これはそんなオリ主が原作主人公をボコボコにする話です
思いつきの短編ゆえ作りが粗くても許してね
先に断っておくが、僕は別に、自分が小柄な部類だなんて認めたことは一度としてない。
そもそも『背が高い』だの『低い』だのといった概念は相対的なものであり、観測者の立ち位置によっていかようにも変動する、極めて不確かな指標に過ぎないのだ。
いいかい、僕は低いんじゃない。
周囲の建造物や、昨今の過剰な栄養状態に甘やかされた現代人の発育が、僕のパーソナリティに対してあまりにも攻撃的であるというだけだ。
平均身長が150センチ程度だったという縄文時代にタイムスリップすれば、僕は阿修羅のごとき巨躯として畏怖され、今頃は村一番の英雄として土偶のモデルにでもなっていたはずなのだから。
だから。
今、僕の目の前で、不快なほどに日差しを遮っているこの『巨大な影』についても、僕はあえて描写する必要を感じない。
記述する価値を見出せない。
「よう暦」
「僕を呼び捨てにするな」
木偶の坊が僕の視界に入り込んできた。
「そんなこと言われても今更苗字で呼べるかよ、俺はお前の妹たちとも付き合い長いんだぜ?」
確かにコイツは僕らの隣の家に住んでいるが。
「『阿良々木』だけじゃ誰か分からないだろ?」
「少なくとも今は僕しかいないだろ……!」
月日や火憐がひょいひょいそこら中にいるわけがないだろう。
「でも幼稚園も小学校も同じだったのに今更阿良々木くんとは呼べねぇよ」
「大体、お前はデカすぎるんだ。成長期にどんな違法な肥料を摂取すればそんな無駄な縦に伸びるんだ、資源の無駄遣いだと思わないのか?」
「そんな変なことしなくても、ちゃんと飯食ってちゃんと寝れば誰だってこうなるって」
「なるか!なってたまるか!」
「ははは、遺伝子って残酷だよな〜」
まるで僕は一生小さいままだとでもいうな!
高校生から背が急激に伸びる人もいる!
いや、今の僕は別に小さくない!
読者諸君。
僕がこれほどまでに彼の描写を省くのは、僕の身長コンプレックスのせいでもない。
断じてない。
ただ単に、奴を描写しようとすると、ページが無駄に増えてしまうからだ。
冗長な水増し文など許されないだろう?
とはいえいつまでも名無しのままにしておくわけにはいかない。
コイツの名前は
大きいと大きいが2つも入った名前をしている。
とても腹立たしい。
いや、僕が小さいことを気にしているわけではない。
そもそも僕は小さくない。
僕は縄文人ぐらいなら平均的な男子の身長を超えている。
大牙が180cmを超える大男なだけだ。
スポーツ男子らしい黒髪を短く刈り込んだ頭をして、人懐っこい笑顔を浮かべている。
しかし…コイツは何をしているんだ?
確か男子陸上が強いことで有名な高校に青田買いされたはずだ。
そんなコイツが本を色々と見比べている。
歩きながら読むつもりだろうか?
それとも今更インテリ気取りになるつもりだろうか?
「その本はなんだよ」
「ん?ああ、これ?陸上の本だ、どうすれば完成された無駄のないフォームで走れるか、が書いてある実用本だよ」
スポーツ科学の本か……
本と言えば……そういえば羽川が言っていた。
最近、紙を噛んでいる狼を見たそうだ。
本や新聞に噛み付いているらしい。
羽川曰く、変な噛み癖の大型犬が逃げ出しているんじゃないかと、そう言っていた。
まあ、犬が本に噛み付くとか、ちょっと不自然すぎるけどな。
でも、僕はもう一つの可能性を感じていた。
そう――怪異だ。
なんの怪異かは、忍野じゃないからわからないけどな。
【かみくいオオカミ】
「フェンリルを知っているかい、阿良々木くん」
僕は大牙と別れたあと、忍野の所に来ていた。
いつも通りアロハシャツを着た男が。
いつもとは違う深刻な顔をしていた。
「それって…神話の?」
北欧神話だったか。
ラグナロクのフェンリル――
数多のゲームでお馴染みだ。
「そう、いるんだ、どんな怪異よりも古く、そして飢えた狼がこの辺りを彷徨いているんだ」
え?
「気をつけたほうがいい、オオカミから見たら怪異の王なんて――最高のゴチソウだ」
忍野の話を聞いてもいまいち理解が進まなかった。
人々が見たのは変な噛み癖のある大型犬ではなく……
カミを喰うオオカミだと。
釈然としないまま、夜の街を歩いていた。
まあ忍野の話が釈然としたことの方が珍しいのだが。
すると――別れたはずの大牙が、そこにいた。
街灯の下。
人目を気にするでもなく、
口元に新聞紙を放り込んでいる。
……いや、放り込んでいる、というより――噛んでいる?
『事件』を噛み砕き、『広告』を咀嚼し、『論説』を嚥下する。
意味を失った活字の残骸が、奴の牙の間からボロボロと溢れ落ちていた。
紙を、噛んでいる。
ありえない。
犬でもしない。
ましてや、人間がする行為じゃない。
……怪異だ。
これは、間違いなく怪異だ。
大神大牙は――何かに、憑かれている。
カミを喰う、オオカミに。
「……暦?」
そう呼ばれて、ぞっとした。
口の端に、活字が貼りついたままだったからだ。
銀髪が月光を反射していたからだ。
服が破けるほど大きくなっていたからだ。
その顔が人ではなく狼のようだったからだ。
「大牙、なのか…?」
大牙だと思いたいオオカミが、こちらを見る。
「暦、お前…いい匂いがするな」
羽川のさわり猫のような。
動物の怪異、だろうか。
しかしそれにしては先程の忍野の言葉が引っかかる。
「神喰いの狼」
忍野の言葉が脳裏に蘇る。
「神を喰らう狼、いわば怪異を、物語を喰らうモノだ」
「怪異を食べる?」
「ああ、食べることでこの世界から怪異を消している存在がいるんだよ」
忍野の顔にあるのは諦観だった。
「阿良々木くん、不思議に思ったことはないかい?」
「君はこれだけ怪異に遭遇したのに……なんで怪異は一般市民に常識として認知されていないのか」
一般社会に認知されるようになったらもう「怪異」ではない気がする。
けど確かに言われてみればそうだ。
僕が春休みに死にかけ、ゴールデンウィークに地獄を見、その後も際限なく首を突っ込み続けてきた血みどろの怪異譚の数々。
それらが翌朝には綺麗さっぱり、登校前の朝食のトーストのカスほども世間に残っていないなんて、いくらなんでも不自然すぎるだろう。
僕が流した血は、どこへ消えた?
誰かが掃除をしている。
証拠を隠滅している。
この歪んだ世界を、無理やり『正常』の枠に押し留めるための強大な力が働いていると、そう言うのか。
「この世には……あのオオカミを筆頭に怪異を食べる存在がいくつかいて、彼らがこの世に怪異が増え過ぎないよう調整しているのさ」
「だからアレらは怪異というよりバランサーだ」
「祓うモノでも退治するモノでもない」
「ましてや挑むようなモノでもない」
「台風のように過ぎ去るのを待つしかない」
……台風。
抗いようのない天災。
気象現象に善悪を問うことが無意味であるように、あの『大神大牙』という巨大な空白に、僕らの倫理観は通用しない。
奴は掃除機なのだ。
散らかった部屋(世界)を片付けるために、家主の意志とは無関係に動き回る、高性能な破壊者なのだ。
「なんで……そんなのが」
「君のせいでもあるし、君のせいでもないよ、阿良々木くん」
「は?」
忍野は相変わらず胡乱な言い回しをしている
「あのオオカミが目覚めたのは君という極上のゴチソウが近くにいたからだ」
「眠れるオオカミを匂いが起こしてしまったのさ」
「でも君は意図して美味しそうな匂いをしたわけじゃない」
「だから君のせいでもあるし、君のせいでもない」
責任の所在を曖昧にすることで、僕の罪悪感をなだめているのか。
それとも、僕の介入する余地を奪っているのか。
どちらにせよ、それは僕にとって最大の侮辱だった。
「暦……なんだか最近は何食べても腹が減ってさ」
「大牙……」
「こういう文字とか変な化け物とか食べると腹が満たされるんだ」
「お前……暦だよな?人に化けてる化け物もいたし……うん……そっくりさんの化け物だよな、よし食べるか……化け物なんていない方が良いもんな?」
獣の眼光が僕を射抜いていた
一応言っておくが僕はドッペルゲンガーじゃない
僕が隠し、僕が描写を拒んできた『大神大牙』という存在そのものが、僕の人生の食べ残しを整理するためのデリートキーとして機能し始めたのだ。
冗談じゃない。
僕という、一点物の、代わりなどどこにもいない物語を――あんな、あんな……無駄に縦に長いだけの男に、デザート感覚で平らげられてたまるものか。
「最近鼻が良くなってさ……わかるんだよ、暦、お前は人間じゃないだろ?」
直球。
ど真ん中のストレート。
変化球もクソもない、幼馴染ゆえの純粋無垢な宣告だ。
怪異の専門家たちが言葉を尽くして定義し、僕が死に物狂いで隠蔽してきたその境界線を、奴は『鼻が良くなったから』という野性味溢れる理由一つで踏み越えてきた。
ああそうだよ、大牙。お前の言う通りだ。僕は人間じゃない。
春休みに春を売って、今じゃ吸血鬼のなれの果てを影に飼い慣らしている、中途半端な死ににくいだけの化け物だ。
だが、それをお前に言われるのは――。
「……よく言えたな。幼馴染に向かって化け物呼ばわりかよ。お前こそ、その銀髪にその狼みたいな顔に巨体、鏡を見たことがあるのか?」
「鏡? ああ、そのうち見るさ……でもよ、俺の前にいるお前の方が、ずっと『間違ってる』感じがするんだわ」
間違っている。
正鵠を射抜かれ、僕は二の句が継げなくなる。
「なんか……十割そばを売りにしてる店にナポリタンがあるみたいな?同じ麺類だからいてもいいよね、と言わんばかりに異物が混ざっている感じなんだよな」
なんだその例え。
蕎麦屋に謝れ。
とはいえ、バランサーとして目覚めた奴にとって僕という存在はもはや修正されるべきバグに過ぎないらしい。
消しゴムが鉛筆の書き間違いを消すように。
奴は、僕という『異常な物語』を消去し、世界を元の白紙に戻そうとしている。
「悪いな、暦。お前が本物の暦であったとしても、そうでなかったとしても……幼馴染として俺が片付けなきゃいけない気がするんだよ」
そう言って奴が踏み出した一歩は、陸上部のエースとしての鋭い踏み込みだった。
爆発的な加速。
逃げられない。
僕は――。
「いや、やっぱりお前は暦だわ」
「大牙?」
「うん、俺は幼馴染喰うほど落ちぶれてねーわ」
大牙から先ほどまでの殺気……というか、狩りの本能が霧散していた。
「ええっ」
あまりの拍子抜けに僕はなんとも間抜けな声が出た。
「ここは戦う流れだろ!?」
「いやまぁ流れ的に確かにそうなんだろうけどさぁ」
「お前と死闘を演じることになりそうだと僕は覚悟してたんだぞ!」
「すまんすまん、なんか食べる気が失せたわ」
結局のところ。
僕がどれだけコイツを受け入れたくなくても……
コイツとの腐れ縁はなかなか強固だった、ということらしい。
「なるほど……吸血鬼のなりそこないねぇ……でもよう……なんかこう……本能的なところだとお前を食べたいのは変わらんのだわ」
「……やっぱそうなのか」
「でも食べるわけにも狩るわけにもいかねぇ」
「ならどうするんだよ?」
「踊ろうぜ?暦」
満月の下で吸血鬼と狼男が死の舞踏を踊ろうじゃないか。
なかなかロマンチックだろ?
そうコイツは言い放った。
……結論から言うと僕は何度も死んだ。
比喩でも、誇張でも、文学的な表現でもなく。
文字通り、呼吸を止め、心臓を止め、意識を断絶させ、生物学的な『終止符』を何度も何度も叩きつけられたのだ。
あいつは――大神大牙という名の暴力装置は、僕の右腕をまるで安物のスナック菓子の袋でも開けるかのような軽やかさで掴み、アスファルトの冷たさを僕の全身に叩き込む。
鋭利な爪が腹部を裂く。
内臓がこぼれ落ちる感触。
痛覚が飽和し、神経が悲鳴を上げる暇さえ与えられない、蹂躙のパレード。
「おいおい暦、これ以上具体的に書くと、ただの悪趣味なグロ小説になって、健全な読者が回れ右しちまうぞ?」
木偶の坊が、血に濡れた口元を歪めて笑う。
「この先の『無様に殺されまくるけどカッコいい僕の戦闘シーン』は、俺が美味しく『喰って』『無かった』ことにしといてやるよ」
『ごちそうさまでした』
爪で引き裂かれ、地面に叩きつけられ、壁面と熱いキスをした。
再生と破壊の反復横跳び。不死身という名の、終わらない強制労働。
けどなんとか僕は満月の夜を踊りきったのだ。
僕は狼を狩る狩人でも狼男を打破する吸血鬼でもなかった。
だから哀れなダンサーとしての役割を全うした。
青春とは、お腹が空くものだ。
そして。
満腹になった幼馴染は、僕の肩を借りて(正確には僕を杖にして)満足げにいびきをかき始めた。
隣の家の幼馴染。
世界の掃除機。
記述から漏れたイレギュラー。
僕の全存在を否定し、僕の全存在を許容した、無駄に縦に長いだけの男。
僕は溜息をつき、ひしゃげた関節を鳴らしながら、朝食の献立について考え始めた。
腹が減った。
どうやら僕の青春も、まだまだ消化不良のまま続いていくらしい。
あとがき
かつて王様戦隊キングオージャーのジェラミー・ブラシエリは「行間を読みたまえ」と言いました
なので僕は物語シリーズの行間を読んでみました
そして行間に潜んでいてもおかしくないキャラクターを想像した
それが今作の大神大牙です
あらすじに書いたように「もしも阿良々木暦が直視することを避けていた幼馴染の男がいたら」阿良々木暦はどうするでしょうか?
恐らく彼は一切大牙を描写しません
暦が語るときは、暦本人がフォーカスしたい、と思ったものだけが描かれます
例えば仮にテストの点が悪い日があったとする
そうしたら警察官な両親は確実に暦を叱責したでしょう
けど物語シリーズでそんなシーンが描写されることはない
仮にあったとしても阿良々木暦がフォーカスしたくないからですね
そんな本当に情けないシーン、書きたくない
変態性の露出や、「かみまみた」などと八九寺真宵におちょくられるのは「許容できる情けなさ」だからセーフなのです
隣を歩かれるだけで本当に「情けなない気持ち」にさせる幼馴染なんて描写したくないはずなんですよ
まぁ今回は短編としてオチをつけるため、大牙にチートな力を与えましたが
本来はなくても成立するアイデアなんですよね(自分の筆力不足が憎い)
「人に怪異を生み出す力があるのなら、逆の怪異を消す力も同時に人に宿り得る」
が神喰いの狼の力の根源です
もうこの作品を読んだあなたの中には大神大牙、ないしそういう属性をもつ快活な大男が阿良々木暦のすぐそばにいたかもしれない……というノイズが生まれたはずです
どうぞそのノイズを愛してください
ではまた
どこか別の作品で会いましょう
追記
以下はオオカミが食い散らかした結果読めなくなっていた文章です
比喩でも、誇張でも、文学的な表現でもなく。
文字通り、呼吸を止め、心臓を止め、意識を断絶させ、生物学的な『終止符』を何度も何度も叩きつけられたのだ。
あいつは――大神大牙という名の暴力装置は、僕の右腕をまるで安物のスナック菓子の袋でも開けるかのような軽やかさで掴み、アスファルトの冷たさを僕の全身に叩き込む。
鋭利な爪が腹部を裂く。
内臓がこぼれ落ちる感触。
痛覚が飽和し、神経が悲鳴を上げる暇さえ与えられない、蹂躙のパレード。
「おいおい暦、これ以上具体的に書くと、ただの悪趣味なグロ小説になって、健全な読者が回れ右しちまうぞ?」
木偶の坊が、血に濡れた口元を歪めて笑う。
「この先の『無様に殺されまくるけどカッコいい僕の戦闘シーン』は、俺が美味しく『喰って』『無かった』ことにしといてやるよ」
『ごちそうさまでした』