牡丹は花火になりたい   作:ズンドロ

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授業外での環境干渉型異能の使用禁止。特に高圧受電設備近くでの使用は厳禁.
天守島異能力学校校則3-2-3


ようやく三学期が始まる

2052年1月12日 天守島異能力学校

 

 学生寮に放送が入る

 

『白橋です。始業式は明日の13時から行います』

 

 数秒の間。寮内の誰も反応しなかった。そして次の瞬間、各階で一斉に騒ぎが始まる。

 

「13時!?」

「明日!」

「助かったぁぁぁ……!」

「待て、逆に嫌な予感しかしねぇんだけど」

 

 廊下を走る音。ドアが開閉する音。どこかで誰かが笑い、別の場所では悲鳴が上がる。

 

 だが放送は終わらなかった。

 

『急ですが、対異能警備隊の皆さんが天守島にきていますが、気にしないでください訓練です。今日の緊急放送も訓練です。連絡を怠り、申し訳ないです』

 

 一瞬で空気が変わる。

 

『外壁が新しく作られましたが水害対策です、これで安心ですね』

 

「は?」

 

 誰かが素で漏らした。そして別階から声が飛ぶ。

 

「いや絶対嘘だろ」

「対異能警備隊来てる時点で訓練じゃねぇ!」

「「気にしないでください」で済む規模じゃないんだよ!」

 

 寮内が一気にざわつく。窓際へ駆け寄った生徒がカーテンを開けた。その瞬間、あちこちで悲鳴に近い声が上がった。

 

「うわっ……」

「マジで艦いるぞ……」

 

 灰色の海。その沖合へ、黒い艦影がいくつも並んでいた。対異能警備隊の大型警備艦。さらに低空では、輸送ヘリらしき影まで旋回している。サーチライトが霧を薄く切り裂いていた。

 

『なお、一部区画で立入制限がありますが、安全確認のためです。冬休みで訓練場を増設したので。ああ、それとSNS等への虚偽情報投稿は校則違反となります』

「虚偽情報!?」

「どこからどこまでが!?」

 

『特に「警戒レベルが上がった」などは書き込まないように。一応、投稿は全てチェックしていますが』

「今なんて?」

「「全部チェックしてます」って言った?」

 

 誰かのツッコミを皮切りに、一気に騒ぎが爆発する。

 

「怖ぇよ!」

「SNS監視宣言を校内放送でやるな!」

「逆に警戒レベル上がってるって認めてるだろもう!」

 

 窓の外では、低空を飛ぶ輸送ヘリの赤色灯が霧の中で点滅していた。海上では巨大警備艦の探照灯がゆっくり海面をなぞっている。どう見ても訓練の空気ではない。

 

『繰り返しますが、本件は訓練です』

「通常で軍艦来る学校があるか!」

「あるんだよここには!」

「反論できねぇ……!」

 

 どこかの部屋で誰かがカーテンを閉める音。別の部屋では、すでにSNSへ投稿しかけていた生徒が慌てて端末を伏せていた。

 

「待てこれマジで見られてんのか?」

「去年、学校の地図投稿したやつ呼び出されてただろ」

「そういや消えてたな三日くらい」

「怖っ」

 

 放送はなおも淡々と続く。

 

『おっと、1-C田島くん。職員室に来てくださいお話があります』

 

 寮内が静まり返った。数秒遅れて、あちこちの部屋から吹き出す声が漏れる。

 

「終わった」

「捕捉早すぎるだろ……」

「投稿して数秒じゃねぇか」

「怖っ」

 

 1-Cの田島 恒一は、廊下の真ん中で固まっていた。

 

「えっ、なんで」

 

 手の携帯端末には、『天守島に対異能警備隊がきてる』という投稿画面。送信ボタンはまだ押されていない。その事実に気づいた周囲の生徒たちが、ゆっくり後ずさった。

 

「……まだ投稿してなくね?」

「下書きだよな?」

「なんでバレた?」

 

 空気が変わる。そして放送が追撃するように流れた。

 

『補足しますが、未投稿状態でも検知可能です』

「検知って言った!」

「監視じゃなくて検知って言ったぞ今!」

「軍用システムだろそれ!」

『安心してください。今回は訓練ですので厳重注意のみです』

「訓練で済む内容じゃねぇ!」

「その訓練のスケールが怖ぇんだよ!」

 

 窓の外では、探照灯が霧を横切る。海上には複数の大型艦影。さらに外壁付近では、装甲車らしきライトまで見えていた。どう見ても訓練ではない。田島は端末を抱えたまま震える声を出す。

 

「……俺、本当に呼ばれる?」

『はい、待っていますよ』

 

 田島の周囲にいた生徒が一歩下がる。

 

「はよ行ってこい田島。骨は拾ってやる」

「縁起でもねぇこと言うな!」

 

 田島は半泣きで叫んだ。

 

 

 第一校舎学生食堂

 

「立川お前痩せた?」

「あ、神藤。うん、ノロウイルスダイエットでね」

「その痩せ方嫌すぎるだろ」

 

 神藤は購買のパンを片手に、げんなりした顔をした。窓際の席では、海霧の向こうに増設された外壁がぼんやり見えている。立川 一は以前より少し頬がこけていた。

 

「いやぁ、人類は食べなくても数日は生きられるって学んだよ」

「学びたくねぇ知識だな……」

「マジできつかったけどね、そんなことはさておき、七條さんとの挨拶周りどうだった」

 

 神藤はひどく嫌そうな顔をした。

 

「あー……疲れた」

「だろうねぇ」

 

 立川は紙パックのお茶を揺らしながら笑う。窓の外では、冬の灰色の海が広がっていた。遠くには増設された外壁。さらに沖合には、霧の中へぼんやり警備艦の影が浮かんでいる。

 

「でも実際どうだったの? 七條家関係って、政治家とか財界とか防衛省とか来るんでしょ」

「来る。暗殺者も来る」

 

 立川の手が止まった。

 

「待って最後なんて?」

「暗殺者」

「さらっと言う単語じゃないんだよ」

 

 神藤は購買パンを齧りながら、心底疲れた顔で続ける。

 

「いや、来るっていうか襲い掛かってくる。誰もいない場所だと確実に。読心なかったら10回死んでる」

「…………え?」

「だから読心なかったら死んでる」

「いやそこを流すな」

 

 神藤は疲れ切った顔でパンの袋を畳む。

 

「葵のやつ、危険人物が寄ってくるのは日常みたいな感覚してるから怖ぇんだよ」

「待って待って待って」

 

 立川が手を上げる。

 

「暗殺未遂が日常なの?」

「日常らしい。今年の冬休みで葵は10人、と少し来たって言ってた」

「嫌すぎる」

 

 神藤は窓の外をぼんやり見る。灰色の海。増設外壁。霧の中の艦影。全部見慣れてきている自分が少し嫌だった。

 

「しかも普通に人混みに混ざってくる」

「うわ」

「だから護衛、全員視線が怖ぇ」

「そりゃそうなる」

 

 神藤は少し声を落とした。

 

「エレベーターで二人きりになった瞬間、後ろから殺気来た時は本気で終わったと思った」

「えっ」

「読心で気付いて避けたら、次の瞬間ワイヤー飛んできた」

 

 立川の顔色が変わる。

 

「いやいやいやいや」

「でも葵、普通だった」

「普通?」

「海外系だって」

「分類するなそんなもん!」

 

 周囲の席で聞いていた生徒まで静かになる。神藤は遠い目をした。

 

「しかもその後、「悠馬、慣れて」って言われた」

「慣れる状況じゃないでしょ……」

 

 立川は本気で引いた顔をした。周囲で聞き耳を立てていた生徒たちも、なんとも言えない表情をしている。

 

「え、七條さん家ってそういうレベルなの?」

「財閥系ってもっとこう……政治的な怖さじゃないの?なんで物理的に殺されかけてるの」

 

 神藤は疲れた顔で紙袋を丸める。

 

「俺も最初そう思ってた。名家だから面倒なんだろうなくらいで、実際心読んだら、想像の5倍はドロドロしてたし、普通に物理的に殺すが選択肢としてあった」

「地獄じゃん」

「途中から俺もそう思った」

 

 食堂内のざわめきが少し遠く感じ、立川は恐る恐る聞いた。

 

「……で、そのワイヤー飛ばしてきた人どうなったの?」

「消えた。まあ物理的には生きてると思うぞ」

「と思うなのが怖いんだよ」

 

 神藤は少し考える。

 

「なんか護衛の人らが回収してた。葵は情報機関系よって言ってた」

「だからなんで分類できるんだよ!」

 

 思わず立川が机を叩く。近くの席から笑い声が漏れた。だが神藤は笑えない顔だった。

 

「あと怖かったの、葵本人なんだよな」

「七條さんが?」

「あの状況で普通に歩く」

「まぁ慣れてるんでしょ」

「いや、慣れてるで済ませちゃ駄目なやつ」

 

 神藤は窓の外を見る。

 

「殺気向けられても顔色変わらねぇんだ」

 

 立川が静かになる。

 

「……それは確かに怖い」

「しかも俺が避けた瞬間、「右よ」とか普通に言う」

「実戦慣れしすぎだろ」

 

 神藤は苦い顔をした。

 

「あと一番嫌だったの、「悠馬、慣れて」って言われた時」

「うん」

「あいつ本気で言ってた」

 

 食堂の向こうで、誰かがトレーを落とす音が響いた。立川はぽつりと呟く。

 

「……天守島の方がまだ平和じゃない?」

「俺もそう思ってた、昨日まで。天守島に戻りたいって。で、”海洋迷宮”ってやばい奴いた。ってかなんでいなかったのあの時」

「ああここ3日位地下にいた。地下の新しい訓練場の取材にね。あの台風みたいな音がする”海洋迷宮”の時にいなかったのは白橋校長に差し止めするって言われたからね。なら訓練場のこともっと調べたほうがいいし」

 

 神藤の動きが止まった。立川は悪びれもなくお茶を飲む。

 

「……お前、あの地下行ってたの?」

「行ってた」

「いや待て。立入制限かかってただろ」

「白橋校長から独占取材していいって言われた。対異能警備隊と菅原先生の事書かないかわりにね」

 

 神藤は数秒、完全に黙った。

 

「……は?」

「だから取引。地下訓練場は好きに取材していいから、対異能警備隊関連は書かないでねって」

「いや軽っ!」

「軽く言ってたよ白橋校長」

 

 神藤は頭を抱えた。

 

「なんでそんな重要情報を新聞部に渡してんだあの人……」

「情報統制の基本だよ。全部隠すと逆に探られるから、見せていいものを渡す」

「うわ本職のやり方だ……」

「あと「君はどうせ嗅ぎ回るでしょう」とも言われた」

 

 神藤は立川と思念伝搬(テレパシー)を繋ぐ。

 

⦅でどうなんだ⦆

⦅対異能警備隊が来たのは侵入者対策だけど侵入された、菅原先生はうちのクラスに入ってくる黒井って生徒の知り合いってことぐらい、白橋校長が全力で異能使ってた。だからどっちも国家機密レベル確定。地下の訓練場は紹介もかねてやってくれとお願いされたから。超いい記事にした⦆

⦅黒井ってやつ、多分葭江躯だ⦆

⦅……は?⦆

 

 神藤は窓の外を見たまま、立川に。立川の顔色が変わる。

 

⦅最初は考えすぎだと思った。でも菅原先生があしえって呼んだ。しかも黒井、否定しなかった⦆

⦅いやでも、それだけで……⦆

⦅偽名って自分で言ってる。動きも軍人そのもの。あと、“海洋迷宮”への距離感がおかしい。どう考えても、国家機密の異能者を海へ投げたりしない⦆

 

 立川が完全に黙り込む。トレーの音、笑い声、購買の焼きそばパンを巡る喧嘩。そんな日常の中心で、自分たちだけ別の世界の話をしていた。

 

⦅……いや待て⦆

⦅うん⦆

⦅それ、本当だったらヤバいとかじゃなくて、なんで普通に学校いるんだよ⦆

⦅俺に聞くな⦆

 

 神藤は疲れ切った顔で窓の外を見る。灰色の海。霧。増設外壁。沖合の警備艦。見慣れ始めている景色が、急に現実感を失い始めていた。

 

⦅でも多分、白橋校長も菅原先生も知ってる。というか知らないで入れてたら終わってる⦆

⦅知ってても終わってる気がする⦆

 

 立川は真顔で返した。神藤は否定できなかった。

 

⦅しかもさ⦆

⦅まだあるの⦆

⦅黒井、“海洋迷宮”見た時の反応がおかしいんだよ⦆

⦅どうおかしかった?⦆

⦅脅威認識はしてる。でも怖がってない⦆

 

 立川の眉が動く。

 

⦅……対処できる側の反応?⦆

⦅多分な⦆

 

 神藤は今日の光景を思い出す。海霧、巨大な何か,対異能警備隊の緊張、その中で黒井だけが異様に静かだった。

 

⦅そうだとしたら、打つ手なしだね、あきらめよう⦆

⦅そうだな⦆

 

 立川は机へ突っ伏した。

 

2052年1月13日 天守島異能力学校 第Ⅰ体育館

 

「えー皆さんの元気な姿を見れてとてもうれしく思います。校長先生は最近忙しくて大変でした。さて、今日は課題の提出が終わり次第、好きにしてください。訓練が終わったので対異能警備隊も明日帰ります。君たちの先輩でもあるので優しくしてくださいね。3-Cから自分のクラスに戻るように」

 

 体育館後方で三年生たちが動き始める。

 

「…………課題の提出なにあったけ?」

 

 牡丹はぼんやりとした声でつぶやく。

 

「昨日メールでリストがきてますよ」

「……ありがとうございます」

 

 隣にいた教師が小声で教える。牡丹は端末を取り出し、しばらく画面を見つめた。

 

「……多い」

「ほんとに教員免許持ってるんです?高校生はこんなものですよ。高校生時代を思い出して────あっ、すみません」

「……免許はある、作ってもらった。別に大丈夫です。気にしなくて」

「次2-Bですよ」

「……どうも」

 

  2-Bの列が体育館から移動を始める。牡丹は相変わらず眠そうな顔のまま、生徒たちの後ろを歩いていた。

 

「先生、ちゃんと来てくださいね」

「……行ってる」

 

 返事が若干遅い。廊下へ出ると、冬の海風が窓の隙間から流れ込んできた。

 

「寒っ」

「外壁できてから風向き変わったよな」

 

 生徒たちが騒ぎながら歩く。牡丹はぼんやり窓の外を見た。灰色の海。遠くの外壁。沖合には、まだ対異能警備隊の艦影が小さく残っている。

 

「……帰るんだ」

「え?」

「警備隊。明日」

「ああ、そうみたいですね」

 

 牡丹は少しだけ考え込む。

 

「……静かになる」

「十分うるさい学校ですけどね」

 

 前を歩いていた女子生徒が苦笑した。その時。廊下の向こう側から、黒井が歩いてくる。2-Bへ向かっているらしい。騒がしい廊下の中で、黒井だけ妙に静かだった。視線が自然に窓、廊下角、非常口へ流れていく。神藤は少し後ろからその様子を見て、小さく息を吐いた。

 

⦅やっぱあいつだけ空気違うんだよな……⦆

⦅分かる。なんか警戒の仕方が学生じゃない⦆

 

 立川も返す。黒井は牡丹の前で止まった。

 

「教室はこっちで合っているか」

「……合ってる」

「そうか」

 

 短いやり取り。だが妙に慣れている。牡丹はそのまま歩き出し、黒井も自然に隣へ並んだ。周囲の2-B生徒がひそひそ話し始める。

 

「なんかもう馴染んでない?」

「転校数日目だよな?」

「黒井、妙に先生と距離近いんだよな……」

 

 神藤はその会話を聞きながら、なんとも言えない顔をした。

 

⦅葭江躯の件、俺らだけ知ってるの嫌すぎる⦆

⦅しかも確証に近づいてるのがもっと嫌⦆

 

 立川が真顔で返す。前方では牡丹が欠伸を噛み殺していた。

 

「……眠」

「先生、ホームルームありますよ」

「知ってる……」

 

 黒井が静かに言う。

 

「寝るな」

「……うん」

「注意されてる……」

「黒井の方がしっかりしてない?」

 

 2-Bから笑いが漏れた。そのまま一行は、第Ⅰ校舎の廊下を進んでいく。窓の外では、冬の海が静かに揺れていた。

 

 2-B教室

 牡丹は教卓へ着くなり、レポートを見ながら淡々と読み上げ始めた。

 

「レポート、異能史、数学、英語。探求課題。自身の異能について。うん桐山以外はある。みんな帰っていいよ」

「え?」

「終わり?」

「ホームルームは!?」

 

 牡丹は少し考え込み、

 

「……健康に気を付けて」

「雑!」

 

 教室中からツッコミが飛ぶ。だが同時に、安堵した空気も広がった。

 

「助かったぁ……」

「英語出し忘れたかと思った」

「探求課題マジでギリギリだった……」

 

 牡丹は眠そうな目のまま出席端末を操作する。

 

「……あと異能戦闘訓練の訓練場変わったから、第Ⅰ体育館」

「はーい」

 

 騒がしいクラスの中で黒井は静かに自席へ荷物を置いていた。神藤が思念伝搬(テレパシー)で立川に伝える。

 

⦅なんかもう普通にクラス馴染んでるなあいつ……⦆

⦅でも静かすぎて逆に目立つ⦆

 

 立川も返す。窓の外では、冬の海が静かに揺れている。灰色の空。増設された外壁。遠くにはまだ対異能警備隊の艦影。それでも昨日に比べれば、今日は驚くほど平和だった。

 

2052年1月14日 天守島異能力学校 第Ⅰ体育館

 

「…………36人いるね。じゃあ授業始めるよ…………白橋校長何の用ですか」

「生徒達の様子が見たくてね」

 

 白橋がタブレットを操作すると、体育館の床全体がゆっくりと下がり始めた。

 

「な、なんだぁ」

「えっ!?」

「床動いた!」

 

 2-A、2-Bの生徒たちが一斉にざわつく。重低音と共に、体育館の床が巨大なエレベーターみたいに下降していく。周囲の壁面ではロック機構が外れる音が連続して響いた。神藤が呆然と呟く。

 

「いや体育館って下がるもんなの……?」

「天守島だからねぇ」

 

 立川は妙に落ち着いていた。実際、一度取材で見ている。だが改めて見ても規模がおかしかった。数十秒後視界が大きく開ける。

 

「うわ……」

 

 誰かが息を呑んだ。地下空間、いや地下施設だった。巨大な空洞が広がっている。複数の訓練区画。可動式隔壁。射撃レーン。遠くに見えるのは市街地か?

 

「待ってあれ街?」

「地下だよなここ!?」

「なんでビル建ってんの!?」

 

 遠方にはコンクリート製の模擬市街地が広がっていた。信号機に横断歩道、コンビニらしき建物。壊れた車両まで置かれている。しかも一部区画では、本物みたいに街灯が点灯していた。

 

「え、何これ……」

 

 2-B全体が呆然とする。白橋は穏やかに説明した。

 

「市街地戦闘訓練区画ですね。これで実践に近い訓練ができます」

「学校の設備じゃねぇよこれ」

 

 ざわめきが広がる。さらに床が下降し、地下施設の全景が見えてくる。半ばから融解したビル群。水没区画。森林地帯。金属製の巨大シャッター。明らかに用途不明な隔離区画まで存在していた。

 

「いや広すぎるだろ……」

「地下だけで街一個あるじゃん」

 

 神藤は半ば呆れながら周囲を見る。その時、牡丹がぼそっと呟いた。

 

「……前より明るい」

「前知ってるんですか先生」

「……工事してたから」

 

 さらっと返ってくる。2-Aの女子生徒が恐る恐る聞いた。

 

「ここって、どれくらい深いんですか?」

 

 白橋が笑顔で答える。

 

「機密です」

「ですよねぇ!」

 

 黒井は周囲の騒ぎを気にした様子もなく、静かに地下施設を眺めていた。驚きも感心もない。ただ、いつも通り無表情だった。立川がその様子を見て、神藤に合図をおくる

 

⦅なんだ立川⦆

 

⦅ここ作ったの黒井だ、新聞には書いてないけど⦆

 

 神藤の表情が固まった。

 

⦅葭江躯で確定じゃね?⦆

 

 立川は周囲へ聞こえないよう、さらに意識を送る。

 

⦅取材中に整備主任がぼやいてた。「壁に継ぎ目が一つもない」って⦆

⦅普通こういう施設って、耐熱材とか装甲板とか絶対継ぎ目できるらしい。でもここ、全部一体化してるって⦆

 

 神藤がゆっくり周囲を見る。地下施設の壁面。巨大隔壁。模擬ビル。確かに、異様だった。巨大構造物なのに、繋いだ痕が見当たらない。

 

⦅いや待て。そんなの物理的に無理だろ⦆

⦅だから整備主任も怖がってた。人間の工法じゃないって⦆

 

 神藤の視線が黒井へ向く。黒井は静かに地下施設を見上げていた。表情はない、だがその空間へ妙に馴染んでいる。まるで自分で配置を決めたみたいに。

 

⦅葵には黙っておくか⦆

⦅うん、葭江躯のファンだもんね⦆

 

 神藤は微妙な顔になる。

 

⦅ファンっていうか……尊敬?⦆

⦅あの七條さんが資料集めてた時点で相当だよ⦆

⦅まあそうだけど……本人いたら絶対テンションおかしくなるだろ⦆

⦅確実に質問攻めだね…………そういえば七條さんは?⦆

⦅風邪ひいて休みだとよ⦆

 

 二人がそんなテレパシーを飛ばしている間も、地下施設では重機の駆動音が響いていた。遠方の模擬市街地では、整備ドローンが崩れたビルを修復している。

 

「いや修復速度どうなってんだよ……」

 

 2-Aの誰かが引いた声を出す。崩れていたコンクリート壁が、金属フレームごと持ち上がり、短時間で元の形へ戻っていく。牡丹はぼんやりそれを見ていた。

 

「……前より早い」

「比較対象知ってるんですね先生……」

 

 白橋は穏やかに笑う。

 

「訓練効率化のためですね。以前は修復に三日ほど必要でしたので」

「以前って誰が壊したんですか?」

「菅原先生です」

「…………」

「…………」

「先生が?」

 

 2-Aと2-Bの視線が一斉に牡丹へ向く。

「…………ちょっとやりすぎた」

「ちょっとで三日!?」

「基準がおかしいんですよ先生!」

 

 2-Bから悲鳴混じりのツッコミが飛ぶ。牡丹は少し考えるように視線を逸らした。

 

「……前の壁、柔らかかったから」

 

「コンクリートですよね!?」

「壁に対する感想じゃない!」

 

 白橋は楽しそうに頷く。エレベーターが止まる。

 

「つきましたよ」

重いロック音が地下空間へ響く。

 

 直後、巨大な床が完全に固定された。2-Aと2-Bの生徒達は、呆然としたまま周囲を見渡す。地下とは思えない広さ。人工の空、模擬市街地。遠方で稼働する整備ドローン。空気には薄く金属と火薬の匂いが混ざっていた。

 

「いやもう秘密基地だろこれ……」

 

誰かが小さく呟く。白橋は穏やかな笑顔のまま歩き出した。

 

「では本日の訓練説明をします、菅原先生お願いします」

「…………それぞれの異能の限界を測る。一人ずつきて。2-Aから、青木。2-Bは黒井と組手。黒井うっかり殺さない」

「うっかり殺さない!?」

「注意そこ!?」

「前例あるみたいな言い方やめてください!」

 

 地下施設へ一斉にツッコミが響く。黒井は無表情のまま小さく頷いた。

 

「ああ、善処する」

「怖ぇよ!!」

 

 2-Bが半分悲鳴になる。白橋は穏やかな笑顔だった。

 

「安心してください。黒井くんは加減が上手いので」

「安心材料になってないんですよ!」

 

 神藤が即座に叫ぶ。一方、青木は若干顔色を悪くしながら測定区画へ向かった。床へ光のラインが走り、透明な防壁が展開される。

 

『異能出力測定モード 起動』

 

 牡丹はぼんやり端末を見る。

 

「……全力で」

「はい……」

 

 青木が緊張した声を出す。その背後では、2-Bが黒井から距離を取っていた。

 

「いや誰から行くんだよ……」

「お前行けよ」

「嫌だよ!」

 

 黒井は静かに中央へ立つ。構えすらしていない。なのに妙な威圧感があった。神藤は立川へ思念伝搬を飛ばす。

 

⦅殺さないって注意される高校生初めて見たわ⦆

⦅黒井くん否定しなかったね⦆

 

 その時、牡丹側で轟音。青木が身体強化を発動する。床がひび割れる。

 

「おおっ!?」

 

 2-Aから歓声。青木が一気に踏み込む。だが。牡丹は避けない。拳が直撃し、衝撃波だけが広がる。

 

「え?」

 

 青木の顔が固まる。牡丹は少しだけ束ねた後ろ髪が揺れただけだった。

 

「……うん、去年より強い。冬休み異能使った?」

「えっ、はい。引っ越しのバイトを」

 

 一方。

 

 黒井側では。

 

「うわっ!?」

 

 2-B男子が一瞬で床へ転がされていた。

 

「今何された!?」

「投げた」

「見えなかったんだけど!?」

 

 黒井は本当に軽く動いただけだった。神藤が青ざめる。

 

⦅待て、読心しても反応できない⦆

⦅動き出しが異常に早いねぇ……⦆

 

 黒井が静かに次の相手を見る。

 

「次、来い」

「圧が怖い!」

 

 地下施設のあちこちで悲鳴とツッコミが飛び交う。だが白橋だけは、妙に満足そうだった。

 

「青春ですねぇ」

「どこが!?」

 

 2-Aと2-Bのツッコミが綺麗に重なった。白橋は穏やかに笑ったまま頷く。

 

「若者が全力でぶつかり合う。実に健全です」

「「うっかり殺さない」が飛び交う青春嫌すぎる!」

 

 立川が叫ぶ。一方、牡丹は端末へ結果を入力していた。

 

「……青木、出力上昇率12%。制御はまだ荒い。あと腰」

「腰?」

「……腰を使ってない、腕だけで打ってる」

 

 青木が呆然とする。

 

「え、でも俺全力で……」

 

 牡丹はぼんやり頷いた。

 

「……出力はある。でも流れが悪い」

 

 そう言いながら、牡丹は軽く構える。

 

「……見てて」

 

 次の瞬間。踏み込み、床が沈む、空気が爆ぜた。

 

「――っ!?」

 

 轟音。拳そのものは当たっていない。だが、衝撃だけで数メートル先の訓練用装甲板が歪んだ。周囲が静まり返る。

 

「今、触ってなくない?」

「え?」

 

 

 牡丹は元の姿勢へ戻る。

 

「……腰から全部繋ぐとこうなる」

 

 青木が青ざめながら装甲板を見る。分厚い金属が、中央から軽く凹んでいた。

 

「いやいやいや」

「先生それ人間の動き!?」

 

 2-Aから悲鳴が飛ぶ。白橋は楽しそうだった。

 

「綺麗ですねぇ」

 

 

 一方、黒井側では。

 

「うわっ!?」

 

 また一人転がっていた。

 

「なんで当たらねぇんだよ!」

 

 黒井は静かに答える。

 

「動きが直線的すぎる」

「攻略されてる!?」

 

 2-B男子が悲鳴を上げる。黒井は本当に最低限しか動いていない。半歩動く、肩の角度をずらし、重心を変える。それだけで全て捌いている。神藤が汗を流す。

 

⦅……やっぱおかしい⦆

⦅うん。読心対策とかじゃなく、純粋に戦闘技術が異常⦆

 

 立川も真顔だった。その時だった牡丹が青木へ近づく。

 

「……もう一回」

 

「はい!」

 

 青木が再び構える。今度は牡丹の動きを真似するように腰を落とした。踏み込み拳を放つ。先ほどより衝撃波が広がる。牡丹はその拳を片手で受け止めた。

 

「……うん、良くなった」

 

「すげぇ……」

 

 2-Aから感嘆の声が漏れる。

 

 牡丹は眠そうな顔のまま続けた。

 

「……異能だけじゃなくて、身体も使う。異能は補助」

 

 その言葉に、何人かの生徒が真面目な顔になる。だが次の瞬間。遠くで黒井が2-B男子を片手で投げ飛ばした。

 

「ぎゃあああ!?」

「異能を使う時、動きを止めるな」

 

 黒井の低い声が地下施設へ響く。投げ飛ばされた2-B男子は、衝撃吸収床へ転がりながら呻いた。

 

「いや無理だって! 能力使う時集中いるんだよ!」

「止まると死ぬぞ」

 

 黒井は即答した。空気が少し静まる、その一言だけ妙に重かった。神藤が小さく眉をひそめる。

 

⦅……経験則の言い方なんだよな⦆

⦅うん。そういう場いた人の言い方⦆

 

 立川も真顔だった。一方、牡丹は青木の拳を受け止めたまま続ける。

 

「……異能発動で止まる人は多い。でも相手は動くし一人じゃない」

 

 牡丹はそう言いながら、青木の拳をゆっくり下ろさせた。

 

「……考えてる間に銃で撃たれる」

「銃!?」

「先生高校の授業ですよね!?」

「前提が治安悪すぎる!」

 

 2-Aと2-Bから悲鳴混じりのツッコミが飛ぶ。

 

「……異能者同士でも銃は使う」

 

 黒井は静かに頷いた。

 

「正しい、相手の異能に集中するあまり銃で撃たれて死ぬ奴は多い」

「黒井まで肯定するな!」

 

 2-Bがざわつく。黒井は淡々と続けた。

 

「異能は便利だが万能じゃない。集中してる間に撃たれる、囲まれる、死角を取られる。そして死ぬ」

「説明が全部実戦なんだよ!」

 

 神藤が思わず声を上げる。白橋はなぜか満足そうだった。

 

「実践的で良いですねぇ」

「校長が一番怖い!」

 

 地下施設へツッコミが響く。その間にも、牡丹は端末へデータを入力している。

 

『青木 身体強化型 出力B+ 持続C 制御D 範囲E-』

「……あと、防御時に目を閉じない」

 

 青木がぎくりとする。

 

「え」

「……さっき閉じた」

「見えてたんですか?」

「……見えてた」

「戦闘中に目を閉じると、次が見えない」

 

 その言葉は静かだった。だが妙に重かった。神藤がまた眉を寄せる。

 

⦅……この人ら、言葉の端々が怖ぇんだよな⦆

⦅授業じゃなくて生存訓練なんだよねぇ⦆

 

 立川が返した直後。

 

 黒井側でまた悲鳴。

 

「うわっ!?」

 

 今度は八谷が、気づけば背後を取られていた。

 

「いつ私の後ろ行ったの」

「ミスディレクション」

 

 黒井はそれだけ言って離れる。2-B全員が少し距離を取った。

 

「怖ぇ……」

「なんで高校生でこんな技術持ってんだよ……」

 

 黒井は聞こえていないみたいに静かだった。ただ、牡丹だけはぼんやりと黒井を見る。

 

「……黒井」

「なんだ」

「……殴ってから言っていい」

「善処する」

「善処で済ませるな!」

 

 2-Bから即座にツッコミが飛ぶ。八谷はまだ混乱した顔で後ろを振り返っていた。

 

「いや本当に分かんなかったんだけど!? 急に後ろいた!」

「視線誘導だ、肩を見ると、そっちに意識が引っ張られる」

「え?」

「目線、重心、呼吸。全部フェイントに使える」

 

 そう言いながら、黒井は軽く立つ位置を変える。それだけなのに、一瞬どこへ動くのか分からなくなった。

 

「うわっ」

 

「なんか気持ち悪っ!?」

 

 2-Bがざわつく。神藤が小さく息を吐いた。

 

⦅読心しててもズレるんだよな……⦆

⦅意識を誘導されてる感じあるよねぇ⦆

 

 立川も真面目な顔だった。一方、牡丹は端末へ結果を書き込みながらぼそっと言う。

 

「……黒井、変な癖ついてる、相手で遊ぶ癖」

「効率化だ」

 

「……違う、反応を見てる」

 

 2-Bが静かになる。黒井は少しだけ視線を逸らした。

 

「情報収集は重要だ」

「うわ認めた」

 

 神藤が引いた声を出す。八谷はまだ混乱していた。

 

「いや待って。私、遊ばれてたの?」

「……うん」

 

 牡丹が容赦なく頷く。

 

「動揺すると視界が狭まる、視界が狭まると相手の策にはまる、さらに動揺する、そして死ぬ。次、飯野」

「うす」

 

 飯野が前へ出る。制服の袖を捲ると、腕の皮膚が鈍く金属光沢を帯び始め延びる。

 

「お、出た」

「飯野の異能だ」

 

 肘から先が、徐々に鋼鉄みたいな色へ変わっていく。筋肉ごと圧縮されたような重厚感。床へ軽く触れただけで鈍い音が響いた。

 

「ちなみに本気で行っていいの?」

「…………来て」

 

 牡丹は軽く手を上げる。飯野は一瞬だけ周囲を見る。

 

「いや先生相手なんだけど……」

「……大丈夫」

「その大丈夫が信用できないんですよ」

 

 2-Bから声が飛ぶ。だが牡丹は眠そうなまま、軽く手招きした。

 

「……全力」

「後で怒られても知らないっすよ」

 

 飯野が息を吐く。次の瞬間。金属化した腕がさらに伸びた。

 

「うおっ!?」

 

 2-Aから声が歓声が上がる。

 

 鋼鉄の腕が槍みたいに変形しながら、一直線に牡丹へ突き出される。速く重い、空気が唸る。牡丹は避けなかった。金属腕が胸元へ到達する直前。牡丹の手が、軽く触れる。鈍い音。

 

「……硬いな」

 

 飯野の腕全体へ衝撃が走り小さなヒビが入る。

 

「っ!?」

 

 金属化した部分が大きく震える。まるで内側から殴られたみたいに。飯野が反射的に飛び退いた。

 

「な、なんだ今!?」

 

 腕を押さえる。金属部分が軋んでいた。牡丹はぼんやりと飯野の腕を見る。

 

「……力は強い。でも一点に集中しすぎ」

「え?」

「……流せる」

 

 2-Aと2-Bが静まる。

 

 飯野は自分の腕を見ながら青ざめていた。

 

「いや待って。金属だぞ?」

「……うん」

「素手で?」

「……うん」

「意味分かんねぇ……」

 

 神藤が思わず呟く。一方、黒井は静かに飯野を見る。

 

「腕だけ見すぎだ」

「え?」

「異能に意識が寄ると、他が止まる」

 

 飯野がハッとする、確かに今、自分は金属腕を当てることしか考えていなかった、足も、視線も、全部止まっていた。牡丹がぼそっと続ける。

 

「……異能は武器。本人が弱いと意味ない」

 

 飯野が苦笑した。

 

「耳痛ぇなぁ……」

「……でも才能ある」

「え」

 

 牡丹は眠そうなまま端末へ入力する。

 

『飯野 金属化型 出力A- 持続C 制御D 範囲E+』

 

 飯野の目が丸くなる。

 

「Aー?」

「……硬いし重い。ちゃんと使えたら強い」

 

 飯野が少し照れくさそうに頭を掻いた。

 

「…………つぎ、上原」

「はい」

 

────

────────

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 チャイムが地下施設へ響く。

 

 人工空に反響した音が、妙に学校らしかった。

 

「……あ」

 

 牡丹が端末から顔を上げる。周囲では、既に何人かの生徒が床へ座り込んでいた。異能測定と黒井との組手で、2-Aも2-Bもかなり消耗している。

 

「終わり?」

「助かったぁ……」

「黒井マジで容赦なかった……」

 

 2-B男子が床へ転がったまま呻く。黒井は息一つ乱れていなかった。

 

「まだ動けるだろう」

「基準がおかしい!」

 

 即座にツッコミが飛ぶ。一方、牡丹は端末を閉じる。

 

「……今日はここまで。改善点送るから、それについてのレポート来週までに」

「「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」」

 

 地下施設へ絶叫が響いた。

 

「終わりじゃなかった!」

「なんで最後に教師っぽいことするんですか!」

「今ので全部持ってかれた!」

 

 2-Aと2-Bから一斉に抗議が飛ぶ。

 

 牡丹は眠そうな顔のまま瞬きをする。

 

「……授業だから」

「今まで授業感なかったんですよ!」

 

 立川が叫ぶ。白橋は横で楽しそうに頷いていた。

 

「大事ですよ、復習は」

「校長が一番楽しんでません!?」

 

 神藤が疲れた顔でツッコむ。牡丹は端末を操作しながら続けた。

 

「……自分の改善点三つ。対策一つ。あと実戦想定」

「実戦想定って何書けばいいんですか……」

 

 神藤がげんなりした顔をする。黒井が静かに答えた。

 

「自分がどう死ぬか考えろ」

「怖っ!!」

 

 2-Bが即座に叫んだ。黒井は少し首を傾げる。

 

「重要だぞ」

「それは分かるけど言い方がありますよね」

 

 八谷が半泣きで抗議する。牡丹はぼそっと補足した。

 

「……自分の弱点を理解しないと、対策できない」

 

 その言葉には妙に説得力があった。2-Aの何人かが真面目な顔になる。神藤は小さく息を吐いた。

 

⦅内容だけ聞くと正論なんだよな……⦆

⦅でも前提が戦場なんだよねぇ⦆

 

 立川も苦笑する。その間にも巨大エレベーターはゆっくり上昇を続けていた。地下施設の人工空が遠ざかり、再び体育館の天井が近づいてくる。2-B男子がぽつりと呟いた。

 

「なんか地上戻ると安心するな……」

「うん」

 

 こうして三学期最初の異能戦闘訓練が終わった。




人物紹介

菅原 牡丹  (21 女)
本作の主人公。天守島異能力学校2-B担任。冬休みで戦闘訓練の教え方を元特別異能戦略実行部隊の人からいろいろ学んだ。評価は『エネルギー干渉型 出力規格外 持続規格外 制御規格外 範囲規格外』

神藤 悠馬 (17 男)
精神干渉系の異能者。天守島異能力学校2-B。新聞部。評価は『精神干渉型 出力C+ 持続B 制御A- 範囲C』

立川 一   (17 男)
二キロメートルまで、聴覚を飛ばすことができる異能者。天守島異能力学校2-B。新聞部部長。評価は『五感拡張型 出力E- 持続A 制御B- 範囲C+』。

七條 葵   (17 女)
紅い電気のようなものとなり、また操ることができる異能者。天守島異能力学校2-B。天守島異能力学校生徒会会長。風邪を引いた。評価は『電気特殊型 出力A- 持続B 制御B 範囲C+』

八谷 涼音  (17 女)
モノを清潔にすることができる異能者。天守島異能力学校2-B。生徒会会計。評価は『概念干渉型 出力A+ 持続D 制御D--- 範囲E++』

白橋 不羈  (48 男)
情報を遮断する霧を発生させることができる異能者。天守島異能力学校学校長。評価は『情報干渉型 出力E- 持続A+ 制御A 範囲D+』

黒井灰  (17 男)
その正体は異能自衛隊特異異能尉、葭江 躯。天守島異能力学校に潜入任務として入る。評価は『生命干渉型 出力A+++ 持続規格外 制御B+ 範囲B』。佐渡にいる葭江躯の評価は『生命干渉型 出力規格外 持続規格外 制御A+++ 範囲規格外』

青木 雄哉(17 男)
身体強化の異能者。天守島異能力学校2-A。水泳部。評価は『身体強化型 出力B+ 持続C 制御D 範囲E-』

飯野 竜星(16 男)
腕を金属にして伸ばすことができる異能者。天守島異能力学校2-A。評価は『金属化型 出力A- 持続C 制御D 範囲E+』
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