今回はその記念に。
20XX年12月25日 0900
今日の鎮守府は朝から騒がしかった。
この日は一部の艦娘、職員を除いた全員が休みだった。本来ならそのようなことはありえないのだが、この日はここの司令官がそうなるように調整したのだ。
隣りの鎮守府に頼んで今日一日、任せられる全ての業務を肩代りしてもらっている。もちろんただではない。その代わりに、彼の鎮守府は昨日同じように隣りの鎮守府の業務を代行している。
現在、彼の鎮守府に所属するほぼ全ての艦娘たちは外出届けを提出し、外出している。今日はクリスマス。彼女たち艦娘も女の子である。この日を友人や姉妹と楽しく過ごしたいと思うのも当然であろう。
司令官である彼は現在、執務室にいた。秘書艦である五月雨も一緒だ。どうしても彼が判断しなければならない用件が数件あったからだ。
「すまないな。五月雨。付き合わせてしまって。だが別に無理することはなかったのだぞ? これくらいなら俺一人でも」
彼は書類へと目を通しながら、五月雨に話しかけた。
「気にしないでください。好きでやっていることですから」
「予定とかあったんじゃないか?」
「いえ、予定とかはないです。涼風は待機任務入ってますし、時雨や夕立は二人で出かけるみたいでしたから」
五月雨は彼がこの鎮守府に着任してから一番最初に会った艦娘であり、今の艦隊の土台を作った1人である。
既に練度は最大に達し、戦艦や空母にも引けをとらない。
「そうか。ならこのあと暇か?」
「はい。特に予定はありませんが・・・」
「なら、昼から夜のパーティーに使う食材とか買いに行くんだが、一緒にどうだ?」
パーティーとはもちろんクリスマスパーティーのことだ。任意参加だが今晩は艦娘、職員全員を対象にクリスマスパーティーが行われる。
調理担当は、鳳翔、大鯨、間宮。彼は三人から買い出しを頼まれていた。司令官である彼が何故買い出しに行くのか。理由は簡単だ
彼が三人の所まで行き買ってくる物がないか聞き、自分が買い出しに行くと言ったからだ。三人はもちろん断ったが、結局は彼に説得され、頼んでしまった。
「買い出しですか。はい。ご一緒します」
「よし、そうと決まればさっさっと終わらせようか」
「はい!」
その後二人は仕事を続け1100に終了した。
仕事を終わらせた二人は昼食を摂るため食堂へと向かった。昼食を食べ終え、鳳翔たち三人にもう一度買ってくる物を確認し、二人は一度それぞれの自室へと戻った。
鎮守府 正面門前 1230
私服へと着替えた彼は五月雨を待っていた。程なくして、五月雨が鎮守府の方から小走りで向かってきた。
「お待たせしました! あっ・・・・」
突然だが、五月雨という艦娘はドジっ子である。今までも様々なドジをしている。一番酷かったのは、出撃から帰ってくる道中、道(方位)を間違え迷子になってしまったことだ。
幸い、無線は通じたので彼はすぐに第二艦隊を救護に向かわせた。
今回も彼女はドジをした。何もないところで躓いたのある。躓いたところは彼と腕一本分の距離。彼は一歩進み転びそうになっていた五月雨を支えた。
「まったく。昔からドジは変わってないな」
「あぅ・・・すみません・・・」
「いいさ。別に。それが五月雨の良い所でもある。さて、鳳翔さんたちから1700までに帰ってきてくれれば良いと言われているんだが、どこか行きたい場所はあるか?」
「行きたい場所ですか・・・・でしたら、映画なんてどうでしょうか?」
「映画か。何か見たいものでも?」
「いえ、特にないのですが。何となく」
「そうか。まぁいいか。それじゃ行こうか」
「はい!って、提督、何故手を?」
「ん? 嫌か?」
「いえ、そんなことはないのですが・・・・少し、恥ずかしいです・・・」
「そうか。でも俺は恥ずかしくないから問題ないな」
「もぅ、提督の意地悪るぅ・・・・」
「なんか言ったか?」
「何でもありません! さぁ、行きましょう!」
「お、おい、そんなに引っ張るなって」
鎮守府を出た彼と五月雨は1300を少しすぎたくらいに映画館へと到着した。
「さてと、五月雨何見る?」
「そうですね・・・・」
五月雨は上映予定の一覧を見る。するとあるタイトルが目にとまった。
「提督、これって・・・・」
彼は五月雨が指差すタイトルを見る。するとそこにはこう書かれていた。
『海の戦乙女たち~深海からの侵略者~』
上映時間は1330~1500。
内容は深海棲艦と戦う艦娘。
海軍全面協力で作成され、以前彼の鎮守府にも取材が来た。
「公開されていたのか。どうする? これみるか?」
「提督は気にならないのですか?」
「気になるさ。でも、もし五月雨が他の見たいんだったらそっちでいいよ」
「わかりました。私も気になりますし、これ見ましょう」
そうして彼と五月雨は券とジュースを買い、上映場所へと向かった。
映画館入り口 1505
映画を見終わった彼と五月雨は映画の感想を話し合いながら映画館を出た
「すごかったな。戦闘シーンも日常シーンもよくできてる」
「そうですね。戦艦の砲撃ももちろんすごかったですけど、駆逐艦である私達も格好良く描かれていて少し感動しました。でも私の扱い酷くないですか? 私、あんなにドジですか・・・?」
映画には五月雨のドジがいくつか描かれていた。それはどれも事実であった
「仕方ないだろう。初対面の司令官の前で転んで頭突きするのも書類ぶちまけるのも、司令官を起こす時に目の前で転んで司令官の股間に頭突きしたのも全部事実なんだし」
「あぅ・・・そうかもしれませんけど・・・何も全部話すことなかったじゃないですか」
「いや、確かに取材の時は五月雨こと話したよ。でも最後のあれまでは話していない。思い出したくなかったからね・・・・・」
「あははは・・・・すみません・・・・」
彼は小声で「あの痛みは女にはわかんないよな・・・」と呟いた。
その後二人は鳳翔たちからのお使いを済ませ、帰路へつき1650に鎮守府へ到着した。
鎮守府へと戻った二人はパーティー開始まで、鳳翔たちと一緒に準備を行った。そして1930、出かけていた艦娘たちも全員戻り、
「皆サーン、準備はいいデスかー!」
「「「イェーイ!」」」
「プレゼントの準備はよろしいデスかー!」
「「「イェーイ!」」」
「パーティーの始まりネー! 皆サーン、飲み物を持ってくだサーイ」
金剛の指示で全員飲み物の入ったグラスを持つ。金剛は全員がグラスを持ったのを確認すると元気に乾杯の号令をかける
「そでは皆さん、メリークリスマース!」
「「「メリークリスマース!!」」」
こうしてパーティーが始まった。元々この企画は、クリスマスの夜は皆で楽しく過ごしたいという金剛の発案だった。
そこから鳳翔たちに料理をお願いしたり、参加者集計などを行った。結果はご覧の通り、艦娘は全員が参加。職員も独身の者を中心に複数が参加している。
パーティーは大いに盛り上がった。彼は艦娘たちを見回した。
酒を飲みまくる隼鷹にそれをなだめる飛鷹。ひたすら食べまくる赤城。響が飲んでいるウィスキーを無理して飲み苦い顔をしている暁。
皆、思い思いに過ごしている。彼は自然と頬が緩むのを感じた。そうして夜は段々と更けていった。
パーティー開始から3時間が経過し、時刻は2230。既にパーティーは終了し、ほとんどの艦娘は寮に戻り就寝準備をしている。一部の重巡艦娘、戦艦娘は会場に残り酒片手に残った料理を食べていた。
鳳翔、大鯨、間宮と数名の駆逐艦娘と数名の職員は後片付けをしている。
そんな中、彼と五月雨は海岸を歩いていた。あたりは暗く、街頭と月明かり、星明りのみが周辺を照らしていた。
「もうすぐ今年も終わりだな」
「そうですね」
「4月にここに着任して、五月雨と出会って。最初は二人ではじめた小さな鎮守府だったけどたった数ヶ月でここまで大きくなった」
「はい。本当に賑やかになりました」
「最初の頃は資源が足りなくて、補給も満足にできなかったり、陣形を間違えて指示したこともあったな。今考えると俺は皆に色々迷惑をかけた」
「そんなことも、ありましたね・・・・でも、迷惑なんてそんなこと思っていません。きっと初期に着任した、第六駆逐隊の皆や他の娘たちも。だって提督は私達のことしっかり見ていてくれたじゃないですか。それにそんなこと言ったら私なんて何回失敗していることか・・・・」
「そうだな。頭突きしたり、迷子になったり、書類ぶちまけたり、色々なことやらかしてくれたよな」
「もぅ・・・態々言わなくてもいいじゃないですか」
「ハハ、そうだな」
とそこで彼は立ち止まった。五月雨も立ち止まる。
彼は五月雨と正対すると言葉を続けた。
「五月雨、認識票は着けているか?」
認識票 通称ドッグタグ。二枚一組のもので、二枚とも同じ内容が刻印されている。軍隊において兵士の個人識別用に使用されるものである。
「着けてますけど・・・」
五月雨は首から下げてある認識票を胸元から取り出す。
「一枚外して貸してくれ」
「?」
疑問に思いながらも五月雨は認識票を一枚外し彼に渡す。
彼は五月雨から認識票を受け取り礼を言うと自分の認識票を取り出した。そして、五月雨の認識票を自分のチェーンに繋ぎ、今度は自分の認識票を一枚外した。
そして、外した自身の認識票を五月雨のチェーンに繋いだ。
「これで、俺も君も一人では死ねなくなった」
「え・・・・・」
彼は不思議そうにする五月雨と改めて正対し、真剣な表情で五月雨の目を見る。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・五月雨」
「・・・・はい」
「今まで、本当にありがとう。君がいなければここまでくることはできなかった。君の支えがあったから俺は、今日まで頑張ることが出来た。これからも色々あると思うけどずっと傍にいて俺を支えて欲しい」
そこで一旦言葉を区切り、一歩下がる。そして片膝をつきポケットから手の平サイズの箱を取り出し、五月雨の方へ向け開ける。
「結婚しよう。五月雨」
「・・・・・」
五月雨は無言で泣いていた。彼はあせらず五月雨の答えを待った。しばらくして、五月雨は涙をぬぐい笑顔でこう答えた
「提督、私も・・・・提督のこと好きです。こんな私でよければ喜んで!」
「・・・・ありがとう。五月雨、手を」
彼は差し出された左手の薬指に指輪をはめ、自信の左手の薬指にも指輪をはめて立ち上がる。
「えへへ、あ、今度から提督のことあなたとか呼んだ方がいいのかな?」
「いいよ。別に。いつも通り呼んでくれれば」
「そうですか?」
「さぁ、今夜はもう遅い。帰って寝よう」
「そうですね」
「夫婦になったんだ。もちろん一緒に寝ても問題ないよな?」
「え、えぇぇ~」
「冗談だ」
「もう、からかわないでくださいよ!」
「ハハ、悪い悪い」
「もぅ・・・・」
そうして二人はそれぞれの宿舎へと戻って行った。
しかし、この時二人は気づいていなかった。見れてはいけない人に見られていたことを
「青葉、見ちゃいました!」