牡丹は花火になりたい   作:ズンドロ

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ゲオルギウス聖別者高等教育学校 倍率4.19倍
奉須異能力学校         倍率1.32倍
北海學園異能力科分校      倍率1.14倍
天守島異能力学校        倍率0.89倍

────高校入試情報センター




天守島異能力の受験は楽

 アメリカ、コロラド州あるビルの4階の会議室のような部屋で、アジア系の少女が座っている正面にアングロサクソンの男が立っていた。

 

「フゥーム」

 

 桜道模試。国語43点、数学2点、英語19点、社会20点、理科4点。神藤鏡花、天守島異能力学校、判定E。それを見た”博士”は思わず声をもらす。

 

「これは……………これは実に手がかかりそうだ」

「真面目にやった」

「そうか……………よし、とりあえずどこまで理解をしているかを把握するか?鏡花嬢6かける4はいくつだ」

 

 ”博士”の問いかけに、鏡花は数秒掛けて答えを出した。

 

「24よ。子供じゃないんだしそれくらいはわかるわよ」

「6かける8はいくつだ」

「……………えっと、うん。47」

 

 ”博士”は携帯端末を取り出す。ネットショッピングのサイトを開いた。「さんすうドリル1~6年生をいっさつでとけるようになる」をカゴに入れた。

 

「なるほど……………大文字のIと小文字のlが混ざっているのだがどうしてかい」

「同じじゃないの?」

「実は違うモノなのさ、鏡花嬢……………街がひらがなで書かれてあるが、これは確か小学4年で習うはずの文字だが」

「……………うっさい。思い出せなかっただけ」

 

 ”博士”は小学生用の教材をいくつかカゴに入れる。「アルファベットれんしゅうちょう」「常用漢字ドリル」。博士は理科の問題を見る。唯一、正解をしている問題を鏡花に聞く。

 

「問題だ、顕微鏡で観察するとき、「10×」と書かれた接眼レンズと、「40」と書かれた対物レンズを使うと、何倍で観察できる?」

「50倍ね」

「…………………………勘で当てたかぁ。まあ四分の一とはそういうものだ。……………義務教育はできなくても卒業はできるというのは知識では知ってはいたが」

 

 世界を牽引するとまで言われた”博士”が天を仰ぐ。

 

(そういえば、賢い者としか関わっていなかった人生だ。これも一つの勉強としよう)

「鏡花嬢。天守島異能力学校の受験まであと一か月だ。休みはないと思ったほうがいい」

「天守島は異能者であればだれでも入れるんじゃないの?」

 

 鏡花は模試にある倍率を見る。0.89とあった。

 

「……………非常に言いにくいことだが、入れたとしても3回、1年生をした後に退学することになる。それに現在の日本の受験制度では、異能者だからといって無条件に入学できるわけではない。天守島でも合計150点未満では入学できないことになっている。このままでは入学すらできない。だが安心したまえ、君が頭があまり良くない理由が分かった……………鏡花嬢?」

 

 言い終えた”博士”は鏡花がなにかに怯えるように縮こまっているのを見た。記憶がリフレインする。声が、それだけが次々と鏡花の頭の中に響く。

 

『悠馬くんはあんなにできるのになんでできない』

『ふざけているだろう。真面目にやれ』

『兄妹じゃないだろ。あんなやつ、もったいねえ』

『片や世界的な天才。片や九九の補修五回目。俺だったら恥ずかしくて自殺しちゃうね』

『俺の時間を奪って遊んでいるだろう、あ』

『お兄さん、学術会議?で賞をもらったんでしょう。すごいわねぇ』

 

 そして、彼女の視界が赤く染まる。鏡花が自分に異能があると知ったあの日の夕焼けを思い出す。嬉しくて嬉しくて、何度もゲートを通った。滑り台の下の水たまりと上の鏡を繋げて、何度も滑った。兄に勝てるものがようやく見つかって。ママに言いたくて、家に向かって。

 

『この子っすか。神藤悠馬の妹』

『そうそう。あいつ、気に入らないからまわそうぜ』

 

 手が服を掴む、ママが買ってくれた新しい服が破かれていく、男の人の手が上にあがって、ほっぺたが熱くなった。そして緑の光が見えて、男の人が倒れた。大嫌いな兄が息を大きく吸ってはいていた。手に緑の光があった。

 

『せいしんおだく』

 

 光を受けた男の人たちが倒れていく、苦しそうにしながら。そして私は何かを言おうとしたんだっけ?

 

『だから、家にいろと言っただろう。鏡花は────』

 

 それからいじめはパタリとやんだ。先生もクラスメイト達も張り付けたような笑顔をして私に話しかける。全部、兄が終わらせた。大嫌いな兄が、嫌いな兄が、守ってくれた。少し日にちが過ぎてママが謝ってきた。

 

『ごめんなさい、鏡花、気づけなくてごめんなさい。ごめんなさい、あなた。守ると決めたのに』

『母さん、被害者ぶるのはやめろ。鏡花だ、鏡花だけが被害者だ。いい加減、親になれよ。いつまで父さんの死を引きづってんだ』

『友尋さんは帰ってくる。帰るって言ったもん。嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき。帰るって帰ってくるから』

『……………話にならない。せいしんちんせい……………またこれだ、いい加減認めろよ』

 

 ママが倒れた。その時、私は兄になんて言ったんだっけ。

 

「────嬢、鏡花嬢」

 

 ”博士”が鏡花の肩を掴んで揺さぶる。ようやく記憶の奥底から帰ってきた鏡花と目が合った。

 

「……………フゥーム。なるほど……………鏡花嬢。今から私は君を踏みにじることを言う。だが、聞いて欲しい」

 

 ”博士”がファイルを棚から引き出した。そこには、ノートのコピーがまとめられていた。

 

「君の兄君である、Dr.悠馬だが。彼は私の個人的な友人でね。日本に彼の研究について、いくつか質問しに行ったことがある」

「あいつの話はしないで」

「落ち着いて欲しい。鏡花嬢、彼の論文は読んだことはあるかね?」

 

 鏡花は口をつぐんだ。そして涙を隠すように床を見る。

 

「ない。読もうとしたけどわからなかった」

「Excellent。読もうとした、それだけで十分価値がある。知ろうとする姿勢は学習において最も重要な才能の一つだ。……………彼が作成した中で、一番素晴らしいと言われているモノは異能力構造解体学だ。Dr.フェノー・レインの異能解析学と、Dr.ルイ・マルタンの異能原理学を結び付け、さらにその二つの欠点を補完した。この理論で彼はISCアワードプログラムを受賞した」

「だからなに」

 

 ”博士”は言葉を続ける。ファイルをめくりながら。

 

「しかし、私の個人的な見解を申し上げるならば。彼が初めて書いた論文である、「異能と人格の関係性」を挙げる。その中で、こんな一文がある。『異能は変化することは良く知られていることである。そしてその変化した異能は持ち主に悪影響を及ぼす事例は数多く報告されている。これは変化した異能に肉体の変化が追い付いていない、又は、追い付かないことにより発生する』と。そして最近、Dr.悠馬に質問を送った。『常時発動の異能はどのようなものを消費するのか』と」

「だからなに。”博士”も異能の研究をしてるんじゃないの」

 

 鏡花がいら立ち始めた。”博士”はそれを無視して続ける。

 

「鏡花嬢。私の専門は異能力だ、異能者じゃない。人間と異能の関係についてはDr.悠馬の方がはるかに詳しい……………彼はこう答えた。『個人差はありますが、常時発動型の異能が消費するものは、主に酸素とエネルギーです。しかし、幼少期から常時発動している異能であれば、肉体は成長とともに適応するため、負荷になることはほとんどありません』と」

 

 ”博士”は鏡花の周りを歩きながらしゃべっている。鏡花は意味が分からなそうにしていた。

 

「そこで私は、さらに尋ねた。『では、異能が後天的に変化し、常時発動型になった場合はどうなりますか』と。彼は少し考えてから答えた。『肉体に強い負荷がかかる可能性があります。実際、一日十五時間以上の睡眠を必要とした事例もあります』と返ってきた。そして、鏡花嬢。健康診断と銘打って、君の肉体を調べさせてもらった。そしたら君の脳は常に全力疾走しているほどの酸素を消費していた。脳は大量の酸素を消費していたが、その大半は思考ではなく異能維持に使われていた可能性が高い」

「じゃあ。じゃあ私はもっと頭が良かったってこと?」

 

 ”博士”が頭を掻く。少し不思議そうに答えた。鏡花が言葉に希望が入ったように尋ねる。

 

「自身の異能を呪うのかと思っていたが。……………まあ、そういうことになる。そして、鏡花嬢が数十メートル走るだけで息切れを起こすのも、その影響だ。君の脳は常に大量の酸素を消費している。運動をすれば筋肉も酸素を必要とするからね」

「呪わないよ。そのおかげでみんなに会えたから。それに受験なんて簡単できるってことじゃん」

「フゥーム。鏡花嬢。君の脳が本来の性能を発揮できていなかったのは事実だ。しかし、それと知識は別問題だ。これまで義務教育で学ぶはずだった内容を、一か月で身につけなければならないことに変わりはない」

 

 ”博士”の言葉に鏡花が固まる。”博士”は携帯端末を操作する。

 

「そして、入学しても勉強が終わるわけではない。むしろそこからが本番だ。……しかし、鏡花嬢が天守島へ行けば、私はもう君を教えられない。通信は白橋不羈に見張られているからね」

「……………どうすればいい?」

「Basic courseだ。基礎を徹底的に解説するチャンネルを作る、それを見てもらう。別に動画サイトは禁止されていないし、学生が動画を見て勉強することは別に変ではない。日本支部に何人か大学生がいたから、アルバイト代わりに作成してもらう。1時間の動画で30万円くらいを支払えば、すぐに協力してくれるだろう」

 

 ”破邪”に連絡をしながら”博士”はそう言った。鏡花が少し考える。

 

「なんで私のためにそんな大がかりなことをするの」

「大がかりではないさ。教育用の動画など、一度作ってしまえば多くの者が利用できる。それに組織のインフラを一手に担っている鏡花嬢、君がいなければ組織はとうに滅んでいる。君が生み出す利益に比べればこのくらいのコストは百倍払ってもおつりがくる」

「……………じゃあ、私がいなくなった時って大変なことだったの?」

「……………ようやく…………………………ようやく、理解してくれたかい。君は代えが効かないんだ。いくらでも予備がいる私と違ってね。いや、予備とは失礼な言い方だ、優秀な後継者がいくらでもいる」

 

 ”博士”の端末が振動をする、見てみると”破邪”から連絡が来ていた。

 

[動画について、数学、現代文、古文、漢文、地理、日本史、異能史は彼らが担当することに同意した。異能学は神藤悠馬に依頼した方が効率がいい。組織としても、今後は彼との協力関係を築きたい。そのほかはまだ連絡がついていない]

「鏡花嬢。兄君と関わる気はあるかね?同じ学校に通うことになるが」

「ない。絶対にない」

(その割には、兄君の事を”破邪”に聞いていると、報告があるが。気付いていないのか?まあいい、今彼女に必要なのは受験勉強だ)

 

────

────────

 

 二週間後。”博士”が鏡花に届いた封筒を開ける。

 

 桜道模試。国語76点、数学45点、英語59点、社会55点、理科34点。神藤鏡花、天守島異能力学校、判定A。

 

「Excellent。二週間でこれほどの伸びを見せるか。今のまま行けばどれも70点以上は取れるだろう」

「もう、止めていい?」

「駄目だ。暗記系の科目はまだいいが、数学がまだ十分とは言えない」

 

 ”博士”は肩をすくめる。少しだけ考えた。鏡花を見る。

 

「科学者にとって、数学は第二言語だ。教科書くらいの事は理解していろ……………失礼、大学での教え子に言う言葉だ、忘れてほしい」

「……………”博士”はキャラ作ってるの?」

「教授としての方が素ではあるが。まあ、そうだとも。素のままで甥と姪に勉強を教えたら、泣かれてしまったことがあってね。それからキャラクターを作っている。あの時の姉の拳はとても痛かった。いや、ずっと痛いな。私にとって頭が上がらない存在だ」

 

 自身の脇腹を軽くなでる”博士”はそうぼやいた。あのショートフックは子供の時から撃たれている。

 

「鏡花嬢、今まで異能に使われていた脳が使えるようになって、確かに学習能力はあがった。それでも君の学習能力は、ようやく平均より少し低い程度になったと言った方が正しい。Tennが良く使うIQという指標を使って示せば89といったところだ。だがあきらめないで欲しい。IQが平均の100の者より一時間多く机に向かえば、その差は埋まる程度のものだ」

「89か、平均より少し下なんだ。じゃあ”博士”はどのくらいなの」

「学生と研究の合間に遊びで測ることはあるが、170から180を上下している。もっとも、あの手の検査は一般集団を評価するためのものだ。私のような外れ値になると、統計的な信頼性はあまり高くないし」

 

 ”博士”はツヤを失い始めてた自らの手を撫でる。

 

「……………最近は肉体が追い付かないことが多くなってきた。加齢とは恐ろしいものだ、ピザを一枚食べきるのが苦しくなってきた。ハンバーガーも、いつの間にかパティの枚数が1枚少ないものを注文するようになったし。パソコンの文字も読みにくくなってきた」

 

 鏡花はそれを聞いてクスリと笑った。何回かニュースで見たことがある”博士”が普通のおじさんのようなことを言い出したのが、少し面白かった。”博士”が咳払いをする。

 

「話を戻そう。鏡花嬢、今の君は私の異能で異能が使えなくなっている。では、先週教えた私の異能について、説明をしてくれ」

「”博士”の異能は、異能の無効化で、条件は相手の異能の原理を知って、体験すること。無効化できるのは一人だけでしょ」

「Good、そして、無効化する対象に触れることだ。授業の合間に教えたことだがよく覚えていた」

 

 "博士"は拍手をして、カバンからタブレットを取り出した。そして、操作をし始めた。

 

「では、異能についての勉強だ。異能関係は今回の受験には出題されない。しかし学ぶ必要はある。鏡花嬢、俗に言う、特別異能はどんなものがある」

「えっと……………空間型、治癒型、時間型、の3つ?あ、精神型も入るから4つ」

「Excellent。この4つは希少性が高い。鏡花嬢の”鏡門”は空間型の中でも最上のものだ。そして、君に関わる異能者の異能はどれも強力なものばかりだ。兄君も含めてね。しかし、多くの異能はこの程度のものだ」

 

 タブレットの画面に映し出されたものを鏡花は見つめた。

 


 

 異能:回転指

 

 自らの指が回転する異能。二回転以上回転するとそのまま指がちぎれる。人間の指は回転するようにできていないし、指は生えてこない。回転するとき痛みを発する。十秒で一回転する。マスマフ異能交換所に売却済み。

 

 異能:毛髪液体化

 

 自らの髪の毛を液体にできる異能。髪の毛だけである。髪の毛の脱毛はできるが、他の部位は不可能。毛根も液体状になるので髪の毛の永久脱毛ができる。この異能の所持者は住職をしている。本人の証言によれば「毎朝剃らなくて済むので非常に有用」とのこと。

 

 異能:陰毛操作

 

 自らの陰毛を操ることができる異能。操作可能なのは陰毛だけである。せいぜい五センチ未満の毛を操作したからと言って何の役に立たない。この異能の所持者はVIO脱毛済みである。

 


 

「……………私の異能って便利だったんだ。最後の人ってもう異能者じゃないじゃん」

「その人は異能を失うことには抵抗がなかったらしい。なにぶん女性のデリケートな話題でね。異性である私から詳しく話すのは控えておこう。セクシャルハラスメントにもなりかねないからね」

「まあ、下の毛の処理は面倒だし、水泳の時なんか」

「鏡花嬢、鏡花嬢。その話はやめてもらえないか。コンプライアンスというものが、近頃はいろいろと厳しいんだ。教授会でも、『そんなつもりはなかった』という事例が話題になることは珍しくない」

 

 少し驚いたような顔をした鏡花が、耳の裏をかいた。

 

「大人って大変だ。……………そういえば、生理の相談をしたとき、あいつも変な顔してたな」

「私は何も聞いていないぞ、鏡花嬢。あー、なにも聞いてない」

 

 数十秒後、”博士”はようやく耳から手を離した。そして、落ち着いて言い放つ。

 

「天守島異能力学校では、異能の精密検査がある。鏡花嬢、その時、君には異能について一つだけ嘘をついてもらう。ゲートの有効期限についてだ。一週間と言ってくれ」

「それだけ?他は隠さなくていいの?」

「ああ、鏡花嬢は嘘が少々、かなり苦手なのでね。バレた時、我々はもう手出しができない。そして嘘は一つ崩れると連鎖する。"破邪"の見立てでは、鏡花嬢は『なぜ嘘をついた』と問われた時点で、すべて話してしまうそうだ」

 

 鏡花はすこしムッとしたが、深呼吸をした。”博士”がさらに続ける。

 

「それに、天守島には君の兄君もいる。彼が中学生の時から、疎遠だったとはいえ、君の異能について多少は調べているだろう。だからゲートの有効期限だけだ。ああ、それと鏡花嬢。誰か一人、天守島異能力学校に組織のメンバーを入れてほしいという要望だが、却下された」

 

 ”博士”は4本の指を立てる。

 

「白橋 不羈、葭江 躯の分体である黒井 灰、菅原 牡丹、そして神藤 悠馬。この四名が存在する環境では、情報は容易に相互補完される。組織の会話などすれば、芋づる式に露見すると判断された」

「白橋って人はどんな人。他の三人はともかく、そんなに警戒する人なの?引退した軍人じゃないの?」

「もちろんだとも、白橋 不羈は元情報将官とはいえ、あの嵐山 実巳の右腕とも言われた人物だ。今でも連絡を取り合っているという情報もある。無用なリスクは避けるべきだ。だからこそ、学校では組織ではなく、君自身の友人を作ってほしい」

 

 そして、"博士"は床に置いてあった段ボールから、一冊のファイルを取り出した。かなり強いモザイク加工はされているが人の死体の写真だった。

 

「さて一つ気を付けていてほしいことがある。これは5日前に起きた、西EU支部の第3事務所襲撃事件の写真だ。表向きは異能者の互助施設だ。EUは異能者差別が特に厳しい所だからね。表向きと言っても、互助施設としての面が強い所だった。火炎瓶くらいなら投げ込まれても対処は可能だが、高位異能者の襲撃に会った」

「なんで……………なんで異能者が異能者の互助施設を襲撃したの」

 

 鏡花が怒りと困惑が混ざった声を上げる。"博士"は淡々と写真をめくる。その指先だけが、わずかに力を帯びていた。

 

「襲撃犯はゲオルギウスの墳墓の高位異能者だ。おっと、向こうの言い分に合わせれば聖別者かね。まったく同じものだろうに。現地の警察ともずぶずぶでね、『ドラッグパーティをしていたらガス爆発を起こして死者が出た』という発表があった。死者17名。支部のメンバーは1人もいない。互助施設に相談に来た二家族。互助施設にボランティアにきた学生3人。そして施設で働いている無関係の市民4人」

「襲撃犯はだれ。捕まえないの?」

「生き残った支部員の証言によれば、高校生くらいの異能者が5人とのことだ。もし捕まえても、墳墓も現地警察も知らぬふりをするだけさ」

 

 ”博士”がもう一冊のファイルを取り出す。ゲオルギウス聖別者高等教育学校というテープが張られていた。

 

「彼らの目的は支部員の殺害だ。高位異能者を5人も動員して、成果は17人の無関係の市民の命という失敗に終わった。……………いいや異能者────彼らの言葉を借りれば、汚染者を守る者も同罪だ。ならば成功かね。そんな彼らが日本に学校を作った」

 

 ファイルが開かれる。そこはパンフレットのコピーがファイリングされていた。ポップな字体で書かれている紹介文を鏡花は見る。

 


 異能者の子供たちへ

 ゲオルギウス聖別者高等教育学校に入学しませんか?

 他の異能力学校は、海や山の上にあって、放課後に遊びにいけません

 しかし、ゲオルギウス聖別者高等教育学校は駅から10分、しかも送迎バスがあります。

 なんと学生証を見せれば公共交通手段が無料で使えます

 寮では専属シェフが調理したビュッフェが24時間利用可能です。(一か月 5000円)

 

 よくある質問

 

 寮は2人部屋なの? → いいえ。全室個室です。お風呂・トイレは別で、月に一度ハウスクリーニングも利用できます。

 異能者差別にあわないか心配 →大丈夫です、私たちの学校には顧問弁護士とカウンセラーがいます。安心して入学してください

 保護者と離れて暮らすのが不安です → 寮母・カウンセラーが24時間常駐しているため、安心して学校生活を送れます。また、週末は帰宅してご家族と過ごすこともできます。


 

「うわぁ、こんなお金どこから出てるの」

「ゲオルギウスの墳墓は世界最大の反異能者団体だ。支持者からの献金、有料で請け負う異能者の排除、それに各国政府からの巨額の助成金。最後など、思わず二度見をするほどの額だった。その5%でも大学に回してくれれば、冬に冷たい便座を使わずに済むし、給付型奨学金ももっと増やせるのだが」

 

 ”博士”はそう言ってため息をついた。 脳裏をよぎったのは、12年前、親の急逝で大学を去らざるを得なかった教え子だった。

 

「大学のトイレって冷たいの?」

「温水便座などほとんどないよ。私の勤務している大学など校舎が築70年を超えていてね。空調設備もろくに動かない。冬場はダウンコートを着たまま授業をすることもある。……………まあ、仮に予算が増えても、私は結局研究費につぎ込むのだろうがね」

 

 鏡花は”博士”の返答に半歩引いた。

 

「もともと、この学校はゲオルギウスの墳墓の本拠地、ベルリンに在った。それがこの半年で急に日本の横浜に移転することになった。学生も日本に移住する」

「どうして。なんでいきなりゲオルギウスの墳墓が動いたの?」

 

 鏡花の問いに”博士”は首を横に振った。そして窓の外を見た。

 

「わからない。だが、この1年で日本にゲオルギウスの墳墓の資金と異能者が集められているのは事実としてある。だから、常に頭の片隅においてくれ。"破邪"なら何か知っているだろう。しかし、私にすら共有していないということは、まだ知るべき段階ではないという判断なのだろう」

「私は何をすればいいの?」

「受験勉強だ」

 

 鏡花は机に突っ伏す。”博士”は教材を段ボールから取り出した。

 

────

────────

 

 二週間後、合格発表の日。鏡花は自室のパソコンの前で固まっていた。鼓動が大きく聞こえる。机の上には、受験番号「34」と書かれた紙が置かれていた。途中で異能の常時発動が起こり、それから終了までの記憶はなかった。

 

[合格者発表:  

1 3 4 ……………

20 21 22 ……………

…………………………

………33 34……………]

「あった」

 

 呆然としている鏡花にメールが届く。差出人は天守島異能力学校生徒会。

 

[神藤 鏡花さん。天守島異能力学校に合格おめでとうございます。来年四月、神藤さんを本校へ迎えられることを、生徒会一同楽しみにしております。必要な道具、書類については来週に書類で届けられます。天守島異能力学校生徒会会長 七條葵]

 

 鏡花はそのメールをじっくり読む。そして最後にある名前を見て、引っかかる。

 

(この人の名前どこかで……………)

 

 てんてててんてててんってんてん

 

『GOOOOD。鏡花嬢、合格おめでとう。異能の常時発動が起きたと聞いたときは思わず、無理だと思ってしまったよ。私からわずかながらだが、贈り物をさせてもらう。明日辺りに届くと思うから受け取ってくれ』

「”博士”?そんなテンション高いの初めて見た。……………”博士”?」

『ツーツーツーツー』

「切れてるし……………」

 

 鏡花はベットに寝転ぶ。見慣れた天井だ。そして、達成感が胸の奥から湧き出てきた。初めての事だった。

 

 






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