盆栽に生えた顔が青白くなる。

 

「ちがうんです。知らなかったんです」

「若返りの施術の優待券もあったぞ」

「ちがうちがう。お前が仕組んだんだ。俺はしらない」

「そうか。嵐山異能幕僚長、俺は帰るぞ」

「じゃあね葭江くん。あっお土産あるから持って帰ってね」

「そうか。貰っておく」

 

 男が扉を開けてでて行った。もう一人の男が机の下からスーツケースを取り出し中にあるスイッチを押した。

 

「うん。じゃあこれからが僕の仕事の本番。葭江くんは政治に関わりたくないからね。今から君たちの記憶を回収する。大体検討はついているんだけどね」

 

 なにやら叫んでいたがそれを無視した男は椅子に座り書類を書きだす。すると、棚が上がり複数人の軍人たちが現れた。二つの盆栽を回収した軍人たちは男に敬礼をして去っていった。

 

「うーん忙しい。家に帰れるのはいつになるのやら」

 

────

────────

 

「これが聞いた話です☆」




人物紹介

神藤悠馬(17) 精神状態を加味され、子供の回収はさせないことになった。

七條葵(17) 牡丹から神藤の面倒を見るように言われた。

星宮スバル(23) 医師免許は2年で取らされた。
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