────あるメキシコ人の証言
2051年12月29日 天守島異能力学校 第Ⅰ体育館
生徒達の様子を見て、壇上に立った40くらいの男がマイクのスイッチを入れた。
「あ、あ、うん。校長の
(校長先生の話、噂よりも短いな。時間測ろうと思っていたのに)
牡丹は自分の密かに楽しみにしていたことが不発に終わり少し不満げな顔をしていた。すると隣のどこか陰気な面影があるセーターを着た女性教師が顔を動かさず牡丹に声をかける。
「うちのクラスの子が迷惑を掛けてごめんなさい」
「…たしか2-Aの担任ですよね、気にしないでください。子どもはそういうものです」
「ですが」
「…別に昔の同僚に比べたら可愛いものです。気にするなら首輪くらいつけてください」
「えっ」
何か言いたげな表情を浮かべたが牡丹は無視し、自分の受け持ちの生徒達の様子を探ることにした。
(うーん見えないけど気配から解ることといえば、余裕そうなのが
そんなことを考えていると、終業式が終わったらしい。出口から近い生徒達が立ち上がっていく。
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「さて、二学期が終わりました。やることはまだまだありますが、ひとまずお疲れ様です」
職員室で先生が集まり互いの苦労を労っていた。手持無沙汰な牡丹に白橋が近づく。
「菅原先生、自己紹介を」
「…
「
「…分かりました」
「えー、先ほどはできなかった菅原先生の自己紹介を行います。各自
そう白橋が言うと、教員たちはスマートフォンの半分ほどの機械をもって周囲を確認し始めた。
「問題ないです」
「こっちもです」
「一つありました」
「連絡して切らせました」
盗聴器などの確認が終わり、牡丹は自己紹介を始める。
「……菅原 牡丹。年齢は21…7年くらい家事手伝いをしていた。従軍記録は
「
「……
「分かりました」
一人の男性教師の質問に答えた牡丹は用意された自分のデスクの収納に持ってきた道具を入れ始めた。訝しげな態度を浮かべていた先生たちは、その答えを聞いて納得した表情で自分たちのクラスに向かった。
同時刻 2-Bでは騒ぐ元気もない生徒たちは牡丹が来るのを待っていた。担いだ立川を椅子に座らせた神藤は、奢らせたイチゴケーキドリンクを飲みながら、友人たちと会話をしている。
「立川、職員室の様子はどうだ」
「ダメっぽい,対応されてる」
「そんなことより悠馬、年末年始の挨拶周り手伝ってよね」
「おう」
「口調に気をつけてよねホントに」
「分かりましたよ、葵」
「やればできるじゃない」
いつのまにか二人の世界に入った、神藤と七條を立川は、今日一番の笑顔で見守った。
(あんなに仲が悪かった二人がこんなことになるなんて、去年の自分に言っても変な薬でもやった?って言われるだろうな。まあ、神藤が恋愛経験皆無なくせに、素面であんな事言えるような奴って知らなかったし。さて、来年の新聞は菅原先生の特集にでもするか。だぶん検閲は来るだろうけど、検閲の内容でも正体を探るヒントにはなるか)
「みんなは本土に帰るの?」
ビクッ
いつのまにか背後にいた八谷に三人は驚いたが、それぞれがその問いに答える。
「葵と一緒に挨拶周りにいくから帰る」
「悠馬といっしょ」
「僕はここに残るよ、家帰っても居場所ないしね」
その解答を聞いて何かを言おうとした、八谷だったが、教室に牡丹が入ってきて遮られた。
「……ホームルーム?を始める」
牡丹は白橋からもらったメモを読みながらたどたどしくホームルームを始めた。
「…全員いるね…課題は各先生方から出されているモノをきちんとやるように。まとめて課題のデータが送られていると思う、きちんと確認して。……本土に行く船は今日の18時に出港する。だから遅れないように……これで終わる」
そう言って牡丹はメモから顔を上げ教室から出て行った。生徒たちはゾンビのような足取りで荷物を抱え学生寮に向かう。
牡丹は教室に残っている物がないか確認してから、鍵を閉めた。時計の針は三時を示している。なにやら満足気な雰囲気を出した牡丹は意気揚々と職員室に戻ることにした。
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「菅原先生、もう出港の時間まで20分ですよ」
書類に記入をしていた牡丹に体育館で声をかけてきた女性教師が牡丹に話しかけてきた、そのてには大きなキャリーケースがある。牡丹は手を止め向かい合った。
「…ああ、ありがとうございます。私は乗らないので大丈夫です」
「そうなんですか、私はこれで失礼します、来年からお願いしますね」
「…お疲れさまでした、来年もよろしくお願いします」
互いに会釈をし、牡丹は再び書類に向かい始めた。
「……終わった」
ふと窓を見てみると既に闇に染まっていた。牡丹は校長室の扉をノックし、数秒が経ってから。
「入ってどうぞ」
「……菅原です失礼します。言われた書類を提出しに来ました」
「ああ、うん。貰うよ……うん、大丈夫そう。菅原先生もう帰っていいですよ」
「失礼しました」
牡丹は頭を下げ校長室から出て行った。白橋は一つ伸びをすると、どこかに電話をかけ始めた。
「もしもし、嵐山先輩。白橋です」
『あー、白橋くん。菅原くんはどう?いい子でしょう。自慢の子だよ』
「いきなり人を送らないでくださいよ。こっちは大変だったんですから。というか先輩に娘さんいないでしょう。愛人の子ですか?」
『違うよ、昔の部下だよ。……周りに人はいないよね』
「いませんよ。
『菅原 牡丹は”花火”だ』
「……”花火”ってあのですか」
『そうだよ、ビックリしたでしょ』
「…………
『だから、異能力学校の先生にする。新人の先生として彼女が動くためにね ブツッ』
「分かりましたよ……って切れてる。まあいつもの事だし。はぁ」
白橋はおもむろに戸棚の鍵を開け、そこにあるファイルを取り出し、開いた。
第三次世界大戦 メキシコ終焉戦に関する報告書
戦闘概要
発生時期:2042年11月9日正午~11月14日未明
戦闘地域:メキシコ合衆国グアナフアト州以南、グアテマラ共和国、ニカラグラ共和国北部
参戦勢力
異能犯罪組織[DR-14] :首魁"
:[DR-14]構成メンバー全員
日米合同部隊 :日本・特別異能戦略実行部隊隊長”無機器官”
:同部隊副隊長”花火”
反異能団体[ゲオルギウスの墳墓] :最高聖別者”
:聖別者 ”
戦闘経緯
2042年11月9日12時[DR-14]壊滅のため、”無機器官”、”花火”、”星頭鷲”三名の日米合同部隊が討伐作戦を開始。10日の夕方頃には”百薬毒竜”以外の[DR-14]の構成員は全滅していたと考えられる。同年11月11日正午、”切り裂き皇帝”、”融合屍柩”が戦場に乱入、さらに戦闘が激化した。”星頭鷲”の誘導があり、戦場は南下していく。同年11月14日1時13分、”無機器官”、”星頭鷲”が戦場から離脱。この時点でメキシコ合衆国グアナフアト州以南の領土が完全消滅、グアテマラ共和国の領土が94%消滅し、ニカラグア共和国領土の21%が消滅。同年11月14日4時15分、突如として”花火”の異能と思われる大爆発が発生。この大爆発によりグアテマラ共和国の残りの領土が消滅、ニカラグラ共和国の領土が24%が消滅、"花火"、”百薬毒竜”、”切り裂き皇帝”が死亡し、終戦となった。
戦闘による被害
メキシコ合衆国 :グアナフアト州以南の領土が完全消滅及び死者約3,100万人
グアテマラ共和国 :国家領土が100%完全消滅及び死者約2,200万人
ニカラグア共和国 :全領土の45%が消滅及び死者約350万人
日本国 :特別異能戦略実行部隊副隊長”花火”
DR-14 :全構成員12万人及び首魁"
ゲオルギウスの墳墓 :最高聖別者”
:聖別者 ”
周辺地域の負傷者は約700万人と推定される。
日米合同部隊の証言により、”百薬毒竜”の毒を”花火”が消滅させていなかったら被害はさらに甚大になっていたと考えられる。
”無機器官”は自身の異能により、肉体の欠損は修復済み。
”星頭鷲”は全治2週間と予想されている。
また戦闘により地球全土が寒冷化すると推定される。
直接的な国際情勢の変化
超高位異能者の戦闘による壊滅的被害を認識したことを契機に泥沼化していた第三次世界大戦は一気に終戦に向かうことになった。その他、経済的、地政学的影響については、別紙にて報告。
ゲオルギウスの墳墓に関する報告
"切り裂き皇帝"死亡、”融合屍柩”逃走により、本人たちからの情報は得られなかった。「悪しき汚染者(異能者)の聖別のため行った」とゲオルギウスの墳墓から発表があった。しかし超高位異能者の戦闘を聞きつけた、”切り裂き皇帝”が単独で突入したと、内部の潜入調査員から報告があった。
添付資料 作戦行動隊長 葭江 躯による補足
11月14日に私とジェリーが戦場より撤退したのは、雪ノ下に「あっちいってて」と言われ弾き出され、私はミシガン湖に着水。ジェリーはマイアミに飛ばされたと聞いた。私は彼女のように機動力に欠ける。私がヒューストンについたあたりで、例の大爆発が起こった。あくまでこれは考察だが、”切り裂き皇帝”は私が吹き飛ばされたとき、”百薬毒竜”の毒に犯されていた、故に大爆発が起きる前には死んでいた。雪ノ下の葬儀があるので失礼する。彼女はまだ12歳だった、罪はない。私の指示のもと実行したに過ぎない。
「よし、彼女はこんなことができるなら、……あれも必要か」
報告書を読み終えた白橋は生徒のために、授業設備の準備をはじめることにした。
「……綺麗な星空」
牡丹は明かりのない港で星空を眺めていた。雲は一つもない。
「……周りには、いないか」
そして、牡丹は微かな燐光を放ち消えた。
人物紹介
菅原 牡丹 (21 女)
本作品の主人公。天守島異能力学校2-B担任。旧名 雪ノ下 彼岸。年末年始はゆっくりするタイプ
神藤 悠馬 (17 男)
精神干渉系の異能者。天守島異能力学校2-B。新聞部。第三次世界大戦で父親を亡くした。年末年始は七條と過ごす。
立川 一 (16 男)
二キロメートルまで、聴覚を飛ばすことができる異能者。天守島異能力学校2-B。新聞部部長。第三次世界大戦で家が全壊した。両親がゲオルギウスの墳墓の信者であり、家に居場所がない。
七條 葵 (17 女)
紅い電気のようなものに肉体を変化させ、また操ることができる異能者。天守島異能力学校2-B。天守島異能力学校生徒会会長。年末年始は嫌いだったが神藤と過ごすことができて嬉しい。
八谷 涼音 (17 女)
モノを清潔にすることができる異能者。天守島異能力学校2-B。天守島異能力学校生徒会会計。年末年始は無人島で鍛錬をする。
白橋 不羈 (48 男)
情報を遮断する霧を発生させることができる異能者。天守島異能力学校学校長。嵐山の後輩。年末年始は仕事をする。